火拳は眠らない   作:生まれ変わった人

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ご愁傷様

村の明かりが消え、静寂が街を包みこむ。

 

昼の喧騒は消え、人っ子一人見当たらない。

 

しかし、街の外には何かがうごめいている。

 

その地面には赤い液体と動かない人影が倒れている。

 

「よし、準備はできてるな?」

「へい、門番も全員始末しました」

「よし、なら…」

 

大柄の男はなるべく音を立てさせない様に部下を誘導させて門をくぐっていく。

 

ここまでは順調。

 

最近は軍と交戦続きで食料も底を尽きかけていた。

 

そんな時の吉報。

 

兵の少ない食料と女の宝庫。

 

いくら知に優れてても力づくならそこらの女と変わりはない。

 

まさか相手がこんなにも少人数で一点集中で襲いかかってくるとは思ってないだろう。

 

「さあ……宴を始めるか…」

 

知らぬ間に垂れた涎を拭き、門をくぐり、闇の中へと身を潜めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かぁ~…くぅ~…」

 

エースは狭い部屋の中で眠りについていた。

 

他の全員もエースのいびきを物ともせずに休息を取っている。

 

「……」

 

趙雲以外は……

 

趙雲の視線の先にはエースがいた。

 

待ち遠しい。

 

試したい…この人がどれだけ強いのかを……そして知りたい……自分とこの人とではどれくらいの差があるのかを……

 

趙雲の心境は、遠足の前日に楽しみで眠れない子供だった。

 

理由としては子供のソレとはいささか物騒だとはツッコマないでほしい。

 

「ふふ…」

 

不意に上げてしまった笑いを途中で止め、再び寝ようと試みたその時……

 

ゴトン

 

「…?」

 

遠くから音が聞こえた…気がした。

 

「……」

 

趙雲はゆっくりと掛け布団をどかして立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい…何してやが…る!」

「イテッ! すいやせん…」

「たく……もっと静かにしろ……」

 

エースと水鏡が話した庭園にうごめく幾つかの影があった。

 

その人影は皆、頭に黄色い布を巻いている。

 

「でも、結構ちょろいもんですね」

「ああ、こんな簡単に入れてくれるなんて…話がうますぎて疑っちまうぜ」

 

互いに笑いながら胸を躍らせる。

 

「そうか、それならお帰り願おうか」

 

そんな中、闇の向こう側から凛とした声が響く。

 

「誰だ!?」

 

暗闇の中から声が聞こえたのに警戒する賊達は粗末な剣を抜く。

 

視界を断絶させる暗闇の中から足音が聞こえ、音も大きくなっていく。

 

賊達の緊張はマックスにまで上がる。

 

そして、暗闇を抜け、庭園の舞台に上がってきたのは……

 

「こんな見事な満月の夜に、ズカズカと押しかけてくるのは無粋ではないか?」

 

月明かりのスポットライトに照らされた趙雲だった。

 

白い衣服を身に纏い、朱色の槍を構えるその姿は、そのまんまの意味で輝いていた。

 

そんな趙雲を見た賊は剣を収めて安堵した。

 

「なんだ、女かよ…」

「おい、それよかいい女じゃねえか? 胸もでけえし顔も上玉だ」

「クク…どうやらついてるようだな。おい女、わりいことしねえからこっちに来い」

「へへ…アニキ、そりゃあからさますぎですぜ」

 

趙雲が女だからと油断し、賊は欲望を隠そうともせずに趙雲に近付いて行く。

 

それに対して趙雲は……

 

「……落ちぶれた賊に物の雅を説くのが間違いだったな」

 

落胆の色を見せるのも一瞬、趙雲は槍で一閃。

 

すると、近付いて来た賊は吹き飛ばされ、頭のすぐ傍まで吹き飛ばされた。

 

それを見た賊達はその光景に目を疑い、危険を察知して剣を再び抜く。

 

「てめえ!! 何しやがる!!」

 

その怒号に対し、趙雲は槍を肩に担いで囲まれている状況にも関わらず、飄々と返す。

 

「生憎、私には貴様等の様な下郎に捧げる身体もありはしないのでな」

「こ…このアマ…!」

「それにここは貴様等の様な下衆共が足を踏み入れていい場所ではない。早々にお引き取り願おうか」

「! この野郎!!」

 

