201X年 聖龍伝説 神話復活 出逢いの章 作:セイントドラゴン・レジェンド
そんなMrフェイクを追跡するべく、キーオから腕輪であるリングを追跡できる指輪を手渡されたジャッジ・ザ・デーモンとミラーガール。
鬼と聖女のコンビは、Mrフェイクを追って数多の異世界や物語の世界を転々としていきます。
今回は、鋼鉄の心臓を持つ屍に抗う少年少女と共闘します。
[カバネとの戦い]
別世界に逃亡するMrフェイクを追って、ジャッジ・ザ・デーモンとミラーガールも別世界を渡航する。
そして二人が辿り着いたのは、どこかの山中だった。
「Mrフェイクは何処かしら?」
「まずは、此処がどんな世界が把握する必要があるぞ」
辺りを見渡すミラーガールに、ジャッジ・ザ・デーモンが現状を把握する必要があると述べる。
と、二人が山中を移動しようとすると、突然数多の銃声が鳴り響いた。
「じゅ、銃声!?」「それもかなりの数だ。行ってみよう!」
ミラーガールとジャッジ・ザ・デーモンは、急ぎ銃声のする方へと飛行して向かう。
二人が駆け付けてみると、現場は鋼鉄製の船首の様な形状をした建造物の内部や上部から、周辺から群がってくるゾンビの様な存在と銃や刀で応戦している人々の姿が見受けられた。
「な、なんなの!? あの変なゾンビみたいなのは……!」
「どちらにしろ、黙って見過ごす事はできないな。俺達も加勢するぞ、ミラーガール」
異様な風貌のゾンビに驚くミラーガールに、抗う人々に加勢しようと述べるジャッジ・ザ・デーモン。
すると前線で戦っている眼鏡をかけた少年が一人、ゾンビの様な存在に足を引っ張られ、落ちそうになる。
「わっ!」
少年が引きずり落とされそうになるのを、頭上に飛来したミラーガールが両肩を抱えて救出する。
「! あ、あんたは……!?」「安心して、私は味方よ」
ミラーガールを見て驚愕する少年に、ミラーガールは優しく述べ返す。
「あ、あの少女はなんだ!?」「天女か? あの神々しい姿は天女なのか!?」
そんな少年を救出したミラーガールを見上げて、地上で戦っていた武士達はその美しい姿に天女なのかと騒ぎ始めた。そんな武士達を率いる桃色髪の男は、唖然とした顔でミラーガールを見詰める。
一方、ジャッジ・ザ・デーモンも人々に加勢しようと地上に降りて第一線でゾンビの様な存在と交戦を始める。
「加勢する!」「あ、あなたは!?」
突然割り込む様に第一線で戦い始めるジャッジ・ザ・デーモンを前に、二丁拳銃で戦ってた少女は驚き動揺する。
だがジャッジ・ザ・デーモンは怯む事無く、果敢にゾンビの様な存在を相手にジャッジラングを両手に構えて首を切断して倒そうとする。
が、ジャッジ・ザ・デーモンの予想に反して首を切られても尚、ゾンビの様な存在は立ち続け襲い掛かって来た。
「な、なんだと!? 首が無いのに、まだ生きているだと!?」
驚愕するジャッジ・ザ・デーモンに、二丁拳銃で応戦する少女が伝える。
「カバネは首を切られても、心臓を破壊しなきゃ倒せないわ!」
「なるほど(そうか、このゾンビ共はカバネというのか)」
少女からの伝言に、ジャッジ・ザ・デーモンは理解を示す。
すると少女からカバネの弱点を聞いたジャッジ・ザ・デーモンは、ジャッジラングをカバネの左胸部すなわち心臓部に投擲して突き刺した。そして次の瞬間、ジャッジラングが爆発を起こしてカバネの心臓が吹き飛んだ。
「今の……火薬!?」「ほほう、この世界にも火薬は存在しているんだな」
二丁拳銃の少女が驚いた拍子に発した言葉に、ジャッジ・ザ・デーモンはこの世界には火薬が存在している事を把握する。
一方で救出した眼鏡の青年を無事に建造物の人々の許へと降ろしたミラーガールは、ミラー・シールドを構えて攻撃の態勢に入る。
「ミラーガール! こいつ等の弱点は心臓だ! 首を切断しても生き延びるぞ!」
「了解っ!」
ジャッジ・ザ・デーモンからの指摘を聞いて、ミラーガールはシールドをブーメランの様に投擲してカバネの心臓部である胸部を次々にシールドで真っ二つに切断して一掃する。
「おおッ、凄いぞ!」「あの天女、我らをお救いしてくれる神仏の使いか!?」
ミラーガールの戦いぶりを目の当たりにして、武士達は大いに湧き上がった。
しかし投げては必ず戻ってくるミラー・シールドで戦うミラーガールはまだしも、ジャッジ・ザ・デーモンは直撃すれば爆発するジャッジラングだけで応戦してた為、ジャッジ・ザ・デーモンの火薬入りジャッジラングはすぐに切れてしまう。
と、火薬入りジャッジラングが切れて殴打などでカバネと一人闘うジャッジ・ザ・デーモンを見て、ミラーガールは直感ですぐ側にいた武士が腰に下げてた刀を鞘から抜き取った。
「ちょっとごめんなさい」「え、え?」
ミラーガールから刀を許可なく抜き取られた武士が呆然とする中、ミラーガールは抜き取った刀をジャッジ・ザ・デーモンに向けて放り投げた。
「ジャッジ・ザ・デーモン!」
ミラーガールから投げ渡された刀を、カバネの頭上を踏み越えて跳躍したジャッジ・ザ・デーモンが掴み取ると、そのまま彼は刀一本で次々と周囲のカバネの胸囲を一刀両断して心臓を破壊していく。
「す、スゲエ!」「あのカバネに怯まず、心臓を一刀両断だ!」
そのジャッジ・ザ・デーモンの戦いぶりを目撃し、多くの武士達も赤髪の頭目も目を見張る。
だが、ジャッジ・ザ・デーモンが振るう刀はすぐに切れ味が悪くなってしまう。
「くッ、もう切れ味が悪くなったか……ミラーガール!」
ジャッジ・ザ・デーモンは切れ味が悪くなった刀を捨てて、ミラーガールに呼び掛けると彼女は力強く頷いて後ろを振り返ると武士達にお願いした。
「ねえ、申し訳ないんだけど、皆さんの刀を貸してくれないかしら?」
「お、おう……」
ミラーガールの要望に、武士達は唖然としながら自分達の腰に帯刀してた刀を鞘ごと彼女の足元に放り投げて貸し出した。
そして多くの刀を借りられたミラーガールは、一本ずつ刀をジャッジ・ザ・デーモンに投げ渡していく。
「ジャッジ・ザ・デーモン! 新しい刀よ!」
ミラーガールから投げ渡された新しい刀を受け取り、ジャッジ・ザ・デーモンは再び周辺のカバネを相手に一騎当千の戦ぶりを展開する。
そして刀の切れ味が悪くなる都度、古い刀を捨ててミラーガールから新しい刀を受け取って再びカバネを相手に無双していった。
ジャッジ・ザ・デーモンの剣戟と、ミラーガールのシールドの投擲で、遂に建造物に群がってたカバネを全て一掃する事に至った。
「やったーーーーッ!」
「まさか、あのカバネ共をあっという間に片付けちまうとはっ!」
全てのカバネを片付けたジャッジ・ザ・デーモンとミラーガールの戦闘を目撃して、武士達は騒然と湧き上がる。
「凄い……! あの二人、まさか殆ど二人だけでカバネを倒し切るとは……!」
「………………………………」
そんな二人の戦いを観戦し、ポニーテールの少女とその隣の青年は唖然とするばかり。
しかし桃色髪でオールバックの武人は、そんなジャッジ・ザ・デーモンとミラーガールの二人を注視するかのように静かに見据えていた。
[カバネとカバネリ]
見事無傷でカバネの大群を、ほぼ二人だけで一掃したジャッジ・ザ・デーモンとミラーガールの二人を、カバネと抗戦してた兵や侍たちが快く迎え入れてくれた。
『天女さまーー、天女様ーー!!』
『カバネから我らをお救いくださる救世主!』
『天は我々を見捨ててなかった……!』
誰も彼もミラーガールの事を天女と崇め奉り、彼女を温かく出迎えていた。
「な、なんだ? あのでっかい紅い目玉の野郎は……」
「カバネ、とは違うようだな……」
「ある意味、カバネ以上に不気味だな」
しかし一方でジャッジ・ザ・デーモンの方は、その異様な外見で気味悪がられていた。
そんな二人を、二人の男女が代表して出迎えてくれた。
「これはこれは……よくカバネから私たちの
「私は今現在、訳あって甲鉄城を共に死守している天鳥美馬と申す。其方たちの助勢、ありがたく思う所存」
ポニーテールの少女である菖蒲とオールバックで桃色髪の美青年である美馬からの出迎えと名乗りに対し、ジャッジ・ザ・デーモンとミラーガールの二人も名乗り返す。
「いいえ、私達は当たり前のことをしただけよ。私はミラーガール、こっちはジャッジ・ザ・デーモンって言うわ」
「宜しく」
ミラーガールからの自己紹介を聞いて、菖蒲たちは首を傾げる。
「みらー、がーる? それに、じゃっじ、ざ、でーもん? 二人とも、日ノ本ではない異国の人間か?」
「日ノ本……? (なるほど、この世界は一応は昔の日本が舞台みたいな世界なんだな)」
菖蒲の質問に、ジャッジ・ザ・デーモンが心中で納得してると、同じく理解したミラーガールもジャッジ・ザ・デーモンに相槌を打って以心伝心する。
「いや、俺達は一応は二人とも日本……いや、日ノ本出身者だ。今の姿は仮の姿。俺は裁きを与える鬼、ミラーガールは慈愛の聖女といったところかな」
