火拳は眠らない   作:生まれ変わった人

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新たな世界

 

 

ガツガツガツ ムシャムシャ…

 

「……」

 

ガッガッガッ…ガツガツ…

 

「……」

 

ムシャムシャ…ゴクン…モグモグ…

 

えーっと……程普です。

 

今の状況は家に響く音だけで分かる人もいるでしょうが、説明させてもらいたいです…

 

私が連れてきた男の人が私の家の食料をどんどん食べています。

 

この村は自然に囲まれていて山の幸とか猪、農作物を主体にしているから食料には困っていません。

 

唯一の悩みは税が高いことですが、この辺境の村に袁術さまの手がのびることはそれほどありません。

 

ですから出せる食料も結構多めだったのですが……既に四人分はいきましたね…

 

次々と食料が消えていくのを呆然として眺めていると……

 

「ぐっ!」

「え?」

 

男の人の頭が急に落ちました。嘘!? さっきまであんなに食べてたのに…!

 

「大丈夫ですか!? どこか怪我でも…!」

 

私は叫びながら男の人を揺する!

 

私が最悪の状況を想定して医者を呼びに行こうと考える。

 

(とりあえず顔色を見ないと!)

 

私はそう思って男の人の顔を自分に向ける。すると…

 

「グオー……クカー…」

「……え?」

 

男の人は気持ちのいい顔で鼻ちょうちんをふくらませながら寝ていた。

 

「なんで!?」

 

私は思わずそう叫び、更に一層揺さぶる。

 

「ちょっと起きてくださいよ! まだ話すら聞いてないんですか!!」

 

怪我人を揺するのも非常識だとは思うけど食事中に寝るのも非常識だと思い、必死に起こそうとする。

 

「ん……もう朝か?」

「まだ昼です!!」

 

何だか忙しい人だ。でも悪い人とは到底思えなくなってきた……

 

あ、そう言えば…

 

「あの~…そういえばあなたの名前を……」

「ん? あ…そうか……悪いな…恩人に対して失礼だったな」

「いえ、私も忘れてたのですから構いませんよ」

 

そう言うと、男の人は咳払いをして口元を吊り上げる。

 

「おれはエースだ。ポートガス・D・エースだ。以後、お見知りおきを…」

「あ、はい。私の性は程、名は普、字は徳謀と申します」

 

そう言って頭を下げると、男の人…えーすさんは私をマジマジと見つめてきます。

 

「あの…何か…?」

「あ…すまねえ。少し変わった名前だなって思ってな…」

「そうですか? 私からすればえーすさんの方が変わってると思うのですが…」

「? そうか?」

 

多分、エースさん…でいいよね? エースさんと紹介し合った後、私はエースさんに聞いてみました。

 

どうしてあんなところにいたのか…と…

 

すると、エースさんも何が何だか分からないようなのです。

 

起きたら既に山の中で倒れていたというのです…

 

信じられない話だったのですが、嘘を言ってるとは思えない。

 

そこから話を聞いてみると、エースさんは色んな海を渡っていたようです。

 

そして、私が聞いたことも無いような海を冒険していたのことです。

 

最初は嘘かと思っていたんですが、話してるエースさんはまるで子供のようだったので本当のことだと思い、同時になんだか微笑ましくなっちゃいました。

 

しかし、私も知らないことばっかりだったので答えられずにいると、エースさんも老けるとはいかないけど目に見えて落ち込んでしまいました。

 

「そっか……何も知らねえんだな…」

「はい……すみません…」

「いや、あんたが気にすることじゃねえ…世話になったな程普」

「あ…はい…お気になさらず…」

 

そう言うと、エースさんは立ち上がって礼儀正しくお辞儀した後、家の出口に向かいます。

 

「どこ行くんですか?」

「ここにはもう情報が無いんだ。これ以上お前に迷惑かけられねえよ」

「まさか…この村を出るつもりですか!?」

「あぁ」

「それは駄目です! 村の外には賊の隠れ家があるんですよ!? そろそろ暗くなるから危ないですよ!!」

 

