火拳は眠らない   作:生まれ変わった人

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曹魏との殲滅戦

「おやおや、この方々は?」

「この人達は曹操様の軍らしいのー」

 

場所は変わり、夏侯淵と許緒を連れてきたエースは風と合流していた。

 

途中で真桜とも合流し、材料を届けてやった。

 

兵を案内してくれた沙和はすぐに凪達の手伝いに向かった。

 

その際に夏侯淵と許緒の紹介も済ませておいた。

 

「お初にお目にかかる。お主がこの軍の軍師か?」

「軍…と呼べる兵がいるかどうかはまだ判明してませんが、一応は軍師です~」

「そうか、私は夏侯淵。陳留の勅使、曹操の命で参上した」

「僕は許緒! よろしく!」

「はい。よろしくお願いします~。風のことは程イクとお呼びください」

 

風は笑いながら二人に名乗ると、すぐに作戦に入る。

 

「それではですね~…時間もありませんのですぐに作戦に入ってもよろしいですか~?」

「ああ、意見を聞きたい」

「はい……とは言っても夏侯淵様の部隊は先遣隊ですか? 本隊ですか?」

「先遣隊だ」

「そうですか~……敵の戦力のほどは分かりますか?」

「……少なくとも三千……こちらの倍はある」

「う~ん……苦しいですね~」

 

苦い表情の夏侯淵から出た事実に流石の風も眉にしわを寄せる。

 

どうやら二つの兵を足しても足りない……か…

 

「でもでも~、先遣隊ってことは本隊も来るかもしれないの」

 

沙和が思ったことを言ってみると、それに許緒が元気よく答える。

 

「そうだよ! 春蘭様は必ず来てくれるからそれまで持ち堪えるんだ!」

「ああ、許緒の言う通りだ。黄巾党の戦力を確認した後に伝令を送っておいた。苦戦するのは目に見えているからな」

 

その言葉に風はゆっくりと頷く。

 

「ですね~。とりあえずは東門にお兄さんと真桜ちゃんと沙和ちゃ「いや、それなら東はおれだけでいい」…お兄さん?」

 

しかし、風の言葉を遮ってエースが当たり前の様に言った。

 

その言葉にその場の全員が衝撃を受ける。

 

「…お主は何を言ったのか分かっているのか?」

 

夏侯淵は確かめる様な心配そうな声色で聞くが、エースはそれを切り捨てる。

 

「分かってるさ。だからこそ、おれは一人でやらせてもらう。そっちの方が何かと都合がいいしな」

 

エースは早口でそう言って一人足早に向かおうとするが、それを止める者がいた。

 

「そんなのダメだよ!!」

「お……と…」

 

急にエースの前に出てきて両手を広げて制止する許緒だった。

 

いきなりの小さな制止にエースはよろめくが、すぐに立て直す。

 

一体何事かと聞こうとするも、許緒はエースの口が開く前に叫ぶ。

 

「そう言う考えはダメだよ……! 今日は絶対、春蘭様が助けに来てくれるんだから、最後まで頑張って守り切らないと!!!! 」

「その通りだ。聞けばエースも兵を率いているのだろう? もしものことがあれば軍の指揮にも関わる」

「それに、今日、百人の命を助ける為に死んじゃったら、その先助けられる何万の民の命を見捨てる事になっちゃうんだよ!?」

 

夏侯淵と許緒の必死の説得にエースは少し困っていた。

 

正直、余裕だろう。

 

エースならば三千の“一般人”くらいどうってこともなかった。

 

それでも、夏侯淵と許緒の反応が正しいのだが……

 

それでも、エースは死ぬ気など毛頭なかった。

 

かといってそんなことを馬鹿正直に話しても聞いてもらえそうにない。

 

(変な感じだけど、天の御遣いのこと話した方がよさそうだな)

 

そんなことを思って、自分の秘密を話そうと口を開いた時……

 

「う~ん……お兄さんなら大丈夫だと思うの~」

 

沙和が気まずそうにしながらも救いの手を差し伸べてくれた。

 

その言葉に夏侯淵、許緒の二人はもちろん、付き合いの浅い風までもが目を見開く。

 

「……どういうことだ?」

「か……顔が近いの…」

 

その台詞に腑に墜ちない様子に夏侯淵は沙和に詰め寄る。

 

一段と増した迫力を前に沙和は少しビビるが、少しずつ話していく。

 

