-- 瀞霊廷・十四番隊詰所 --
「春麗、戻っているか?」
雷山と雛森が初めて顔を合わせてから半刻経った時、雷山の姿は十四番隊詰所にあった。
急遽、五番隊隊長代理への就任が決まったため今の状況を狐蝶寺に状況を説明するためだった。
「おかえり♪南美ちゃんから総隊長のおじいちゃんに呼ばれたって聞いたけど、何の用事だったの?」
「それがだな。『隊長代理』を要請して来たんだ」
「え、いいなー!」
「『隊長代理』?何やそれ」
【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”の存在意義についてなんとなく程度だが分かっている猿柿だったが、『隊長代理』なる言葉は初めて聞くものだった。
「ひよ里ちゃん、隊長代理っていうのはね。簡単に言えば、私たちが空いた隊長の席を代理として埋める制度なんだよ。副隊長の隊長権限代行とは違ってその隊の隊長として就任するのが最も大きな違いなんだよね」
「なるほどな。その『隊長代理』ってのにアンタがなるいう話か」
「そうそう!雷山くん、よければ代わってあげるよ?」
狐蝶寺がそう言うには理由があった。それは110年前に当時の十番隊隊長が殉職したために、狐蝶寺に対して『十番隊隊長代理』の話が要請寸前まで行き、結果白紙に戻ったことがあった。
その為に狐蝶寺は『隊長代理』についてチャンスがあれば絶対やりたいと意気込みを見せていた。
「断ろうと思ったんだが、俺を呼んだことが全てだと一蹴されてしまったから諦めな。それよりも椿咲や浮葉から話は聞いたか?」
「ちぇ……藍染くんの目的がルキアちゃんの処刑じゃなくて、双極を使ってルキアちゃんの霊体を蒸発させることによって
「ああ、そこまで突き止めたのは良いんだが、肝心の藍染が死を装いどこかに潜伏してしまってな。今、椿咲と浮葉が潜伏先を捜索している最中だ。そして場所が分かり次第、警護の任に就く2人を除いた4人で強襲しようと考えている」
「おお、いいね♪それはすごく心躍るよ♪」
「……なあ、前から思っとったことがあんやけど、ええか?」
突然、猿柿から質問を投げかけられたため雷山と少しテンションが上がっていた狐蝶寺は思わずまじまじと猿柿の顔を見てしまっていた。
「何か気になることでもあるのか?」
「なんでうちは毎回毎回留守番せなあかんねん」
猿柿は十四番隊が作戦行動する時に必ず自身は十四番隊詰所内で待機になっていることに引っかかっていた。実力で十四番隊に加入しているわけではないことは猿柿自身重々承知だったが、ここまで箱入り娘の如く待機を命じられるほど弱くないとは彼女の言い分だった。
「それはとある人物に保護を頼まれていたからだ。勿論、元副隊長としての実力は知っているが、だからと言って無理はさせられない。それに俺は一度だけ、どうしても白の役に立つと言うなら最低限『卍解』は習得しろと言っただろ?」
「無理難題押し付けてんとちゃうぞ!」
「無理難題ではないぞ。副隊長の時点で卍解を習得する奴は少ないがいないわけではない。椿咲とかがまさにそうだな。ともかく、今回は特にダメだ。猿柿にとって相手が悪すぎる」
「相手が悪かったら逃げる言うんか?【宮廷遊撃部隊・十四番隊部隊長】ともあろう者が聞いて呆れるわ!」
「…………」
雷山は血の気が多い猿柿に危うさを覚えていた。元副隊長とあって、無暗に斬りかからないとしても何かの拍子に冷静さを欠く可能性は否定できなかったからだ。
しかし、猿柿の言う事もまた”護廷十三隊”の理念そのものであり、相手が悪いからと逃げの一手しか考えていないのはどうかと思う所でもあった。
「はぁ……分かった。強襲は警護の任に就く銀華零及び山吹の2名を除いた全員で敢行することとする」
「雷山くん、いいの?」
「ああ、本人がどうしてもと言うならその意思を尊重しようと思う。ただし、猿柿よ。復讐を果たそうとするのは結構だが、とある人物からお前を預かってると言ったな」
「それが何や」
「預かってるということは、今はお前も十四番隊の死神という事だ。そしてその身の安全は俺の管理下ある。その中で死にに行くような真似は絶対に許さない。”
「肝に銘じとくわ」
「…‥雷山くん、話を戻すんだけどいい?」
「ん?ああ、すまない。何の話だったか」
「藍染くんの死体ってどういう原理なのか分かる?みんなまるで本人のように藍染隊長藍染隊長って騒いでたけど」
「そうだな……これは俺の推測なんだが、藍染の持つ斬魄刀の能力が椿咲の『
「ふーん。あ、そうだ。その死体騒ぎの時に、市丸くんと目が合ったような気がするんだよ。こっちは霊圧も姿も気配も消していたのに」
「……成程。つまり俺たちはすでに藍染一派に警戒されているってわけか」
「白ちゃんはその可能性は高いと言ってたけどね。白ちゃんと山吹ちゃん、それにこれで雷山くんもだけど短期間で遠征から帰った死神が増えてる状況だから怪しまないわけないって」
「分かった。注意しておく。俺はしばらくの間『五番隊隊長代理』で十四番隊詰所に戻って来る暇がないと思う。そこで春麗は椿咲たちが戻って来たら先のことを伝えて俺に連絡をよこしてほしい」
「オッケー♪そう言うことならお安い御用だよ♪」
「では、春麗も猿柿も頼んだからな」
「任せとき」
「行ってらっしゃい♪」
同時刻――――――...