「鬼……!? それに慈愛の聖女とは………………何とも変な組み合わせだな」
鬼と聖女の組み合わせに難色を示す菖蒲。
すると美馬が唐突にジャッジ・ザ・デーモンとミラーガールに歩み寄り、二人の目前で問い掛けてきた。
「あなた達が着ている、その見た事のない衣服はどんな技術で作られているのかね? いや、少し興味があって……」
「ああ、俺の着ているのはパワードスーツといって、まあ簡単に言えばカラクリ仕掛けの鎧みたいなもんさ。ミラーガールのは魔法……いや、超常的な力で作られた衣服で、彼女の方が特別だ」
「なるほど」
ジャッジ・ザ・デーモンからの説明を聞いて、美馬は納得する素振りを見せる。
すると其処に、先ほどミラーガールに助けられた眼鏡の青年と、ジャッジ・ザ・デーモンと共闘してた二丁拳銃の少女がやって来た。
「さ、さっきはありがとな。助けてくれて……」
「私からも礼を言います。私は無名、此方は生駒と言います」
眼鏡の青年である生駒を紹介し、自身も名乗る無名の自己紹介を聞いて、ミラーガールが笑顔で二人に歩み寄る。
「いいのよいいのよ。困ってる人を助けるのは、当然の事よ」
そう言ってミラーガールは手を差し伸べ、無名と握手しようとした、その時。
「あ、危ない!」「「!?」」
突然、握手する寸前で人混みの中から上がった声に一驚するミラーガールとジャッジ・ザ・デーモン。それと同時に何かを思って手を引っ込める無名。
「………………?」
突然の一声に静まり返る集団に唖然とするミラーガール。一方で、そんな普通ではない様子を見てジャッジ・ザ・デーモンはふと思う。
(なにか………………訳ありの様だな)
同時にジャッジ・ザ・デーモンは、無名と生駒に浴びせられる衆人環視の目にも気付いた。
それからジャッジ・ザ・デーモンとミラーガールは菖蒲と美馬の二人から、この世界の日本つまり日ノ本の現状を客間に通されてから聴かされる。
この世界の日ノ本は、異国より蒸気機関が伝わり発達しているのだが、そんな日ノ本には人を襲って数を増やす不死の怪物カバネが増加の一途を辿っていた。
カバネは突如発生した謎のウィルスに感染した動く死体で一種のゾンビ。人を襲い血を啜るという。一度噛まれれば感染し、生死を問わず最終的にはカバネとなってしまうという。
生態としては人々を襲い、食らいつき、血を啜る為に、血液に反応するため、多少ではあるが血液を用いて誘導する事ができるらしい。また、仲間意識の様なものが存在するのか、目の前で他のカバネが倒されると、声を上げて攻撃してきた相手に襲い掛かるような行動が見られるという。
そんなカバネを攻撃しようとも、表皮などの外傷は瞬く間に塞がってしまい、例え首を撥ねようと活動を続け、カバネを完全に停止させるには心臓を破壊する以外に手段はない。
しかし、カバネの心臓は心臓皮膜(鋼鉄皮膜、金属皮膜とも)と呼ばれる非常に強固な網状の新生組織に覆われており、これを貫かなければならない。この膜は刀はおろか蒸気銃の銃弾すらも弾き、余程の刀の達人か、同じ箇所に複数の銃弾を命中させる事のできる技量が必要となる。
「……なるほどな。俺達が知っているゾンビと違って、首の切断ではなく、心臓の破壊でしか倒せない訳か」
「? (ぞんび……?)」
「そんなカバネを、あなた達は卓越した剣術や盾の投擲術であっさり倒してくださった。実に素晴らしい力です……!」
話を聴いて納得するジャッジ・ザ・デーモンの発した言葉に首を傾げる菖蒲に反し、美馬はジャッジ・ザ・デーモンとミラーガール二人の戦闘力を心底称賛する。
「そ、それで……やっぱり襲われてしまった人も、カバネになってしまうの?」
「はい。カバネに襲われた人間の大半は、大量の出血で死亡します。そんな死人が即座にカバネ化する訳ではなく、一定時間で擬死と呼ばれる状態を経た後、心臓が発光してカバネとして蘇るのです」
「心臓が光り出して、心臓が唯一の弱点……カバネは、心臓が要なんですね」
ミラーガールの疑問に答える美馬の返答に、彼女はカバネの要は心臓なんだなと心底納得する。
そんな美馬の説明に、菖蒲が付け足した。
「例え、カバネに襲われて逃げおおせても、噛まれている場合は既にウィルスに感染しており、潜伏期と呼ばれる期間の後に突如として擬死を迎え、カバネとして蘇るのだ。潜伏期には個人差があるが、最長でも三日以内には発症してしまう」
「……やけに詳しいんだな、カバネという脅威に対して」
何故かしらカバネに対して知識が豊富な点を疑問視したジャッジ・ザ・デーモンが問うと、菖蒲が答え返した。
「実は、此処に居る美馬殿は独自にカバネに対して学者達と共に研究しており、私達も助けられているのです」
「研究、か……まあ、脅威であるカバネに対して調査や研究するのは当然だろうな」
菖蒲の説明にジャッジ・ザ・デーモンも納得する。
と、ここでジャッジ・ザ・デーモンが先ほどから感じ取っていた険悪な空気について率直に訊ねた。
「ところで一つ良いか………………先の戦いでミラーガールが助けた青年、生駒と、俺と共闘した無名という少女は何者だ?」
「「………………」」
突然の質問に、菖蒲も美馬も険しい面持ちへと一変する。
そして意を決して、二人はジャッジ・ザ・デーモンとミラーガールに語った。
「き、気付いていたんですね。実は、あの二人は…………………もう、人間ではないのです」
「え!?」「どういう事だ……!」
菖蒲の発した台詞に動揺するミラーガールと問い詰めるジャッジ・ザ・デーモン。すると二人に美馬が答えた。
「あの二人は人間でも無ければカバネでもない……通称カバネリと呼ばれる存在なのです」
「カバネリ?」「………………」
美馬が話したカバネリという初耳に、ジャッジ・ザ・デーモンもミラーガールも耳を傾けると菖蒲が語り出した。
「先ほども話した通り、カバネに一度噛まれれば未知のウィルスに感染し、生死を問わず最終的にはカバネとなってしまうのだが………………あの二人は、既に潜伏期を過ぎても未だにカバネにならず、理性も保ったまま生き延びているのだ」
「え!?」「………………」
驚愕するミラーガールとジャッジ・ザ・デーモンに、美馬が更に語り明かす。
「人間でも無ければカバネでもない存在。私はそんな症例をカバネリと称しているのだが、カバネリと化した二人は身体能力が格段に向上していて、私としては対カバネとの戦力に加算しているのだが……何分、他の者たちから「いつカバネになるのか」と恐れられていてな」
「そ、そんな……!」
「要するに、カバネではないカバネリと化した為に身体能力が上昇している要注意人物……って訳か」
「まあ、そんなところだな。私は気にしてないが、何分他の者たちから畏怖されてしまっていて」
美馬の話を聴いて愕然とするミラーガールに反して冷静に訊き返すジャッジ・ザ・デーモンに事情を話し返す菖蒲。
菖蒲と美馬の話を聴き入って、ジャッジ・ザ・デーモンとミラーガールは熟考するのであった。
[恐れられるカバネリ]
菖蒲と美馬から、この日ノ本で発生しているカバネ等について色々と聴いたジャッジ・ザ・デーモンとミラーガールの二人は、将軍が根城にしている駅の「金剛郭」に向かう甲鉄城の内部を特別に見学させてもらう事に。
そんな折、二人は先ほど話に聞かされたカバネリと化しているという無名と生駒と再会する。
「あら、あなた達」
「あなたは……確か、ミラーガール? だっけ?」
「ええ、そうよ。確か、無名ちゃんって言ったわね」
笑顔で言葉を交わすミラーガールに対し、無名は無表情で対応する。
「あんた達、こんなところで何してる?」
「いやな、特別にこの甲鉄城を見学させてもらってる所だ」
不愛想に質問する生駒に、ジャッジ・ザ・デーモンが答えた。
すると唐突に生駒が二人に問い掛ける。
「それで……あんた達も、どうせ俺達の事を菖蒲や美馬から聞いてるだろ。あまり此処では俺たち二人に関わらない方が良いぞ」
「そ、そんな! 確かに、あなた達二人が普通の人ではないというのは聞いているけど、それとこれとは違うわ! 何より、あなた達だって他の人達同様、あのカバネってのから皆を護る為に頑張っているんでしょ? それなら尚の事、協力していかなきゃ!」
生駒の発言にミラーガールが戸惑いながらも返事すると、そんな彼女に無名が無表情に言った。
「あなた達は元々、甲鉄城の人ではないんでしょ。関係ないのなら、早々にこの地から去る事を勧めるわ。此処は危ないんだから」
無表情に立ち去る事を推奨する無名の発言に、生駒が代弁する。
「いや、すまない。無名は長い間、カバネと戦ってきた歴戦の猛者でな。余所者のあんた達にも危険が及んでほしくないって事を言いたいんだよ」
「まあ、危険なのは重々理解しているが、俺たちにも俺たちで目的があるからな」
「目的?」
ジャッジ・ザ・デーモンの発言に生駒達が不思議がると、ジャッジ・ザ・デーモンは詳細は省いて返答した。
「ああ、ちょいと俺達はある人物を追っていてな。そいつを見付けたいだけなんだ」