「今まで旅してきて分かったけど、お兄さんは強いから…大丈夫なの…」

「……根拠は?」

「そ…それは…」

 

夏侯淵に詰め寄られる沙和は言い淀む。

 

これ以上のことは皆の中で口止めされているから。

 

約束を破るわけにもいかず、この状況をどう切り抜けるか頭の中で模索していたが……

 

「……もう言っても構わねえな」

「え?」

 

エースは溜息と共に上着を脱ぐ。

 

「お?」

「なにを…」

 

急に服を脱ぎ出したエースに許緒と夏侯淵は呆然とする。

 

そして、エースが背中を見せると二人の表情は驚愕のものとなった。

 

「「!!」」

「これで…いいか?」

 

二人の顔を見てエースは満足そうに笑ってみせる。

 

「それじゃ、行ってくるから。一人もおれんとこに寄越すなよ?」

「あ…ちょっ…!」

 

何も言わせず、聞かずにエースは東の門へと走り去った。

 

夏侯淵の声も届かず、エースを止めることもできなかったため、彼を追いかけようとしたが……

 

「……行ってしまったなら仕方ありません。夏侯淵様と許緒ちゃんは西の守りについてください」

 

風はいつもの感じで二人に指示をする。

 

それに対して二人は信じられないといった様子だった。

 

「程イク!? 本当に彼だけを行かせていいのか!?」

「はい……私達にはお兄さんを呼び戻す兵さえも惜しいのです…それに……本人にも覚悟がありますから…」

「し…しかし、あの者一人に任せて東が崩壊したら被害が…」

「……まあ、心配ですよね…念のために凪ちゃんを向かわせましょう」

「援軍は一人だけなのか?」

「はい、正直言えばこの状況は非常に不味いのです。ですから、もうお兄さんを信じるしかないのです」

「……そうか…」

 

一刻の猶予もないことは夏侯淵も分かっていた。

 

たとえ、バランスよく兵を配置してもすぐに突破されてしまうだろう。

 

それほどにまで兵力差が激しかった。

 

こちらの希望としては、相手が突撃しかできず、陣も組めないことくらいだった。

 

おびきよせて矢で牽制すれば多少なりとも相手を威嚇して時間も稼げる。

 

下手に戦力を分散させるより、一点集中で守りを固めた方がいいかもしれない。

 

そして後は………

 

「……天の力を信じるしかないな…」

 

誰にも聞こえない様に呟き、しばらく瞑想する。

 

これに勝たなくてもいい、負けなければいい。

 

とにかく……時間を稼ぐ……それだけに専念……

 

そして、瞑想を終え、夏侯淵は覚悟を決めた。

 

「……行くぞ」

 

 

 

 

 

「ほ~…これは壮観だな…」

 

現在、エースは防衛柵が建った東門の前でエースは腰かけていた。

 

「アニキ……大丈夫ですか…」

 

その傍には先程まで真桜を手伝っていた部下達がいた。

 

余裕そうなエースの後ろで落ち着き無く焦っている。

 

それもそのはず、エースの前方には黄色い集団が迫って来ている。

 

大量の賊が群れを成してこっちに向かってくる。

 

「おれは大丈夫だ。それよりもお前等は凪達の所に行ってほしい」

「そんな…いくら天の御遣いって言われてるアニキでもあんな…!」

「そうっすよ! あんな数を一人だけでなんて…!」

 

エースの頼みを聞き入れようとはせず、必死にエースを思い留まらせようと説得をしていた時、一人の駆け足が聞こえてきた。

 

それを聞き取ったエースが振り返ると、凪が駆け足で近付いていたのが見えた。

 

「エース様! こんな所に!」

 

凪がエースのすぐ傍にまで寄ってくると、エースはうなだれて頭を掻いて溜息を吐く。

 

(信用してねえのか…)

 

そう思っているのも知らず、部下達は凪の登場にガッツポーズをとる。

 

「楽進の姐さん!」

「やった! これならアニキも動いてくれる!!」

「……おれってそんなに弱く見えるか?」

 

喜ぶ部下が自分をどう見てるのか気になりはしたが、今はそれどころじゃなくなった。

 

味方が一人でもいたら全力を出せなくなる。

 

エースの能力は強力すぎる故、エースは一人で戦うことを望んでいた。

 

もし、味方が敵と混戦していたら味方さえも燃やしてしまう可能性があったからだ。

 

エースは敵を一網打尽にしようとしていたのだが……

 

