Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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3-3:Q

 その地区は、「沿岸部市街」と呼ばれていた。

 方舟が打ち上げられた浜辺のすぐ近くの都市は、D.U.やミレニアムの都市部といったキヴォトスの大都会にも負けないくらいの場所。ちょっとした観光気分になってくる。なのだが、自由に現地住民に質問ができる貴重な時間にもなってくる。なので、イリアには様々なことを尋ねてみることにした。

 

“ところで、ここって遊泳大陸船団っていうところなんだよね?”

「うん。正式名称はもうちょっと長いんだけど、遊泳大陸船団、もうちょっと短く大陸船団って呼ぶことがほとんどだよ」

“船なの? 船団なの?”

 

 どちらにしても信じがたいことだが。外から見たらどう考えてもここはそこそこの規模の島だ。名前に反し、定義的には大陸ではないが、島としてもかなり大きい。

 全部回ろうとしたら急いでも数週間はかかるだろう。そういうレベルの大きな陸地が移動しながら水平線の向こうから現れたのだから、驚愕せざるを得ない。

 

「うーん、材料はたくさんの船らしいから、船団って名前みたい。でも見ての通り、今は自分で海を泳ぐ島みたいな、とっても大きなひとつの船になってるんだよ!」

“やっぱり船か。いや、だとしてもどうなってるんだろう? 運営コストとか、想像もつかないんだけど”

 

 推進力はどのように生み出されるにしても、極めて膨大なエネルギーが必要なのは疑いようがない。またその上で人が生活できるようにするのも困難であるし、経済が成立する規模にするのはもっと困難だ。その他船としての機能も極めて高水準であると言える。何せ、全く船らしい揺れを感じることがないくらいの安定性だ。

 

 ついでにといった具合に、スーパーマーケットでの買い物に付き合うことになった。売り物からして、この船の上で農業もしっかりできるらしい。

 それだけの環境を整える意味は今のところ分からないが、とりあえずなんの問題もなく生きていけるということは判明した。

 

「一人暮らしか?」

「うん。親はちょっと大陸船団からは離れたところにいるし、誰か呼んでるでもないし。なんならうちの部屋、使わせてあげよっか?」

 

 あまりにも軽く言うものなので、先生とカンナは二人して固まった。これがこの異聞帯の文化でないことを願うばかりである。

 

“うーん、ギリギリカンナはOKかもしれないけど、知らない大人を家に入れるのはどうかと思うよ?”

「いえ、私も別にOKではないのですが」

「そーなの? でも行くあては無いでしょ? この辺のホテルいくらすると思ってるの?」

 

 この世界の宿泊費相場は知らないが、スーパーの値札を見るとなんとなく察せられる。慣れているのと同じキヴォトスの「円」が流通しているので、直感的に物価が理解できるが、軽く汎キヴォトス史比で20倍はある。別に物資が不足しているわけでもなく、かなりインフレが進行しているようだ。

 おそらく、格安ホテルでもとんでもない額を要求される。ましてこの街、そんな存在自体がなさそうだ。

 

“……ある程度、お気遣いはしていただけるかな”

「うん。あたしの家は南部寮にあるんだけど……あ、ごめん。そもそもここのことがなんにも分かんないんだったら、南部寮っていうのも分かんないよね?」

“うん、寮生なの?”

「まあ、そうと言えばそうなんだけど……せっかくだから、あたしが通ってる学校も見てく?」

 

 沿岸部市街から、少し電車に乗った先(船の上に電車の路線があるのもなかなか凄い)、街並みの様子が変わってきた。別の市街地に移ったのかと思ったら、イリアがまたごく当たり前のことを喋るように言う。

 

「ちょっと雰囲気変わったでしょ? ここにあるのは皆、学校の施設なんだよ。トリトン王立学園高校。王様が最高の教育をするために作った、街よりも大きな学園地区!」

 

 これは。

 かなり話が変わってくる。ここまで汎キヴォトス史における土地や文化、経済と比較をしてきたが、比較すること自体が良くなかったかもしれない。

 三大校の規模感が可愛く思えてくる。一体何をどうしたら、このような大規模すぎる学園施設を船の上に作ろうなどということになるのか。

 

“王立、学園……”

「王というと、私達をある意味ここに導いた存在でもある。あれの狙いは何であるのか、何者であるのかを知るためにも、この学園は調べなければなりませんね」

 

 神妙な面持ちでコソコソと、周りに聞こえないように気を遣って話し合う。だがこれはイリアには聞こえていた。

 

「あれ、王様のこと知ってるんだ? ほんっとーに何も知らないなら今から教えてあげようと思ったのに」

「知っているとは言っても、あの舟に通信を入れられて、名乗ってきただけだ。綿津見トリン……掴みどころのない女だ」

「やっぱそう思う? 相変わらずだなぁ、ほんと」

 

 妙にしんみりとした空気を漂わせてくる。すかさず、その正体を推察した先生からの問いが飛んでくる。

 

“何か、縁があるね? あの王に”

「それ言っちゃったら、ねえ。ここにいる皆、というかキヴォトスの皆、縁があると思うよ? 皆がおんなじ反応しそうな気がするし」

 

 そういうものだろうか。そうなのだとしたら、ずいぶんと広い影響を持っているものである。ここまでの異聞帯の王は世界の変動の元凶、裏の支配者といった趣が強かったが、今回は正真正銘の王というわけだ。

 この世界では、あの異聞帯の王は生きていく上では絶対に避けられない存在であるらしい。

 

「うーん、なんか変な感じ。たぶん会ったのがあたしじゃなかったら大変だったと思うよー。大陸船団の人達は()()()()()()()()()、それでも皆()()()()()()()()()からね。酷い目に遭うかも」

 

 妙なわざとらしさが隠しきれていない。やはりあの場所で方舟の上陸を目撃したのは、偶然でもなさそうだということはカンナには察知できていた。

 いつもの手段は使うべきでないが、どうにかして聞き出してみせる。行動の目標が定まった。

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