火拳は眠らない   作:生まれ変わった人

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火事と能力

「はあ…」

 

…何もやる気がしない…

 

私は今、宿に戻って寝転がっている。

 

真桜と沙和には忘れ物と言って待たせてるからいない。

 

相当身勝手な理由だが、今は何もする気が起きない…

 

何故だ?

 

調子が悪いのか?

 

いや、多分違う。

 

なんだか…気持ち悪い…

 

私は正体の分からない怠さを我慢し、また真桜たちの元へ戻る。

 

 

「〜♪」

「なんだ? 随分とご機嫌だな」

「えへへ~。そうかな~?」

 

鼻唄を鳴らしながら鈴仙はエースの隣を陣取っている。

 

傍目から見ても浮かれまくっている。

 

その証拠に耳もピョコピョコと可愛らしく動く。

 

(鈴仙の機嫌で動くのか?)

 

耳に若干の疑問を抱くも、やがてどうでもよくなり、そのまま散策を続ける。

 

すると……

 

「お、兄さんやないの」

「やっほー…なの」

 

正面から真桜と沙和が手を振ってやってきた。

 

「真桜! 沙和!」

 

エースが二人を呼んでいると、鈴仙は一人足りないのに気付く。

 

「あれ? 凪ちゃんは?」

「凪ちゃんは忘れ物を取りに行ったのー」

「ふーん…」

 

そんな話をしていると、沙和が鈴仙の付け耳に話題を変える。

 

「そういう鈴仙ちゃんもどうしたのー?」

「え? これ?」

「せや。それどうしたん?」

「え…はい…それは……」

 

鈴仙がモジモジしながらエースをチラチラ見る。

 

その視線に気付いたエースが代わりに答える。

 

「それはおれが買ったんだ」

 

それを聞くと、真桜と沙和は意外そうに言う。

 

「へぇ〜…なんか意外だわ〜…」

「うん。エースさんならもっと厳つい物を買うと思うの」

「おれのセンスじゃねえよ。鈴仙が見てたのを買っただけだ」

「「ほっほぉ〜…」」

 

野次馬二人がニヤニヤしながら鈴仙を見る。

 

鈴仙はそれにたじろぐ。

 

「な…なに…?」

「いやぁ〜…兄さんも案外分かっとるやん…て思って…」

「いいなぁ〜…愛が詰まった贈り物なのー」

「あ…い?」

 

呆然と聞いていた鈴仙だったが、言葉の真意に気付くと一気に顔を紅潮させた。

 

「な…なに言ってるんですか!? エースさんはそう言うつもりじゃなくて……そう! エースさんからのお礼でしょ!?」

「ああ。それはおれからの感謝だ」

「ほら?」

 

取り繕う様な鈴仙に二人は依然としてニヤニヤを止めない。

 

「ホンマか〜?(笑)」

「本当なのー?(笑)」

「う〜〜…エースさんからも何か言ってやってよ〜…」

「? いいじゃねえか。そんな隠すことでもねえんだし」

「そういうことじゃなくて〜…」

 

鈴仙が二人に対処できなくなってきた所で更なる追撃が襲う。

 

「……鈴仙。アンタ口調変わったとちゃう?」

「…え?」

「そうなのー。沙和たちにはそうじゃないけどエースさんにはまた別なのー」

「……ホント…?」

 

鈴仙の一言に真桜たちは目を丸くする。

 

「なんや自分気付いてなかったんかい?」

「ええ…おかしいなぁ…普段はしないのに…」

 

鈴仙の最後の呟きを聞いた真桜たちがまた嫌な笑みを浮かべる。

 

「それはあれや。鈴仙が兄さんに全てをさらけ出したちゅう話や」

「さら…!!」

 

真桜の一言に鈴仙がまた…うろたえるも、二人の話は続いていく。

 

「そう…そして本当の自分を見せ、やがては心の内も全てさらけ出し…」

「そして耳元であま〜〜〜く…『お前が……欲しい』と囁くんや」

「ひぁ……エ……エースしゃんが…わた…わたしを……」

 

