火拳は眠らない   作:生まれ変わった人

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潜入、そして絶望と見参

「どうですかな? ここの住み心地は…」

「……」

 

董卓は入れられた洞窟の中で何も言わずに俯いていた。

 

そんな董卓を見て張譲はほくそ笑む。

 

「まあ、急に引っ越しても戸惑いますから徐々に慣れていけば構いません」

「はい……」

 

董卓は弱った様な声で返事をし、張譲はその部屋から出る。

 

そして、その部屋には董卓しかいなくなった。

 

「……」

 

董卓はその場に座り込んで何を思っていたのかは分かるはずもない。

 

 

「……あそこの中に董卓ちゃんがおるんやな」

「はっ。張譲一派があそこに入ったのは確認済みです」

「そう。ありがとう」

 

張遼と賈駆は草影から一つの洞窟を覗いて部下から詳細を聞く。

 

賈駆が調べた所によると、そこは以前の皇帝が避難用に作らせたシェルターだという。

 

「あそこは厄介ね…敵に占拠されないために複雑な構造になっているのよ…」

「時間をかければかけるほど董卓ちゃんに危険が及ぶっちゅうのに……」

 

張遼がそうぼやくが、そう作られているのだから当然。

 

「いつまでもここにいても仕方ないわ。乗り込みましょう」

「ええんか? 賈駆っちはここで待っててもええんやで?」

 

そう諭すが、賈駆は首を横に振る。

 

「いいの。この作戦を考えたボクにこそ責任があるわ。だからこの結末を見届けたいの…」

「……」

「あ、でも…霞の足手まといになるようだったらそのまま放っておいてもいいから…」

 

賈駆が遠慮がちに張遼にそう言うと、それを張遼は笑い飛ばす。

 

「あんまウチを見くびってもらっちゃあ困るで? 詠の一人や二人…ドーンと来いや!……なんてな♪」

 

はにかむ張遼に賈駆は自然と目頭が熱くなる。

 

自分の指示で一番危険な任務に就かせているというのに、嫌な顔一つせずに協力してくれるのだから。

 

本当に良い仲間だ、と心の中で思っていた。

 

「どないしたん?」

「いえ、なんでもない……」

「いや、なんでそんな泣きそうに……ハッハ~ン…ま・さ・か、さっきのウチ言葉が嬉しかったんか?」

「な…なんでそうなるのよ!!」

「ええでええで、こういう時くらいは素直になってもエエんやで~」

「だからっ…違うって言ってるでしょ!! なんでそうなるのよ!!」

 

図星を言われて慌てふためく賈駆に張遼は笑みを零す。そして、赤くなって照れている賈駆に言ってみる。

 

「賈駆っちの余分な力が抜けた所で、もう行くで?」

「……ならもう少し違う形で抜いてくれない?」

「いや~…褒めてもなんも出さんよ?」

「……」

 

からかってご満悦の張遼を賈駆はジト目で睨む。

 

とは言っても、緊張が抜けたのは事実。

 

準備はできた。

 

それを確認すると、張遼も気を引き締めて偃月刀を握る。

 

「ご武運を」

「おおきに」

 

部下からの敬礼を受けた二人は何を言うでもなく、駆けだした。

 

「それじゃあ、鬼退治の始まりや」

 

二人は暗い魔の巣窟へと身を投げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、今なにか音がしなかったか?」

「そうか? 俺は聞こえなかったぞ?」

「……気のせいか」

 

洞窟内では兵士がうろついて見張りの番をしていた。

 

蝋燭でボンヤリと照らされた複雑な構造の洞窟を徘徊する兵士がさっきから後を絶えない。

 

兵士達がその場を去ると、その近くの通路から黒い頭が出てきた。

 

「ここは迷路か? さっきから同じとこばっかにしか行かねえし、見張りも結構いやがる」

 

辺りを警戒しながら愚痴るエースだった。

 

あの後、別れたと見せかけて董卓の小屋の傍で様子を見ていた。

 

何となく気になったエースは見張っていたら、動きがあった。

 

胡散臭い連中が董卓の小屋に押し入ってどこかへ連れ去っていった。

 

これには何かあると踏んだエースはすぐに連中を尾行して、隠れ家に辿りついた。

 

しかし、下手に騒ぎを起こせば董卓自身が危険だった。

 

仕方無く、時間を少し遅らせてから尾行を続けたのだが、洞窟内の構造が複雑すぎて見失ってしまった。

 

「くそ……もっと速く見聞色の覇気が使えたらな。……ん?」

 

そう呟きながら進んで行くと、エースはとある部屋を見つけた。

 

少しポッカリと広かったので、そこに入ってみると…

 

「……牢屋」

 

幾重の檻の部屋が並んだ場所に出てきた。

 

檻の中は冷たい石でできた壁と床だけの殺風景なものだった。

 

「……」

 

そんな部屋を見ていると気分が悪くなってきた。それはエースに秘められた記憶にある。

 

 

 

 

大監獄・インペルダウン

 

脱獄は不可能とされた監獄に閉じ込められた日々は拷問と監禁の辛い日々しかなかった。

 

