火拳は眠らない   作:生まれ変わった人

12 / 46
買い物

結局は拠点と同じです。

拠点ではこんな感じでグダグダなのでご了承ください

遂に鈴仙が幻想入り?

********************************************

買い物

 

 

 

山の中での弟子入りからまた数日。

 

現在では楽進と鈴仙の修行相手を務めつつ、自分の修行の練習相手として利用している。

 

簡単に言えばギブ・アンド・テイク精神である。

 

そして、今は…

 

「たぁ!」

「おっと」

 

鈴仙の正拳を左手で受け止め…

 

「はっ!」

「ふ…」

 

楽進の回し蹴りを右手で受け止める。

 

「おら、避けてみろ!」

「「!!」」

 

エースの声に咄嗟に腕で防御しようとするが、エースはそれよりも速く二人の正拳と蹴りを払う。

 

「うわ!」

「きゃっ!」

 

払いのけられて体制が崩れる。

 

エースは片手で逆立ちをしながら開脚、そのままカポエラの要領で二人に蹴りを仕掛ける。

 

「わ!」

「ぐっ!」

 

鈴仙は首を後ろに退いての回避、楽進は両腕でガードした。

 

しかし、エースは避けてよろける鈴仙を見て起き上がり、足払いをかける。

 

「え?…ふにゃー!!」

 

払われて宙に浮いてる時は呑気な声を出したが、背中から落ちると衝撃で奇妙な悲鳴を上げる。

 

「はぁ!」

 

刹那に続く様に楽進は正拳をエースに突く。

 

「ふ…」

 

しかし、エースは冷静に、口を吊り上げて楽進の攻撃を避けて腕をガッチリ掴み……

 

「うわあ!!」

 

楽進を一本背負いの要領で投げる。

 

「不意打ちで声出したら意味ねえだろ?」

 

エースは汚れた手を払いながら不敵に笑ってアドバイスをおくる。

 

「「きゅ〜…」」

 

しかし、楽進も鈴仙も目に渦巻きマークを表しながらノビているため意味が無かった。

 

「…やり過ぎたか?」

 

そんな二人に悪いと思いながら目を回している二人を抱えて戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エース兄さんはもうちっと手加減できんの?」

「そうなのー。女の子の体にアザを作らせちゃダメなのー」

「そ…そうなのか?」

 

そこら辺で捕ってきた魚を頬張るエースは李典と于禁の押しに少し困惑気味だった。

 

「止めろ二人共。私は自分で決めた事だ。エース様に非は無い」

 

そう言って楽進はエースの隣で腰を下ろして焼けた魚を頬張る。

 

「そうか? 凪が良いならそれで良いけどな」

 

エースが楽進の真名を呼びながら笑う。

 

それもそのはず、エース達と三人は互いに真名を交換しあっているからだ。

 

エースの弟子入りが決まった後、楽進は今までの無礼、我が儘の詫び、そしてエースの弟子ということで真名をエース達に預けた。

 

その際、李典と于禁も真名を認めてくれた。

 

理由は凪と同じだったが、なによりエースの性格も気に入ったということだった。

 

余談だが、真名を預かった時のエースの喜びようは凄まじく、宴まで行った。

 

「私から弟子になったのです。嫌なことは何もありません。それどころか私の我が儘に付き合ってくださって感謝の言葉しかありません」

「んな堅くなんなよ。おれも修行になってるからな。おれも助かってるよ」

「エース様…ありがとうございます!」

 

凪は満面の笑みでエースに頭を下げる。

 

「……」

 

その光景を複雑な心境で見つめる鈴仙。

 

ちなみに鈴仙もエースの隣を陣取っている。

 

「あ」

 

エースの顔に食べカス。

 

鈴仙は少し迷った。

 

食べカスを見つけた時に真っ先に思いついた事を実行に移そうと思った自分が恥ずかしかった。

 

しかし、これならエースとの距離を狭める絶好の好機。

 

(鈴仙…行きます…!)