「なるほどね……それなら、余計に此処から立ち去った方がいいんじゃ」
ジャッジ・ザ・デーモンの返答に無名が言い返すと、ミラーガールが血相を変えて言った。
「で、でも! あなた達も、此処の人たちもカバネって脅威に苦しめられているんでしょ!? それなら私達も協力したいわ! ねっ、ジャッジ・ザ・デーモン」
「ま、まあ……俺たちが探している人間の手がかりが見付かるまでは、何かの縁だし、この甲鉄城で共に人命を護っても良いかとは思うが……」
ミラーガールのお節介な一面に、ジャッジ・ザ・デーモンは戸惑いながらも了承した。
そんなミラーガールからのお節介に対して、生駒と無名は顔を見合わせる。
と、そこに甲鉄城で活動する人々がジャッジ・ザ・デーモンとミラーガールへと群がっては、口々に訴え掛けてきた。
「天女様、天女様! そんなカバネリに関わっては駄目です! そいつらはカバネと同類の危険な輩ですぞ!」
「その二人は、いつカバネ同様に生者を襲うか分からない連中だ!」
「お二人とも。先ほどの戦いぶりの様に、ささっとその二人も殺めてくだせえ!」
「これだよ。暇さえあれば、口々に俺たちは危ないから殺せ殺せと騒ぎ出す」
群集の罵詈雑言に嫌気が差している様子の生駒。
するとそんな罵詈雑言を喚き散らす群衆に、ミラーガールが怒り出した。
「ちょっと、みんな! 生駒くんも無名ちゃんも、確かに人間じゃないかもしれないけど、みんなを護る為に必死に頑張っているのよ! 二人を悪く言わないで!」
温厚だったミラーガールが怒り出し、群集は驚いて一時ばかり無言に至る。が、そんな静寂を打ち破る様に群集は訴える。
「で、ですが……この二人は、既にカバネに成り掛けているのは事実なんですよ。今でも人間の生き血を欲しがっているし、危険なのは変わりありません」
そんな提言も、ミラーガールは真っ向から反論した。
「確かに危険かもしれないわ、人間でないのは。でも、心はまだ心優しい人間そのものだって事も理解してよ! 生駒くんも無名ちゃんは今でも、カバネリとして懸命にあなた達を護ってくれているのも事実じゃないの。何より、同じカバネという脅威に立ち向かう仲間なんだし、仲間の事をそんなに悪く言わないで」
「で、でもよ……」
ミラーガールの反論に、群集は複雑な心境で困惑する。
するとミラーガールは唐突に隣のジャッジ・ザ・デーモンの片腕を、組む様に自分の腕と絡ませると皆の前で公言した。
「ジャッジ・ザ・デーモンだって、見た目は怖い鬼の容姿をしているけど、これでも立派な私のフィアンセなのよ」
「ふぃあんせ?」
ミラーガールが発した言葉に首を傾げる無名に、ミラーガールは真顔で返答する。
「ああ、異国の言葉だから分からないか。要するに婚約者ってこと」
そう笑顔でウィンクするミラーガールの台詞に、その場の皆は一堂に驚愕した。
『ええッ!?』「ちょ、ちょっと、ミラーガール!?」
同時に激しくジャッジ・ザ・デーモンが困惑してしまうが、ミラーガールは真面目に笑顔で語り続ける。
「いい? どんなに人間離れした容姿や力を持っていようと、その力を正しく周りを護る為に使ってくれる優しい心を持ってくれているなら、その人は誰が何と言おうと素敵な人なのよ。そんな人を迫害したり、軽蔑するなんて無粋な真似はこの魔鏡聖女ミラーガールが許さないわよ!」
『………………………………』
ミラーガールの熱弁にその場の皆は口を開けて唖然と聞き入れた。
更にミラーガールは、よりジャッジ・ザ・デーモンの腕を自身の腕と密着させて皆に公言する。
「このジャッジ・ザ・デーモンだって、昔はひ弱だったけど異国の実験で本物以上の鬼みたいな力を手に入れたんだからね」
「え!? ジャッジ・ザ・デーモン、あなたも人外の力を得ているの?」
ミラーガールの台詞に無名が問い掛けると、ジャッジ・ザ・デーモンは素性を隠しながら説いた。
「あ、ああ、まあな。ただ、俺の場合はカバネを生み出す様なウイルスではなく、一種の筋肉増強剤なんだ。俺はそれを投与して自分の体を強化したんだ」
「そ、それじゃ、カバネを生み出す様な脅威とは違うじゃねえか」
ジャッジ・ザ・デーモンの説明に群集の一人が捻くれた様子で言うと、ジャッジ・ザ・デーモンは過去の自分の所業について語り明かした。
「確かに動く屍ではなかった。だが、当初の俺はその筋肉増強剤を打たれた直後、自分を抑えられなくて、結構色んなものを壊しまくってたよ」
「ま、まさか……」
生駒が蒼褪めた顔を浮かべると、ジャッジ・ザ・デーモンは素直に答えた。
「ああ、物だけでなく人も多く傷付けた。無論、殺してしまった事も多々あった」
『!』
ジャッジ・ザ・デーモンの返答に皆が蒼然とする中、ジャッジ・ザ・デーモンは堂々と語る。
「だからこそ! 自分の理性などで力を抑制し、制御する事で、ミラーガールを始めとする多くの仲間や人命を死守できるまでに至った。こんな俺でも力を抑制し、正しく使えているんだから、生駒や無名の様なカバネリも有効に使えば俺たちの味方になってくれる筈だ!」
「だ、だけどよ……」
ミラーガールやジャッジ・ザ・デーモンの話を聞いても尚、カバネリという存在を恐れる群集にジャッジ・ザ・デーモンが威風堂々と力説した。
「何より……そんなにカバネリという存在が恐ろしいのなら、皆で常に見張っていればいいじゃないか」
『え!?』「「!」」
ジャッジ・ザ・デーモンの発言に群集も、生駒と無名の二人も唖然とする。そんな皆々にジャッジ・ザ・デーモンは更に説く。
「カバネリが恐ろしいのなら、常に皆で見張りつつ、その強化されている身体能力を上手く使わせて真に脅威であるカバネへの対抗策として利用してやればいいだけじゃないか。むやみやたらに恐怖の対象として排除するよりも、別の脅威への対抗策として使った方が何倍も有益な筈だ」
このジャッジ・ザ・デーモンの力説を聞いた群集は、先ほどまでカバネリを恐れる様子から若干ばかり変化した。
「た、確かに……」「カバネと戦わせた方が何倍も得だな」
「実際、今までも最前線でカバネと戦っていたのも、カバネリである無名だしな」
「カバネリといって心臓を壊すよりも、カバネと戦わせた方が得策だな」
「「………………」」
ジャッジ・ザ・デーモンの力説を聞いてカバネリを利用する方が得策だと判断する群集の反応に、生駒と無名が険しい顔付きで黙り込んでいると、そんな二人にミラーガールが囁き掛ける。
「ごめんなさいね。でもジャッジ・ザ・デーモンも、あなた達二人を何も危険視しているだけじゃないの。口は悪くても、ああ言えばみんなが二人を危険視する目が少しは和らぐと思っての発言なのよ」
「「………………」」
ジャッジ・ザ・デーモンの発言は、全て生駒と無名の二人を案じての、ジャッジ・ザ・デーモンの策であると伝えるミラーガールの囁きに、生駒と無名は呆然とする。
するとジャッジ・ザ・デーモンに説き伏せられた群集の一人が突発的に口にした。
「で、でもよ。正直、カバネリに戦わせるより、美馬様率いる狩方衆にカバネの始末任せた方が安心できるんだけどな」
「美馬って、さっき菖蒲ちゃんと一緒に私達とお話してくれた男性?」
ミラーガールが問い掛けると、群集は口々に美馬を称賛する。
「そうさ! あの御方は今は訳あって勘当されちまってるが、将軍家のご長男なんだ! 民衆からは解放者の異名で呼ばれてる、正真正銘の英雄なんだ!」
「ふ~~ん、この世界にも英雄っていてくれたのね」
群集の説明を聞いて、ミラーガールは納得してると彼女に無名が言葉をかける。
「兄様……天鳥美馬様は、昔私の命を救ってくれた恩人でもあるの。今でも側近の科学者と共にカバネやカバネリを研究して、その対抗策を次々に編み出している凄い人なの」
「へえ! 研究までもさせてるなんて、ホントに凄い人なのね。美馬って人!」
無名の説明にミラーガールは目を輝かせて尊敬するが、その反面で生駒は険しい面持ちを浮かべてた。
「……どうした?」
そんな生駒にジャッジ・ザ・デーモンが耳元で問い掛けると、生駒は険しい面持ちでジャッジ・ザ・デーモンに返答する。
「俺は……正直、美馬って奴を信用できない」
そのまま二人は周りに聞こえないよう密談し始めた。
「奇遇だな、俺もあまり美馬という男を信用してない。が、お前は何ゆえ美馬を信用しない」
「奴は……まだ幼い無名の命を助けたとはいえ、その時に「弱い奴は死ね」と伝授させ、本来は穂積という名だった無名の名前を捨てさせた男なんだ」
「そういう経緯があったんだな……」
ジャッジ・ザ・デーモンは生駒から無名の過去の一部を伝えられ、更に美馬への不信感を滾らせる。
「ミラーガール」
「ん?」
「ちょっと俺は別行動を取る。お前は無名や生駒の側に居てやれ」
「あ、ジャッジ・ザ・デーモン……」
そうミラーガールに言い残し、ジャッジ・ザ・デーモンは一人離れていった。
[研究する者と黒い鬼]
(あの美馬という男、何かある……!)
