宮廷遊撃部隊・十四番隊   作:らりるれリッター

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250年前 痣城剣八篇
第5話 八代目剣八


 

 

宮廷遊撃部隊(きゅうていゆうげきぶたい)】”十四番隊(じゅうよんばんたい)”発足より249年後、

鼻歌交じりに報告書を持って歩く女性死神が一人。

 

 

「ふんふん♪」

 

 

彼女の名は、狐蝶寺(こちょうじ)春麗(しゅんれい)

宮廷遊撃部隊(きゅうていゆうげきぶたい)】にて『第四将(だいよんしょう)・”副将(ふくしょう)”』を務める死神。

 

 

 

-- 瀞霊廷・とある路地 --

 

 

 

「……狐蝶寺(こちょうじ)春麗(しゅんれい)だな」

 

「え?」

 

 

不意に名前を呼ばれた狐蝶寺は振り返るようにして目を向けた。見ると背中に【十一】と刻まれる隊長羽織を身に纏う死神が一人立っていた。

狐蝶寺は目の前の死神が自身に向ける眼差しに興味がないと言いたげに感情がないことに気が付いた。しかし、それ以上に護廷十三隊隊長では通常知り得ない、自身の名前を何故目の前の隊長は知っているのかを不思議に思っていた。

 

 

「失礼、君のような隊長格に1つ尋ねたい。ああ、先に断っておくが、私は君に興味があるわけではない。ただ、君のような隊長格にいくつか確認したいだけだ」

 

 

「……誰?いや、それよりも」

 

 

狐蝶寺は目の前の隊長が発した”君のような隊長格”という言葉が引っかかっていた。狐蝶寺は基本的に情報のやり取りの為に外に出た際は護廷十三隊隊長と混同されることを防ぐために、隊長羽織は身に着けず一般隊士を装う格好をしていた。

しかし、目の前の隊長は狐蝶寺の事を何の疑いもなく”隊長格”と断定していた。その事に狐蝶寺は警戒心を露わにしていた。

 

 

「……”君のような隊長格”?おかしなことを言うね。御覧(ごらん)の通り、私はどこにでもいるような普通の隊士だよ。残念ながら、隊長さんの問いに答えられないと思うよ」

 

「【宮廷遊撃部隊】は秘匿される組織だったか。実に無駄なことだ」

 

 

その言葉に狐蝶寺は驚愕していた。自身の名前、隊長であることに留まらず【宮廷遊撃部隊】のことも知っていたからである。

 

 

「……なんでそんなことを知っているの?どんなに調べてもその情報は出てこないはずなんだけど」

 

「私は瀞霊廷のあらゆる事象を己の身に起きたことのように感じ取れる、とだけ言っておこう」

 

「それってどういう意味?」

 

「私がこれ以上の説明をしたところで無駄なこと、仮に見せたところで理解はできまい」

 

「……莫迦(バカ)にしてる?」

 

 

その時、狐蝶寺は殺気の(こも)った霊圧を目の前の隊長に向けていた。どの隊の隊長かは知らないが、そんなこと言われる筋合いはないと、

しかし、殺気を向けられている目の前の隊長は一切意に介さず、自身に殺気を向けるその行動が無駄だと言わんばかりに平然としていた。

 

 

「不快にさせたのなら謝罪しよう。だが、私は事実を述べたまで」

 

「ふーん……まっ、いいや。それで何が確認したいの?」

 

「君は死神とはどうあるべきと考える」

 

「……へ?」

 

 

いきなり哲学のような問いを投げかけられた狐蝶寺は先程までの不愉快さが消え失せてしまう程に呆気に取られて、間の抜けた返事をしてしまっていた。

 

 

「えーっと……虚を倒して、死者を導き、時には戦う……とか?」

 

「……そうか。時間を取らせて申し訳なかった。これではっきりした。やはり私の考えは正しかったと」

 

 

突然哲学のような問いを投げかけてきた死神が、突然納得し出したことで狐蝶寺は困惑していた。

 

 

「よく分からないんだけど、解決したみたいで良かったね……?」

 

「ああ、君達とは良い協力関係が築けそうだ」

 

 

そう告げると目の前にいた隊長は徐々に周りの景色とまるで同化するかのように消えていった。

 

 

「消えちゃった……何だったんだろう?」

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

-- 瀞霊廷・十四番隊詰所 --

 

 

「雷山部隊長、先日の件の報告書が上がって参りました」

 

 

そう告げると浮葉(ふよう)(やいば)は雷山の前に一枚の書類を置いた。そこには数日前にあった隊長の代替わりにおける最終報告が記されていた。

 