海賊だからといえばそこまでかもしれない。だけど、あんな小さい少女にはあまりに酷で、似合わない。優しい少女が大した理由も無く監禁されるのは知り合いとして、男からしても想像しただけでいい気分ではない。

 

あの時のことがフィードバックされてきた。しかし、エースはその記憶を抑えこんで進む。

 

「ハズレか……」

 

そう思ってその場を後にしようかと考えていた時……

 

「?」

 

また大きな部屋に出た。

 

「……少し冷えるな」

 

エースの言う通り、そこは蝋燭も一本しかなく、辺りはボンヤリとしか見えない。

 

しかも、なぜかその部屋だけが寒かった。

 

それでもエースは壁を伝って慎重に部屋を調べていると急に手の感触が変わった。

 

「?…木?」

 

さっきまで石の壁だったのに、今は木製の何かを触っていることに気付いた。

 

そこだけ異質な感じだったからその辺りを自分の火で照らして調べてみる。

 

すると、そこには取っ手があった。

 

「なるほど……扉か…」

 

エースは少しの進展に口を吊り上げる。

 

エースは取っ手を掴んでゆっくりと開ける。

 

すると、そこには……

 

「こ……これは…」

 

エースも想像していなかった物が入っていた。

 

 

「妙やな…」

「えぇ……人がいない……」

 

同じく、エースよりも後に侵入した張遼と賈駆は不審に思っていた。

 

ここに侵入してから大分時間が経った。

 

だというのに、ここまで見てきた見張りの兵士は二、三人くらいしか見ていない。

 

ここに入った兵はこんなものではないのだが、その姿が見えていない。

 

しかも、それのせいかどんどんと奥に進めていく。

 

それ自体は二人の望んでいたのだが、ここまでうまくいきすぎているとかえって不気味になってくる。

 

「……誘われていると見て間違いないわね……」

「なら、退き返すか?」

「でも、そうだとしたら尚更、月が危ない…」

「なら、進むしかないやろ?」

 

本城の呂布と華雄の応援は正直、期待はできない。

 

それなら、徹底的に進むしかない。

 

二人は分かっていた。

 

そうして進んでいると、二人はとある広い部屋に行き着いた。

 

「ここは……なんや?」

「暗い……何も見えないわね……」

 

二人は蝋燭がない一番大きいと思われる空間を見渡していると……

 

「……賈駆っち」

「? 何か見つけたの?」

 

張遼が声をかけてきたのを、何かを見つけたのかと思って張遼の顔を見上げる。

 

しかし、彼女の表情は強張っていた。

 

しかも、武器を構え出した。

 

「張遼?」

「……このままウチにくっついとき。離れるんやないで」

「え?」

 

何を言いたいのかが分かっていない賈駆に張遼は自然に出てきた汗を垂らしながら言う。

 

「…ウチ等の悪い予感が当たったようやで」

「それってどういう…」

 

賈駆がなんなのか聞こうとすると……

 

「このような所で何をしておいでか? 賈文和殿」

「!!」

 

嫌悪感を引き立たせる声に賈駆は反射的にその張本人の場所を向く。

 

すると、その場所から蝋燭の火が灯り、憎き敵・張譲の姿が露わになった。

 

張譲の出現に二人は身構える。

 

そんなことは気にせずに張譲は続ける。

 

「私は城の警護を頼んだはずですよ? 賈駆殿」

「あら、皇帝でもないあんたがなんで皇帝の私有地におられるのですか? ボク達はこの土地の管理に来ただけですが?」

「ふふ……この期に及んで減らず口を叩くとは……大した度胸ですねぇ…そこの張遼殿も」

「ウチの名を気安く呼ぶなや」

 

不快そうに眉を顰める張遼に張譲はクックと笑って返す。

 

「いやはや、相変わらず冷たいですな。これだから穏健派は…」

「御託はいらないわ。董卓を返して」

 

冷たく言い放つ賈駆に張譲は口を開けて笑う。

 

「はっはっは……国に逆らう逆賊が一国の王に何たる物言い……愉快ですな」

 

そこまで言うと、笑っていた張譲は急に笑いを止めて、無表情で言い放つ。

 

「…お前達がいつかこうして反乱を起こすことくらい知っていた。だからこうして待っていたんですよ……」

「「……」」

「こうして餌におびき寄せられる時をねぇ!」

 

張譲が邪悪さの籠った笑みを賈駆達に向けると、周りの穴が蝋燭の光で照らされてきた。

 

「うそ……こんなにいたの!?」

「どんだけの穴がこの部屋に繋がってんねん!」

 

賈駆は予想以上の敵の出現に驚愕し、張遼はこの部屋特有の構造に悪態をついた。

 

そうしている内に二人の周りには多数の武器を持った兵士が現れた。

 

「なんで!? 張譲派の人間はもっと少なかったはず……」

 

その人数は本城で待機している張譲派、そして張譲自身の護衛の人数を足しても数が合わなかった。

 

最初は張遼さえいてくれれば蹴散らせるくらいの数だと把握していた。

 

しかし、この洞窟に入ってからその人数が増えたように感じられた。

 

それに疑問を抱いていると、張譲が自慢げに言ってきた。

 

「なに…簡単なことですよ……ここいらで『灼熱の御遣い』などという胡散臭い存在に敗れた一行がチラホラとこの地に流れ着きましてな…何かに使えるかと思って金で雇ってみればアッサリと集まりましてねぇ……300ほど」

「「!!」」

 

最後の言葉に二人は絶句した。

 

まさか、こいつ……今日この日のためだけにこいつ等を忍ばせていたのか!?

