宮廷遊撃部隊・十四番隊   作:らりるれリッター

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第6話 尖兵計画(スピア・ヘッド)

 

 

「雷山くん、遅いね」

 

 

瀞霊廷内のとある場所にある【宮廷遊撃部隊(きゅうていゆうげきぶたい)】”十四番隊(じゅうよんばんたい)”の本拠地、十四番隊詰所(じゅうよんばんたいつめしょ)

そこでは狐蝶寺(こちょうじ)春麗(しゅんれい)浮葉(ふよう)(やいば)と言う二人の十四番隊メンバーが雷山(かみなりやま)(さとる)の帰りを待つ形で留守番をしていた。

 

 

 

-- 瀞霊廷・十四番隊詰所 --

 

 

 

「……やはり無理にでも同行するべきだったかもしれません」

 

 

その瞬間、部屋と廊下を仕切る襖が開かれた。狐蝶寺と浮葉の眼は自然とそちらに向けられていた。一方、部屋の中に入ろうとしていた銀髪の死神、銀華零(ぎんかれい)(はく)は不意に2人にジッと見つめられたために思わずたじろいでしまっていた。

 

 

 

「えっと……銀華零白、只今(ただいま)戻りました」

 

「あ、ごめんね。白ちゃんお帰り♪」

 

「失礼しました、銀華零隊長」

 

「それは構いませんが何故こちらをそんなに凝視(ぎょうし)……あら、雷山さんは何処(いずこ)へ?」

 

 

銀華零は襖が開いた途端に2人がこちらを凝視した理由について、何となくだが察した。そしてその理由であろう雷山の姿が見えないことを聞いていた。

 

 

「十一番隊隊長・痣城(あざしろ)剣八(けんぱち)のもとへ行っております」

 

「痣城……たしか刳屋敷(くるやしき)さんの次代の方でしたか。何かあったのですか?」

 

「それは私が説明するよ。出来るだけ分かりやすく言うからよく聞いててね」

 

 

狐蝶寺は数刻前に痣城剣八と邂逅したときのことを銀華零に話した。

それは”死神とはどうあるべき”と哲学のような問いをされたこと。何故か自身の名前と”十四番隊”の事を知っていたこと。そしてそれを知った雷山が痣城剣八の挑発のような行動にわざと乗る形で会いに行ったこと。

 

 

「成程、事情は分かりました。つまりは痣城十一番隊隊長に会いに行ったっきり雷山さんが戻らないことをお二人は心配していたと」

 

「はい、先日の刳屋敷前十一番隊隊長の件もあるので、手放しで心配無用とは……」

 

「確かにそうですね。もう少し待ってみて戻らない様ならば、雷山さんは痣城十一番隊隊長に何かしろの攻撃を受けたと判断して行動しましょう」

 

「――――――誰が痣城の攻撃で死んだって?」

 

 

声がすると同時に3人の目は襖へと向けられたいた。次の瞬間、襖がゆっくりと開き雷山が入って来た。見た感じ何処にも傷を負っておらず、五体満足の状態に3人は安堵していた。

 

 

「雷山さん、お帰りなさい」

 

「おっかえり~♪」

 

「ああ、思ったよりも長居してしまった。悪かったな、余計な心配事を増やして」

 

 

雷山は3人の様子から自身の帰りが遅くなったことで、浮葉の言う万が一の事態が起きてしまったのではないかと余計な心配をさせてしまったのだろうと推察した。そんなに心配しなくても良いだろうにとは思いつつも、心配をかけたのは事実なので謝っていた。

 

 

「ホントだよ。それで、何か分かったの?」

 

「まあ、(いく)つかな。さすがに自分の斬魄刀の能力をペラペラしゃべるお人好しではなかったが、その人となりは何となく分かった」

 

「痣城十一番隊隊長はどのような人となりなのですか?」

 

「まずはとことん”無駄を嫌う”性格をしている。それは感情や思考などあらゆるものが対象になっているみたいでな、話していても言葉に感情が乗っていない。例えるなら機械と話しているみたいな感覚だった」

 

「そのような方がどうして剣八の座を?」

 

「奴自身の中にある信念と言うか目的と言うか、それを為すためだろうと考えている。実際、痣城は”死神は魂魄循環のための歯車であるべき”とか言っていたしな」

 

「魂魄循環のための歯車ですか。何処となく雷山さんと似たような考え方をしていますね」

 

 

銀華零の言う通り雷山は、貴族間の派閥や権力争い、中央四十六室の機嫌取りなど死神としての仕事以外のことはくだらないとする価値観を持っていた。

 

 