趙雲の挑発に耐えられなくなった賊が集団で襲いかかってくる。

 

粗末な剣を振りかぶった賊達が趙雲に振るおうとしたその時……

 

「猛虎蹴撃っ!!」

「はぁ!!」

 

闇の中から光る弾と人影が現れ、賊達を一掃する。

 

飛びかかった仲間が何かに妨げられ、倒されるのを見て他の賊の足がすくむ。

 

そんな中、次々と暗闇の中からその正体が露わになる。

 

「他人の敷地に忍び込むなど不届き千万!! この虎の一撃で貴様等賊共を叩く!!」

「ここから先は踏み込ませません!」

 

凪と鈴仙が現れた。

 

その二人の姿を見た一人が大声を出して二人を指差す。

 

「あ! てめえ等…兎女と傷女!!」

「貴様…!! 昼間の…!」

「なんでここに…」

 

二人が昼間の料亭で暴れていた大男だと気付き、何故ここにいるのかと疑問に思っていた。

 

その答えには趙雲が答えてくれた。

 

「なるほど……大方、女人の集まる場所を餌に取り入ったのだな……」

「ああそうさ! そして、てめえ等にも礼を返してなかったからなぁ!!」

 

憎しみの感情を二人に向けていると、更に他の声が聞こえてくる。

 

「ちょおオッサン。さっきの傷女って……まさか凪のことじゃないやろなぁ?」

「もしそうだったら、沙和達が黙ってないの」

 

暗闇の中からドリル状の大きい槍を構えた真桜と、二刀流の沙和が出てきた。

 

しかし、二人の出現にも意を介さず、賊は怒りをぶつける。

 

「うるせぇ! んなこたぁどうでもいいんだよ!! てめえ等を犯すのは後のお楽しみだ! それよりもあの男出しやがれ!! ぶっ殺してやる!!」

 

鼻息を荒く、顔を真っ赤にさせて怒る男にその場の全員が呆れる。

 

「はぁ…あのな…あんたみたいな小悪党が兄さん倒せる訳ないやろ…」

「相手はもっと選んだ方がいいの~」

 

その中でも、凪と鈴仙の反応が顕著だった。

 

「どうやら貴様はあの方との差を理解できんようだな」

「多分、一生無理かと…」

 

次々に投げかけられる言葉に男の沸点は一気に振り切った。

 

「だったら力づくでやってやるよ!!」

 

男の号令と共に、多数の賊達が五人に襲いかかる。

 

五人は姿勢を低くし、賊達と対峙する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで全員ですね~」

 

程イク、戯志才、水鏡は塾の中で生徒達の誘導をしていた。

 

現在、エース達全員は一際広い、水鏡の部屋にいる。

 

「もう一度点呼させてください。だれか一人でも欠けていないか確認します」

「ええ」

 

戯志才と水鏡が確認を取ろうとする。

 

その時…

 

「よっ」

 

入口から軽い口調でエースが三人に声をかけた。

 

三人はいきなりの声に身を震わす。

 

「!!……エース殿でしたか……」

「どうでしたか? お兄さん」

「おお、お前等の指示通り、裏口から戦力を見てきたけど……たったの100くらいだったな」

「そうですか……それなら星殿達なら充分ですね」

「はい、これだけ騒ぎが起きてるのですから…この街の警備隊もすぐに来るでしょう」

 

三人は淡々と答えるが、水鏡には一つの懸念があった。

 

「ですが、相手が賊とはいえ、裏口から回り込まれれば危険です」

「そうですね~…対賊用に見つかりにくい扉とはいえ、入られたりしたりしたら…」

「このまま見つからなければいいのだが…」

 

三人が思案していると、エースは口を吊り上げて答える。

 

「ああ、それはもう手ぇ打っといた」

「?…手を打ったとは?」

「そのまんまの意味だよ」

 

エースが後頭部に頭を組んで寝っ転がる姿勢を見せる。

 

それを見ている三人は首を傾げ、そんなことをするのも無駄だろうと思い、思案を止めて趙雲達の無事を願う。

 

この塾は水鏡が現場監督を請け負って建てた建物。

 

賊の対策もいくつかしてある。

 

その例として上げるなら、立地場所と裏口である。

 

立地場所はいくらか高い場所で、街の門と外の広場を見渡すことができる。

 

