Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
「なんというか、どんな姿かというのはちゃんと理解することができなかったんですけど……すごく、物理的にキラキラしてたんです」
アロナは、その日に起きた出来事についてこう話した。
ナノのコンピュータをトリンがハッキングして通話をしてきた、それとほぼ同時くらいのこと。シッテムの箱に、侵入者が現れていた。箱に接続してくる、あるいは干渉してくる者はいなくはないが、侵入というのはかなり例外的なケースだった。
情報を乱す信号を常に発していたため、アロナとプラナの両名の記憶にビジョンが残らないようになっていたが、それでも理解できたことがある。それは、あれこそが綿津見トリンである、ということだ。
“身体的特徴は分からず、か……でも、その事実自体がすごく重要だよ。ありがとうね、教えてくれて”
「いやいや! 先生をお助けする者として、当然のことをしただけですから! ……ところで、プラナちゃんは何をしているんでしょうか」
半壊した教室の外に見える海を、ボーッと眺めているかのように見える。だがプラナはそのような姿を見せる時、大抵集中しているものだ。
そして振り返ったら、何かしらの報告がある合図。
「連邦生徒会より提供されたデータベースを参照しました。予想に概ね合致する結果となります」
“と、いうと?”
「石弓イリア、宛崎ナノ、艶野アイム、手瀬レイア。いずれも、類似情報が確認できませんでした。逆に今までの異聞帯ではほとんど全てが確認できたことを踏まえると、その点でこの異聞帯は特殊、あるいは異常と見られます」
翌朝。待ち合わせ場所として指定されていた噴水広場の前までイリアと共にやって来た。
「常識的な船のように考えるのは間違いかもしれないが、船とは水資源が限られているものでは? こんな噴水を作れるような水源などというものは……」
「あー、それね、海水から精製してるんだよ。純水にしないようにうまいことやるのがコツ、とかなんとか」
そういった設備の研究は汎キヴォトス史においてもされてはいるが、基本的に美味しい水は作れないし、大量にやるには尋常でないコストが必要とされる。要するに、またもや何でもありテクノロジーである。
こういった生活様式をもたらすブレイクスルーの大元はまず間違いなくトリンであろうが、その全てを今でも管理しているのだろうか? だとしたら、いかほどの負荷が彼女にかかっているのだろうか?
“王様というのも楽じゃないみたいだ……おっと、来たね”
「うぃ〜っす。南部寮やっぱ遠いって〜」
パソコンを抱えてやって来たのはナノ。それから数分遅れてアイムとレイアもやって来た。夜のうちにイリアから聞いたところによると、彼女らは南西寮地区に住んでいるらしく、電車に乗っても乗り換え含め30分は南部寮まではかかるのだとか。とてつもない広さが伺えるが、それと同時に朝早くに呼び出してしまったような気がしてならない。現在、8時ほぼちょうど。今から大陸船団のほぼ中央にある代議院まで行けば、ほぼ9時の開場くらいの時間に着くという。
相変わらず、船の上に鉄道網が発達しているという事実に対する違和感は大きい。ここで生まれ育った者達はそれを当たり前として受け入れているが、他の乗り物を上で動かす前提で作られた乗り物は、基本的に空母くらいのものである。
だがこの船は巨大であり、空母というものすらパーツのひとつ程にしかならないものだ。島だと認識した方が、直感にはやはり合っている。
「しかしまた、ずいぶんとここは平和な場所ですね」
“本当にね。キヴォトスに来てからというもの、銃声を聞かない日なんて想像できなくなってたけど”
「──それは、我々の至らなさでもあります。申し訳ないとは思っています」
勝手にカンナが凹んでいるが、確かに窓の外に広がる風景も、電車の中の空気感も極めて穏やかだ。銃を持ち歩かなくとも安全で、人々は満ち足りたような幸福感に包まれている。辛さを誤魔化すように楽しいことをするのではなく、楽しいという思いで溢れている。
ある意味で、理想的な社会が広がっている。思えば昨日のスーパーも、物価の高さ以外は平穏そのものであった。汎キヴォトス史には、理不尽なものからそうでないものまで、クレーマーも少なくなかったのだが。
「楽しそうに話してるとこ悪いんだけど、次の駅で降りるよー。いやー初めてここで降りるなー、議員さん以外基本降りないから当たり前だけどねー」
アイムに言われた通りに降りる。トリトン王立学園の敷地のちょうどど真ん中にある巨大な建物以外には、何も無い場所。この建物だけは、特定の個人や団体のために使用してはならないという規定になっている。
大陸船団のあまねく全てのために利する存在であるために、学園内の各地区から代表を集め、ここで話し合っている。
早い話が、規模が大きくなったトリニティのティーパーティーである。3人の分派首長が、17人ほどに増えたくらい。
「まー議員さんとはいっても、そんなに偉くないけどね。ほんとにたまたま代表になっただけみたいな。基本的にここに住んでる人って平等だし」
「実質的には
何やら、開場を前にしたスタッフと思われるロボ市民&生徒達が慌てている様子。そして、遠くからどうも嫌な破裂音が響いてきている気がする。
念の為持ってきていてよかった、とアサルトライフルを取り出すレイア。それを見て頷き、カンナも銃を手に取る。ナノとアイムは用意がなかったが、イリアは一応ショットガンを持ってきていた。
音のする方に走ってみると、案の定議会が襲撃されていた。平和な世界だからか、キヴォトスの平常運転のような銃撃戦にはまるで対応できない。
いや、「のような」というのは不適だ。普通にキヴォトスの平常運転の一部が異聞帯にやって来てしまっただけのことであるらしい。
「あれは……間違いない、忘れるはずもない。あれが逃げたと知った時の矯正局長殿の顔も」
“きっとそれ、今のカンナと似たような顔だよね”
「そんな気がしますよ……なぜここにいる、災厄の狐?」
彼女は王になるため生まれた
生まれたばかりの身ではその意味は分からなかったが
しかし確かに、そうあらねばと思っていた