 

「先日の件?ああ、刳屋敷が死んで剣八が代替わりしたあれか。今頃上がってきたのか?まあまあな日にちが経つだろうに」

 

 

それは数日前のことだった。その当時、浮葉から雷山にこう報告がなされていた「十一番隊隊長・刳屋敷剣八が流魂街にて大虚(メノス)討伐後、決闘に敗れ殉職した」と、

刳屋敷(くるやしき)剣八(けんぱち)とは当時の十一番隊隊長であり、七代目剣八の称号を持った死神。

先代の剣八を(ほふ)った後、その座を数百年護っていた猛者であった。

当時としては数少ない、単身で最上級大虚(ヴァストローデ)を屠ることが出来る実力を持つことで有名であり、その実力を知っている雷山は報告に対して、驚きの声を上げていた。

 

 

「どうやら、中央四十六室の検閲が何度も入ったそうで、ようやくこうして形となったみたいです」

 

「あの中央四十六室(ろうがいども)は何を隠したかったんだか。……そういや、まだ聞いてなかったな。何百年も”剣八”の座を護り抜いていた刳屋敷を屠った奴のこと」

 

「八代目剣八は、確か痣城(あざしろ)剣八(けんぱち)だったかと」

 

「痣城?どこかで聞いた名だな」

 

「数十年前に反逆の罪で取り潰された貴族の家を憶えていますか?」

 

 

浮葉が言っているのは、かつて起きた一つの貴族間のお家騒動の話だった。

その昔、財力以て権力を築いていた貴族の一族があった。その財は凄まじいもので当時の中央四十六室を従わせたことすらあったという。

しかし、悲劇は突然降りかかる。その巨大な財を狙ったとある貴族に反逆の罪を吹っかけられ、その家は取り潰し、一族諸共処刑の判決が下った。

当時、【宮廷遊撃部隊】として事の経緯を調査したことがあり、その際に反逆の罪に関しては冤罪たる根拠を突き止めるに至ったが、あとの祭り。結局、冤罪を吹っかけた貴族たちは処刑時に放たれた虚により殺され、乗じていた中央四十六室の賢者も後に変死して幕を下ろした事件である。

 

 

「……ああ、確か財を狙った腐れ貴族と中央四十六室(ろうがいども)が結託し、貴族を1つ潰したというあのお家騒動か。そうか、あれが痣城家だったか。だが、あの家の人間は一人残らず死んでいるんじゃなかったのか?」

 

「そのはずだったのですが、後に1人だけ処刑免れた者がいたことが判明しております」

 

「それは初耳だな。箝口令(かんこうれい)か?」

 

 

一族諸共皆殺しは当時浮葉から報告されたもので、雷山も知っていたが、1人だけ生き延びた者がいた話に関しては一切知らなかった。そこで雷山は体面を気にした中央四十六室が調査に当たっていた浮葉に対して箝口令を敷いていたものだと推察していた。

その推察は正しく、浮葉は明言こそしなかったが頷いていた。

 

 

「成程、そいつが(くだん)の」

 

「はい、八代目十一番隊隊長・痣城剣八こと、痣城(あざしろ)双也(そうや)です」

 

「はぁ……」

 

 

雷山は酷く溜息(ためいき)()いていた。雷山はその痣城双也なる死神は自身の家を陥れた貴族と中央四十六室、果ては瀞霊廷全てに復讐をするために”十一番隊隊長”と”剣八”の座を刳屋敷から奪ったのだろうと考えていた。

それは、復讐をするにしてもしないにしても、成功するにしても失敗するにしても、面倒事であることには変わりなかったからである。

 

 

「しばらくはその痣城剣八に要注意になるだろうな。浮葉、今さっき情報を他の十四番隊メンバーにも共有しておいてくれ」

 

「山本総隊長殿へは報告されないんですか?」

 

 

浮葉はいつものことと思いながらも、いずれは謀反人となる可能性が高いであろう痣城双也の情報を、総隊長たる山本元柳斎へ報告しなくてもよいのかと考えていた。

 

 

「今更報告してもしょうがないだろうな。それに、その家柄や思想がどうであれ、隊長となるために必要な3つの規定の内、1つをクリアしているのだからな」

 

 

”護廷十三隊の隊長に就く方法は3つある。

一つ、総隊長を含む隊長3名立会いの下行われる隊首試験に合格すること。

一つ、隊長6名以上の推薦を受け、残る7名の内3名以上にそれを承認されること。

一つ、隊士200名以上立会いの下、現行の隊長を一騎打ちで倒すこと。”