エースはそこから敵の大体の戦力を計った。

 

そして、その賊が攻め込めないように裏口と壁の色が丸っきり同じ。

 

要は、カメレオンみたいに隠してあるのだ。

 

それで幾らか時間を稼げる。

 

しかし、エースは直前にミスを犯した。

 

戦力確認のため、不意に裏口を開けると……

 

「………」

「……よぉ兄ちゃん。わざわざ入口を教えてくれたのか?」

 

既に賊が数十人も闊歩していた。

 

エースはやっちまった…と言わんばかりに頭を掻いて自分の迂闊さを後悔する。

 

「よし、このままどいてくれるなら見逃してもいいぞ?」

 

得意気に笑う賊にエースは気持ちを切り替え……

 

「誰が聞くかバカ」

「は?…グフゥ!!」

 

男の顎に強烈なキックをお見舞いさせた。

 

吐血しながら倒れる仲間を見届けると、怨嗟の念を燃やし始め、エースに剣を抜く。

 

しかし、多数の強烈な念を一身に受けてもエースは動じず、不敵に笑う。

 

「ワリィな…ここから先は一方通行だ」

 

裏口を閉めて向かい合う。

 

「ちょっと……ケジメつけさせてもらうわ」

 

それを機に、賊達はエースに跳びかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ…」

「ば……化物……」

 

結果、推定30人の血達磨の賊達が山の様に積み上げられ、裏口をスッカリと塞いでいた。

 

 

 

 

 

 

「喰らいや!」

「せーい!」

 

真桜の螺旋槍は賊を貫き、沙和の二刀流は賊を切り裂く。

 

「ほぅ…」

 

趙雲は二人の実力に少しだけ嬉しい誤算を感じた。

 

「李典! 于禁! お主等も良い物を持っている…な!」

 

複数の賊を一槍で全て吹き飛ばす。

 

趙雲の問いに真桜達は答える。

 

「たりまえや! ウチ等とて兄さんに無理矢理修業されとるんねや!!」

「強くならないと、沙和達が死んじゃう…の!」

「ふ…左様か!」

 

三人で敵の攻撃を避け、受け止め、反撃しながら軽口を叩き合う。

 

「三人共! あまりふざけないでください!!」

「まだ敵の数さえ分かってないんですから!!」

 

三人に激を飛ばすのは、凪と鈴仙の格闘派。

 

凪は拳に氣を溜め、威力を倍増させ、武器さえも砕き、相手を無力化させる。

 

鈴仙はスピードと柔軟さを生かし、相手の頭上を飛び越えながらの蹴り、足払いなど、予測もできない攻撃を相手の死角から仕掛けて倒していく。

 

力で砕き、速さで翻弄し、技で斬る。

 

二人で足りない部分を補い合う完璧な布陣が二人の間でできていた。

 

これもエースとの修業の成果でもあり、競い合う二人ならではの戦法である。

 

そんな二人に三人は頼もしさを感じていた。

 

「ふふ…それなら賊が消えるまで叩けばいいだけ」

「凪ちゃんと鈴仙ちゃんがいるから楽なの~」

「ていうかもう二人で全滅させた方がいいんちゃう?」

「「絶対無理!!」」

 

そんな軽口を叩き合う内は余裕であることを示していた。

 

それを見て頭もイライラしている。

 

「おい! 何チンタラしてやがる! さっさと始末しやがれ!!」

「む…無理ですよ~…もうそろそろこっちの数もヤバくなってきやしたし…」

「くそ!…裏口に回った奴等からの報告はまだか!?」

 

念のためにあらかじめ忍び込ませていた部隊がいたのだが、突入して時間も大分経った。

 

苛立ち、焦燥、不安。

 

そんな感情に支配されてきた賊達に更なる追い討ちが頭上で待っていた。

 

「わりいな。お前等のお友達は今頃おねんねしてるぜ?」

『『『!!』』』

 

全員が声の先……木の上の枝に視線を向ける。

 

すると、そこには木にもたれかかるエースがいた。

 

「エースさん!?」

「あ! て…てめえ!!」

 

賊達はともかく、凪達もエースの出現に驚愕した。

 

「おいてめえ! いますぐ降りて来い!! ぶっ殺してやる!!」

 

男は昼間の恨みを思い出し、怨嗟を込めた怒号を張り上げる。

 