「俺は別に無駄を嫌ったりはしてないけどな。話を戻すが、奴の能力の正体について話し合いたい」

 

「雷山部隊長、結局のところ痣城剣八は斬魄刀を持っていたのですか?」

 

 

浮葉は雷山が出掛ける前に話した”痣城は斬魄刀を持っていないという件”について、実際にはどうだったのかを姿を見て来た雷山に聞いていた。

 

 

「それに関しては春麗にも聞きたいんだが」

 

「なに?」

 

「痣城と初めて会ったときのことを思い出してほしいんだが、春麗の目には斬魄刀を持っているように見えたか?」

 

「え?……そう言えば腰に差して無かった気がするね」

 

「やはりか。俺の目にも持っているように見えなかったんだ。つまり、痣城の斬魄刀は普段、目に見えない状態になっているんじゃないかと思う。透明な斬魄刀と言うのはある意味一番近い表現かもしれん」

 

「”透明な斬魄刀”ですか」

 

「そこで仮説を1つ立てたんだが、痣城は滅却師みたいな”霊子を操る能力”を持っているんじゃないか?」

 

「雷山さん、その根拠はなんでしょう」

 

「1つは刳屋敷を()った時の状況、まるで内側から斬られたかのように血飛沫(ちしぶき)をあげたとある」

 

 

銀華零はただ一言、『成程』と呟いた。

報告書に書かれていた内容をそのとき初めて聞いたことで、雷山が”霊子を操る能力”と仮説を立てたその理由の一因を理解した様子だった。

 

 

「死神の身体は霊子によって構成されている。つまり刳屋敷さんを構成する霊子を刃のようなものに変化させることで、内部分裂のような状況を作り出したという事ですか」

 

「ああ、そして2つ目。これは斬魄刀を持っていない理由と一緒になるんだが、斬魄刀を霊子レベルで分解できるのではないかと思う。斬魄刀も元は魂魄を重ねて作った物らしいからな」

 

「それってつまりその痣城くんって常に始解か卍解をし続けているってことなの?」

 

「始解はともかくとして卍解を常時行うとしたら、膨大な霊力を消費しますし、とても現実的ではないと思いますが……」

 

 

銀華零は()えてと言うべきか、雷山の仮説について否定的な見解を述べていた。確かに現状で分かっていることだけで仮説を立てるなら雷山が言うことが最も正解に近いのだろうが、それでも始解か卍解で分解した斬魄刀をそのままの状態で維持し続けるのはさすがに現実的な話ではなかったからである。

 

 

「突拍子もない話をしているのは分かっている。だが始解にしろ卍解にしろ一度斬魄刀を霊子の状態に分解して、その状態を維持できるなら一応説明は出来るだろ」

 

「……そうですね。今ある情報ではそれが最も考えられるものとなりますか」

 

「雷山部隊長、再三聞いてしまい申し訳ありませんが、やはり私が一度調査を行いましょうか?」

 

「いや、今はこのくらいの仮説で抑えておこう。この会話も痣城は筒抜けだろうからな」

 

 

雷山は痣城が【宮廷遊撃部隊】の事を知っていたことと、狐蝶寺に語った”私は瀞霊廷のあらゆる事象を己の身に起きたことのように感じ取れる”という事を指して言っていた。

言葉をそのまま受け取るならば、瀞霊廷内での会話はすべて痣城にとっては自身の目の前、或いは頭の中で語られているようなものなのだろうと考えられたからである。

 

 

「……そうですね。深入りし過ぎるのも良くはないこと痣城さんがその気になってしまえば、今こうして話しているときに我々を一網打尽にすることすら可能なわけですから」

 

「ああ、だが痣城は俺たちと”良い協力関係が結べそうだ”とも言っていた。今のところは事を荒立てるつもりはないかもしれないな」

 

 

 

-- 瀞霊廷・十一番隊隊舎 --

 

 

 

「……やはりこの方法が最も合理的と考えるべきか」

 

 

十一番隊隊長・痣城剣八は一人、虚殲滅を為すための方法について1つ思い付いていた。それは一般的にほとんどの死神からはとても評価されるような方法ではないと痣城自身も分かっていたが、他者からの評価など無駄とし、合理的に考えればこの方法しかないと判断していた。

 

 

「準備に取りかかろう。まずは……」

 

 

         ・

 

         ・

 

         ・

 

         ・

 

         ・

 

 

それから数か月後、1つの提案書が中央四十六室へと提出された。

提案書の名は、『尖兵計画(スピア・ヘッド)』。

提案者は護廷十三隊十一番隊隊長・痣城(あざしろ)剣八(けんぱち)