-- 瀞霊廷・
「……誰もいねぇみたいだな」
「おかしいですね。普通なら見張りがいるはずなのに……」
2人は極囚・朽木ルキアが囚われる独房の前に見張りの死神が誰1人としていないことを不審に思っていた。
「罠かもしれねぇが、絶好の機会であることに変わりねぇ。さっさとルキアちゃんを出してやろうぜ」
「はい、そうですね」
岩鷲と花太郎は仮にこの状況が罠だとしても朽木ルキアを出してさえしまえば、あとはどうとでもなると考えすぐに行動に移った
「しっかしまあ、牢の扉はシャッター型か。さて、どうやって開けるかだが……」
「ああ、それなら……」
そう言うと花太郎は懐から漢字の「山」のような形をした鍵のようなものを取り出した。明白な「裏切り行為」にさすがの岩鷲も驚いた。
「おい、大丈夫かよお前」
「いいんです。僕だってルキアさんを助けたい、その為に出来るだけのことはしようって決めたんです」
「……そうか。お前がそんなに助けたいってことはそのルキアってやつはよっぽどのかわい子ちゃんなんだな。いっちょ顔を拝んでみるか」
シャッター型の扉が開くと同時に牢の中に光が差し込んだ。中には小柄な女性が一人立っており、その人物が朽木ルキアであることを岩鷲は知ることとなるが、その顔に見覚えがあった。
「お前は、あの時の……!!」
その昔、志波岩鷲の兄である当時の十三番隊副隊長・志波
「いったい何事だ……?」
状況が分からないルキアを置いて岩鷲は目の前に立つ朽木ルキアこそが兄である志波海燕を殺した死神であることを知ることとなった。
そんな時、用事のためその場に居なかった銀華零と山吹が戻ってきた。2人はすぐさま牢のシャッターが開いていることを確認し誰かが来たことを知った。
「銀華零隊長……」
「ええ、ついにここまで到達したという事ですね」
銀華零は
「これはいったいどういう事ですかね」
「「ッ!!」」
突然声をかけられた岩鷲と花太郎は咄嗟に振り返った。そこには斬魄刀を携えた銀華零と山吹の2人が立っていた。岩鷲と花太郎は2人の素性を知る由もなかったが、それでもとんでもない実力者であることは本能的に察した。
「誰だこいつは……いや、それよりもなんて威圧感だ……!!」
岩鷲はこの数刻前に更木剣八の霊圧と威圧感をその身をもって体感していた。しかし目の前に立つ銀髪の死神は臨戦態勢に入っていないにも関わらず、更木よりも強い威圧感を放っていた。
「が、岩鷲さん。逃げましょうルキアさんと一緒に!」
「バカ野郎……逃げ道がどこにあるんだよ。道はこの橋一本だけだ。こいつの隙でも突かねぇ限り無理だ。こんなやつのために命を張れって言うのか?こいつは俺の兄貴を殺したんだぞ!!こんなやつの為に……!!」
「……分かりました。ここは僕が気を引きます。その隙に岩鷲さんはルキアさんと逃げてください」
そう言うと花太郎は実力差があることを知りながらも銀華零に向かう決心をして歩み始めた。恐怖、或いは緊張からか身体を震わせて、
「……バカ野郎」
そう呟くと岩鷲は花太郎を引きとめた。岩鷲は花太郎が自身が囮になってでもルキアを助ける覚悟を決めて立ち向かおうとする中、自身はルキアが兄の仇であるとして、護廷隊士である花太郎や共に瀞霊廷に来た一護たちの覚悟を踏みにじるのかと考えた。
「斬魄刀も持たずにどうやって勝つつもりだよ。震えてんじゃねぇか……ったく、何カッコつけてんだよ」
「うわぁ!?」
一度ルキアを助けると決めたならたとえ兄の仇だろうと一護たちへの筋を通そうと岩鷲も覚悟を決めた。そして、引きとめていた花太郎を後ろへ投げ飛ばした。