長年、悪人と対峙してきたジャッジ・ザ・デーモンは直感で美馬に対して不信感を抱いていた。
と、ジャッジ・ザ・デーモンが甲鉄城の内部を探索していると、美馬が何やら側近である二人の男女を付き従えて甲鉄城内を歩いている所を発見する。
(! アイツ……!)
小柄な水色の髪の男と、金髪の女性という二人の側近を従えて突き進む美馬の後をジャッジ・ザ・デーモンは気付かれないよう忍び足で追跡した。
「……私達以外は、この先に通してないな」
「はッ! 通してません!」
「宜しい」
甲鉄城の一角を借り切っているらしい天鳥美馬率いる狩方衆の厳重な警備が敷かれた通路の奥を、美馬と側近である滅火と瓜生が警備に就いている狩方衆の一人に確認をしてから突き進む。
(何かを隠しているのか)
そんな美馬達と警備に当たる狩方衆のやり取りを遠目で物陰から様子見するジャッジ・ザ・デーモンは、天井を見上げて僅かな隙間を見付けては其処から天井裏へと忍び込んだ。
そして天井裏から再び美馬達を追跡すると、美馬たち三人は甲鉄城の一角を借り切っている広い部屋へと足を運ぶ。
「どうだ? 研究の方は進んでるか」
部屋に入るなり、美馬は室内の様々な研究器具が散らかった机の前で没頭する人物に声をかけた。
ジャッジ・ザ・デーモンが天井裏から真下の部屋の様子を観察してみると、美馬が声をかけた人物を見て驚愕した。
「いやいや、これはこれは総長美馬様。お陰様で結構、カバネやカバネリの研究は進展していますよ」
そう美馬に話し返したのは、なんとジャッジ・ザ・デーモンとミラーガールが追っているMrフェイク本人だった。
「Mrフェイクとやらよ、何処まで研究は進んでる?」
「はいはい、貴方が秘匿している大きな大きなカバネの心臓を更に調査・研究した末……ようやくカバネリに打ち込めば巨大なカバネの融合群体、名付けて「鵺」へと変貌する青白い薬品も完成しました! それと同時に鵺から元に戻したり、暴走したカバネリに打ち込めば元の状態へと回復する白血漿という血清も出来上がったよ!」
「なるほど、よくやった。これで計画も万事手筈通りに行える」
「フフフ、まさか自分を陥れた現将軍である父親を誘き出し、カバネに変えたところで兵士達に父親を抹殺させ、同時に将軍の根城である金剛郭にデタラメな情報を流して混乱を助長させる事で政権転覆を狙って倒幕……貴方自身が全てを手中に収めようとは。まあ。ボクも実父には教育という名目で色々とされたから気持ちは解るけどね」
「理解は別にしなくてもいい。全ては将軍を殺め、私が実権を手に入れる為の策なのだから……」
「その為に、其処に居る滅火はもちろん、あの無名って女の子も自身もカバネリに変えちゃったのかな?」
「10年前、将軍である父に陥れられてから私は実感した……弱い奴に生きる価値は無いと。だからこそ私は人もカバネも凌駕した存在、カバネリに自ら変わったのだ」
「なるほどなるほど。その目的の為だけに、貴方は今までカバネリとして生き抜いてきたのですね……!」
「……なにか言いたげだな」
「いえいえ、別に」
「そう言えば……お前と行動を共にしている、そこの異人と瓜二つの輩が……そう、ジャッジ・ザ・デーモンと言ったか。その者がミラーガールという女と共に現れたが」
「なんと! 遂に、あの二人がやって来たか!」
(! 瓜二つ……!?」
Mrフェイクと会話する美馬の発言に一驚したジャッジ・ザ・デーモンが、屋根裏から更にMrフェイクの研究室を覗き込むと、それと同時に部屋の奥から一人の人物が現れた。
「おい、美馬とやら。Mrフェイクに研究ばかりさせて、自分は何もしないとは良い身分だな」
「これは済まない。えーーと、確か……」
「俺の名か? まあ、敢えて本名は名乗りたくないが、せめて………………ダーク・デーモンと呼んでくれや」
そう美馬に返事するのは、なんとジャッジ・ザ・デーモンと瓜二つの容姿をしている全身漆黒のデーモンスーツを着ている「ダーク・デーモン」と名乗る人物だった。
ダーク・デーモンの存在を認知し、屋根裏のジャッジ・ザ・デーモンは驚愕した。
「まあまあ、ダーク・デーモン。此処は美馬様のご希望通り、臆病者で毒親の将軍を亡き者にして倒幕しちゃうお手伝いをしちゃおうじゃないか」
「だがMrフェイク、さっき美馬が言っていたが、ジャッジ・ザ・デーモンとミラーガールが来たんだろ? そう呑気にしてもいられないぞ」
「まあまあ、焦らない焦らない……フフフ」
ダーク・デーモンに忠告されても、Mrフェイクは怪しい笑みを浮かべるばかり。
「まあ、どっちにしろ研究は続けてくれ。他の科学者達を追い出して、Mrフェイクお前だけに研究をさせているのだからな。私を落胆させないでくれ」
「はいはい」
Mrフェイクは素直に美馬へと低姿勢で返事すると、美馬たち三人はそのまま研究室から立ち去った。
「おい、Mrフェイク! このままで良いのか!?」
二人っきりになった研究室で、ダーク・デーモンがMrフェイクに問い詰めると、Mrフェイクは笑みを浮かべて答える。
「大丈夫大丈夫。あの美馬ってのには、期待だけさせておいてやろうじゃないの。フフフ」
そんな研究に没頭するMrフェイクと、そんな彼に同行している謎の存在ダーク・デーモンを屋根裏から観察したジャッジ・ザ・デーモンは、素早く屋根裏を移動して研究室から立ち去った美馬へと目を向ける。
「総長! あんな得体の知れない輩、Mrフェイクとやらに長年の研究成果を全て掌握させた上に、あやつだけに研究の権限を与えていいのですか!?」
そう美馬に訴えるのは、小柄な体で水色の髪の、美馬の従者である瓜生なる男だった。
「大丈夫だ、少しでも変な真似をすれば、その時に殺せばいいだけの話」
「で、ですが……倒幕に必要な研究も、倒幕の計画も、全て教えてしまって良いのか……!」
「あのMrフェイクなる男、私と似た境遇を持っている。そう、親から仕打ちをされたというな。その為か、何かと親近感が湧く」
「で、でも……」
更に美馬へと進言しようとする瓜生に、同じく美馬の側近である女性の滅火が止めた。
「くどいぞ瓜生! 美馬様の決定に口答えするつもりか!」
「い、いや……」
滅火に制止され、瓜生は言葉を呑み込んでしまう。
そんな三人のやり取りも、ジャッジ・ザ・デーモンの目と耳がしっかり捉えていた。
こうして天鳥美馬の正体と計画を知ったジャッジ・ザ・デーモンは、それからミラーガールに何も言わず姿を消した。
[暴走する計画]
美馬が科学者と引き換えに匿っていたMrフェイクとの会話を盗聴して、美馬も無名や生駒と同様のカバネリであった事と彼の計画を知ったジャッジ・ザ・デーモン。
政権転覆を狙う美馬やMrフェイク達の計画を知ったジャッジ・ザ・デーモンは、ミラーガールにすら何も伝えず突如として姿を晦ましてしまう。
「じゃ、ジャッジ・ザ・デーモン……何処に行っちゃったの?」
突如として姿を晦ましたジャッジ・ザ・デーモンに、ミラーガールは一抹の不安を抱いた。
と、そんなミラーガールを美馬の命令で側近である瓜生が人目を盗んで拉致してしまう。
瓜生に拉致されたミラーガールは、そのまま美馬の息がかかった狩方衆が見張る牢屋へと押し込められる。
そして遂に天鳥美馬の政権転覆の計画が実行されてしまう。
まず美馬は、客人として菖蒲や来栖を中心とした一派を出迎えるという建前で、彼女達を全員拘束して無力化してしまう。
更に美馬は自分に実直なまでに慕っている無名に命じて、磐戸駅の扉を開けさせて、磐戸駅を壊滅に追い込んで混乱させる目論見だった。
だが、この美馬達の目論見を、誰にも言わず単独で活動していたジャッジ・ザ・デーモンは見逃さなかった。
ジャッジ・ザ・デーモンは、まず手始めに客人として金剛郭に幽閉されている菖蒲たちの解放に出た。
