椿咲 南美
十四番隊が発足して199年(浮葉刃が加入して138年)後――――――
瀞霊廷の一角にある”
それは未来の護廷十三隊、隠密機動、鬼道衆に属することになる、死神たちを養成する教育機関。
その歴史は意外にも護廷十三隊より古く1500年以上前に護廷十三隊総隊長・山本元柳斎重國が”死神統学院”の名で設立したことに始まる。
そこに1人の紫色の着物に水色の帯、月の模様が入った黒い羽織を身に纏い教壇に立っている女性がいた。
「はい、それでは皆さん。おはようございます!今日も1日勉学に励みましょうね!」
彼女の名は、
「それでは今日はまず瀞霊廷の歴史から始めましょうか」
「…………」
その姿を廊下から見守る影が2つ、1つは真央霊術院の学院長。そしてもう1つは【
雷山は元柳斎経由で霊術院の学院長と交渉してお忍びでやって来ている状態で、その目的は教鞭を執るようになった椿咲の様子を見学するためだった。
「雷山殿。如何ですかな、椿咲先生は」
「……ああ、さすが十三隊の頃に自他共に認める面倒見のいい隊長と言われていただけある。あまり学がない俺でも話がスラスラ頭に入ってくるくらいに分かりやすい」
「そうでしょう!……雷山殿、可能であれば椿咲先生にはこのまま霊術院で教鞭を執ってもらいたいのですよ」
霊術院学院長は講師として評判の高い椿咲を手放すのは惜しいと考えていた。
勿論、山本元柳斎から【宮廷遊撃部隊】とその存在意義の事を聞いており、護廷十三隊に勝るとも劣らないその
それは雷山も分かっていることではあったが、最終的に【宮廷遊撃部隊】に属するか、霊術院講師を続けるかは椿咲自身が決めることであるとして、その意思確認だけはさせてくれと思っていた。
「学院長の気持ちも分かる。だが、それはあくまで椿咲が決めること、その為にも話だけでもさせてくれないか?」
「……分かりました。午後にでも話し合いの場は設けましょう」
「感謝する。勿論、こちらも椿咲に無理強いはしないつもりだ。今のあいつの顔を見れば分かる。だいぶ楽しんで講師をやっているみたいだしな」
椿咲南美は今から約100年前に隊長を依願除籍の形で引退していた。
雷山は
~ 100年前 ~
-- 瀞霊廷・一番隊隊舎 --
「来たか、雷山」
「元柳斎の方から呼び出すなんて珍しいな」
「おぬしに伝えねばならぬことがあっての」
「伝えねばならないこと?」
普段、元柳斎に無理難題を突き付けたりする雷山だが、この時ばかりは何かを頼み込んだ覚えも、依頼した覚えも一切なかったため、わざわざ呼び出してまで何を伝えようとしているのかと疑問に思っていた。
「詳しくは儂ではなく――――――」
「私がお話します。雷山隊長」
「……椿咲か」
雷山が目を向けると当時の護廷十三隊五番隊隊長・椿咲南美が立っていた。
元柳斎と椿咲の様子と先程の、
”私がお話します”
の言葉から自身を呼び出したのは椿咲の方だと推察できたが、1つだけ解せないことがあった。
それは、何故自身が生きていることを知っているのかだった。
「お久しぶりです。雷山隊長」
「ああ、久しぶりだな、椿咲。よく俺が生きていることを知っていたな」
かつて
それは元柳斎から直接伝えられたがために、山吹も
「私もつい最近まで知りませんでしたよ。しかし、雷山隊長がそう簡単に亡くなられることはないと信じていました。いくら山本総隊長のお言葉だとしても私は私の直感に従ったまでです」
「相変わらずだな。まあ、だからこそ俺の後任はお前しかいないと思っていた訳なんだが」
「褒めても何も出ないですよ。それは置いて、私が雷山隊長をお呼びした理由なんですが」
「ああ、そう言えばまだ聞いてなかったな」
「【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”の話をお断りしようと思いまして」
雷山は思わず驚きの声を上げていた。自身の予想では好奇心の強い椿咲は【宮廷遊撃部隊】なる組織の話は大好物で、来るなと言われても無理矢理に入る程だろうと思っていたからである。
「意外だな。いや、俺がお前のことを分かっていなかっただけか」
「……恐らく誤解があると思いますが、
「
「実は”真央霊術院”からも講師として教鞭を執ってくれないかと言われておりまして、先にそちらの務めを果たしてからにしようかと思ったんですよ」
「真央霊術院か……確かにそっちも隊長と同じく、なりたくてなれるものではないからな」
「はい、ご足労をかけること承知の上ですが、また数年、数十年……具体的には、100年ほど経ったときにもう一度声をかけて頂けたらと思います。その時に私自身、気持ちがどう変化しているかは見当もつきませんが、責任と覚悟を待ってお答えます」
「分かった。こちらとしてもあの悪戯好きの椿咲がどんな教員となるか見てみたいしな、悔いのないようにやれるだけのことをやってこい」