 

尖兵計画(スピア・ヘッド)

それは、かつて十一番隊隊長・痣城剣八が提唱した計画。その内容は流魂街の住人の魂魄を改造して、虚圏(ウェコムンド)へ兵士として送り込み虚の殲滅を為すという計画であった。

後の世において非人道的な計画と称され、由嶌(ゆしま)欧許(おうこ)がその理念を受け継いだが、すぐさま中止へと追い込まれたほどである。

 

 

雷山(かみなりやま)くん!大変だよ!」

 

「どうしたんだ、春麗。そんな大慌てで入って来て――――――」

 

「私のことはいいからひとまずはこれを見て!」

 

 

雷山は狐蝶寺(こちょうじ)が持って来た一枚の報告書に目を落とした。それにはこう書かれていた。

 

『護廷十三隊十一番隊隊長・痣城剣八より上申(じょうしん)されし尖兵計画(スピア・ヘッド)について中央四十六室の名において承認とする。この計画についての詳細は以下に記す通りである。

 

流魂街住人において、その全ての魂魄を改造し、虚を殲滅する力を与えて虚圏への尖兵(せんぺい)として侵攻させる。

 

この計画の責任及び権限は十一番隊隊長・痣城剣八に一任するものとする。』

 

 

「……春麗、本当に中央四十六室(ろうがいども)はこの計画を承認したのか」

 

「しちゃったから大慌てで私が来たんでしょ!」

 

「あの中央四十六室(バカども)……後先考えずにとんでもないものに承認出しやがって」

 

「雷山部隊長、いったい何が書かれていたのですか?」

 

 

雷山は百聞(ひゃくぶん)一見(いっけん)()かずと浮葉(ふよう)に自身が手に持つ報告書を渡した。狐蝶寺の大騒ぎを見ていた銀華零(ぎんかれい)も気になった様子で共に報告書に目を落とした。

先に声を上げたのは浮葉、「尖兵計画(スピア・ヘッド)……このような非人道的とも言える計画を……」

浮葉に遅れること数秒、銀華零は言った「……まずいことになりますね」

銀華零は雷山が発した言葉の意味と彼が想定したであろう、この先に起こることを理解していた。

 

 

「ええ、このような流魂街の住人の意思を度外視したものを承認してしまっては抗議の声が……」

 

「浮葉さん、確かにそれの影響も大いにありますが、その先にあることの方が大問題ですよ。もしこの計画がこのまま成就した場合、尸魂界、虚圏、現世間における魂魄のバランスが崩れさり、三界の崩壊が発生する可能性があります」

 

「ああ、そして痣城の性格のことだ。その事を説明しても、仮に後になって承認取り消しになったとしても、1人で事を成し遂げようとするだろうな」

 

この中で唯一、痣城剣八の本質とその思想を知っている雷山は、計画が凍結に至ったとしてもたった1人で遂行しようとするだろうと考えていた。それで例え、反逆者になろうとも。 そして、痣城は護廷十三隊では自身を止めることなど出来ないと分かっているであろうことも雷山は察していた。

 

 

「そもそもなんで中央四十六室(あのひとたち)はこれを承認したんだろうね」

 

「大方、霊力も持たない流魂街の住人を虚と戦えるほどにまで力を付けさせることなど不可能と高を括ったのだろう。万が一に成功した場合の事など考えもせずに」

 

「雷山部隊長、如何いたしましょう。私が中央四十六室まで赴きましょうか?」

 

「いいや、俺が直接出向く。()しもの中央四十六室(ろうがいども)も俺が直接出て来れば話を聞かざるを得まい。と言うわけだ、留守を任せるぞ」

 

 

 

-- 瀞霊廷・中央四十六室前 --

 

 

 

「【宮廷遊撃部隊(きゅうていゆうげきぶたい)十四番隊部隊長(じゅうよんばんたいぶたいちょう)】雷山悟。中央四十六室に面会を求める!」

 

 

中央四十六室の裁判官と賢者が一堂に会する『地下議事堂』の前で、雷山はそう名乗りを上げ面会許可を求めていた。 しかし、雷山のその声に返答はなかった。……が、少しの間の後、扉が開かれ暗に『地下議事堂』への立ち入り許可が出た。

 

 

「失礼する。礼儀として、時間を取ってもらったことに感謝を述べよう」

 

「何用だ、雷山悟。貴様だから時間を取りはしたが、本来貴様はここへ立ち入るべきではない事を知れ」

 

「……随分な物言いだな。後先も考えずにくだらない承認を下す最高司法機関が」

 

