Kivotos with the Lostbelt   作:2匹目の蝉

99 / 101
3-9:God Mind

 先生と議長が二人だけの話し合いをすることになったのは、代議院の本会議場。今日は臨時で本会議は行われないこととなっており、20ほどある席のちょうど真ん中の席にふたり並んで座り、話すことになった。

 

「まず、よくぞお越しくださいました。この世界に住まう住人達を伴っては、そして十分に信頼するに足るであろう人物以外にはあまり話せない内容となりますので、こうして一対一にするようにということになっていたのです」

“この世界に、か。ということは、認知しているってことでいいんだよね? 異聞帯の概念を”

「ええ。この世界の歴史は、本来切り捨てられるものであると陛下よりお聞きしました。故に、()()()()()()()()()()()()使()()が来ると」

 

 つまり、完全に敵として認識されているわけである。弁明の余地はないし、むしろ開き直るくらいがいいのかもしれない。しかし、下手な開き直りもできるまい。

 何せトリンは、世界の歴史の在り方を賭す戦いでありながら、それを正々と行うことを望んでいる。粋であることを望んでいる。そんな相手に開き直りを見せたら、こちらが完全に悪者のようだ。

 それとも、悪者にすることこそが、黒幕の狙いだろうか。

 

“まあ、間違いじゃない。もう既に2回、そういったものを歴史の流れから排除したよ。あと、ここを含めて推定5箇所”

「……抵抗が、あるのですね?」

“わかるの?”

「淡々と事務的な言い方を、あえてしようとする。気持ちを誤魔化そうという考えすら伺えてくるものです。ならば答えは想像に難くありませんが、あえて問いましょう。この戦いに、納得はありますか?」

 

 少し、間が開く。返す言葉に困ったわけではない。むしろ言葉はすぐにまとまった。

 だだ、それが正しい答えなのかが、分からなくて困っていただけだ。

 

“していると言ったら、嘘になるね。本来存在が否定されるものだとしても、当人達にとっては本物だ。いや、そもそも本物と偽物の区別ですらない。そうなったか、ならなかったかというだけ。それを、正しくないという資格があるのか、ということがどうしてもね”

「なるほど。確かに、陛下の憂いていたようなお考えをお持ちでいらっしゃるようです。堂々と、相見えることに()()()()。返答次第では、試練の話を無かったことにしてもよかったのですよ?」

 

 多少程度ながら、酷いことを言われているような気がしてくる。あくまで先生の良心による考えを、ここまで否定的に言われてしまうとは。

 あるいは、今この時から試練が、戦いが始まっているのかもしれない。

 

“いいさ。こっちだって、何もかもすっ飛ばして王様に会おうなんて思っていない”

「そうですか。ですが、これだけは覚えておいてほしいのです。我々は、何かを踏みにじらなければ、恵まれた者として生きてはいけない。そしてそれを知った上で、あえてそれを肯定することに、この異聞の世界の本質はあるのだと」

 

 故に、覚悟の差で勝てる道理はないので、挑むだけ無駄であろう。そのように、あの自信たっぷりな声で言ってのける女王が頭に浮かぶ。

 やってみなければ分からないだろう、と言いたいところだが、あいにくどんな主張をしたところで会ってすらくれないらしい。

 

「これは、陛下の望みとして伝えるように言われたことであると同時に、私としても是非ともお願いしたいことです。この世界の在り方を、試練を通じて見ていってほしいのです。踏み台の上に踏み台を重ねて掴み取った生き方を。それを幸福だと、全力で肯定する人々を」

“その頼みは聞いておくよ。私の考えが究極的にどこであろうと、きっと王の前に立つに相応しいものを身につける”

 

 きっとこの世界は、ここまでに辿ってきた異聞帯の中でも極めて幸福な世界だ。この遊泳大陸船団の上に、ただ生きているだけで生じる苦痛は今のところ何一つ見当たらなかった。

 それを否定するにも肯定するにも、今までとはまるで異なるものを探す必要がある。それを示す試練なのだとしたら、なんとも人の好い異聞帯の王である。別な言い方をすれば、話が通じる。

 

「……悪くない、答えです。誰かの代理人としてではなく、いち個人として、そう思います。ならば再びお会いするその日に、あなたがどれだけ変われるか、それとも変わらず己を貫くか、どちらにしても大いに期待させていただきましょう。その期待を込めて、と言ってはなんですが。予定よりも少し詳しめに、試練についてお教えしましょう」

“それはありがたい。できればその予定より詳しめというのを、予定通りにしてほしかったけれどね”

「なかなか言うお方ですね。試練というのは、5箇所に派遣された王の使いに会い、それぞれに認めてもらうことにより、達成となる……と、思っていただければ良いです」

“認めてもらうって、そんなまたザックリとした”

 

 この表現には、様々な意味合いを持たせることができてしまう。だが、それでいいらしい。

 

「まあ、確かに。極論、本人が認めると宣言すればそれで終わりなので、本当にルールそのものはザックリとしているのです。私の予想では、それぞれが非常に個性的な試練を用意してくれることと思いますが。そしてその場所については、一箇所除き具体的な地名ではないヒントのみ、与えることが許されています」

 “そこは許さないのか、あの王は……まあ、その方が面白いんだろうね、あっちからしたら”

「陛下の仰っしゃりそうなことです。試練の地は──大陸の心臓。黄金の港。鋼鉄の大地。辺境の浜辺。そして、この代議院です。ただし、代議院の試練は他の全てを達成した後に再びここを訪れた、その時に初めて行われます」

 

 というのが、試練についての説明兼ヒントらしい。これでも予定より多い説明らしいが、それでも割と不足している感がある。まあ、受け入れるしかあるまい。

 

 “頑張って探すか、王の使いがいそうなところとなれば限られもするだろうし……”

「どうでしょうか。ともあれ、無事にまた会えることを楽しみにしております。ご武運を」




彼女は船の上で育った
船の上の人々は何かを生み出す力はなく
人々を繋ぎながら、分け与えられながら生きていた
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。