真桜と沙和が抱き合いながらのシチュエーション再現を目の当たりにして鈴仙は赤い頬に手を当てて恥ずかしがる。

 

そんな話をしていると、野次馬も聞き耳を立てる。

 

男は鼻血を滝の如く流し、女は血走った目を全開させ、鼻息を荒くして無言で続きを催促する。

 

「そして甘い誘いに誘(いざな)われた白い仔兎はやがて…大人の花を咲かせる準備を……」

「ハァ…ハァ………ゴクッ」

『『『ゴクッ』』』←周りの痴女共

『『『(ボタッ…ジョボボボ…)』』』←周りの男共の赤い体液

 

人が生きてる内にこんな馬鹿共の光景を何回拝めるだろうか?

 

真桜と沙和のミュージカル劇員顔負けの演技で自分とエースを連想させて興奮する鈴仙。

 

美少女もここまで来れば可愛さの微塵も無く、変態にしか見えない。

 

もっとも、周りの野次馬も人の事は言えない。

 

「そして……あぁ! 私は遂に…遂に大人になったの……そして……妙に大人びた兎は他の仔兎たちに聞かれました…『どうしてそんなに大人になったの?』…と…」

『『『…ゴクッ』』』←鈴仙&野次馬オールスターズ

 

遂にミュージカルもクライマックス。

 

それを予感して周りのボルテージも上がる。

 

そして、その予感は適中する。

 

「兎は答えた…『私は殿方と特別な時を過ごしたの…』」

「『特別な時ってー?』」

「そして女の雰囲気が一変し、より大人に、艶やかに、まだあどけない仔兎の耳元でそそる様に言いました…」

「『は・じ・め・て・の・よ・る』…と…」

『『『キャーー!!!』』』鈴仙with野次馬(女)

『『『ブヒィィィィィィ!!!』』』←野次馬(雄豚)

 

村が奇妙な奇声に包まれた。

 

しかし、それを不審に思う者は誰もいない。

 

「そんな…わたしと…エースさんが…男と女の仲に…」

 

鈴仙は鼻血を出しながら虚ろになり…

 

−−−懐かしいわ〜。旦那との初夜…

−−−まだあの頃はピチピチだったわね……

−−−あの頃の女房はまだ可愛かった……

−−−くそっ……俺もいつかは…

−−−ブヒィ!! ブヒィ……!!

 

周りでは愛執の情、僻みなど様々な感情が渦巻いていた。

 

「はわわ…凄い話…」

「あわわ〜…だ…大胆〜…」

 

誰かの呟きも周りの喧騒に掻き消されていった。

 

 

 

 

一方、問題のエースはと言うと…

 

「これは…肉汁の宝箱や〜↑」

「あら、あんた中々嬉しい事言ってくれるね…ほい、じゃあもう一個おまけね」

「お、ありがとなオバちゃん」

 

鈴仙とは離れた所で肉まんを頬張っていた。

 

 

おかしいな…街を歩いてるのに人が見当たらない。

 

さっき歩いてたら人がいたのに…

 

まあ街から忽然と消えた訳ではないのは分かる。

 

何やら声が遠くから聞こえてきたからだ。

 

その歓声の中に家畜の声も聞こえた。

 

大丈夫なのか?

 

そう思っていると、前方から鈴仙殿、真桜と沙和が来るのが見えた。

 

「おお、凪やないの」

「忘れ物はもういいの?」

「ああ、待たせて悪かった」

 

本当は少し休んでたことは伏せておいて…というか鈴仙殿の頭の兎耳は…

 

「鈴仙殿。それは?」

 

すると、鈴仙殿はそれを触って答える。

 

「これですか? これは…その…////」

 

顔色が劇的に赤くなった。なんだ?

 

そんな疑問に真桜が一歩前にでてきて代わりに答える。

 

「実はな〜…これは…かくかくしかじか…てな訳や」

「そうか…良かったですね…」

「あ…はい…」

 

鈴仙殿はさっきとは違って歯切れが悪いが…私はそれに構う事無く妙な感覚に襲われる。

 

それは形容し難いドロドロした物が胸の内でうごめく感じだ。

 

なんだこれは?