すると、エースさんはまた笑って言う。

 

「心配すんな。おれはやられたりしねえって」

「いいえ! 危ないんです! 賊は千人以上いるんですよ!? エースさん一人じゃ勝てませんよ!」

「いや…でもここで世話になるわけには…」

「それでも駄目ですっ!!!」

 

会ってから間もない人にここまで怒るのは初めてです。

 

だけど、今まで話してきて思ったことはエースさんは決して悪い人では無いということです。

 

そこはほとんど勘なのですが、私が追い出して死なせていい人ではありません。

 

私は出口を塞ぐようにエースさんに立ち塞がり、じっと見つめるとエースさんは汗をかいて目に見えて困惑していました。

 

それでも私はエースさんの顔を見て睨んでいると、エースさんはうなだれた。

 

「分かった……分かったよ……お前の言う通り村は出ねえよ…」

 

それを聞いた瞬間、私は嬉しくなって思わず笑ってしまいました。

 

それに気付いて、慌てて口を塞ぐけど、幸いにもエースさんはまだうなだれていたので見られずにすみました。

 

「だけど、一飯の礼くらいはさせてもらうぜ」

「はい。ですから、しばらくは私の家で寝泊まりさせていただきます」

 

満足気に言うと、エースさんも苦笑いしてお手上げといった様子だった。

 

何とか思いとどまらせることができて、私は胸を撫でおろした。

 

 

 

 

 

side エース

 

やっぱりおかしい……

 

山の中でもそうだったけど、オヤジのこと知らないって…

 

それに海の名前まで知らないって…どんな田舎だよ。それに自惚れじゃねえがおれの名前、ポートガス・D・エースの名前も知らない…

 

まるでそんな物は存在しないって言ってるみてえに…

 

多分マリンフォードのことも聞いても無駄だろうな…

 

それとここらの地域…江東とか言ってたな。そんな土地の名前なんか聞いたこともねえ…海図にもおれの記憶にもそんな名前の土地なんかあったか?

 

(く~…考えれば考えるほど分からねえ…)

 

エースにとって常識とは『常識なんて存在しない』とのことだ。

 

つまり、この生きている限り何が起こっても不思議ではないということだ。

 

今回もその例にならって事態を進めている。

 

しかし、こんなことはエースにとっても異質なことだった。

 

まるで今まで自分がやってきたこと…自分だけではない仲間が最初から存在してなかったかのように…

 

(いくら何でも有り得なさすぎる…)

 

そもそもおれは死んだはずだ…そこは間違いない。

 

エースは体の痛みを感じながら思う。

 

おれは戦った。皆と一緒に…そして死んだ。だとしたらここが死後の世界って奴か?

 

そう思いながら鼻歌混じりで料理をしている少女・程普を見ていると、溜息を洩らして考えを改める。

 

(…地獄の使者にしては家庭的すぎる…か)

 

だとしたらおれは死んだ後生き返った…って訳か? おとぎ話よりもタチが悪い。

 

 

…でも……

 

エースは自分の手で胸を撫でる。

 

(オヤジたちが助けてくれた命……無駄にならなくてよかったぜ…)

 

エースは自分が助かったことに心から安堵した。

 

もし、ここで死んでしまったら何のためにオヤジたちが命をはってくれたか分からなくなる。

 

それに、処刑台の上で誓った。どんな運命も受け入れると……

 

もう一度誓おう。今のこの状況を受け入れ、生を受け入れようと…

 

この先、またオヤジたちと会えるか分からない。けれど生きよう……

 

またゼロからの始まりだ。

 

「エースさん。ご飯できましたよ?」

「おう。んじゃ食器はどこだ? おれが出すぞ」

 

目的ができるまで……しばらく休むのも悪くねえな…

 

自分の現状は何一つ分かっていない。

 

それでも……彼は進み続ける。

 

そこに道がある限り……


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