菖蒲たちを監視する狩方衆を全て気絶させたジャッジ・ザ・デーモンは、客間に閉じ込められていた菖蒲たちと合流する。
「大丈夫か」「じゃ、ジャッジ・ザ・デーモン!」
解放に導くジャッジ・ザ・デーモンに菖蒲たちが驚く中、ジャッジ・ザ・デーモンは菖蒲たちに蒸気弓などの武具や装備を渡して金剛郭からの脱出を指示した。
「俺はまだまだやる事がある。お前達は、この金剛郭から脱出しろ、いいな」
だが、このジャッジ・ザ・デーモンの指示に菖蒲が反論する。
「な、何を言う! 美馬たちの企みを知って、抜け抜けと帰るなんて出来ん!」
「だが、危険だぞ。美馬の本性は冷酷だ、奴は敵対した存在は必ず殺す性分……そんな美馬と、奴が指揮する狩方衆を相手に戦えるのか」
「無論だ! 自分を慕ってくれている無名までも利用しようとする美馬の企みなど、私達も加勢して玉砕してやろうぞ! なあ、来栖!」
「は、はい! 己も最後まで、菖蒲様に付き従う所存……!」
「そうか……だが、無茶な真似だけはするなよ」
「応ッ!」
ジャッジ・ザ・デーモンからの指摘に、菖蒲はもちろん彼女に付き従う来栖たち侍も強く返事する。
そして菖蒲達を解放したジャッジ・ザ・デーモンが、素早くその場から立ち去ろうとすると菖蒲が問い掛けた。
「ジャッジ・ザ・デーモン! 何処に行く?」
「俺は無名を止める。彼女が美馬の命令で磐戸駅の扉を開ければ、美馬の思惑通りだ。絶対、扉を開けさせる訳にはいかない」
「そうか……ジャッジ・ザ・デーモン」
「ん?」
「武運を祈る!」
「! ……ありがとう」
菖蒲からの言葉に、ジャッジ・ザ・デーモンは内心驚きつつも素直に礼を返す。
(そうか。この世界の人間もまた………………俺のクローンだったのか)
菖蒲が発した「武運を祈る」という言葉を聞いて、ジャッジ・ザ・デーモンいや小田原修司はカバネが蔓延るこの世界もまた自分のクローンである新世代型二次元人が暮らす世界なのだと実感した。
その後ジャッジ・ザ・デーモンは、無名の許に向かう前に、彼女と美馬に対する考えの食い違いから仲違いしてしまった生駒の許を訪れる。
ジャッジ・ザ・デーモンは意気消沈する生駒に対し、無名を救えるのはお前だけだと告げた。
それでも臆病になっていた生駒に、ジャッジ・ザ・デーモンは強く言い放つ。
「此処で漢を見せなきゃ、お前はずっとカバネよりも人間よりも劣った臆病者のままだぞ!」
「!!」
「人間を、そしてカバネを越えて、弱い自分に打ち勝て! 生駒!」
そう生駒に吐き捨て、ジャッジ・ザ・デーモンはその場を後にした。
それからジャッジ・ザ・デーモンは、美馬の命令で磐戸駅の扉を開けようとする無名の許へと飛来する。
「無名!」「ジャッジ・ザ・デーモン……!」
突如として飛来したジャッジ・ザ・デーモンに驚く無名。ジャッジ・ザ・デーモンはそのまま無名に美馬の本性と計画を包み隠さず明かした。
「……と、いう訳だ。美馬は完全にお前を利用するだけ利用して使い捨てるつもりだ」
「そんな、兄様が……!?」
ジャッジ・ザ・デーモンの話を聞いても、未だに美馬への信頼を失わずに信じ難いという心境の無名は、話を聞いても尚、磐戸駅の扉を開けようとする。
そんな無名を前にして、ジャッジ・ザ・デーモンは渋々項垂れて決意する。
「そうか、無名……」「……?」
次の瞬間「済まない」その一声を発したジャッジ・ザ・デーモンは無名の腹部を真正面から拳で突いた。
「ッ……!」
腹部に強烈な一撃をお見舞いされて、悶絶する無名はそのまま気絶してしまう。
そしてジャッジ・ザ・デーモンは気絶した無名を背負って、飛び上がりその場から去っていった。
その頃、美馬はというと。
当初の計画通り、金剛郭にいる現将軍である父親と対面するべく、甲鉄城に捕らわれた演技を行って父親と謁見。その際に小刀に仕込んだ針で父親をカバネ化させ、その場に居合わせた兵士を煽って父親の抹殺に成功していた。
実父である現将軍の抹殺を終えた美馬は、そのまま金剛郭中に嘘の情報を流して混乱を助長する。
が、混乱に喘ぐ金剛郭にジャッジ・ザ・デーモンの助太刀として加勢しに来た菖蒲や来栖たち、そしてジャッジ・ザ・デーモンに弱気を払しょくさせられた生駒も駆け付けたと同時に、ジャッジ・ザ・デーモン本人は担いできた無名を金剛郭の天辺に降ろすと何やら準備し始めた。
「っ……ここは……?」
「気付いたか?」
「! あ、あなた……!」
気が付いた無名は、自分を気絶させたジャッジ・ザ・デーモンを睨み付けるが、当のジャッジ・ザ・デーモンは装備品である小型の拡声器を着用しているデーモンスーツに繋げていた。
「この小型スピーカーで何処まで拡散させられるか……!」
そしてデーモンスーツのスイッチを押すと、ジャッジ・ザ・デーモンのデーモンスーツが記録していた音声が拡声器を通じて金剛郭中に響いた。
「! こ、これは私の声……!?」
「あらら、あんなところにジャッジ・ザ・デーモンがいるよ」
金剛郭の天辺から放送される美馬とMrフェイクの会話に、本人達は金剛郭の天辺を見上げる。
ジャッジ・ザ・デーモンが流した二人の会話は、美馬が実父を亡き者にして政権転覆を企んでいる事から、美馬も無名や生駒と同様のカバネリである事実も大々的に流された。
「そ、そんな……! 美馬様も、カバネリだと……!!」
「実父である将軍を殺して、政権を独占しようとしてたなんて……!」
今まで美馬を解放者として英雄視していた多くの者は、この会話を聞いて愕然とした。
「そんな……兄様が、そんな……」
ジャッジ・ザ・デーモンの暴露を聞いて、無名も余りの事実に呆然とする。
「ジャッジ・ザ・デーモンめ、私の計画を台無しにする気か……! Mrフェイク! ダーク・デーモン! 何とかしろ!!」
自分の計画の全てが暴露された美馬は二人に怒鳴り散らすが、此処で今まで美馬に実直に使われていた二人からは予想だにしない反応が返って来た。
「知ーーらない知らないのココロ! ボクちゃん知らないのココロ!」
「お前が蒔いた種だろ。お前が何とかしろ」
と、Mrフェイクもダーク・デーモンも他人事。これにすっかり周囲の者たちから敵視されてる瓜生や滅火率いる狩方衆も、美馬同様に二人を睨み付ける。
「き、貴様ら……!」
瓜生がMrフェイクを敵視してると、Mrフェイクは此処で甲鉄城の一角に隠していたエアライドを発進させ、それに飛び乗ると喜々と笑い出す。
「キャハハハ! もう従順なフリはやめよっかな! まあ美馬ちゃん、君の実父を殺して政権を転覆させようとする計画は面白かったよ! ウヒヒ」
「き、貴様……!」
Mrフェイクの言動に怒った美馬は、Mrフェイクに向かって拳銃型のカバネに変化する注射を撃ち込もうとした。
が、美馬が引き金を引いた拳銃からはいくつもの造花だけが花吹雪と共に吹き乱れるだけだった。
「フフフ、おやおや。ボクが改造した蒸気銃はお気に入らなかったかな?」
「ッ……!」
Mrフェイクによって、全ての術中が通じなくなっている現状に美馬は苛立った。
「おい、Mrフェイク! 降りてこい、卑怯者!」
「おやおや、狩方衆のみんな、ご機嫌ナナメかな?」
地上でエアライドに乗って頭上を浮遊するMrフェイクに瓜生たち狩方衆が憤っていた。
「まあまあ、そんなに怒らないでよ。謝罪代わりに、君らが最も尊敬している美馬ちゃんに近い存在にしてあげちゃうから」
そう言うとMrフェイクは乗っているエアライドから霧状の液体を放出する。
「な、なんだこれは……!?」
何やら怪しい液体を怖れて、瓜生は後退りするが、それ以外の狩方衆は霧状の液体を浴びてしまう。
すると狩方衆は霧の中で苦しみ出し、各々が蹲ってしまう。
「だ、大丈夫か、お前ら」
瓜生が心配して声をかけると、狩方衆の面々は唐突に起き上がり立ち上がる。
しかし拡散された霧の中から現れたのは、なんと元狩方衆だったであろうカバネの大群だった。