「はい!ありがとうございます!」
・
・
・
・
・
・
「こりゃ、残るのかもしれないな。教え子たちのもとに……」
雷山は楽しそうに霊術院生相手に授業をしている椿咲を見て、このまま霊術院講師を続けていくのだろうと思っていた。
そしてその日の中休みの時間、雷山は学院長に許可を得て時間を作ってもらい、椿咲と面会していた。
「雷山隊長、お久しぶりです。何時いらしてたんですか?」
「午前中にはもう居たぞ。影からこっそりとお前の授業風景を観ていたからな」
「え、なんか恥ずかしいですね、それ」
「恥ずかしがる必要なんかないぞ。あまり学のない俺でも頭に入ってくるくらいに分かりやすかった。しかし、あの悪戯娘が随分と教師らしい顔つきになって……」
「褒めても何も出ないですよ。それに、あれは雷山隊長から学んだ隊長としてのノウハウがあったから出来た事ですよ。……しかし、あれから100年ですか」
椿咲は隊長を引退した時のことを思い出している様子だった。
その当時、椿咲が隊長を引退して霊術院講師になるという話は瞬く間に瀞霊廷中を駆け巡り、隊長格を含む護廷十三隊のほとんどの隊士から考え直してほしいと引き留め合戦が起きる大きな騒動となったことがあった。
「大騒動になったとは聞いたぞ。俺としてはあの悪戯娘がそれほど慕われる隊長となり、こうして霊術院で教鞭を執ってるとなると感慨深いものがあるけどな」
「だから褒めても何も出ないですよ。それよりも雷山隊長、そろそろ本題をお願いします。今回ここへいらした理由は世間話ではないはずでは?」
「ああ、そうだな。随分とまどろっこしい真似をしてしまったが、ここからは単刀直入に聞く。椿咲、お前はどうしたいんだ?」
「…………」
「勿論、無理強いをするつもりは毛頭ない。十四番隊に異動する、霊術院講師を続ける、或いはどちらも続ける。どの選択肢を選んでも構わないし尊重する。分かってると思うが、仮に異動しなかったからと言って縁を切るなんてバカな真似はしないし、誰にもさせない」
「……雷山隊長。【宮廷遊撃部隊】の話ですが、謹んでお受けいたします」
「……分かった。ありがとうな、椿咲。お前にとっては大きな決断だったはずだろ。それこそ、十三隊から霊術院に移った時と同じくらいには」
「いえいえ、感謝を伝えるべきは私の方です!私は初めて【宮廷遊撃部隊】の話を聞いてから、片時も忘れたことは無かったんですよ。あの時は結果的に断ってしまいましたが、雷山隊長が私を誘おうとしてくれていると知ったときから感謝しかありませんでした」
「……そうか。だが、さして気にするな。その覚悟と責任感に礼を言わずして何とするって個人的な話なだけだ」
「その覚悟と責任を果たす前に、1つだけお願いをしてもよろしいですか?」
「ああ、何でも言ってくれ」
「今、私が受け持っているクラスの子が無事卒業するまであと5年だけ待ってはもらえないですk――――――」
「いいぞ」
「ですよね……へ?」
椿咲は断られるものだと思っていたため、雷山の即答に驚いて思わず間の抜けた声を上げてしまった。
「……その反応から見るに断られると思っていたんだろうが、俺は一向に構わないぞ。今まで100年間待ってたんだ。今更5年追加で待とうが大した差ではない。それに悔いを残される方が俺としても寝覚めが悪いからな」
「雷山隊長、ありがとうございます!5年後には必ず」
「ああ、首を長くして待ってるぞ」
それから5年の月日が経った頃――――――...
「この羽織に袖を通すのも久しぶりですね」
椿咲南美の姿は十四番隊詰所にあった。
この数日前に5年間受け持ったクラスの霊術院生すべての卒業を見届けた彼女は”真央霊術院”を依願退職する形で去っていた。
今日は【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”に就任するにあたって顔合わせと、護廷十三隊時代と同じく袖の無いタイプの隊長羽織を受け取りにやって来ていた。
「俺との代替わりの際にあんなガチガチに緊張して、終いには泣きそうになってたやつが、隊長羽織が似合うくらいに
「褒めても何も出ないですよ……って、今のは褒めてないですよね?」
「褒めてるつもりだぞ。何もでないの承知で」
「それはそうと、南美ちゃん!ようこそ十四番隊へ!」
狐蝶寺は満面の笑みを浮かべて言っていた。この他に山吹は「椿咲隊長、またご指導の程お願いします」と頭を下げ、銀華零は昔を懐かしむようにして、浮葉は固い握手を交わしていた。
ちなみに、椿咲はこのとき初めて先に隊長を退任していた
「皆さんご存知でしょうが、改めまして、元護廷十三隊五番隊隊長、椿咲南美です。どうぞ、よろしくお願いしますね」
【宮廷遊撃部隊】”十四番隊”発足から204年――――――
元護廷十三隊五番隊隊長、椿咲南美
【