 

鈴仙は今持っているだけの勇気を振り絞った。

 

「エ…エースさん…あの…ほっぺに…」

「ん?」

 

エースが鈴仙の方を見る。

 

その瞬間、鈴仙の手がエースの頬を撫でた。

 

「あの…その…食べカス……」

 

そう言いながら顔を真っ赤にさせ、エースとは目も合わせようともしない。

 

そんな鈴仙にエースを除いた三人は呆然としている。

 

そして、当のエースは……

 

「お、はは…サンキュ」

 

無邪気な笑みを鈴仙に向ける。

 

「………////////」

 

赤い顔がより一層赤くなり、顔もまともに見れなくなってしまった。

 

それを見た真桜と沙和はニヤニヤしてエースに言う。

 

「なんやエース兄さあぁん。華に囲まれてえ幸せやねえ~…ぐふふ…」

「ん? はな?」

 

言われたエースは辺りを見回す。

 

「華って……なっ!!」

 

それに習って凪も見渡すが、やがて真桜の言ったことを理解して顔を真っ赤にさせる。

 

「なっ…何を言うか! 私はエース様の弟子っていうだけで別に…」

「あー! 凪ちゃんの顔真っ赤ー!」

「嘘つかんとぉ…ほれ、全部ぶちまけてまいな」

「真桜!! 沙和!! いい加減にしろ!!」

「「きゃー!!」」

 

顔を赤くさせたままの凪が怒鳴っても全く怖くない。

 

二人はわざとらしく抱き合ってわざとらしい悲鳴を上げた。

 

「それで~…エースさんは凪ちゃんと刹那ちゃんのどっちが好きなのー?」

「! 沙和!!」

「ふみゅう!?」

 

沙和の一言で凪は怒鳴り、鈴仙は奇妙な声を出して驚く。

 

その渦中にいるエースはウーン…としばらく首を捻るが、ニッと笑って…

 

「おれは二人共好きだぜ!」

 

エースは二人の肩に腕を絡ませて引き寄せる。

 

「!!」

「あう!?」

 

引き寄せられた二人は途端に赤い顔を更に赤くさせる。

 

二人の顔がエースの体に触れる。

 

知っての通りエースの上半身は何も着てもなければ羽織ってさえもいない。

 

もちろん、エースのゴツゴツした筋肉質の逞しく温かい体を顔に押し付けられた二人は……

 

「エ……エースさん…こんな……こんな……所…で……(//△//)」

「エエエエエエエエエエエエエエエエース様!! いいいい一体なななななな何を///////!?」

 

異常なほどの動揺を見せた。

 

それを見ていた真桜と沙和はより一層はやしたてる。

 

「エース兄さ〜ん。中々積極的やないの〜?」

「見ているこっちもアツいのー」

 

本人達はからかうつもりで言ったのだが、からかわれてるはずのエースはというと…

 

「熱いのか? だったらもう消してもいいぞ?」

「あつい、の意味違うで」

「あぅー…」

「きゅー…」

「それよりも早く二人を離した方がいのー。鈴仙ちゃんと凪ちゃんが死んじゃうの」

「へ?」

 

エースが両サイドの二人を見ると、二人は顔を深紅にさせて目を回していた。

 

「お前等!! どうした!?」

「いや、アンタのせいや」

 

真桜のツッコミも聞こえてないのか、すぐに二人を地面に寝かせた。

 

「大丈夫か!! 一体何が起こった!」

「わわ! エースさんは何もしないでなのー!!」

「何でだ! 仲間が倒れたんだぞ!!」

「だから兄さんはじっとしててほしいねん。大丈夫。ただノボせただけや」

真桜が諭すように言うと、エースは少し落ち着きを取り戻す。

 

「…分かった」

「今からウチ等は水汲んでくるから兄さんは凪たちを見ててや」

「ああ。頼んだ」

 

真剣な表情で焚火を消すエースを一瞥した真桜と沙和はすぐに近場の川へと向かう。

 

「これから面白くなりそうやね♪」

「も〜。そんなこと言っちゃいけないのー♪」

 

エースとは裏腹に二人は腹が立つような笑みを浮かべていた。

 

 

穴があったら入りたい…

 

私は今とても恥ずかしい…

 

どうやら私と鈴仙殿は少しの間気を失っていたようだ。

 

私達が目を覚ますと、真っ先にエースさんの笑顔が飛び込んできた。

 

最初は何が何だか分からなかった。

 

しかし、完全に思い出した時の私は……わー! わー!