「か、カバネだと!? そんな! う、うわあっ!」
一斉に襲い掛かってくるカバネの群れに、瓜生は抗戦しながらも素早く後退してしまう。
「ま、まさか。本来カバネは擬死の段階を得てからカバネに変化する筈……!」
「フフフ、だから言ったでしょう。研究は進んでるって。とっくの昔に、一瞬で生きた人間をカバネに変えちゃう薬は出来ちゃってたんだよ」
動揺する美馬に、Mrフェイクは不敵に微笑む。
更に動揺する美馬にMrフェイクは衝撃を与えた。
「それと、君が無名って女の子に打って暴走させようとした鵺に変化させる青白い薬も偽物だから。本物はボクが持っちゃってるよ」
「なに……! 美馬様に渡すんだ、Mrフェイク!」
滅火がMrフェイクに怒鳴ると、Mrフェイクは悠々と胸の内ポケットを弄りながら言った。
「分かった、分かったよ。そんなに鵺を出現させたいんだね……!」
と、Mrフェイクが発言し終わった次の瞬間、Mrフェイクは胸の内から拳銃型の注射器を素早く居抜くと美馬に注射を撃ち込んだ。
「うッ……!」「び、美馬様!」
Mrフェイクが打ち込んだ青白い液体は、瞬く間に美馬の体内へと注入され、滅火が激しく動揺する。
「ククク、これで君が望んでた鵺ってカバネの融合群体が出現して多くの邪魔者を排除できるじゃないか。まあ、邪魔者を排除する役目は部下じゃなく自分自身だけどねっ」
Mrフェイクが喜々と語り明かす最中も、青白い液体を注入された美馬は次第に理性を失っていた。
「び、美馬様……!」
滅火が戸惑う中、美馬は先ほどMrフェイクにカバネにされた狩方衆と、そんなカバネに変えられた狩方衆に惨殺された者の死体を集めて、カバネの融合群体の強化版ともいえる鵺へと変わり果ててしまう。
鵺へと変化した美馬は、そのまま金剛郭や停車している甲鉄城など、ありとあらゆるものを破壊しながら同時に生者を殺めて自分の一部にして更に巨大化するのだった。
[鵺と化したカバネリ]
Mrフェイクの裏切り行為で、カバネリを通常の融合群体よりも厄介な鵺へと変えられてしまった天鳥美馬。
美馬はそのまま金剛郭や甲鉄城など手当たり次第に急襲し、破壊と殺戮の数々を凶行する。
「美馬様……美馬様ーーっ!」
美馬を誰よりも慕っている、いや愛している滅火が呼びかけるものの、美馬の暴走は止まる事を知らない。
そんな美馬の暴走を金剛郭の頂上で、ただただ傍観し呆然とする無名を横目に、ジャッジ・ザ・デーモンも美馬の暴走を止めるべく考えを巡らせていた。
「うーーむ、どうすれば……!」
と、ジャッジ・ザ・デーモンが思慮に耽っていると、そこにミラーガールが飛来してきた。
「ジャッジ・ザ・デーモン!」「おお、ミラーガール」
飛来してきたミラーガールを見て、ジャッジ・ザ・デーモンが反応すると隣にミラーガールが着地する。
「遅かったな。お前なら変身能力などを駆使して、もっと早く牢屋から脱出できてたと思ってたがな」
「悪かったわね。一応、私は貴方が助けに来てくれるかと思って大人しく待機してたのよ……まあ、この騒ぎに乗じて逃げ出したんだけど」
「なるほどな」
「それで? 貴方は今まで何を? 状況は?」
「ふむ、話すと長いが……」
ジャッジ・ザ・デーモンは今まで身を隠しながら集めてきた情報と、現状についてミラーガールに説明した。
「……なるほどね。あの美馬って人も、無名ちゃん達と同じカバネリだったの。しかも自分を陥れた実父である将軍をカバネとして謀殺させたのは良いけど、貴方による情報の暴露とMrフェイクの裏切りで、今は鵺ってカバネの集合体に変異しちゃって暴走してる訳ね」
「ああ、その通りだ。Mrフェイクめ、カバネリを鵺にさせてしまう青白い液体を美馬に打ち込んで、美馬を鵺にして楽しんでやがる」
「それで? 貴方なら美馬の計画を知って、将軍の謀殺も阻止できたと思うけど……?」
「ああ、それか………………臆病者で小心者の男など、助ける価値はないかと思ってな。美馬に謀殺させたよ」
「ふう……貴方らしいと言えば、貴方らしいけど。それで? 鵺と化した美馬はどうするつもり?」
「これが使えると思う」
そう言うと、ジャッジ・ザ・デーモンはミラーガールに密かに入手していた品を示す。
「これは?」
「これは美馬が長年、カバネやカバネリの研究をした末に開発に成功した白血漿という品だ。俺が入手した情報が正しければ、これを鵺に打ち込めば人型のサイズにまで大きさが縮小し、更に正気に戻るらしいのだが……」
「それなら! 早く、それを打ち込まないと……!」
「だが………………問題は、この白血漿は融合群体である鵺の大元であるカバネリ本体に撃ち込まないと効力を発揮しない」
「え! で、でも、あんなに大量の死体と一体化してるのに、本体である美馬を見付けるのは難しいんじゃ……!?」
「ああ、これは困った……!」
暴走する死体の集合体である鵺の中から美馬の本体を見付けるのは至難の業。この状況にジャッジ・ザ・デーモンもミラーガールも困惑するばかり。
と、そんな苦悩する二人の許に、菖蒲と来栖そして二人と合流した生駒が駆け付ける。
「ジャッジ・ザ・デーモン!」「ミラーガール!」
「おお、お前達も来てくれたか!」
ジャッジ・ザ・デーモンは駆け付けて来てくれた三人を見て歓喜する。
「あれは何なのだ!?」
「あれはMrフェイクという悪人によって変わり果ててしまったカバネリである美馬の成れの果てだ」
問い詰める菖蒲にジャッジ・ザ・デーモンが答えると、来栖も問い詰める。
「あれは、カバネの融合群体なのか!? 少し違うようだが……!」
「ああ、あれは普通の融合群体よりも強く、そして狂暴な鵺という状態だ」
最後に生駒がジャッジ・ザ・デーモンに問い掛ける。
「あれがホントに美馬なのか……?」
「ああ、そうだ。美馬の成れの果てだ」
と、此処でジャッジ・ザ・デーモンが三人に提案を持ち掛けた。
「……そうだ。お前ら、実は鵺と化した美馬を元に戻せる方法があるのだが」
「な、なに! ホントか!?」「どうすればいいのだ!」
菖蒲と来栖の問い掛けにジャッジ・ザ・デーモンは包み隠さず白血漿の効能などを含めて語った。
「な、なんだと!?」
「あの融合群体の中から美馬の本体を見付けるだけでも至難なのに、その本体に白血漿を撃ち込むなんで不可能だ!」
鵺の中から美馬の本体を見付けるだけでも大変なのに、その本体に白血漿を撃ち込まなければ鵺は解除されないと知って絶望する菖蒲と来栖。
しかしジャッジ・ザ・デーモンの話を聞いて生駒の顔付きが変わった。
「……それしか方法がないんだな」
「ああ、そうだ。俺たちも何とか美馬の本体に纏わりつく死体の山を片付けて、美馬の本体を引きずり出そうとは思っているが……何分、白血漿には限りがある。可能なら一発で美馬の本体に撃ち込めれば助かるんだが……!」
生駒からの問い掛けにジャッジ・ザ・デーモンが答えると、生駒は力強い面魂を浮かべて言った。
「それなら……俺が親友と開発したツラヌキ筒でも美馬の本体に纏わり付く死体を削ぎ落してみる」
そうジャッジ・ザ・デーモン達に生駒が宣言した、その時。
「……私も……!」「ッ!?」「む、無名ちゃん!?」
なんと今まで黙然としていた無名も声を挙げて、生駒とミラーガールが一驚する。
「兄様が、私を含めて、多くを利用していただけなのは解った。でも、それでも……私は私で、区切りを付けたい。今の兄様を、止めたい……!!」
「無名……!」
無名の決断に、生駒は唖然とする。
「ふむ、そうか……それじゃ無名、お前に白血漿を美馬の本体に撃ち込む役目をお願いしたいが、可能か?」
「はい!」
ジャッジ・ザ・デーモンからの問い掛けに、無名は神妙な面持ちで強く返事した。
「よし……作戦開始だ!」
ジャッジ・ザ・デーモンの指示に、ミラーガールだけでなく菖蒲と来栖、そして生駒と無名の二人も強く呼応する。
[白血漿を撃て!]
