宮廷遊撃部隊・十四番隊   作:らりるれリッター

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第28話 双極の丘にて②

 

 

 

-- 瀞霊廷・双極の丘 --

 

 

 

「これが、『崩玉(ほうぎょく)』……」

 

 

ドゴォォォォォォォォォ!!!!

 

 

藍染が手にした『崩玉(ほうぎょく)』に目を落としていた時、突如として轟音が辺りに響いたのだった。

その正体は少し前に遡る、

 

 

 

 

□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■

 

 

 

 

 

「くっ……!!雷山悟。奴もまた更木剣八と同じか……!!」

 

 

雷山と狐蝶寺を自身の卍解空間内に閉じ込めることに成功していた東仙は、最優先に対処すべしとして雷山に斬りかかっていた。しかし視覚、聴覚、霊圧知覚、嗅覚の戦いに必要である感覚を潰されている雷山は東仙の攻撃を紙一重で躱す芸当を見せていた。

少し前に東仙と戦っていた十一番隊隊長・更木剣八と同じのように、

 

 

「更木ともまた違う。何故、何故触れさせることなく躱せる……!!」

 

 

雷山と更木、両者ともに残された触覚を駆使して東仙の斬撃を躱していたが、ただ1点だけ違っていた。

それは、更木が刃先が身体にめり込む瞬間を感じ取って致命傷を避けていたことに対して、雷山は東仙が刃を振るう際に起きる風向きの変化を肌で感じ取っていたのだ。

 

 

『―――と言ってはいるものの、いつまでもこうしている暇も時間もないな。いい加減に仕掛けるか……』

 

「ッ!!」

 

 

その時、東仙は雷山の雰囲気が変わったのをはっきりと感じた。更木との戦闘を経験していた東仙はこの場合は迂闊に近づくべきではないとあえて距離を取り様子を見ることとした。

 

 

「ふふっ……♪」

 

「何ッ……!?」

 

 

突如として強大な狐蝶寺の霊圧がまるで自身を押し潰すかのように東仙に降りかかった。その時になって東仙は気が付いた。雷山が分かるように雰囲気を変えたのは、狐蝶寺の行動を悟られぬようにするためのデコイであると、

 

 

「なんだこの霊圧は……!!」

 

 

狐蝶寺が放つ圧倒的な霊圧。それはまるで全身を風に切り刻まれているかのような激痛が伴う霊圧だった。

 

 

「”微風(そよかぜ)()()()へと()し、静寂閑雅(せいじゃくかんが)()()らん”『暴風芽吹(ぼうふうめぶき)』!!」

 

「なっ……!?」

 

 

狐蝶寺の解号が辺りに響くと同時に、雷山諸共暴風が襲った。その暴風は凄まじく、狐蝶寺が始解であるにも関わらず東仙の卍解である空間を吹き飛ばしてしまった。

 

 

莫迦(バカ)な。雷山悟ごと私の卍解を……!!」

 

「誰がお前の卍解と共に吹き飛んだって?」

 

「!?」

 

 

声が聞こえると同時に東仙は振り返っていた。そこには東仙の卍解空間を吹き飛ばす程の威力がある暴風の直撃を受けてもなお、無傷の状態で立っている雷山の姿があった。

東仙にとってそれだけで自身と雷山の間に圧倒的な実力差があることを思い知らせた。

 

 

「やれやれ、やっとあの鬱陶しい空間から出られた。すまない春麗。助かったぞ」

 

「いいよいいよ♪私もいい加減鬱陶しいなって思ってたところだし♪」

 

「やっぱり悪友同士気が合うな。気になっていたことは聞けたし、こっからが本番だ。東仙は任せたからな」

 

「オッケー♪任せておいてよ♪」

 

 

狐蝶寺と雷山のそんなやり取りの最中、藍染は雷山を一瞥すると、すぐさま視線を手に持つ宝石のようなものに向けた。

雷山は藍染が手に持つ多角形の防壁に包まれたものが『崩玉(ほうぎょく)』と呼ばれるものだと即座に理解した。

 

 

「……成程、その手に持つ物が『崩玉(ほうぎょく)』か」

 

「随分と時間がかかったようだね、雷山悟。すでに僕の目的は達したよ」

 

「それを使って何をするつもりだ?」

 

「君が知る必要はない。……ああ、そうだった。椿咲南美にはヒントを与えている」

 

「ヒント?」

 

「知りたいのならば、彼女から聞くことを薦める。まあ、大した情報は得られないだろうが」

 

 