 

今まで生きてきた中でこんな感覚に襲われた事がない。

 

なんだか…苦しくて…嫌な感覚だ…

 

「真桜、沙和。もう買う物は買ったのか?」

「え…う…うん…完璧やで」

「もうすること無いのー」

「そうか、じゃあ後は…」

 

自分の気持ちを隠す様に話を続けようとすると…

 

「なんだこんなとこにいたのか」

 

私達はエース様と合流した。

 

 

しもた…完全に舞い上がって下手こいたわ…

 

凪の前で鈴仙のこと話してもうた…

 

話を全て聞いた凪は表面上冷静に見せるが、ウチと沙和なら分かる。

 

伊達に長い間付き合っとらん。これは完全に苛立っとる……

 

「真桜ちゃん…」

「…分かっとる。今は下手に茶化さん方がエエで……」

「だよね〜…」

 

凪や鈴仙に聞こえない様に沙和と話す。

というか意外や…あの堅物の凪を数日でここまでオとすなんて…

 

まあ、とりあえず障らぬ神に祟り無し…今は刺激させんとこ…

 

沙和と暗黙の同意を立てる。

 

そんな時…

 

「なんだこんなとこにいたのか」

 

…兄さん…いくらなんでも間が…

 

ついつい悪態をついてしまう。

 

…でも、これは突破口になり得るんやないか?

 

危険は大きいけど同時に上手くいった時の成果も大きい。

 

もうこうなったら兄さんに全て任せる。

 

男を見せてや!

 

 

「エース様」

 

私はエース様を呼んでいた。

 

それに応えて手を振ってくれる彼を見て思わず顔が綻んでしまう。

 

そのことに気付いてすぐに表情を引き締める。

 

このまま何も無い様にすれば気付かれないだろう。

 

「どうした? 顔赤いぞ?」

「そ…そのようなことは…」

 

落ち着け私! 一旦落ち着こう私! まずは赤い顔をなんとかしよう! 氷だ、いつものように氷の様に冷たい精神を思い出せ私!

 

「今までどこにいたの?」

「お前等の話長かったから肉まん食ってきた」

「ああ…通りで…」

 

鈴仙殿はホっと溜息を吐く。

 

何かエース様に聞かれては不味いことでもあったのか?

 

「とにかく帰るか。もう用事も済ませたしな」

「そうですね。行きましょう」

 

私はエース様に同意して一緒に歩くと、後の三人も追い掛けてくる。

 

「それが買った服ですか?」

「ああ。最近野宿ばっかだったからな。こういうのも必要じゃねえかなってよ」

「そうですね。良く似合ってますよ」

「そうか? ありがとな」

 

エース様の屈託の無い笑顔を見ると、さっきまでの感情が嘘の様に消えていた。

 

自分でも不思議に思う。

 

初めて知り合って数日しか経っていない相手にここまで感情を左右されるとは…

 

修行不足…という物ではない。

 

もっと根本的な…まるで人の性というべきか…

 

この感情が何であるか分からない。

 

だけどこんな時間を過ごしていたい。

 

そんな事を思っていた。

 

だが、そんな願いもちょっとしたことで崩れる物だった。

 

 

 

 

 

「大変だー! 火事だー!」

「「「「「!!」」」」」

 

村人の叫びに反射的にエース様たちは反応する。

 

確かに、注意してみると焦げ臭い。

 

そして、さっきまで見えなかった黒煙まで立ち上がり始めてきている。

 

待てよ…この方角…まさか…!?

 

「凪!?」

 

私はすぐに火事の元へと走る。

 

なんだか嫌な予感がしたからだ。

 

私は一心不乱に走り続けると現場にはすぐに辿り着いた。

 

予感も的中してしまった。

 

予感通り、燃えていたのは私達の宿だった。

 

激しく燃え盛る炎を取り囲む野次馬もいる。

 

そんな野次馬の後方で燃え盛る宿を見ていると…

 

「いやぁぁ! 離して!! まだ中に子供がぁ!!」

「落ち着けって! 今行ったらあんたも焼かれちまうよ!」

 

野次馬を無理矢理押し退けて業火の中に飛び込もうとする婦人とそれを抑える数人の男性を見つけた。

 

中にまだ子供が!?