 

何を考えているんだ私はっ!!

 

エース様は私の師! それだけだ!!

 

そうだ! そもそもエース様が私などにそのような感情を抱くはずがない!!

 

「おお! やっと街かぁ!!」

 

いきなりエース様の嬉しそうな声で正気に戻った私は道の先を見やると、視界には村があった。

 

そこまで来てたなんて……どうやら私は相当気がアレだったらしい…

 

というか鈴仙殿も私の隣でまだ顔を赤くしている。

 

……こんなに美人で強く、可愛らしい人がいるのだ。

 

到底私など見向きもしないだろう……

 

「凪ぃ! 鈴仙! 早く行こうぜ!」

「なーにしとんのや!」

「早く宿に行きたいのー!」

 

三人に呼ばれて私と三人に呼ばれて正気に戻った。

 

「「はい! 今すぐに!」」

 

そう言って私達は三人の後を追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はは…! 屋根のある部屋は久しぶりだなぁ!」

「あ~…もうアカン。疲れた~…」

「疲れたの~…」

 

そう言って三人は一緒になって寝っ転がる。

 

「三人共、みっともないから止めてください」

「エースさん、真桜ちゃん、沙和ちゃんも気持ちは分かりますが…」

 

私と鈴仙殿が荷物をまとめながら注意する。

 

「まあ、それもそうだな。おれは上着を一着買いに行きてえと思ってたしな」

 

そう言って床から跳び起きた。

 

「それならわたしも行きます」

「おう。凪たちはどうすんだ? おれたちと来るか?」

 

エース様の問い掛けに私は少し考えるが、私達には自分の都合があるのを思い出した。

 

「すみません。私たちは自分の都合がありますので」

「おれたちと来りゃいいじゃねえか。な?」

 

笑顔で誘ってくれるのは嬉しいが、これ以上迷惑はかけられないし、かけたくない。

 

「私達は食料の補充に行ってきます。分担すれば効率よくいけるでしょう」

 

そう提案するとエース様は納得してくれた。

 

「そうか…じゃあおれと鈴仙で行ってくるな?」

「ええ。私達はもう少し休んでから行きます」

「分かった。じゃあ行こうぜ鈴仙」

「あ、すぐ行きます」

 

先に行ったエース様を鈴仙殿は荷物をまとめた後、すぐに追い掛ける。

 

その際に見えてしまった。

 

鈴仙殿の赤みがかった笑顔を……

 

「……なあ凪ぃ」

「……」

「凪ちゃん?」

「……」

「「凪(ちゃん)!!」」

「うわ! 何だいきなり!!」

「いきなりやないで。さっきから呼んでるのに上の空やったやん」

「え?」

 

そうだったのか?

 

……二人には恥ずかしい所を見られてしまったな……

 

「凪ちゃん。本当はエースさんと行きたかったんじゃないのー?」

「いや…そんなことは……」

 

本当は行きたかったが……私なんかと行っても面白い訳がない……

 

「…そんなことよりも私達も買い物に行くぞ。私は先に外で待っている」

 

これ以上エース様のことについて言われたくなかったから私は何も聞かずに外へ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 三人称

 

凪が部屋から出た後、残された真桜と沙和は大きい溜息を盛大に洩らした。

 

「全く……奥手もあそこまでいくと呆れるで…」

「どうする~? このままだと…」

「分かっとる。でも、ウチ等はなんとか隙を見つけてくっ付けさすことしかできへんで?」

「やっぱ凪ちゃん自身の問題なのー…」

 

そう言って二人で再び溜息を吐く。

 

「これ以上待たすとアレやし、はよ出よか?」

「さんせー、なのー」

 

そう言って二人は凪の後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 鈴仙

 

賑やかとはいかないけど街を練り歩く。

 

そこらには故郷の村には無かった物がたくさん売られていてちょっと面白い。

 

だけど……今は……

 

「おお! 中々面白い物が売ってるなー!」

 

今はエースさんと一緒に……

 

「……///////」

「? どうした? 顔赤いぞ?」

「え!? いえ! なんでもありませんよ!?」

「?? 体調悪いなら戻って休んどけよ。ここはおれだけで充分だからな」

「大丈夫です! ええ大丈夫ですとも、うふふふふ…」

「そうか。んじゃあ行くぜ」

 

ほぉ~……気付かない内に顔に出てたな~…危なかった~…

 

わたしは一段落して落ち着くとあることを考える。

 

……なんでエースさんをこんなに意識しちゃうんだろ?