そう言うと藍染は空を見上げていた。それはまるで何かに合図するかのように、

 

 

「何をするつもりだ。言っておくが俺たちの前から逃げられると思わないことだ」

 

「……雷山悟。君は不思議に思わないのかい?何故、僕がわざわざこの双極の丘に移動して来たのかと」

 

「何だと?」

 

 

雷山はその時、かつて浮葉が報告していた時に、自身が藍染はこの100年余りで虚圏(ウェコムンド)に手を付けていたと予想していたことを思い出した。

そして同時に考えた。何故、虚圏(ウェコムンド)に手を付けていたのか、この見晴らしのいい場所へ移動してできる唯一のことについて、

 

 

「……まさか、お前」

 

「ああ、時間だ」

 

 

藍染の発言の意図に気付いた雷山はそれをさせまいと動いたその瞬間だった。空が割れ、光が降り注ぎはじめた。

雷山はすぐさまそれが大虚(メノス・グランデ)反膜(ネガシオン)だと気付いた。

 

 

ガンッ!! バチバチバチ……!!

 

 

「ちっ……!!」

 

 

雷山が刃が藍染に届く直前、ギリギリのところで間に合わずに光の壁に遮られていた。雷山が攻撃を仕掛けた衝撃はそのまま雷山自身に帰って来て、弾き飛ばされた。

 

 

雷斬居合(らいざんいあい)尖刃(せんじん)!!」

 

 

空中で一回転した雷山は地面に着地すると同時に、藍染とを隔てている光の壁に強烈な突きの一撃を繰り出した。しかし、壁を破るまではいかずヒビが入る程度だった。

 

 

「驚いたな。まさか大虚(メノス・グランデ)反膜(ネガシオン)にヒビを入れるとは、やはり少し無理してでも時間を早めて正解だったか」

 

「藍染……!!」

 

 

雷山が悔しそうに名前を呟いた時、2つの光が新たに降り注いだ。それは、東仙と狐蝶寺、市丸と銀華零を隔てるように光の壁を形成すると地面ごと宙に浮かび上がらせた。

反膜(ネガシオン)は完全に降ったが最後、外と内が完全に隔離された別空間となるため()しもの”十四番隊”の3人も手出しが出来なくなり、見上げることしか出来ていなかった。

 

 

反膜(ネガシオン)か」

 

 

 

【護廷十三隊総隊長】山本元柳斎重國だけではなく、それを皮切りに幾人もの隊長格が瞬歩でその場に姿を現し始めていた。

 

 

「藍染……」

 

「藍染隊長……」

 

 

集結した死神たちに共通して言えたこと、それは未だ藍染の裏切りを信じられないと言った様子だった。

 

 

「東仙!!降りて来い!!」

 

 

隊長格たちが見守るしかない名か、七番隊隊長・狛村(こまむら)左陣(さじん)の怒号が響いた。

 

 

「……狛村か」

 

「解せぬ!!何故貴公は死神になった!?亡き友の為ではなかったのか!!”正義”を貫く為ではなかったのか!!」

 

「私は言ったろう狛村、この眼に映る道だけが最も血に染まらぬ道だと、”正義”とは常に其処にある。私の歩む道こそが”正義”だ」

 

「東仙……!!」

 

「……あら」

 

 

市丸は集まる群衆の中に幼馴染でもある十番隊副隊長・松本乱菊を見つけた。乱菊の表情は自身に対しての失望か、それとも何故一言言ってくれなかったのか、そう言った感情が入り乱れているようだった。

 

 

「わざわざ見送らんでも()かったのに、さいなら乱菊。……ご免な」

 

大虚(メノス)とまで手を組んだのか……何の為にだ」

 

「高みを求めて」

 

「地に落ちたか、藍染……!!」

 

(おご)りが過ぎるぞ、浮竹。最初から誰も天になど立っていない。()も、僕も、()すらも、だがその耐え難い天の座の空白も終わる。これからは―――――

 

 

 

”―――――私 が 天 に 立 つ

 

 

 

さようなら、死神の諸君。そしてさようなら、旅禍(りょか)の少年。人間にしては、君は実に面白かった」

 

 

そう言葉を言い終えると、藍染は市丸と東仙を引き連れ、大虚(メノス・グランデ)と共に黒腔(ガルガンダ)の奥へと消えていった。

こうして瀞霊廷中を騒がせた旅禍(りょか)の騒動、そして崩玉(ほうぎょく)の入手を成し遂げた藍染惣右介の謀反は終わりを告げた。

 

 