「変なこと言ったんですね…鈴仙も心配してましたよ…」

 

頭を抱える凪の登場で予定が狂った。

 

「何言ってんだ。これくらいなんてことはねえ」

「はぁ…」

 

凪は思った。

 

この人は動かない…と。

 

エースの頑固さを知っている凪は少し考えて……

 

「……私も残りますから。お前達は西の守りに力を貸してやってくれ」

『『『はいぃ!?』』』

 

部下達はまさかの殿発言に耳を疑った。

 

何を仰っているのですか!? と聞きたかったが、なぜか言葉に出せなかった。

 

ただ、驚きを顔で表現するしかなかった。

 

「…凪の言う通りだ。早く行ってくれ」

 

エースは部下達を見つめて訴える。

 

―――この場は任せろ

 

その意を汲み取ったかどうかは定かではないが、部下達は遠慮がちにその場を離れる。

 

時々、自分達を心配そうに振り向く部下を突き放した様な気分だったが、そうも言ってられないと気持ちを入れ直した。

 

そして、エースは立ち上がって凪の方を見て言う。

 

「凪……お前は残るのか…?」

 

それに対して、凪は堂々と答える。

 

「はい。お一人で戦うのは危険です……微力ながら助太刀させていただきます」

「……本気だな?」

「はい」

 

エースの最終確認にも凪は毅然とした態度で答える。

 

それを聞いたエースはもう何も言わない。

 

「よし……じゃあ始めるぞ。覚悟はいいな?」

「はい。いつでも」

 

強気発言に二人は笑い合い、近付いてきた黄巾党に凪が告げる。

 

「罪なき民草を脅かす悪党共!! お前達の進軍もここまでだ!!!」

 

凪の声が響き、黄巾党が立ち止まる。

 

「貴様等賊徒の行いに民は苦しみ、脅えている!! そんなお前達を天が許すと思うか!!!!」

 

否っ!!

 

「断じて無い!! 天はお前達を許しはしない!! 天は我等についている!! 故に聞こう!! 同じ民草だったお前達はそれを聞いても街を侵すつもりかっ!! 罪の無い民を殺すのか!!!」

 

そこまで言うと、また黄巾党の群れが動き出した。

 

それを見て凪は表情を険しくした。

 

「……自分と同じ境遇の人の……仲間の心も忘れた……か…」

 

凪は俯いて悲しそうに呟いた。

 

この時、エースは凪の肩を叩こうとしていたが、凪は頭を上げて再び黄巾党に向ける。

 

「……大丈夫か?」

「………はい」

 

凪の声は小さく、微かに震えていた。

 

だが、エースは何も言わずに手を引っ込める。

 

覚悟を決めた戦士へ気遣い、エースは凪の後ろで拳を握る。

 

その後、凪は迫って来る黄巾党に叫んだ。

 

「人にして人の心を捨てた暴徒共よ!! 天の怒りを知れっ!!」

 

そう言った直後、エースは手から無数の光の玉を出し、黄巾党へと飛ばす。

 

黄巾党はそれにも目もくれずに突っ込んでくる。

 

悲しきこと。

 

暴走した賊徒にはその脅威が分かっていない。

 

その姿は力に洗脳された末路とも思えた。

 

「蛍火……」

 

凪も手甲を付けた拳を握り、構える。

 

そして、黄巾党とエース達との距離が数十メートルにまで達した時……

 

「火達磨ぁ!!」

 

辺りが

 

爆風に包まれた。

 

 

 

 

 

 

戦いが

 

始まった。

 

 

 

 

 

 

 

「秋蘭様!! 西の防衛柵が一つ目が破られました!!」

「ふむ……防衛柵は後三つか…どれくらい保ちそうだ? 李典」

 

戦が始まってから三時間が経過していた。

 

西側に戦力を集中させて何とか保っていられる様な状況だった。

 

夏侯淵の質問に李典は悔しそうに、推測する。

 

「せやな……即席で作ったから…あと一刻もつやろ…」

「微妙な所だな…それまでに姉者が来てくれればいいのだが……」

 

どうやら、状況からして芳しいとは言えそうにない。

 

しかし、三時間経っても倍近くいる敵に大立ち回りしている手腕は流石と言えるものだった。

 

夏侯妙才……彼女もまた輝ける才能を秘めていた。

 

