Kivotos with the Lostbelt 作:2匹目の蝉
「えと、知り合い……?」
オドオドするナノに対する先生達の返答は、実にシンプル。
「因縁浅からぬなんてものじゃない、頭痛の種ランキングトップ独走の女だ」
“なんかすごい重い感情を私にぶつけてくる乙女だよ”
言葉につまりながら、かろうじて「ふぅん」というリアクションを返すしかない説明であった。でも実際にそうなのだからたちが悪い。
ともかく、この行動を止めなければこれからの方針にも支障が出る。止めればそれなりの確率で仲間になってくれることにも期待できるので、ならば止める以外の選択肢はあるまい。カンナ、イリア、レイアの3人で止めにいく。
「動くな! 動いたなら即刻、襲撃犯として確保する!」
丁寧なくらいの宣戦布告は、ワカモの注目を引くには十分だった。
「まさか……このようなどことも知れない土地にまで、追いかけてくるなんて。ヴァルキューレにも、随分と余裕があるのですね」
「そう思えるのであれば、随分と呑気なことだ」
狐面で表情は見えないが、その下で何か動いたことは読み取れる。挑発は多少効いている。故に後ろから奇襲しようとするふたつの影に気付かなかった……かと、思いきや。
「うっそ、バレっ……!」
「イリ……ひっ!?」
「それに、お巡りさんが使う手としては、少々卑怯な手ではなくて?」
イリアは肩を撃たれて吹き飛ばされ、レイアの喉元には銃剣の切っ先が少しでも気を抜けば当たりそうなところまで迫っている。
先程カンナが発した「動くな」を、行動でそのまま返したような形だろうか。だがカンナもまた、それで引くような軟弱者ではない。
「そういったことも言っていられないのが現状というところだ。実のところ、僅かでも可能性があるのなら協力してくれる者を探しているくらいでな。襲撃をやめ、我々と協力するのなら、今回の件は不問にしてもいいと思っている」
「……はあ。それで私が、簡単に靡くとでも? ヴァルキューレは何の目的で──」
“ヴァルキューレがじゃない。私と、その生徒の目的のためだよ”
先生が前に出て来て、ワカモの動きが止まる。いくつかの種類の想定が先生の脳内にはあったが、一番現実的なものが的中した。ある意味で、イリア達に対する超反応もほぼ全てが想定内。衝動のままに動いている状態から、多少話を聞き、相手を意識できるようになるくらいまで持っていく──気持ちいいくらいに、うまくいったようだ。
「え、ええっと……あなた様がなぜ、ここに、いらっしゃる、の、ですか……?」
簡単に動きが止まり、狐面まで外してその下の真っ赤な素顔まで見せる。キヴォトスに名を轟かせる大犯罪者達の一角とて、惚れた相手の前では実に分かりやすいものだ。
“話すとかなーり面倒なことになるし、あまり大人数に聞かれちゃまずいから、あとでこっそり聞きに来ていいよ。とりあえず、カンナの言ったことは、立場的に棘のある言い方になってるところもあるけど、基本的には本当だと思ってほしい”
「あなた様が、そう仰るのでしたら……はい。この狐坂ワカモ、先生を信じ、公安局長さんのことも信じてみようかと思います」
急な態度の軟化に苦い顔をせずにはいられないカンナ達であったが、カンナ自身は先生から以前に「災厄の狐」から向けられている感情について聞いていたので、多少驚きは少なかった。とはいえ、想像を遥かに上廻るベタ惚れっぷりを知ってしまった以上、今まで以上にワカモが原因の頭痛に悩むことになるだろうが。
“──よし、落ち着いたね? この子はワカモ、狐坂ワカモだよ。ほら、挨拶して”
「イリアさん達、でしたよね? 初めまして、私ワカモと申します。この度は、本当に……本当に! お見苦しいところをお見せしました!」
「うわわあ! いいよも〜謝らなくて! 大変なことにはなったけど取り返しがつかなくなってはいないんだからさあ!」
どうやら反省していることはイリア達にも十分伝わったようだ。というわけで、この件はチャラ……というわけにもいかない。
ボロボロになっている正門から出てきたスタッフのロボット市民が、こんなことを言ってきた。
「いやはや皆さん、助かりました! 説得が通用する相手とは、実のところ思っていなかったのですが……」
「いや、実際通用しませんから。今回はたまたま巡り合わせが良かったのです。ところで我々はここに少し用があって来たのですが、彼女の監視もしたい。同行というのは?」
「やめてくださいよそんなの! 危ないじゃないですか!」
ワカモへの警戒心がMAXなのは変わりない。ここはひとつ、交渉をしなければ。
“では、厳重な監視をつけて外に待機するのは”
「それでも抵抗されたら抜け出されますよ?」
“では、武器も没収しましょう。ワカモ、それでいいね?”
「……」
“いいね?”
「……はい」
「そこまで、していただけるのでしたら……用件を、お伺いしますが」
勢いで押すような形になったが、なんとかはなった。というわけで、王から強制的に連絡を受けて担当の者をここに遣わしたと聞いた、ということを伝える。ロボは顔色があまり変わらないのだが、それでもどこか青ざめて見えた。
「ということは、皆様が……分かりました。控え室へとご案内しましょう。こちらです」
カタカタと震えながら開いた扉の先は、まさに貴賓室。いつかの忍者が潜入した「貴賓室」とは違って、こちらは本物。内装の全てが最高級品で、本棚にはいかにも一流作家の著作らしき本がズラリ。
歴史がまるっきり違う以上、先生が知っている本はやはり無かったが。
待つこと10分ほど。ゆっくりと出入り口が開くと、ひとりの長身の生徒が現れた。真っ黒な男物のスーツ姿に整えられた短髪は、いかにも「王子様」タイプ。
彼女は一礼をしてから丁寧に入室すると、再び一礼してから、よく透き通った声を放ち始めた。
「私は陛下より御役目を頂きました、この代議院にて議長をしている者です。先生……と、お呼びすればよろしいでしょうか。まず最初に、あなたと一対一で話す機会を設けよと、下達頂きました。応じてくだいますでしょうか」