そして、この一連の事件は発足から六百余年経つ【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”が関わった作戦行動の初黒星となる歴史的な事件となった。

 

 

         ・

 

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         ・

 

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         ・

 

 

「皆、至急四番隊に連絡を、そして”十四番隊”を除く隊長は事態の収拾に努めよ」

 

 

藍染の逃亡劇からまだ舌の根も乾かぬうちに山本元柳斎はそう命を出した。理由は勿論、今回起きた一連の騒動を鎮静化を図ってのものだった。

 

 

「兄さま!!兄さま!!」

 

「ああ、もう!ルキアちゃん離れてって!朽木白哉くんの傷に障っちゃうよ!私が何とか命は繋ぐからさ!」

 

「阿散井副隊長、四番隊が到着するまでの間、(わたくし)銀華零白が応急処置を行います」

 

 

双極の丘に集う各隊長格は、各々自身の隊の被害状況と隊士たちの動揺を鎮めるために双極の丘を後にしていた。

”十四番隊”双極の丘に残り、四番隊の精鋭程ではないにせよ回道が得意な狐蝶寺と銀華零がそれぞれ朽木白哉、阿散井恋次に付いて応急処置を行っていた。

そして雷山は【宮廷遊撃部隊・十四番隊部隊長】として第一次報告を山本元柳斎に対して行っていた。

 

 

「最終的な報告はまた後日にするが、現時点での簡単な報告をする」

 

「大方の流れは虎徹副隊長の伝心より聞いておる。儂が問いたいのは、ただ1つ。おぬしら”十四番隊”は此度の謀反を察知して秘密裏に藍染を捕縛するために処刑を阻止し、”護廷十三隊”と相まみえたと捉えても良いのか」

 

「ああ、その認識で間違いはない。結果的には逃げられてしまったけどな」

 

「構わぬ。おぬしらの非を問う前に我らにも非はある。それよりもこの場は任せても良いか」

 

「分かった。四番隊に引き継ぐまでは”十四番隊”がこの場を預かろう」

 

「うむ、では頼むぞ」

 

 

そう言い残すと山本元柳斎は雀部と共に瞬歩で去って行った。その場に残る雷山は1人、黒腔(ガルガンダ)が閉じた空を見上げていた。

 

 

”さようなら、死神の諸君。そしてさようなら、旅禍の少年。人間にしては、君は実に面白かった”

 

「っは、何が【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”だ。藍染1人捕えることも出来ないじゃねぇか……」

 

 

藍染が残した最後の言葉を思い返しながら、雷山は自嘲気味に笑っていた。

 

 

「雷山さん」

 

 

そんな雷山のもとに阿散井の応急処置を終えた銀華零がやって来た。銀華零は自嘲気味に笑っていた雷山を見てどこか思うところがあるという表情をしていた。

 

 

「阿散井はどうだ?」

 

「応急処置までは終わりました。あとは四番隊に引き継ぐのみです」

 

「……そうか。ご苦労様」

 

「雷山さん、少しだけ時間をもらってもよろしいですか」

 

「なんだ?今更(かしこ)まって……」

 

 

雷山が目を向けるとそこには、自身に対して深々と頭を下げる銀華零の姿があった。銀華零は今回の藍染逃亡による作戦行動失敗は作戦自体を立案した自身に責任があると思っていた。

 

 

「この度は申し訳ありませんでした」

 

「……何のマネだよ」

 

「今回の作戦の立案者は”参謀”たる私です。その作戦行動が失敗した今、謝罪を以て誠意を示すしか申し開きが出来ません。一生の不覚です」

 

「頭を上げてくれ、白。今回の一件は誰の責任でもない。あったとしてもそれは白ではなく俺だ」

 

「いえ、雷山さんは……!!」

 

「確かに立案者は”参謀”たる白だろうが、その作戦で行こうと最終決定を出したのは”部隊長”たるこの俺だ。それに迂闊に東仙に近づいて卍解に囚われてしまった俺の大きなミスもある。白が責任を感じるようなことじゃない」

 

「しかし……」

 

「どうしても責任が取りたいというのなら、今回の反省を生かして次に繋げればいい。……せっかく、面白くなってきてしまったんだからな」

 

「はぁ……まったく雷山さんはしょうがないですね」

 

 

空を見上げていた雷山の様子から見て、最後の言葉は空元気(からげんき)なのだろうと感じていた銀華霊だが、それを悟られぬようあえて呆れて見せた。しかし本心では自身を気遣ってくれた雷山に深く感謝していた。