「いや、それよりも東門から何か報告はきてないのか?」

「いいえ。今の所は何の報告も来てはいませんが、賊がこの街に入っていないのを見ると敗走してるとは思えませんね~」

「そうか……そのまま現状維持してくれれば……」

 

たった二人の指揮で三時間も堪えたというのは夏侯淵にとって嬉しい誤算だった。

 

「出陣前に私達に三十人とはいえ、こちらに戦力を回してくれるとは……これはエースの余裕ととっていいのか?」

「まあ…兄さんならあり得るな…」

 

エースの労いに真桜は苦笑する。

 

そこで、許緒は気になっていたことを聞いてみた。

 

「ねえねえ、今の東門には兄ちゃんと楽進ちゃんだけなんだよね?」

「そうだけどー、それがどうしたのー?」

「二人だけでここまで粘るってすごいよね? 兵はどれくらいいるの?」

「「「「ん?」」」」

「「?」」

 

すると、その言葉に真桜と沙和、鈴仙までも首を捻って?を浮かべる。

 

その様子を見た夏侯淵と許緒も首を傾げる。

 

「…兵は李典達も連れていたのではないか?」

「まぁ…兵っちゅうか……まあそうなんやけど、三十人しかおらんで? そっちが兵を貸してくれたんやないの?」

「いや、私達は彼に兵の投入を断られてな、我が軍の全ては今ここに……」

 

ここまで言って気付いた。

 

何か……食い違っている……

 

「……あんさん、兄さんに兵…貸してへんの?」

「…あぁ、私はお前達の兵を使ってるのかと……」

「いやいや…ウチ等が連れてたんは正規の兵やないし、そもそも三十くらい…」

「「………」」

「「「………」」」

 

ここで気付いた。

 

東には兵が誰一人いない。

 

つまり……今、東で戦っているのは……

 

たった二人

 

「なんだと!?」

 

そこで、やっと夏侯淵達は気付いた。

 

今、東には人二人しかいない状況だった。

 

「ちょっ! それってマズいですよ!!」

「エースさん……また無茶して…!」

「兄さん…それはシャレになってへんよ…」

「な…凪ちゃんが!!」

 

状況を把握した四人も焦りを見せる。

 

まさか、自分達とは正反対の場所でそんな絶望的な状況だったとは知らずに三時間経っていたのだ。

 

焦らない方がおかしい。

 

「くっ! 今すぐ増援を送るぞ! 夏侯淵隊は私と共に付いて来い!」

「許緒隊も行くよ! 付いて来て!」

 

二人はそのまま兵を率いて東門に行こうとした。

 

その時……

 

「夏侯淵様!!」

 

道の先から凪が走り寄ってきた。

 

「楽進!!」

「「「凪(ちゃん)!!」」」

 

東に配置していた武将の一人の報告だった。

 

(まさか…東門が…!?)

 

夏侯淵は舌打ちを打ちながらも、傍まで走り寄ってきた凪の報告に耳を傾ける。

 

「どうした!? 黄巾党が東門を!?」

 

自分の頭の中が嫌な予感で支配される中、凪に鬼気迫る表情で聞き出す。

 

しかし、凪の報告はある意味で夏侯淵の予想を裏切った。

 

「いえ! それが東門の黄巾党の後方から砂塵を確認!」

「!! 旗はあったか!?」

「はい! 『曹』と『夏侯』の牙門旗を確認! 味方です!!」

「そうか!!」

 

そこで、初めて夏侯淵の頬が緩んだ。

 

もう少し時間がかかると覚悟していたが嬉しい誤算だった。

 

本隊と合流できれば逆転は可能だ。

 

その証拠に凪の報告で兵達の指揮が目に見えて上がった。

 

そのおかげで東門の懸念が綺麗に飛んでしまった。

 

しかし、またそこで凪の口からとんでもない一言が……

 

「それで、もう一つご報告が!」

「どうした?」

 

凪からのもう一つの報告を冷静に聞く余裕も出てきたので比較的冷静に聞く。

 

「はい、実は私とエース様が黄巾党と交戦中にですね…少しずつですが敵が次々と逃亡を始め、先程の増援がありまして……」

 

凪は少し気の抜けた声で告げた。

 

「……東門の敵……壊滅致しました」

 

その瞬間、空気が一気に凍った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏侯淵が奮闘している中、エース達はというと……

 

「猛虎蹴撃!」

「火銃!!」

 

二人で遠距離攻撃を行い、門に近づけさせないようにしていた。

 