「退いてろ!あいつの相手をするのはこの俺だ!」
「えーっと、何やら色々話されているところですが、今大人しく退いてもらえるならこちらからは手出しはしませんよ?」
「っは!殺されねぇ保証もねぇのに、『はい、そうですか』と引き下がる奴はいねぇだろうよ!」
「警戒心が強いのは良いことですが困りましたね……」
困ったように苦笑いしている銀華零の後ろでは山吹が臨戦態勢を取っており、いつでも抜刀できるように構えていた。
勿論、それは銀華零もすぐに察することになり、制した。
「……雷花さん。間違っても手出しはしないでくださいね」
「銀華零隊長、しかし……」
「しかしではありません。この方たちが恐らく
銀華零が山吹との会話に気を取られている隙に岩鷲は懐から何やら玉らしきものを取り出した。
「こうなりゃ先手必勝だ!食らえ、
岩鷲が銀華零に向かって球のようなものを投げた。『
「……これは、また変わった物ですね」
ドンッ!! パラパラパラ―――……
銀華零がそう言った1秒後
花火を扱う点と見慣れぬ装束、よく見れば家紋のような物が付いており、それらから考えて目の前の人物が情報として受け取った
「なんだ……いったい何が……」
一方で岩鷲は目の前の死神に向け投げたはずの花火がいつの間にか元の軌道を大きく外れて爆発したことに驚いていた。
しかし、岩鷲もバカではないため目の前の死神が一瞬にして弾いたのだと理解した。しかし特筆すべきは、斬魄刀を抜きそして弾くの一連の行動が残像としてもまったく見えなかったこと。そこに2人の間に圧倒的な実力差があることを痛感した。
「くそっ」
岩鷲は銀華零に対して下手な小細工は通用しないと判断し、イチかバチか戦闘不能、もしくは人質にでもと考えて飛びかかった。
「うおおおぉぉぉぉ!!」
ドスッ!!
「うぐっ!!」
ドサッ―――……
岩鷲の手が銀華零に届く直前、一瞬にして岩鷲の懐まで潜り込んだ山吹は斬魄刀を鞘に仕舞ったまま、柄で鳩尾を突き岩鷲を気絶させた。
「大丈夫ですか?銀華零隊長」
「雷花さん、手出しはしないで下さいと言ったでしょう」
「申し訳ありません。大丈夫だと頭では分かっていたんですが、つい身体が……」
「はぁ……仕方ありませんね。それでは、この方の手当てをお願いします。無傷だとは思いますが、念のために」
「はい」
「岩鷲さん……」
気絶とは言え、山吹に倒されてしまった岩鷲を花太郎は心配そうに見ていた。
「安心してください、気絶しただけですよ。それに私は初めに言ったでしょう?大人しく退くのなら手出しはしないと、これは一種の自衛ですよ」
「あ、あの――――」
ドンッ!!
花太郎が銀華零にこれから岩鷲はどうするのかを聞こうとしたとき突如として、巨大な霊圧が辺りを包んだ。
その霊圧にルキアと花太郎は冷や汗をかいていたが、一方で銀華零と山吹はその霊圧が六番隊隊長・
「やれやれ、今日はやけに来客が多い日ですね。あなたはここに何用でお見えになったのですか?朽木六番隊隊長」
「
「羽虫とは言いようですね。残念ながらもう終わっていますよ。お引き取り下さい」
「……成程。
「はい?……ッ」
その時、銀華零は白哉が言った羽虫という言葉には倒れている岩鷲だけではなく、花太郎と朽木ルキアの2人も含まれていると察した。
「雷花さん!」
「……!」
「”
白哉が解号を唱えると同時に、彼の斬魄刀の刀身が桜の花びらに徐々に変化していた。
ガキンッ!!