 

 

「お待たせいたしました!」

 

 

その声と共に、治療の装備を着けた四番隊の死神が複数人走って来た。先頭を走って来ている、恐らくは上位席官と思われるメガネをかけた死神がすぐさま雷山の元へ駆けて来た。

 

 

「山本総隊長及び卯ノ花隊長の命で参りました。私は四番隊第三席・伊江村(いえむら)八十千和(やそちか)です」

 

「ああ、ご苦労さん。俺は【宮廷遊撃部隊・十四番部隊長】の雷山悟だ。【総隊長】山本元柳斎重國よりこの場を預かっていた。現状を説明するが、黒崎一護は旅禍(りょか)の少女によって治療を受けており、阿散井恋次は応急処置まで完了している。残る朽木白哉、は現在”十四番隊”で回道を扱える死神が応急処置を続けている。ひとまず引き継いではもらえないか」

 

「はっ!では1班と4、5、6班は朽木隊長を、2、3班と7、11班は阿散井副隊長の治療を引き継ぎ、直ちに開始しろ!」

 

 

四番隊に引き継がれたことで手の空いた狐蝶寺が雷山のもとへやって来た。慣れない回道を使ったことで狐蝶寺の顔には若干の疲れが見えていた。

 

 

「春麗、ご苦労様だったな」

 

「さすがにちょっと疲れたよ。いくら回道が得意で扱えると言っても慣れてるわけじゃないからね」

 

「おいおい、まだへばるんじゃないぞ。これから俺たちは山吹を捜索するんだからな。東仙は始末したと言っていたがあいつにどうに課できるほど山吹も弱くはないから」

 

「雷山、部隊長……山吹雷花……た、ただいま戻りました……」

 

 

弱々しい声が聞こえたため、雷山たち3人は目を向けた。するとそこには背中から血を流し、フラフラしながら足を引きずり歩いてくる山吹の姿があった。

 

 

「雷花さん!!」

 

「ちょっと山吹ちゃん!?」

 

「おい、バカお前なんで歩いてきた!?ボロボロじゃねぇか……」

 

「助太刀せねばと思いまして……藍染惣右介は何処(いずこ)に……?」

 

「その前に治療を受けろ!おい四番隊の誰か!無理してるやつがここにもいるから治療してやってくれ!」

 

「私はまだ、うっ……」

 

「おい!?」

 

 

ひと目見ただけで分かるほど無理をしていた山吹は倒れ込みそうになっていた。雷山はすかさず抱きかかえ支えていた。

 

 

「ひとまず座れ。まったく、こんなに無理しやがって」

 

「すいません。雷山部隊長……」

 

「……東仙にやられたのか?」

 

「はい……恥ずかしながら、一瞬目の前が真っ暗になったと思ったらこの体たらくです……」

 

「そうか。だが恥ずかしがる必要はないぞ。あの卍解はある程度の実力がなければ、一方的に(なぶ)り殺されるような代物だ。だが、こうしてお前は生きている。それはつまりお前は(まご)うことなき強者だという事だ。そこは自信持っていればいい」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

「たまの休みだ。のんびりしてくれ」

 

「雷山隊長ー!!」

 

 

その声と共に上空から椿咲が降ってきた。椿咲は地面に着地する直前に一回転し着地による衝撃を和らげていた。

 

 

「無事だったか」

 

「はい、一瞬ヒヤリとする瞬間もありましたけれど、私も浮葉君もひよ里ちゃんも五体満足です。それよりも、あの……藍染君は?」

 

 

雷山は両手を┐┌と上げて暗にダメだったことを椿咲に伝えた。

 

 

「そうですか……すいません、本当はこちらで捕縛すれば済んだ話だったんですけれど」

 

「気にするな。俺は言ったろ、可能であれば捕縛とし、無理ならば外に誘き出してくれとな。結果的には双極の丘に誘き出すことが出来たんだ。それで良しとしよう。それよりもお前どうやってここまで来たんだ?」

 

「え?ああ、それはですね」

 

「卯ノ花隊長、お疲れ様です!」

 

 

伊江村が発したその声で、雷山は椿咲が卯ノ花の始解による生物に乗って共にここまで移動して来たのだと察した。一方の卯ノ花は始解を解くと同時に伊江村から現状を聞きつつ、未だ治療の続く朽木白哉の元へと歩みを進めていた。

 

 

「雛森副隊長のご容体は?」

 

「一命は取り留めました。あとは本人次第でしょう。残っているのは?」

 