それに対し、エース達は……

 

「エースよ。風達はどうした?」

「あぁ、もう心配することじゃねえと思ってよ。加勢しようと思ってたけど…もう大丈夫だな…」

「無視してんじゃねーーーーーーーー!!」

 

男を完全に無視してエース達は話を進めていく。

 

「もう大丈夫とは?」

「いやな、裏口から見たんだけどよ、こいつ等の戦力って100くらいしかなくてよ」

(ギク…)

「100って…また粗末な…」

「多分、大人数で対抗するより少人数で騒ぎを起こさずにいけば上手くいくと思ったんとちゃう?」

「まあ、戦力はそれだけなのだからそれしか打つ手が無かったのだろう?」

(ギク…ギク…)

「そんで、裏口にいたのは30くらい……で、ここで倒れてるのは40くらい…だから後30ってとこか」

(……)

 

凪達の予測は全て核心を突いているのに、賊の表情が段々と悲惨になっていくのが分かる。

 

というより、賊にはどうしても納得できないことがあった。

 

「それよりてめえ! なんで裏口に行った奴等を知ってやがる!! ていうか何でてめえは…!」

 

ここにいるのか。

 

本当は分かっている。しかし、認めたくはなかった。

 

自分達にとって都合の悪い状況など受け入れたくなかったのだ。

 

そんな心の葛藤を余所に、エースはアッサリと答える。

 

「さっきも言った通り、もう遅いからおねんねさせてもらったぜ」

 

一人残らず…な…

 

最後に言った言葉まで聞いてしまった賊達の顔色が一気に青ざめた。

 

それと同時に、つい最近味わった恐怖感が蘇っていた。

 

最近までは600という圧倒的な数で大地を闊歩していた。

 

しかし、その大軍団もほぼ壊滅にまで追い込まれた。

 

飛将軍・呂奉先によって…

 

突如現れた規格外。

 

見た事も無い勢いで仲間を倒していく様はまさに鬼神。

 

命からがら逃げてきたのは記憶に新しい。

 

しかし、そんな脅威が今まさに目の前で口を開けて待ち構えている。

 

もはや引き返すこともできない。

 

もう二度と無いだろうと自分に言い訳し、不安から逃れるために蓋をした辛い経験。

 

それから逃れた結果が今につながった。

 

それを察したのか、後方の賊達は音を出さずに逃げ出していく。

 

それを目にしたエースは…

 

「…おれはもう出なくていいな…」

 

弱い者イジメになると思い、賊達に向かって心の中で合掌した。

 

「それでは…早々に引導を渡してやろう」

 

趙雲の一言で目の前の現実に引き戻された賊達は武器を握る気力さえも失い、武器を落としていく。

 

ー――いや…あの…もうこんなことしないから…ってちょっと待ってってギャアアァァァァァァァ!!

 

その夜、悲惨な悲鳴と打撃音がBGMとして街中に広まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「重ね重ね…本当にお世話になりました…」

 

早朝、まだ辺りが薄暗いほど早い朝の庭園にエース達はいた。

 

水鏡はすぐ傍にある人“だった物”から目を逸らしながらエース達に頭を下げる。

 

それに対して、エースは気さくに笑って返す。

 

「なに、あんたもおれ達を泊めてくれたし、飯まで世話になったからな。気にすんな」

「ふふ…そうですか」

 

笑い合う二人だったが、突然、水鏡は何かを思い出した様に両手をポンと叩き、懐から一枚の何重にも折られた紙を出してエースに手渡す。

 

不思議に思ったエースは紙を広げてみる。

 

すると紙の中には押し花が挟まっていた。

 

花に感心の無いエースでもその花を知っていた。

 

「…紫苑と桔梗か……」

「はい。よく言えました」

 

水鏡の子供を褒めるような口調に溜息を洩らす。

 

しかし、不快ではなかった。

 

エースにとってこの二つの花の花言葉は特別だったからだ。

 

そんなエースに水鏡はもう一度言い聞かせる様に伝える。

 

「時々は自分と自分の周りを見直すことをお勧めします」

「…わーったよ」

 

微笑んで言う水鏡の真意にエースは気付き、ついつい笑いながら曖昧に返事する。

 

「それと、一つ頼んでもいいですか?」

「ん? ああ、構わねえよ」

 