その最中、銀華零は白哉に斬りかかっていた。
その行動は白哉の目に明確な裏切りに映り、驚きはしていたが受け切れないものではなく咄嗟に始解を止め刀のまま銀華零の斬撃を受け切った。
「驚かせて申し訳ないですね。朽木六番隊隊長」
「……どういうつもりだ」
「どういうつもりって、私はただ、必要以上にこの場を荒らさないでほしいだけですよ」
「極囚を脱獄させようとする羽虫を認識しながら何もするなと言う訳か。その行動こそ我等に対する恥ずべき反逆と知れ」
「反逆?おかしなことを言いますね。この2人の死神は抵抗の意思は示してはいませんよ?それに、私たちは山本総隊長より朽木ルキアの警護を任されています。警護とはそれ即ちこの場の秩序維持も指します。その私たちが先ほど鎮圧化した後に、一介の隊長が始解で荒らしていくのは良しとは出来ません。仮にも隊長であるあなたなら分かるはずでしょう?」
かつて隊長であった銀華零は”引き際”について何百年もの経験から弁えていた。しかし銀華零の経歴など一切知らぬ白哉からすれば、遠征から戻った一介の死神如きに”隊長としての矜持”を挑発しているともとれるその言動に眉をひそめていた。
「「…………」」
白哉と銀華零は睨み合ったまま互いに動かず、辺りの空気が張り詰めて緊張感が生まれていた。
『 一 触 即 発 』の言葉が似合う程に、
「まあ、どうしてもと言うのならば、私を反逆者として斬っても構いませんよ。出来ればの話ですけれどね」
「貴様……」
白哉は剣を弾き銀華零と距離を取った。そして銀華零を斬り捨てるべく刀を構えたその時だった。
ガシッ!!
「―――……ッ!!」
突如として白哉の腕を掴む死神が現れた。白哉も銀華零も目の前の相手に集中していたために近づいてくるその死神の気配に全く気が付いていなかった。
「物騒だな。2人ともそれくらいにしておいたらどうだい?」
「……浮竹」
「浮竹?」
白哉が不意に発した名前で銀華零は目の前の人物が護廷十三隊十三番隊隊長・
浮竹の登場は銀華零と山吹にかなりの警戒心を与えた。敵か味方か分からない隊長がどのような思惑でこの場に現れたか分からなかったためであった。
「う、浮竹隊長……?」
「おっす、朽木!少し痩せたな、大丈夫か?」
「……まずいですね」
銀華零は一言だけそう呟いていた。現在の護廷十三隊隊長の中で穏健派として有名な浮竹ではあるが、もし仮に白哉に加勢したら銀華零、山吹の二人をもってしても気絶し倒れている岩鷲と花太郎を守り切れず殺されてしまう可能性が高いからだった。
しかし、それはあったとしても1%未満のありえないこと程度の事であるが、銀華零としては警戒心を解いていい理由とはならなかった。
「そんな警戒しなくても大丈夫ですよ、銀華零隊長。それよりも白哉こんな所で斬魄刀解放なんて一級禁止条項だぞ?」
「心配無用。戦時特例により斬魄刀の全面開放は許可されている」
「戦時特例?
”その旅禍なのか”
そう浮竹が言葉にしようとしたその時、突如として橋の下より強大な霊圧が辺りを覆い始めた。その霊圧はその場に居る者は感じたことの無い霊圧だった。ただ一人、朽木ルキアを除いて
「何だこの霊圧は明らかに隊長クラスだぞ……!!だが、知らない霊圧だ……」
「この霊圧の感じ……まさか」
その時、橋の下より黒崎一護が右腕に巻いた道具を用いて空を飛んでやって来た。状況が分からない一護はまず倒れる岩鷲の近くにいる死神、
ガキンッ!!
「くっ!!何をするんですか……あなたは!!」
ドンッ!!
「うぐっ!?」
一護の斬撃が届く直前、山吹は咄嗟に抜刀してその斬撃は防いでいた。しかし、一護は斬撃を防がれたと判断すると同時に、二撃目となる掌底を放った。その一連の動きは【十四番隊・第二将”
「雷花さん!!」
その光景は銀華零の想定を超えてであり、思わず山吹の名前を叫んでしまっていた。
そして、山吹を破った死神はオレンジ色の髪と身の丈ほどの大刀を背負った特徴を持っており、つい先日狐蝶寺から聞いた
その事から銀華零は目の前の死神が