作戦は、融合群体である鵺に群がる死体を少しずつジャッジ・ザ・デーモンとミラーガールを中心とした面々で削いでいき、美馬の本体が現れたら無名が白血漿を仕込んだ蒸気銃で美馬の本体に白血漿を撃ち込むという算段。
「よし、無名。お前にこの白血漿を渡しておくが……その前に」
そう言うと、ジャッジ・ザ・デーモンは注射器で貴重な白血漿を無名と生駒の二人に投与した。
「!?」「な、なにを……!?」
「この白血漿は、カバネリと化した人間の正気や状態を保持してくれる効能もある。お前達が今後も確実に、人々の力になってくれるよう、この白血漿を投与するだけだ」
「ジャッジ・ザ・デーモン……!」「………………」
自分達をカバネという脅威ではなく、カバネから人々を護る存在だと認識してくれているジャッジ・ザ・デーモンの思想に感銘を受ける無名と生駒。
そして彼らは決行する。
「いいか! 俺たちは出来る限り、鵺の周りの死体を削ぎ落し、美馬の本体を引きずり出す! そして美馬の本体が現れたら無名が白血漿を撃ち込むんだ!」
「ええ! 分かったわ」
ジャッジ・ザ・デーモンからの指示にミラーガール達は力強く頷くと、ジャッジ・ザ・デーモンとミラーガールが先に暴れ回る鵺の周辺を飛び交って各々ジャッジラングやミラー・シールドで死体を削ぎ落とそうとする。
が、ジャッジラングやミラー・シールドの投擲では死体を削ぎ落とすのには威力不足だった。
「くッ、ジャッジラングやミラー・シールドの投擲では威力不足か……!」
「他の方法で死体を削ぎ落とすしかなさそうね」
自分達の攻撃では、鵺に纏わり付く死体を削ぎ落とすのは困難だと認知して困惑するジャッジ・ザ・デーモンとミラーガール。
すると今度は地上から菖蒲と生駒が、蒸気弓とツラヌキ筒を用いて鵺の死体を削ぎ落とそうとする。
しかしこれも、蒸気弓では威力不足で、ツラヌキ筒一つだけでは威力が足りなかった。
「ダメだ! 私の蒸気弓だけでは心もとない!」
「ッ、俺のツラヌキ筒一個だけでも威力不足だ!」
菖蒲も生駒も焦燥するばかり。
と、そんなところに。菖蒲からの指示で戦える者を招集してた来栖が、大勢の援軍を引き連れて戦場に戻って来た。
「菖蒲様! 鵺の暴走を止めるべく、大勢の者たちが駆け付けて来てくれましたぞ!」
「でかした、来栖!」
援軍に加わってくれる者たちをかき集めた来栖を称賛する菖蒲。
よく目を凝らして見て見ると、来栖が呼び集めた者の中には、今や鵺と化した美馬に忠誠を誓ってた瓜生の姿も確認された。
「もう狩方衆は自分を残して全滅した……今、自分ができる事。それは鵺と化してしまった美馬様を、総長の暴走を止める事なり!」
瓜生は今や鵺と化した美馬の暴走を止める事こそ、美馬への忠義だとして援軍に加勢していた。
そして駆け付けた援軍は、各々で蒸気銃などで鵺に応戦。少しずつではあるが、鵺に纏わり付く死体を除外していった。
「いいぞ! よし、俺も……!」
駆け付けた援軍による攻撃で鵺の死体を除外していってる戦況に、ジャッジ・ザ・デーモンは地上に降りて生駒に問い掛ける。
「生駒! そのツラヌキ筒、まだあるなら俺に貸してくれ」
「あ、ああ、良いけど……」
ジャッジ・ザ・デーモンは自分のジャッジラングでは威力不足だと理解し、生駒からツラヌキ筒を一つ拝借して鵺に撃ち込んだ。
ツラヌキ筒の特殊な弾頭は圧倒的な貫通力で、鵺に纏わり付く死体を悉く除外する。
「いいぞ、このツラヌキ筒気に入った!」
弾が無くなれば素早く新たな弾頭を装填して、鵺に纏わり付く死体を撃ち抜いていくジャッジ・ザ・デーモン。
「……相変わらず、武器に目がないわね」
趣味で様々な武器や武具を蒐集しているジャッジ・ザ・デーモン、いや修司に呆れるミラーガール。だが彼女もまた、ミラー・シールドによる投擲だけでは鵺に纏わり付く死体を除外するのは不可能だと理解した事で、お得意の変身能力を使用した。
「テクマクマヤコン」
ミラーガールが呪文を唱えると、次の瞬間彼女の衣装が一変した。それは無名の戦闘着と瓜二つだったが、赤を主体とした無名と違ってミラーガールのは青い色の衣装だった。
更に無名と色違いの衣装に変身したミラーガールの両手には、無名が携帯している二丁の蒸気銃と同型の武器が握られていた。
「あ、あれは……!」「私にそっくり……!」
頭上で飛行するミラーガールの衣装と武器が一変した情景に、生駒と無名は驚いた。
地上で鵺と交戦する皆々の注目を浴びる中、無名の戦闘スタイルを変身してコピーしたミラーガールは二丁拳銃を連射して巨大な鵺へと銃撃を開始。
ミラーガールの銃撃を浴びて、鵺に纏わり付く死体は次々に枯葉の如く地上へと落下していく。
「いいぞ、その調子だ! みんな、攻撃の手を緩めるな!」
ミラーガールの活躍を見て、ジャッジ・ザ・デーモンが自分達と同じく地上で交戦する仲間達に指示を飛ばす。
そしてミラーガールの二丁拳銃と、ジャッジ・ザ・デーモンと生駒のツラヌキ筒、菖蒲の蒸気弓、そして多くの武士達の攻撃が効果を表して、遂に巨大な鵺の中枢に位置する場所から美馬の本体が露出した。
「今だ、無名!」「無名ちゃん、お願い!」
ジャッジ・ザ・デーモンとミラーガールからの嘆願に、無名は自身が構える蒸気銃の銃口を美馬へと定める。
が、そんな無名の心中には未だに慕っていた頃の美馬への想いが過っていた。
次第に美馬へ向ける銃口が揺れ動いてしまう心境の中、そんな無名の許に生駒が駆け付け、無名が両手で構えている蒸気銃に自身の両手を優しく包み込む様に一緒に銃身を定めてあげる。
生駒の想いが無名へと伝わり、生駒にも無名の決意が伝わった。その時。
無名と生駒、両者が構えた蒸気銃の銃口から白血漿が仕込まれた銃弾が発砲され、それが一直線に鵺の中枢から出てきた美馬の本体へと飛ぶ。
そして無名と生駒が放った銃弾は、見事に美馬へと直撃し、美馬の本体へと撃ち込まれた。
美馬の本体へと白血漿が仕込まれた銃弾が撃ち込まれたと同時に、美馬の本体を中枢にして形成されてた巨大な融合群体である鵺は瞬く間に崩壊し、地上には無数の死体が転げ落ちる。
「うぅ……」
そして白血漿を撃ち込まれた美馬は、微かな意識を取り戻しつつ高所から真っ逆様へと地上へ落下していった。
「美馬様ーーーーっ!!」
地上へ真っ逆様に落下する美馬を発見し、彼に思いを寄せる滅火は屋根上から駆け抜けて落下していく美馬へと跳び出して、美馬を受け止め抱きしめると同時に共に地上へと落ちていった。
と、落下する美馬を空中で受け止め抱きしめた滅火。両者が地上へと落ちていく最中、突如として二人の周りの時間が停止した。
(……!)(こ、これは……!?)