 

 

痣城剣八はその思想がどうであれ、剣八の掟でもある最後の規定で隊長となっているため、

”いずれ反逆する”

と報告したとしてもまだ手出しすることは叶わないと雷山は思っていた。

 

実際、後に雷山が元柳斎に事前に報告していれば何か変わったかと聞いたが、

「何も変わることなどない。それに、事前にあれこれ考えずとも、反逆の徒となった瞬間に叩き斬れば良かろう」と返答が帰ってきた。

 

 

「しかし、痣城剣八はどうやって刳屋敷を殺したんだろうな。刳屋敷の実力もさることながら、斬魄刀の能力だけで考えても、まともに()()えば引き分けに持ち込むのすら不可能に近いだろ」

 

「その事でしたら記載があります。(いわ)く、刳屋敷十一番隊隊長の身体から突然血飛沫(ちしぶき)が飛んだとのこと、まるで内側から全身を切り刻まれたように。その際、痣城双也は構えを見せた様子どころか、その場から動いてすらいなかったそうです」

 

 

それを聞いた雷山は少し驚きを見せていた。

”突然内側から切り刻まれるようにして血潮を噴き出した”という点については恐らく斬魄刀の能力か何かだろうと推測出来たが、

”動いたり構えた様子すら無かった”ことが事実なら、痣城はそれほどの能力を一切の予備動作無しで使用したことになるからである。

しかし、次の浮葉の言葉で雷山はさらに驚愕せざるを得なくなる。

 

 

「この報告書にはそれ以外の異様な点も書かれています。例えば、痣城双也は斬魄刀を持ってすらいないことなどですね」

 

「持っていない?透明な斬魄刀というわけでもなくか?」

 

「申し訳ありません。私もまだ痣城双也の姿を実際に見たわけではないので、何とも言えないのが現状です」

 

「そうか。……まあ、痣城が実際に行動に移すまでは静観に徹しよう。痣城の特異性を解明しないうちにヘタに刺激して行動を移される方がたまらん」

 

「承知しました」

 

「たっだいまー♪」

 

 

襖を開けると同時に一般的には天真爛漫と言われる、狐蝶寺春麗の声が響き渡った。その手には誰に受け取ったか、いくつかの書類が抱えられていた。

 

 

「お帰りなさいませ、狐蝶寺隊長」

 

「ただいま♪はい浮葉くん、これよろしくね♪」

 

 

狐蝶寺は抱えていた書類を全て浮葉に手渡した。狐蝶寺はお世辞にも片付けが出来ないタイプであり、自身が棚にしまうと何処に何をしまったかが分からなくなってしまうために、書類の管理を行う浮葉にすぐに渡せと雷山に言われていた。

 

 

「はい、確かに受け取りました」

 

「そう言えば、雷山くん。さっき十一番隊隊長の子に会ったんだけどさ」

 

「はぁ?お前痣城に会ったのか?」

 

 

雷山は初めのうち『狐蝶寺(こいつ)新しい剣八を興味本位で見に行ったのか』と思った。しかし、それならば”見に行った”と言うのが自然ではあったが、狐蝶寺は”会った”とまるで邂逅(かいこう)したかのように語っていた。

つい最近隊長になった新参が、その身分を知らぬはずの狐蝶寺に接触してきたことに雷山は驚いていた。

そして考えた。痣城は何の目的をもって狐蝶寺に接触して来たのだと、そもそもどうやって隊長羽織を身に着けていない狐蝶寺を自身が問いを投げかけるに値する人物だと看破したのかと、その疑問は次に狐蝶寺が語った事である程度把握するに至った。

 

 

「うん、いつの間にか後ろにいてね。それでなんか急に死神とはどうあるべき?みたいなことを聞かれたんだけど、どう答えるのが良かったのかなって」

 

「なんだその哲学みたい問いは」

 

「さあ?よく分かんなかったけど、虚と戦ったり、魂葬(こんそう)したりじゃない?って答えておいたけど……あ、そう言えばその子ね、私が【宮廷遊撃部隊】だって言うこと知ってたみたいなんだよね」

 

 

雷山は先程の考察が正しかったと知った。やはり痣城剣八は狐蝶寺が【宮廷遊撃部隊】の死神であることを知って接触してきたと、

そして次の問題は通常知り得ないその情報を何処でどうやって仕入れたのかだと、

 

 

「痣城は何か言ってたのか?どうやって春麗が【宮廷遊撃部隊】だと看破するに至ったとか」

 