 

初めて会ってから家に泊めて何日か過ごしていたから? 鍛錬に付き合ってくれたから? 村の仇をとってくれたから?

 

……本当に気付いたらこうなってた……

 

今まで良いなって思った男の人はいた。

 

だけどここまで…自分で言うのも難だけど動揺するとまではいかなかった……

 

そりゃあ顔はもちろん良いけど、それだけじゃないんだと思う。

 

強いことでも、特別な力を持ってることでも、天の御遣いと言う特別な名前を持っていることがわたしをこんな風にしたんじゃない……

 

「ほう……結構な品揃えだな」

「へい。自慢ではありませんがこの街で服を扱うたった一つの店ですので都からの品や流行りの服まで全て揃っております」

「へへ…なら一安心だ」

 

気付くとエースさんと一緒に呉服屋に着いていた。

 

そこまで私は考えにふけていたのだろう…

 

エースさんに着いて店の中に入る。

 

「わぁ……綺麗…」

 

思わず呟いてしまうほどだった。

 

周りには見た事も無い服が所せましと並んでいた。

 

色んな帽子や装飾品が並んでいた。

 

そんな光景を見ながら歩いていると、一つの装飾品に心が向いた。

 

それは白い兎の付け耳だった。

 

普段ならちょっと珍しがる所だろうが、何故だかわたしの意識はその兎の耳に行ってしまう。

 

それが可愛いということもあるが、何だか……それを付けて初めてわたしという存在…鈴仙という存在が確定させる……なんかそんな気がする……

 

「おや? その装飾品をお気に入りで?」

「え? ええ…ちょっと可愛いなぁって…」

 

見惚れていたのだろうか、店主の接近に気付かなかった。

 

「何とお目が高い。これは都の洛陽から届いたものでありまして…中々似合う方が見つからずにさまよう耳と噂されているものです」

「は…はぁ…」

 

なんかその噂はちょっと……って思っていると店主の人がわたしの体をマジマジと見ていた。

 

「あの~……何か気になることでも…?」

「いえ、少しお客様の服が珍しくて…」

「わたしの…? この服ですか?」

「はい、二重に着こなしながら快適な動作を見せ、窮屈さを思わせない。また、それでいて厚着なのに女性の魅力を引き立てる…」

 

うわ~…すごい迫力かもしながらわたしの服の見聞を始めちゃった……ちょっと動けないな~…

 

「一体この服はどこで…?」

「はぁ…わたしが小さい頃に村のお婆ちゃんが落ちてた服を見つけて…その服の手触りとか色とかを真似して作ったそうで…」

「なんと!? でしたらその服は今も!?」

「いえ…その服自体も村の外れでボロボロの状態で落ちていて…それにこの前村も黄巾党に攻められちゃって…多分もう…」

「そうでしたか……すみません…無神経に…」

「いえ、その村も村の人達の仇もある人がとってくれて…そりゃあ少し良いかなって…」

「ほう……思い人ですかな?」

「ぶっ!!」

 

な…何を言ってるのこの人っ!! そんな…わたしとエースさんはそんな関係じゃ…

 

「まあとりあえず、もしよければその服の手触りを拝見させてくれませんか? 少し職人魂が疼いて…」

「え!? あ…あぁ…いいですよ…」

「それでは……ほう…結構固い生地でできている…内側は…ふむ…手触りがいい…成程これは…」

 

その間、わたしは店主の人に捕まって動けなかった。

 

そんな中、何気無しにさっきの兎の付け耳の値段を見てみる。

 

うわぁ……結構高いや……こんな中無駄使いもできないし……諦めよう…少し残念だけど…

 

「おーい。オヤっさん。おれはこれを買うぞ」

 

そう言っている内にエースさんの買い物が終わっていた。

 

店主はそれに応えるようにわたしの服から手を離す。

 

「ありがとうございました。大体の材料の見当がつきました。これでわたしも同じ物を作れます」

「…良かったですね」

 