「くっ……一介の隊長風情が立場を弁えよ!」

 

「下らぬ物言いなどするな。話が進まぬではないか」

 

 

雷山の挑発ともとれる発言に乗った1人の賢者を裁判官が制した。その者と別の裁判官たち一部の賢者たちは【宮廷遊撃部隊・十四番隊部隊長】が己が立場を押してまで、ここまでやって来た理由に察しがついている様子だった。

 

 

「お前がここに来た理由は察しが付く、雷山悟。痣城剣八の事であろう」

 

「話が早くて助かる。俺が聞きたいのはただ一つ。何故、あんな非人道的とも言える『尖兵計画(スピア・ヘッド)』に承認を下した?」

 

「随分と甘いことを言うようになったな。”利するものはすべて利用する”。それが、()()()()のある種の信念ではなかったのか?」

 

「限度があると言ってるんだ。そもそもあれが成就した場合、魂魄のバランスが崩れ、いずれは尸魂界どころでは無く、三界すべてが崩壊することになるだろう」

 

「話にならんな。お前とて分かることだろう。霊力も持たず虚の餌としか成り得ない流魂街の住人を改造するとして、一体何になると言うのだ。我らの目算(もくさん)では改造など失敗に終わる」

 

「確かにあんた達の言う通り。そもそも計画が成就しない可能性はある。しかし、万が一にも成功してしまった場合の事を一切考えていないのは”最高司法機関”としては(あさ)はかではないのか?」

 

「雷山悟よ。その様な万が一の可能性をいちいち考えていてどうするというのだ」

 

「それだけではない、その改造魂魄があんた達の地位を脅かす可能性すらある。正直、俺にとってはどうでもいいが話だが、あんた達にとっては重大な問題だろ」

 

「「「はっはっはっはっはっは!!」」」

 

 

雷山のその問いに何人かの賢者は何をバカなことを言うかと嘲笑(あざわら)っていた。彼ら数人はそんな計画など成就しない、したとしても我々を脅かすほどにならないと高を括っている様子だった。

 

 

「【宮廷遊撃部隊・十四番隊部隊長】ともあろう者が、そのような杞憂を真に受けてどうするのだ」

 

「その場合、即刻計画を中止させれば良いだけの事」

 

「っは、面白いことを言う」

 

 

相変わらず、中央四十六室はどうしようもない集団だと感じた雷山は、仕返しを言わんばかりに嘲笑(ちょうしょう)して見せた。

 

「何が言いたい?」

 

「あんた達は痣城剣八の事を何も分かっていない。直に話して分かったが、あいつはあんた達が中止を命令しようと、護廷十三隊が立ち塞がろうと、1人だけになろうと計画を遂行するだろう」

 

「……雷山悟。貴様、よもや痣城剣八に賛同すると言いはせぬな?」

 

「安心しろ。痣城剣八は止めてやるつもりだ。ただ、あんた達の為ではない。三界崩壊を防ぐためにだ」

 

 

雷山は言いたいことはすべて言い切った、聞きたいことはすべて聞き切ったと言うかのように地下議事堂の出口へ向かって歩き始めた。 中央四十六室の賢者たちはその不遜とも言える態度に怒りを見せていた。

 

 

「待て、雷山!貴様、話はまだ終わっておらぬぞ!!」

 

「あんた達はそうなんだろうが、俺は終わった。あんた達の考えは良く分かった。相も変わらず、どうしようもないって事がな」

 

下衆(げす)が!!いずれ貴様に目にもの見せてくれる!!」

 

 

雷山は振り返ることもなくそして、飛び交う怒号を気にする素振りすら見せずに去って行った。

 

 

 

-- 瀞霊廷・十四番隊詰所 --

 

 

 

「あ、雷山くんお帰り♪」

 

「ああ、みんな急な留守を任せてすまなかった」

 

「それで、四十六室の方は?」

 

「あの中央四十六室(ろうがいども)、痣城が出した提案書が成就するわけがないと高を括っていた。それどころか【宮廷遊撃部隊・十四番隊部隊長】ともあろう者が、杞憂を真に受けてどうするとか言ってたな。まったく……本当にしょうがない連中だ」

 

「雷山さん、あまり大っぴらにそんなこと口にするものじゃありませんよ。いつ冤罪を被されるか分かりませんし」

 

「まあ、大丈夫だろ。俺に罪を着せたとしても何処の誰が俺を捕らえに来るんだ。元柳斎か、それとも八千流か。はたまた十四番隊全員でか。どれにしても負ける気はしないけどな」

 

「はぁ……本当に雷山さんは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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