凪の氣の弾が爆散して敵を吹き飛ばす。

 

エースの小さな弾丸が矢と同じ様に敵を倒していく。

 

そんな不可解な攻撃に賊の大半は恐れを抱き、指揮も低下していた。

 

そのおかげで相手の進軍も止まっていたが、それでも数は減らない。

 

肉弾戦に持ち込んでも構わなかったのだが、そうすると必ず凪も付いてくるだろう。

 

それだけは避けようと、敢えて遠距離戦術を選んだが、これではジリ貧は確実。

 

時間と共に冷静さを取り戻して再び突出するのも目に見えていた。

 

そこで、エースは一つ、派手な技でビビらせることにした。

 

エースは手から特大の火の玉を作りだす。

 

一見すればエースの最大技の『炎帝(えんてい)』と似ているが、その玉は黄巾党の頭上にまで飛んでいって停止する。

 

サイズも、結構小さく、大きさはエースの身長くらいだった。

 

賊達もその頭上の火の玉に気付くも、火の玉は浮遊し続けるだけで、賊に不気味さを与えた。

 

そして、エースは手を動かすとその火の玉はゆっくりと賊の方へ落ちていく。

 

賊はその異様な光景にあとずさりを始めるが、もう遅かった。

 

落火星(らっかせい)!!」

 

エースがそう叫んで手を握った瞬間、火の玉は炸裂し、無数の火の雨が降り注いだ。

 

『『『ぐあああああぁぁぁ!!』』』

 

賊達は悲鳴と共に火の雨に打たれる。

 

撃たれた賊達は燃え、地面に落ちる火の雨は小規模爆発を起こし、辺りを煙で覆う。

 

その周辺は高温の熱気により、寄りつけなくなっている。

 

そんな煙の中を物ともせずに向かって行く者がいた。

 

エースだった。

 

エースは高温の地獄とも思える灼熱地帯を笑いながら、平然と歩いて行く。

 

その姿を見た賊達はエースに恐れを抱き、剣を捨てて逃げ出す者が続出した。

 

しかも、事態はそれだけでは終わらなかった。

 

「あ…あいつ……『火拳』だああああぁぁ!!」

「なんでこんな所にもいんだよぉ!」

「冗談じゃねえ!! ようやく『火拳』から逃げたのに、こんな所で会っちまうなんて…!!」

 

賊の中にはエースに潰された部隊の人間もいたため、彼の姿を見た瞬間にその時の恐怖が蘇り、逃亡する者が続出。

 

しかも、その逃亡する者が『火拳』の名を連呼する度に後方の部隊にも広がっていき、戦意喪失する者が続出。

 

もはや軍としての原型を留めてはいなかった。

 

その後、煙の中に入れなかった凪の元に戻り、状況を伝えるとひとまずは安心した。

 

「それにしても『火拳』の名はすごいですね! ここまで名が功を成すなんて……やっぱりエース様はすごいです!!」

「そ…そうか?」

 

鼻息を荒くして詰め寄る凪に若干引きながらも、すぐに気を引き締める。

 

ほとんどが逃走したとはいえ、まだ敵を倒した訳ではない。

 

ここからが正念場と判断して凪は手に氣を溜め、エースはまた火銃の用意をしていた。

 

だが、その後に遠くで砂塵が見えた。

 

「? あれは…」

「まさか……敵の増援か!?」

 

凪は舌打ちをするが、エースは落ち付いて目を凝らす。

 

凪も隣で目を凝らす。

 

すると……

 

「あれは…夏侯淵って奴の連れてた奴と同じ鎧だな」

「はい…それにあの軍が掲げる旗…『曹』と『夏侯』と…」

「つまり…」

「味方の…援軍です!!」

 

突然現れた軍が味方と知るや、凪の口調は弾んでいく。

 

それに呼応して状況も変わり始めていく。

 

更なる第三者の介入により、更に逃走を開始する者が増えた。

 

もはや、ここまでくれば勝負も決まったも同然。

 

「……やりましたね」

「ああ、中々いいタイミングだな」

 

二人で笑い合い、東門の戦いは無事に幕を下ろした。

 

1000対2の中で被害も出さない、前代未聞の好戦績を挙げて……




技説明

落火星(らっかせい)…大き目の火の玉を相手の頭上に浮かせてからそれを弾けさせて火の雨を降らせる。イメージとしてはとある美食家のサンダーノイズ

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