「はい、朽木隊長と旅禍(りょか)の少年のみです」

 

「……旅禍(りょか)の方には手助けは必要なしですね」

 

 

卯ノ花は一護を治療している井上の治療術を見て、特異な能力で治療の程度は未知だとしつつも自身の手助けを要するほどではないと判断した。

 

 

「え?は、はぁ……」

 

 

卯ノ花のその判断は伊江村からすれば予想外のことだったようで、若干の戸惑いがありつつも卯ノ花にその判断に従っていた。

 

 

「無茶をしましたね、朽木隊長」

 

「ル……ア、を……」

 

 

白哉はしゃべることもままならない程の状態だったが、それでも何かを伝えようと卯ノ花に自身の義妹であるルキアを呼んでほしいと頼んでいた。

 

 

「朽木ルキアさん、こちらへ。朽木隊長が呼んでいます」

 

「はい、兄さま……」

 

 

ルキアは白哉の近くによると膝を付いた。

 

 

「……ルキア、お前に話しておきたいがある……50年前の古い話だ……」

 

 

その話はルキアも知ってのことだった。50年前のある日、白哉は緋真(ひさな)と言う1人の妻を亡くしていた。ルキアにはその女性とよく似ているために朽木家に妹として迎い入れられたのだと伝わっていた。

 

 

「そうだ……そう嘘を伝えるようにと私が指示していた。……本当は緋真(ひさな)はお前の姉だ」

 

「へ……?」

 

 

朽木白哉が語ったその事実はルキアだけには留まらず十四番隊のメンバー、とりわけ雷山も驚かせるものだった。

 

 

「雷山さん……」

 

「ああ、朽木ルキアはたしか流魂街(るこんがい)出身のはずだ。その緋真(ひさな)という女性が実の姉と言うのならば、朽木白哉は二度……という事になる」

 

 

長きに渡って隊長職を担っていた雷山は過去に様々な貴族を見て来ていた。その中で誰も彼も共通していたことは、

『貴族として面子を第一にしている』だった。

流魂街(るこんがい)出身の言わば平民を妻として迎い入れることが、貴族としてみればどれ程の愚行かを知っている雷山は、掟に最もうるさいであろう四大貴族・朽木家当主である朽木白哉がそのタブーを一度ならず二度までも犯していたことに驚いていた。

 

 

緋真(ひさな)は現世で死して、お前と共に戌吊(いぬづり)へと送られた。そこでまだ赤子だったお前を捨てて逃げたのだと言っていた。緋真(ひさな)はそれを悔いて私の妻になった後も毎日のようにお前を探し続けた。そして5年目のことだった、緋真が死したのは……」

 

「お前を見つけたのはその翌年のこと、すぐに私はお前を朽木家へと迎い入れた。屋敷の者には流魂街(るこんがい)の者を貴族の家に入れることは掟にも反することと反対されたが、私はそれを押し切った。しかし、掟に反したこともまた事実、そこで私は父母の墓前にて誓いを立てたのだ。『これから先、何があろうとも必ず掟を守り抜くと』。お前に極刑が決定されたとき、私は分からなくなっていた。父母への誓いと緋真(ひさな)との誓いどちらを守るべきかが……黒崎一護、礼を言う。ルキア、済まぬ……」

 

 

白哉の告白を聞いた銀華零はかつて抱いていた違和感についてどこか合点がいった様子だった。それは、ルキアが懺罪宮(せんざいきゅう)に収監されている時の白哉の行動。

 

 

「……成程。朽木六番隊隊長がよく懺罪宮(せんざいきゅう)の近くに現れていた理由も、やけに掟と口うるさく言っていたのも、そして朽木ルキアさんを救出しようとしている者にやり過ぎとも言えるほど手を下そうとしていたことも、それが原因と言う訳ですか」

 

「四大貴族の当主とは言っても、まだまだ若いね♪……正直、羨ましいくらいだよ」

 

「おばあちゃんみたいなこと言わないでくださいよ、春麗さん」

 

「ああ、今は年寄りみたいな感想を言ってる場合ではないぞ。朽木白哉、これが最後の確認だ。朽木ルキアの処刑に関してはお前も手を引くと捉えても良いんだな?」

 

「……雷山悟か。その認識で構わぬ」

 

「分かった。それでは朽木ルキア処刑阻止に関してはこれにて終結とする。次に、白と春麗は卯ノ花に従い救護人の総合救護詰所までの搬送に従事。俺と椿咲はこの場の最終調査を行い、それぞれ解散としよう」

 

 

 

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