Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

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3-4:A

 “王様っていうのは、どこにいる何者なの? 一方的に関わってきたから、何もわからないんだけど”

 

 列車という密室では聞けないような質問をしたのは、トリトン王立学園の南部地区に降りてからだった。

 

「今から、もう500年は前かな。オデュッセイアって名前の学校のひとりの卒業生が、学校組織の改造に手を出して、王を名乗ったんだよ」

 

 その勢力は、学園という域を遥かに超えていた。各学園の生徒会によって自治区の行政を行う原則を打ち破り、離島や船を自治区とするオデュッセイアは、すぐに「王国」へと変貌を遂げた。

 それを危険視した連邦生徒会とその他学園は、犬猿の仲のところですら一時結託し、王政を打倒しようとした。

 

「だが、オデュッセイアは、王は強大だった……と」

「そう。返り討ちにして、キヴォトスみーんな王様のものになっちゃった。しかも驚いたことに、この王様、全然老化とかしないの。死なないの。それが今まで生きてる王様。綿津見トリン様だよ」

 

 キヴォトスの住民には、生徒には、人であってほしいと思っているのが先生という人物である。そんな彼には、異聞帯の王とはどうしてこうも人間をやめているのか、と嘆きたくなる話だった。

 だがまだ質問の回答は、まだ半分しか済んでいない。

 

“それで、どこにいるっていうのは”

「知らなーい! うん、ごめんね、これ普通の人はたぶん絶対知らないよ。偉い人は知ってる人がいるかもしれないけど、たとえ知っていても教えるなって決まりだし」

 

 決まり、というのはこの大陸船団に布かれているルールであろうと思われる。つまり、真っ当な手段では、絶対に誰も教えてくれないということだろう。

 だからこその、試練ということだろうか。

 

「いよいよ着いたよ、南部寮!」

“……これって”

「……寮?」

 

 流石に言葉の定義を見直したくなった。こんなものは寮ではない。

 高級住宅街である。豪邸と明らかに高級そうなマンションしかない。住民全員大富豪の世界だろうか? 

 

「まあ、流石に学生の住宅街を寮って呼ぶのは珍しい、よね……? でも昔ながらの集合住宅タイプもあるよー。あたしはそこ住みだから、行こっか。……あっ、そうだ」

“どうしたの急に”

「あたしから質問、してないよね? ちょっと歩きながらいいかな」

 

 元々そういう約束だったのだから、首を横に振る理由はない。振れる義理がない。なので軽く頷くとそれを肯定と見なしたか、食い気味にこんなことを聞いてきた。

 

「どうして、王様に関してそんなに知らないの? 大陸船団の人でもそうでなくても、そのくらいの歴史は知ってるものだと思ってたんだけど……あたしが世間知らずなのかなぁ?」

“……困ったぞ。うまい具合に説明する言葉がない。そうだよね、常識のはず、だからね……”

「先生、怪しいです。とは言え、私も同感なのですが。言い表せないなら言い表せないなりに、誤魔化そうとも思ったものの、それはそれでなかなか」

「ふぅ〜ん、誤魔化そうとか思ってたんだぁ」

 

 まずいことを言ってしまったかと、カンナ、固まる。この顔が、見る人が見れば腰が抜けるくらい怖い顔なのだが、イリアは全く動じることなく、むしろ気味が悪いくらいにニヤついている。

 イリアは笑みを絶やさない。魅了されるような感覚と、不快感を同時に与えてくる。

 

“いや、その、カンナは”

「ううん、いいの。そうしたくなる立場っていうのが、あたしには逆に信じられるから」

「……どういうことだ?」

「にひひ。こっちの話! でもそうなると逆に不思議だよね〜、そんな人になんで王様が関わってきたんだろ。あ、心当たりかある?」

 

 心当たりしかない。存続を賭し合っている、世界の代表同士という立場があるのだから。ただそれを馬鹿正直にも話すわけにもいかないので、代わりにさりげなく、別の情報を出すことにした。

 

“ちょっとそこは、分からない。けど、彼女は私達に試練を与えると言っていたんだ。それが何を意味するのか、どこで何をすることなのか、知ってそうな人を探してる”

 

 結論から言うと、この行動は正解だった。本質的な理由は明らかではないが、イリアの好意的な態度は崩れることはなく、むしろさらに友好関係になろうとする素振りすら見せるようになった。

 その証拠に、彼女の自室の前までなんの問題もなく来ることができ、また間もなく入れてもらえるような流れになっている。

 

「どーぞ、上がって。土足だけは厳禁ね、人によってルールは違うけどあたしはそれでやってるから」

「お、お邪魔します……」

 

 言いようのない緊張感が辺りを包む。正解だったと先に述べたが、それは先生にも、ましてカンナにも伝わってはいない。集合住宅のはずなのに一軒家のような廊下と部屋を持つ、とてつもなく豪華な部屋(?)のリビングで向かい合って座ったイリアが、面接官のように思えた。

 

「王様が、試練を与えたっていうけど、なーんにも具体的なことを言わなかった。つまりそういうことでしょ?」

“もしかして、心当たりとか?”

「……あるとは、あんまり言えないけど、協力はできるよ。あたしは普通の女の子だけど、ちょっと普通じゃないこともやりたい年頃だからね。同じことを考えてる仲間も、ちょっとはいるし」

 

 願ってもない展開。どうにか、スタートラインに立つことくらいはできるだろうという希望が持ててきた。

 もちろん、まだ紙一重だが。まだ薄い希望ゆえに、大袈裟に喜ぶことはしなかったが、先生の心の中ではガッツポーズの後に小躍りしている。

 

「その、仲間というのは? 協力者は多いほうがいい、可能であれば紹介してほしい」

「言われなくても。寝泊まりする場所を確認してから行こっか」

 

 結局ここに泊まるのか、とモヤモヤを呟くカンナ。だが仕方がない。滞在そのものもそれなりに長くなるのだ。コストがかからない宿泊場所は何よりもありがたい。

 窓もあるそこそこ良い部屋をふたつ用意してもらってから、再び外に出て歩みを進めるのだった。

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