 

「くっ! みみっちい悪知恵だけは賈駆っちよりも断然上やな…」

「あんなのと一緒にしないで!」

 

二人はしてやられたと思いつめた表情に変わって二人で固まる。

 

それを見て、張譲は満足したらしく、賊に向かって手を招いて合図をする。

 

すると、賊の一人が通路へと戻っていく。

 

その様子を二人は警戒しながらしばらく見ていると、その奥から二人の賊と兵士が現れた。

 

「月!!」

「月っち!!」

 

目隠しされ、猿轡を噛まされた董卓が無理矢理連れて来られてきた。

 

董卓は抵抗することもできずに強引に張譲の元に引き寄せられた。

 

「御覧なさい。あなた方の目的はこの小娘でしょう」

「月!!」

 

そのまま跳び出そうとした賈駆だったが、張譲が懐から出した短剣の切っ先が董卓の首に当たる。

 

賈駆は動きを止め、董卓は僅かな痛みに体を硬直させる。

 

「きったない奴等や!! 月っちに傷付けたら承知せえへんぞ!」

「自分の立場をお分かりか? 逆賊張遼。不用意な発言は控えてもらおう」

「……くっ!」

 

張遼が悔しさを堪えながら言われるがままに押し黙る。

 

それは賈駆も同じであった。

 

そんな二人を見て張譲は短剣を董卓に押し付けたまま二人に言う。

 

「もし、あなた方が下手なことをすれば……分かってますね?」

「「……」」

「言うまでもありませんが……このように!」

 

そう言うと、張譲は短剣をもう片方の手に持ち替え、董卓の首を思いっきり掴む。

 

「「月!!」」

「……が……ぁぐ…げぼ……」

 

突然の凶行に二人は悲鳴に似た声を上げ、董卓は猿轡で満足な声も出せずに悶えた。

 

張譲の強張った表情からして、本気で首を絞めている。

 

董卓の口からは大量の唾液が垂れ、目からも尋常じゃない量の涙を流した。

 

「ごぼ……ごぼ…」

「もう止めてぇ!!! 分かったから!! 何もしないからぁ!!!」

「くそっ!!」

 

賈駆は泣いて許しを乞い、張遼は無抵抗を示すために自慢の武器を思いっきり放り投げる。

 

それを見た張譲は邪悪な笑みを浮かべて手を放す。

 

すると、董卓は力無く地面に倒れる。

 

「はぁっ!…はぁっ!……げほっ! ごほっ!」

 

倒れた董卓は荒く咳きこむ。

 

しかし、張譲はそんな董卓の髪を掴んで無理矢理立たせ、今度は賊の一人に放り投げる様に渡す。

 

「……後はお前等で遊べ。この二人を始末してからな」

「「!!」」

 

張譲の言葉に二人は絶望し、董卓はそれを聞いて必死に暴れて逃れようとするが、男の腕力が邪魔をして満足に動くこともできない。

 

そんな彼女達を張譲はどこからか用意された椅子に座って観賞する。

 

まるで、何かのショーを見るかのように腰かけていた。

 

その時、周りの男達は急に呼吸を荒くして、下劣な死線で董卓を見る。

 

「ありがとうございやす…張譲様」

「構わん。その二人も好きにしていいが、最後は全員殺せ」

「えぇ…こんな美人をですか? もったいないな」

「うつけが。それくらいの奴ならまた補充してやる。今の世の中、力が全てであるからな」

 

その会話に賈駆は涙を流しながらその場の全員を殺すかの様に睨む。

 

張遼は自分でも体感したことのない怒りを目の前の男達にぶつける。

 

しかし、投げ出した武器は既に回収されている。

 

仮に取り返せたとしても賈駆がどうなるか分からない。

 

(考えろ!……何か良い方法を……!)

 

張遼は何も浮かばない頭に鞭を打って必死に考える。

 

だが、そうしている内にも事態は悪化していく。

 

「……もう耐えらんねえ」

 

一人の欲情した男が急に下半身を露出させたのだ。

 

もちろん、その矛先は董卓だった。

 

「おまっ!……早すぎだろ!!」

「いいぞいいぞー!!」

「ぎゃははは…!!」

 

その行動に周りの男は笑いを上げ、張譲は『野蛮人が……』などと呟く。

 

脂肪の塊が董卓に迫るのを賈駆は泣き叫んで止めようとする。

 

張遼は耐えられずに董卓の元へと強行突破しようと男達を殴り倒して行こうとするが、到底間に合わない。

 

董卓も声も出せずに泣き続けることしかできない。可憐な少女の陰部に男の魔の手が迫ってきていた。

 

 

「おいおい。それはちとマナー違反なんじゃねえのか?」


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