「えっとね、”私は瀞霊廷のあらゆる事象を己の身に起きたことのように感じ取れる”って言ってたような気がするね」

 

 

この時、雷山は痣城が斬魄刀を持っていないと言われている理由、刳屋敷を屠った方法、狐蝶寺に語ったあらゆる事象を己の身に起きたことのように感じ取れる、この3つを併せて1つの仮説に辿り着いていた。

 

 

「……まさかな」

 

「雷山部隊長、もしや痣城剣八は……」

 

「ああ、後で痣城本人に聞いてこよう。素直に答えてくれるとは思えないが」

 

「よろしいのですか?その程度の調査なら私が……」

 

「いや、春麗に接触して来たってことは、次はこの俺に来いって暗に言ってるようなものなんだろう。だったら、その挑発に乗ってやろうじゃないかって話だ」

 

「承知しました。……どうぞ、お気をつけて」

 

 

浮葉は雷山の実力ならば、例え痣城剣八相手でも何も問題は無いことは頭では理解していたが、それでもつい先日の件も相まって万が一の可能性も頭を(よぎ)って心配していた。

 

 

「安心しろ、春麗に手出ししなかったという事はそう言うことだろ」

 

 

 

-- 瀞霊廷・十一番隊隊舎 --

 

 

 

「……私は無駄話に付き合うつもりはないのだが」

 

「まあそう言うな。せっかくこうやってお忍びで来てやったんだ」

 

 

数十分後、雷山の姿は十一番隊隊舎にあった。その目的は痣城剣八に会うためであり、春麗がされたようにこちらからもいくつか確認をさせてもらおうと考えていた。

ちなみに雷山は初めて見る痣城の容姿に貴族のような整った顔たちをしている優男という印象を抱いた。それはかつて在った痣城家という貴族の生き残りと言われれば妙に納得する()()ち。

 

 

「仕方あるまいか、私も君を排除しようとする無駄なことをするつもりは毛頭ない」

 

聡明(そうめい)な奴で助かった。単刀直入に聞くが、春麗に投げかけた”死神とはどうあるべき”という問い。あれはどういう意味だ」

 

「言葉そのままだ。私は死神とは世界の調停者であるべきと考える。そこに感情は要らずただ歯車としてその使命を全うすればよい。そして調停者として歯車として使命を全うするため虚の殲滅を為す。私はそう考える」

 

 

”無駄な事をするつもりはない”

先程、彼が語ったその言葉から雷山は痣城が”あらゆる無駄を嫌う”性格であることを見抜いた。それは感情にしろ、思考にしろ、あらゆるものが対象であると感じ取った。

そんな彼がここまで饒舌(じょうぜつ)に語った”死神はただ世界を回すための歯車のような存在であるべき”が彼の存在意義であり目的なのだろうと考えた。

 

 

「お前の考えに一定の理解は示そう。確かにくだらない貴族間の争いも、中央四十六室のご機嫌取りもしょうもないこと。そんなことに時間を割くなら他なことに目を向けるべきと考えることは多々ある」

 

「……やはり、君達とは良い協力関係が結べそうだ」

 

「協力関係?悪いが、我々は誰とも組みはしないぞ」

 

「だろうな。私も無駄な説得はすまい」

 

「中々に本心が読めない奴だ。だが、感情に関して言えばあっていいものとは思うぞ。春麗と話したのなら俺の言わんとしている意味も分かるだろ」

 

「断っておくが、説法するというのなら無駄なことだ。私はすでにその思考は廃棄(はいき)している。今私が考えるは、虚殲滅を為すための方法のみだ」

 

「最後に1つだけ聞いて行こう。お前の能力について、いろんな奴のいろんな報告を聞いて仮説を立てたんだが、お前の能力は滅却師のように”霊子を操ること”なのか?」

 

「……それを知ってどうする?」

 

()()()()どうもしない。ただ、情報屋たる”十四番隊(われわれ)”が知らないって言うのは(しゃく)な話なんでな。まあ、実はこっちが本命だったりする訳だが」

 

「無駄な問いだ。仮に私が答えたとして君にはそれが事実か断定する術はない、そして私が答えるわけもないだろう」

 

「……それもそうだな。時間を取らせて悪かったな」

 

 

そう言うと、雷山は手を振りながら痣城の元を去って行った。痣城はその姿を見ていたが、すぐに興味が失せたと言わんばかりに目を離した。

一方、雷山は痣城と直に話してみていくつか本人の気質、そして謎に包まれる能力について収穫を得ていた。

 

 

 

 

 

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