二つ返事で承諾するエースに水鏡はニッコリと微笑んで伝える。

 

「それでは、もし旅の最中に諸葛亮、鳳統と名乗る二人の子……そう言っては本人は怒るんだけど、その名を持つ二人に会ったら伝言をお願いします」

「なんて?」

「『時々でいいから辛くなったら帰ってきてね』…と…」

「…あぁ、会ったら言っとく」

「ありがとうございます」

 

礼儀正しくお辞儀する水鏡にエースもお辞儀で返す。

 

「何から何まで…本当にごちそうさまでした」

「エース様…それはご飯の礼しかしておりません」

 

突っ込まれたエースを水鏡はクスクス笑う。

 

こうして、エース達は水鏡女私塾を旅立った。

 

エース達も水鏡も互いの姿が見えなくなるまで見送っていた。

 

そして、エース達の姿が見えなくなると、水鏡は静かに呟いた。

 

「…あなたは決して鬼の子じゃない……人の本質を決めるのは“血”ではなく、“その人の中身”です……もっと自分を誇ってください……“灼熱の御遣い”様」

 

その言葉は風に乗り、エース達が向かって行った方に流れて行った。

 

それを見届けた水鏡は身を翻し、塾の中へと戻る。

 

これからの未来に羽ばたく宝石の原石を育てるための一日を送るため…喝を自分に入れて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――……

 

「……」

「? どうなされましたか?」

「いや……何でも…」

 

風と共に何かを聞いた気がした。

 

それは気のせいかもしれない。

 

けれど……

 

「おれ……」

「?」

「水鏡みたいな奴…結構好きだな」

「「!!」」

 

ニシシと笑って何気なく答えたエースに凪と鈴仙は衝撃を受ける。

 

「おや、エースは水鏡殿のような高齢の女性が好みか?」

 

そこに第三者の茶々が入るが、エースは手を振ってやんわりと否定する。

 

「そんな感じじゃなくて……なんつーか……良い奴だったからな!」

「…良い奴…まあ…分からないことではないのだが…」

「とにかく、おれは水鏡のこと気に入ったな!」

 

満面の笑みのエースに、凪と鈴仙はこころなしかホッとする。

 

真桜と沙和はそれを見て楽しんでる様子だが、それよりもエースには気になることがあった。

 

「それより、お前等はなんでおれ達に同行すんだ?」

 

そう言うと、趙雲、程イク、戯志才に聞いてみる。

 

三人は各々理由を述べる。

 

「ふむ、私はこれから北方に行くのでな…一人で行ってもいいのだが、お主達と行くのが面白そうでな」

「私は…風と共に仕えるべき主を探しておりますから…」

「風も稟ちゃんと同じですね~」

「ふ~ん…まあいっか」

 

あまり詮索もしないエースに三人は少し苦笑する。

 

しかし、エースと旅していた四人は首を横に振る。

 

どうやら、彼はそういったことは気にしないらしい。

 

三人はそう感じた。

 

(まあ……私が同行したのはそれだけでは無いのだがな…)

(星ちゃんの冗談にも全く反応無し……珍しい人ですね~)

 

その中の、趙雲と程イクはじっとエースの背中を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

~おまけ~

 

しばらくエース達と歩いていると……

 

―――誰が高齢ですって?

 

「っ!!!」

 

趙雲は不気味な声を聞いた気がして、咄嗟に後ろを振り向く。

 

「…星殿?」

「何かありました?」

 

他の面子が心配する中、趙雲は辺りを警戒する。

 

しかし、人の気配が無いのを確認すると、エース達に向き直る。

 

「いや…何か聞こえたと思ったのだが…私の気のせいだ」

「?…そうですか」

 

趙雲がいつになく、早歩きで先行するのをエース達は疑問に思った。

 

 

 

 

 

 

その頃の水鏡塾では…

 

「あれ? 先生。本を持って何してるの?」

「いえ、ちょっと外の空気を吸っていただけですよ」

 

水鏡は生徒に呼ばれると、本を外に供えてある。木製のテーブルに置いて甘えてきた生徒に向き直る。

 

そして、そよ風が吹き、本がめくれると、あるページまでめくれて止まる。

 

そこには…

 

『即席の“音弾(おとだま)”、“吼え弾(ほえだま)”の飛ばし方』と書いてあった。


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