でもこの耳……はぁ…

 

わたしがちょっと…本当にちょっとだけ落ちこんでいると…

 

「鈴仙。お前は先に外で待ってろ。すぐに行くから」

「分かりました」

 

とりあえずわたしは外に出て待つことにした。

 

しばらくすると、買ったであろう上着を羽織ったエースさんが袋を一つ持って出てきた。

 

「おう。待たせたな」

「いえ、それよりも似合ってますよ?」

 

どうやら上着だけのものは無かったらしく、羽織はふくらはぎの所までに達している。

 

だけどエースさんの丈の長さで引きずることは無いだろうな。

 

「ありがとな。まあおれとしては寝る時に冷えなければなんでもいいけどな」

「とてもそうには見えないんですけど…」

 

それなら前も帯か何かで止めてください。

 

羽織っているのにエースさんの腹筋が露わになって……その……すごいと思います………

 

「おお、それと…」

「?」

「ほら」

「え?」

 

エースさんがわたしに袋を渡してきた。

 

これって……

 

「わたしに?」

「まあな。それよりも開けてみろよ」

「う…うん…」

 

何が何だか分からず、言う通り袋を開けてみる。

 

すると……

 

「……嘘…」

 

そこにはわたしが気になっていた兎の付け耳の装飾品が入っていた。

 

え…これ……なんでエースさんが…? エースさんには何も言ってないのに…

 

わたしの頭に少しの疑問と共に、それを上回る高揚感が駆け巡っていた。

 

すると、エースさんの答えで一つの答えが氷解した。

 

「おめえ、それの話を店員にしてただろ? おれも見てたし店員も教えてくれたしな」

「え……でも…値段が…」

「心配すんな。おれの金だし店員も安くしてくれたしな……なによりこれはおれからの礼でもあるしな」

「…お礼?」

 

すると、エースさんはわたしにしか見えない様に、わたしに密着して手を火に変えた。

 

「おれのこの能力はおれの所でも異質な方でな……大抵見た奴は逃げるか襲いかかってくるかだった」

「……」

「本当はお前に見せるのは気が引けた…けどお前はこんな物見ても怖がらずにいつも通りに接してくれたからな」

「当たり前だよ…それまでのエースさんの行動見てたら怖さなんて感じなかった…から…」

 

初めて見た時は…そりゃあ怖いと思ったけど、それがエースさんだと思ったら怖さなんてどっかに行っちゃって……

 

今では本当に頼もしいとまで思ってるよ?

 

その後、エースさんはいつもの無邪気な笑みとは違う、優しげにハハ…と笑って言う。

 

「だから嬉しかったんだ。嬉しかったんだよ」

「……うん」

「それにお前には結構面倒かけた所もあったしな。これはその礼だ」

「……うん/////」

 

やっぱりダメ……平然とい続けようとしてたのに……

 

そんな顔して………反則だよ……

 

そう思いながらわたしは袋を受け取ると、もう一つの疑問も氷解したような気がした。

 

ああ……そっか……

 

わたし……エースさんのそういう純粋な所が……

 

「ちょっと……改まって……恥ずかしいな……」

「そうか? 仲間に感謝するのに恥ずかしがる必要ねえだろ?」

 

……こういう鈍い所も良い所……なのかな…?

 

だとしたら、わたしにもまだ絶好の機会ではないか?

 

最近、凪ちゃんが少し怪しいから…

 

可愛い人がエースさんに好意を持つのは……仕方無いかもしれないけど…

 

できれば……その中で一番でいたい……

 

こうしてわたしは少しの間、エースさんの隣を独占できてすごく幸せだった。

途中で耳を付けたら何か頭の中に見た事も無い光景が浮かんできた。

 

その時見えたのは『永遠亭』の看板が掛かれた建物の外で、わたしと顔も髪型も髪の色も着ている服まで同じそっくりさんが同じ兎の耳を付けた妹と思わせる子にからかわれてたのを見た。

 

一瞬、訳が分からなかったけど一旦置いといてエースさんに似合ってるか聞いてみたら似合ってるって言ってくれた。

 

や…やった…

 

その時、浮かれたわたしは幻のことなんて忘れ、エースさんに呼ばれるまで昇天してしまっていた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。