 

「おい嬢ちゃん!! 何を…!!」

 

私は衝動に任せて焔の中に飛び込んだ。

 

 

おいおい…冗談だろ…?

 

よりにもよっておれ達の宿が燃えてやがる……

 

真桜達もおれと同じ様に目に見えて驚いている。

 

まあ、原因は分からねえけど燃えたのが荷物だけで良かったぜ…まあ今ならおれが飛び込んで確保できるけど鈴仙との約束もある。

 

それに手持ちもまだあるし、黄巾党って奴を倒せば金も入ってくるから困ることは無え。

 

……にしても海賊だったおれが賞金稼ぎをすることになるとはな…つくづく分からねえモンだ。

 

そんな風にしんみりしていると、ギャラリーから騒ぎが起こった。

 

どうやらガキ一人取り残されたらしい。母親らしき人物が取り乱している。

 

しょうがねえ…バレねえ様に誰もいねえとこから入るか。

 

などと思っていたその時…

 

「おい嬢ちゃん! 何を…!!」

 

そんな声と共に火事に突っ込む一人の影を捉えた。

 

あの後ろ姿は…まさか…!

 

「凪!」

 

おれと同じく正体に気付いた真桜が声を張り上げる。

 

あいつ…早まりやがって…!!

 

内心舌打ちしながらおれはすぐに後を追い掛けるために助走を付けて野次馬を飛び越える。

 

「ちょっ…」

「飛んだ!?」

「エースさん!?」

 

沙和、真桜、鈴仙と一緒にギャラリーも何か言ってるが、知ったことじゃねえ。

 

おれは燃える業火の中に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 凪

 

熱い…肌が焼ける…急いで子供を…

 

私は炎と煙が立ち込める宿を足早に散策する。

 

−−−うえええん…

 

良かった…まだ生きてる…

 

小さく聞こえた泣き声から場所も分かる。幸いにもそう遠くは無かった。

 

その甲斐あって戸が崩れて丸見えになっている部屋の片隅で泣いている男の子を見つけた。

 

歳は五、六なのかとても小柄だ。

 

あれなら背負っていける。

 

そう思い、男の子に声をかける。

 

「大丈夫か!?」

「くっ…!?」

 

つい声を荒げて怖がらせたのに罪悪感を覚えるが、今はそれどころではない!

 

「今からここを出よう。母上殿も心配しているぞ?」

「うぅ…かかさまぁ…」

「そうだ。かか様に会いたいだろう?」

「……(コク)」

 

先程より優しく言ったのが功を制したのか素直に頷き、背中を向けて屈むとその意味を理解してくれた。

 

ゆっくりだけど背中にしがみついたのを確認して頬と共に気が緩む。

 

 

それがいけなかったのだろう…

 

突如、炎の波が部屋に入り込んだ。

 

「!!」

 

私は咄嗟に横に跳んで事無き得た。

 

危なかった…ここが部屋の中だったのが幸いした…入口の傍で炎をやりすごせた…

 

もし通路に出ていたら逃げ場もなく……

 

「けほ…こほ…」

 

しかし、そんなことを考えてる場合でもない。

 

子供の体力も……いや、私にも言えるように体力が持たない……

 

とりあえず、また波が来る前にここを出よう。

 

私は部屋を出てできるだけ走る。

 

通路は既に火の海と化している。

 

それでもまだ床は崩れておらず、通路自体はそう長くは無い。

 

このまま私が入ってきた所まで行こうと意気込み、通路の曲がり角を見据える。

 

あそこを抜ければ…

 

しかし…

 

そこを曲がろうとした瞬間、曲がり角の向こうから新たな火の波が向かってくるのが見えた。

 

「!!」

 

またしても咄嗟にかわし、通り過ぎた火は壁に当たって霧散した。

 

しかし…

 