薄れゆく意識の中、美馬と滅火が愕然とする中、そんな二人に声をかける者が突如として停止している空間に開いた裂け目から現れ、声をかける。
(助かりたいか?)
((………………!?))
(このまま地上に叩き落ちて、悲惨な最期を遂げたくないのであれば……我の下に降るがよい)
そう滅火と美馬に問い掛ける黒いローブ姿の人物が手を差し伸べると、美馬を助けたい一心の滅火が決意したかのように差し伸べられた手に捕まる。
滅火が差し伸べられた手を掴んだ次の瞬間、手を差し伸べた人物も滅火も美馬も一瞬にして姿を消した。
「! (姿が消えた様に見えたが……!?)」
落下する滅火と美馬を辛うじて視認していたジャッジ・ザ・デーモンが、二人の消失を目の当たりにして愕然とする。
美馬と滅火が消失したのに気づいていない、ジャッジ・ザ・デーモン意外の皆々は、鵺の崩壊に感極まり歓声を挙げ続けてた。
『うおーーーーッ!』「やったぞぉ!!」
「鵺が消滅したーーーーッ!!」
鵺の消滅に、皆が感極まる中、鵺の中枢を形作っていた美馬に白血漿を仕込んだ銃弾を撃ち込んだ無名と生駒は、体の力が抜けてその場に座り込んでしまってた。
「「………………」」
二人が呆然とする中、そんな二人の許に菖蒲と来栖が駆け付けて、菖蒲は喜びのあまり無邪気に無名へと抱き着いた。
「やったな無名!」「あ……!」
菖蒲に抱き着かれ、思わず言葉を呑み込んでしまう無名。
「よくやった、生駒」「あ、ああ……」
生駒の方も、来栖に称賛されるが返す言葉が思い付かない心境だった。
「やったわね、ジャッジ・ザ・デーモン」
「ああ、お前も良くやってくれた。ミラーガール」
ミラーガールとジャッジ・ザ・デーモンも、互いの健闘と無事を祝福し合うのだった。
人々が凶暴で巨大なカバネの融合群体である鵺を退治できた事に喜び合う。そんな幸せな時間の最中。
[黒き鬼と逃亡するMrフェイク]
「いやっほ~~ッ!」『!?』
そんな皆が舞い上がるほど喜び合っている最中、エアライドに乗って早い速度で飛行するMrフェイクが姿を見せる。
「Mrフェイク……!」
そんな喜々とするMrフェイクに、ジャッジ・ザ・デーモンが睨み付けていると。
皆がMrフェイクに視線を向けている所に、漆黒の鬼ダーク・デーモンがジャッジ・ザ・デーモン同様に背中のエンジンで低飛行しながら地上の菖蒲や無名達の間をすり抜ける様に滑空する。
この時、誰も気付いていなかったが、ダーク・デーモンが無名と生駒の両名に謎の小型の装置を取り付けながら滑空していた。
そしてダーク・デーモンが滑空し終わって、Mrフェイクと共に皆の頭上に浮遊しながら停止する。
「Mrフェイク、美馬も死んだみたいだし、この世界にもう用はないんじゃないのか?」
「ああ、もう十分に楽しませてもらったよ! オマケに、カバネのウィルスのデータもしっかり頂戴しちゃったし」
「それじゃ早速、別の世界に行くとするか」
「イイネ! でもダーク・デーモン、君の用件はいいのかい? まあ、どんな用件が知らないけど」
「俺の方は既に大丈夫だ。ほら、ジャッジ・ザ・デーモンとミラーガールが追う前に、次の異世界に行くぞ」
「はいはい、そう急かさないでよっ」
そうダーク・デーモンとMrフェイクが話し終わると、Mrフェイクが搭乗するエアライドの組み込まれたミラーゲート・リングが次の異世界への道を指し示した。
「それじゃバイバ~~イ、ジャッジ・ザ・デーモンにミラーガール!」
そう二人に言い残すと、Mrフェイクはダーク・デーモンと共に別世界へと逃亡するのだった。
「な、なに!? Mrフェイクと一緒にいる、あのジャッジ・ザ・デーモンにそっくりなのは?」
「説明は後だ! あの二人を追うぞ、ミラーガール!」
初めてダーク・デーモンを目撃した為に困惑するミラーガールに、ジャッジ・ザ・デーモンが急ぎ二人を追跡するよう呼びかける。
「あ、ちょっと待ってよ! 別の異世界に行く前に、無名ちゃん達とお別れしないと」
「おいおい、そんな呑気な」
「だって、お友達にはお別れ言わないといけないでしょ」
「………………ふう、仕方ないな」
ミラーガールに説得されて、ジャッジ・ザ・デーモンも渋々地上に降りて無名や生駒達に別れを告げる。
「え、ええっと……ちょっと、説明するのは省くけど、私達もう行かなきゃ」
「色々と世話になった。そして、共に戦ってくれてありがとう。カバネに抗うカバネリと人間の連合よ」
ミラーガールとジャッジ・ザ・デーモンから別れの言葉を述べられ、無名と生駒が二人に返事した。
「何だかよく分からないけど……でも、ありがとう。二人とも」
「お二人の様子から察するに、今さっき逃げた二人組が美馬達と結託してた上に裏切って、こんな混戦を引き起こした張本人なんだろ。だったら早く追いかけて捕まえてくれよ」
二人がジャッジ・ザ・デーモンとミラーガールに述べると、無名がお礼代わりかジャッジ・ザ・デーモンとミラーガールの頬にキスをした。
「え?」「!?」
一驚するミラーガールとジャッジ・ザ・デーモンに、無名が言う。
「二人とも、本当にありがとう。ミラーガール、こんなカバネリである私にも平等に接してくれて。ジャッジ・ザ・デーモンも、あなたが止めてくれなかったら私は兄様に唆されたまま磐戸駅の扉を開けてしまってたわ」
無名の突然のお礼である行動にジャッジ・ザ・デーモンが呆然としてる最中、ミラーガールは微笑みを浮かべ返して今度は彼女自身が無名と生駒の頬にキスをした。
「ッ!」「っ!」
生駒と無名が驚く中、ミラーガールは笑顔でその場の皆々にお別れの言葉を言い放った。
「それじゃ、さようなら! 生駒くん、無名ちゃん! それに菖蒲ちゃんも来栖くんも、みんなお幸せに!」
そう言い放つとミラーガールは背中の翼で飛翔し、頭上へと上昇した。
「それでは、俺たちは此処で去らばする。無名、生駒、二人ともカバネリとして自分を抑制しつつ、皆の力になってやれ。菖蒲、将としてこれからも日々精進しろ。来栖、お前は菖蒲を支えてやれる立派な武士であれ」
そう言い終わると、ジャッジ・ザ・デーモンもミラーガールに続いて背中のエンジンで飛び上がり、皆の頭上に上がる。
そしてジャッジ・ザ・デーモンとミラーガールは、無名達を見下ろしつつ、急ぎMrフェイクとダーク・デーモンを追って、別の異世界へと向かうのだった。
ジャッジ・ザ・デーモンとミラーガール、二人が去っていった後の空を見上げて、皆々は不思議な思いを募らせる。
「何だか、不思議な二人だったな」
「ええ、でも何処か力強い信念を感じられたわ」
菖蒲と生駒が、二人が消え去った上空を見上げながら思い耽っていると、来栖が唐突に生駒と肩を組んで話し掛けてきた。
「生駒、お前も無名を支えてやれよ。己も、菖蒲様の側近として頑張る所存ゆえにな」
「わ、分かってるよ……!」
来栖からの言葉に、生駒も頬を赤らめながら返事する。
と、皆が和気藹々と去っていったジャッジ・ザ・デーモンとミラーガールに各々思いを耽っていた、その時。
ダーク・デーモンが無名と生駒に取り付けていた小型の装置が起動したかと思うと、次の瞬間、無名と生駒が皆の前から忽然と姿を消した。
「む、無名!?」「生駒……生駒、何処だ!」
突然消滅した無名と生駒を、菖蒲と来栖が探し回るが、何処を見渡しても二人の姿は無かった。
「う……う~~ん………………こ、此処は……?」
無名が意識を取り戻して目を開いてみると、其処はまるで赤みかがったピンク色の、人の内臓の様な色合いの空間に、彼女は粘り気のある黒い物体で壁に拘束されていた。
「あ、あなたは……?」「えっ!?」
突然、隣から声をかけられて思わず振り向く無名の視線の先には、自分同様に壁に黒い粘り気で貼り付けにされているゴスロリ服のシアンの姿が目視できた。
「あ、あなたは……?」
無名が困惑してると、同じ空間から生駒の声が聞こえてきた。
「こ、此処は何処なんだ!?」「生駒!」
無名と同じく困惑する生駒に、無名も状況が呑み込めずただただ困惑するばかりだった。