「あ……う…」

 

痛い…さっきので足を燃やされた…

 

足に力を入れようとすると激痛が走る。

 

「…!!」

 

ここで悲鳴を上げてしまえばこの子に不安を与えることになる。

 

「はぁ…はぁ…」

 

だが、不安よりも先に命が危ない。

 

こんな熱い中にどれくらい入っていたのだろうか…私の視界も霞んで…

 

「あぁ…」

 

…不味い……どうやら私もそろそろ限界が近い…

 

速く…動ける内に出口へ…

 

そう思って私は痛みを堪えて曲がり角を曲がると…

 

「なん…だと…」

 

何と言うことだ…天井が崩れて通路が塞がれた…

 

さっきの爆発で壊れたのか…

 

くそ……これではこの子どころか私まで…

 

ドカーン

 

「!!」

 

またこの音! 不味い! 後ろからか!!

 

振り返ってみると、また火の嵐が私達に襲いかかってくるのを見た。

 

本当に不味い!! こんな所に隠れる場所もないのに…!!

 

打つ手が無いと分かった私はそれでも諦めきれずに打開策を模索しようとする。

 

しかし、それと同時に心のどこかで自分の死期を悟っていた。

 

その証拠にもう目と鼻の先の炎もゆっくりと動いてる様に見える。

 

 

 

 

あぁ…これが走馬灯という奴なのか……

 

私は……国を変える何かをしたくて腕を磨いてきた…

 

そんな私に真桜と沙和も付いてきてくれて…

 

ごめん……後は頼んだ……

 

短い謝罪も終わり、せめて子供だけでも守るかのように背中から下ろして抱きしめる。

 

しかし、それはあまり意味を為さない。

 

まさに蟻が津波から我が子を守るために立ちはだかるような物だ。

 

しかし、彼女は抱きしめずにはいられなかった。

 

少しでも…幼く尊い命が生き残る方法を確立するために…

 

そこで…再び時は動きだす。

 

地獄の業火が私達を葬らんとこの身を飲みこむ

 

 

 

 

 

筈だった。

 

 

陽炎(かげろう)!!」

 

突如、通路を塞いでいた瓦礫が音を立てて爆発し、極太の炎が飛び出してきた。

 

私は炎に挟まれたかと思い、益々力強く子供を抱き寄せる。

 

しかし、その炎は私の横を通り過ぎ、一方の炎と衝突した。

 

その炎はいともたやすく炎をかき消した。

 

「まったく…」

 

そんな光景と共に最近聞き慣れた声が響いてきた。

 

「世話の焼ける弟子だぜ…」

 

そして、炎の中から彼が……現れた。

 

「呆れた無茶しやがって」

 

危機感の欠片もない様子でエース様が……炎の中から現れた。

 

 

エースが追いかけた直後、いきなり入口が瓦礫で塞がったのを見た時、エースは間一髪だったと内心で肝を冷やした。

 

野次馬の面前で能力使って騒ぎが起こると面倒だったが、今では辺り一面火の海。

 

人っ子一人いない状況はエースにとってまたとないチャンスだった。

 

エース自身も炎であるため、火事なんてものは障害の内には入らず、スムーズに凪を見つけることができた。

 

とりあえず、凪の場所を予測し、瓦礫を壊すために陽炎で壊した。

 

すると、その近くに凪がおり、今にも炎に呑まれそうではないか。

 

当然、エースは勢いに乗って炎をかき消す。

 

しかし、仕方無かったとはいえ、凪に見られた。

 

鈴仙が心配してとりつけてくれた約束も破ってしまったことに罪悪感がよぎる。

 

でも、仲間を失うことに比べればそんなことは何てことはなかった。

 

エースはすぐにぐったりとしている子供を見て状況を判断する。

 

「凪、これでそいつとお前の口を塞げ」

「……」

「凪、色々と言いてえことはあるかもしれねえが今はそんな時じゃねえ」

「あ…はい!」

 

再びかしこまった凪に安堵するも、凪に羽織を渡す。

 

凪も指示通りに子供と自分の口を千切った羽織で塞ぐ。

 

しかし、凪自身ももう体力の限界が近く、フラフラだった。

 

そんな時、またしても後方から爆発が起きた。

 

凪とエースが後ろを見ると火の嵐が襲いかかろうとしてきていた。

 

「エースさ…」

炎上網(えんじょうもう)!!」

 

凪が思わず叫んでも、エースは再び腕を燃やし、その炎で巨大な壁を作って火の嵐を防ぐ。

 

「……」

 

凪は初めてエースの能力を目の当たりにして虚ろながらも驚きを隠せない。

 

しかし、そんな彼女を差し置いてエースは凪の体を羽織りで縛り始める。

 

「エース様…なに」

 

それ以上声が出せなかった。

 

凪の体力が限界であったからだ。

 

「やっぱりな。脱水症状を起こしてやがる」

 

エースの懸念していたことが起こってしまった。

 

通常、人は気温が暑くなると熱くなった体を冷やすために汗をかく。

 

しかし、その汗にも限りがあり、汗が無くなると体も冷やせずに体は熱くなっていく。

 

そして、体温が42℃を越えると体の血液のタンパク質が固まって非常に危険である。

 

やがて、筋肉の塊である心臓も固まり、活動を停止するのである。

 

実質、凪の汗の量が有り得ない程少なかった。

 

炎であるエースは汗をかかずとも大丈夫なのだが…

 

エースは苦しく呼吸する凪を羽織で縛って自分の背中におぶる。

 

子供ももちろん忘れずに。

 

火銃(ヒガン)!!」

 

エースは銃を指で型取り、指先から炎の弾丸を飛ばす。

 

そして、壁に打ち込んで円形状になぞるように穴を開ける。

 

(後で鈴仙に謝っておくかな)

 

などと考えながらエースは火銃をぶつけた壁を蹴り倒すように壁に突っ込む。

 

火銃でなぞった部分が連鎖的に壊れ、エース達は太陽の当たる涼しい外に出た。

 

 

「凪…」

「凪ちゃん…」

 

今、真桜ちゃんと沙和ちゃんは私の隣で凪ちゃんを心配している。

 

確かに凪ちゃんのことはとても心配です…

 

エースさん……

 

「大丈夫ですよ…」

「「え?」」

 

二人が「なんで?」といった表情で聞いてくる。

 

しかし、わたしは確信している。

 

「きっと…いえ、絶対エースさんが助けてくれますよ」

「いやな……確かに兄さんがすごいのは知ってるけど……」

「あんな熱い所じゃあいくらエースさんでも…」

 

まあこれが普通の反応ですよね…

 

でも、エースさんは炎人間だから大丈夫だから絶対凪ちゃんも…

 

バガーン

 

『『『!!!』』』

「悪い! 遅くなった!!」

 

ですよねー。

 

予想通りというか…目立ち過ぎ…

 

でもエースさんは凪ちゃんと子供を抱えてるのを見るとやっぱりホッとしてしまう。

 

べっ別に信じてなかったわけじゃないんだからね!?

 

…とまあ、ひとまずはこれで良しとしましょう。

 

真桜ちゃんも沙和ちゃんもそれに周りで見ていた村の人達や母親らしき人から歓声が沸き起こる。

 

「凪!! よかっ…」

「お兄さんすごー……」

「すげえぞ兄ちゃん!! かっこいい…ぞ…?」

 

? あれ? なんだか周りが静かになっていってる気が…

 

「に…兄さん…」

「あわわわわわ……」

 

真桜ちゃんも沙和ちゃんも静か…というより顔が青ざめていく。

 

まさか…エースさん達が怪我を…!?

 

そう思ってエースを見た時、私は固まってしまい、多分…いや、絶対に顔を青くしただろう。

 

何故なら……

 

「よう。ここに医者はいねえか?」

『『『腕が燃えとるーーーーーーーー!!!!』』』

 

この時、エースさんの左手から肩にかけて燃えている体を見て私までもが絶叫してしまいました……

 

 

 

 

 

きゃーーーーーーーーーーーー!!!


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