火拳は眠らない   作:生まれ変わった人

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とある火拳の日常(リアル)2

「なんだ、お前おめでたかぁ」

「へい。この前に一人生まれまして……」

「そうかそうか…よかったな」

 

エースは中庭で休憩中の兵士達と雑談していた。

 

気さくなエースはすぐに周りの兵士と意気投合し、最近の話で華を咲かせていた。

 

そんなエースに近付く影があった。

 

「随分と楽しそうね。エース」

「お、賈駆か。聞いたか? こいつもう父親になったってよ」

 

エースがそう言うと、周りが笑いに包まれる。

 

それを見ていた賈駆は少し考える。

 

(兵との関係は良好。もしかしたら…)

「? 賈駆?」

「え? なんか言った?」

「いやな、なんか考えてたと思ってな」

「ええ、でもまだあんたには関係ないけどね」

 

エースは賈駆が嘘を言ってないことを見抜くと、それ以上は追及せずに再び立ち上がる。

 

「それじゃ、また行ってくるとしますか」

「まあ、城の壁とか色々燃やされてるから、しっかりと働いてよね。しわ寄せは全部月にいくんだから」

「……そりゃ失礼」

 

エースは賈駆から視線を逸らし、そのまま街へと繰り出した。

 

「もしかしたら…とんでもない人材を手に入れたのかも……」

 

エースには聞こえない様に賈駆は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

「今日は何すっかな〜…」

 

エースはあまりに穏やかな街を歩きながら退屈に悩まされていた。

 

といっても、エースの名がそうさせているのだから仕方のないことだ。

 

目的もなく、ただブラブラと歩いていると、前方から見知った影が二人。

 

「お、奇遇やな。エース」

「こんにちはエースさん」

 

張遼と鈴仙という意外な組み合わせだった。

 

「お? 何してんだお前等」

「わたしは張遼さんと試合してて…」

「ウチと飯食いに行こうと思ってたん」

「へぇ、もう昼になってたのか」

 

そう言って空を見上げると、既に太陽が空高くまで上がっていた。

 

「ちゅうかエースも昼はまだなん?」

「それなら一緒に食べよ?」

「う~ん……」

 

エースは二人からの誘いに考えるが、断る理由も何もないので快く了承する。

 

「分かった。そろそろおれも腹へっててな」

「よし、それじゃあ店はウチの行きつけでエエな」

 

それに頷いてエースも二人に同行する。

 

「さっき二人は試合したんだってな? どうだった?」

「もちのろん! ウチの勝ちや!」

「負けちゃった……」

「やっぱな、おれの予想通りだ」

 

その言葉に張遼はますます天狗になり、鈴仙は頬を膨らませてエースを睨む。

 

「なんでそんなこと言えるの?」

 

せめて弟子を応援くらいしても…と思いながら聞くと、エースはそれに対して真面目に返す。

 

「簡単だ。張遼とお前じゃあ経験の差が違いすぎるからな」

「経験?」

 

鈴仙はその答えに首を傾げると、隣で張遼も頷く。

 

「せやね。ウチも程普の武は中々のもんだと思っとる。だけど、とっさの判断がまだまだ荒削りやねん」

 

ウンウンと腕組んで言う張遼の言葉にエースも同意する。

 

「だな。だから昔から本格的な修業と戦闘をしてきた張遼とじゃあ、今のお前には荷が重すぎるってわけだ」

「…うん、分かった…」

 

少し納得した鈴仙の言葉を聞いて、エースは鈴仙の頭を撫でる。

 

「そうそう、そうやって強くなっていけるんだ。頑張れよ」

「エ…エースさん……」

 

撫でられている鈴仙は往来の真ん中ということもあり、恥ずかしく思うのだが、心地よい感覚だったので抵抗はしなかった。

 

それを横で見ていた張遼は急に猫の様にエースにすり寄ってきた。

 

「あ~ん…ウチも撫でて~な~。程普だけじゃなくてウチも可愛がって~」

「ちょ…張遼さん!」

 

すり寄ってくる張遼を慌てて引き剥がそうと鈴仙は止めようとするが、エースはそれに笑いを上げる。

 

「はは…賑やかな奴等だ」

 

チューしようと迫ってくる張遼を止めるのに必死な鈴仙、そのじゃれ合いはしばらく続いた。

 

 

 

 

 

 

 

そして、治まった三人はお目当ての店に着いた。

 

それはなんの変哲もない普通の店。

 

「ここですか?」

「割と普通だな」

 

二人の呟きに張遼はチッチッチと反論する。

 

「二人共……この店の持ち味は味やない……場所で勝負しとるんや」

「「??」」

 

店からガーン! と言う効果音が聞こえたが、三人はガン無視して話を続ける。

 

「あの、場所って……」

「見て分からん? あの店」

 

張遼が指差す場所へ二人は追ってみると、その先には酒屋が……

 

「なるほど……」

 

鈴仙は何となく真意が見え、溜息を吐く。

 

「なんや? なんかおかしいんか?」

 

心外とばかりに張遼が目を細めて言う。

 

「いや、こういうのって普通昼からやることでは…」

「何言ってんのや。酒は夜にしか飲んではいけないなんておかしい。飲みたい時に飲みたい」

「子供ですか…」

「なんとでも言い! ウチはなんとしても今飲むで!」

 

子供みたいに駄々をこねる張遼に鈴仙は困り果て、エースに目で助けを求めた。

 

それに対してエースは…

 

「おれは別にいいと思うけどな」

「ぶっ!…ちょ…エースさん!?」

 

意外な所からの新たな敵の出現によって鈴仙はテンパった。

 

「何も仕事って奴に影響されないくらいなら酒だって構わねえと思うんだがな」

「流石エース! ウチの見込んだ通りの男や!!」

「いや、この人に酒を与えては……」

 

鈴仙がそこまで渋るのは、一度だけ酔った張遼を見たからだ。

 

一度だけ昼間に飲んでいたのを見かけたのだが、その時に有り様がひどかった。

 

酒の器はそこら中にばらまかれており、匂いもひどい。

 

ただでさえ露出の多い格好なのに胸のサラシも外れかけてだらしないことこの上なかったのを覚えている。

 

そんな記憶もあり、できるだけ勤務中は張遼には酒を与えない様にしたかったのだけど、それも最早叶いそうになかった。

 

エースと二人で盛り上がっているのを見てうなだれる鈴仙だった。

 

 

 

 

「それじゃあ、盃は持ったな?」

「おう」

「わたしはこの一杯だけですよ?」

 

張遼の号令と共にエースはノリノリに、鈴仙は仕方無くといった感じで中庭の一角で酌をしている。

 

そこで思うだろう。なんで中庭でやっているのか、飲食店に向かったのではないかと。

 

その理由はあまりにマヌケなものだった。

 

張遼は酒屋で滅多に見る事の出来ない酒を見つけ、その場で買うことにした。

 

しかし、高級なこともあって所持金<酒の値段、ということになった。

 

そこで諦められない張遼はエース達に拝み倒した。

 

急に土下座を始める張遼に二人は驚き、止めさせようとするが中々顔を上げない。

 

それ以上に街の将軍の情けない姿を見せるわけにはいかないと判断し、その場で持っていた金を全て貸した。

 

そのおかげで酒は買えたのだが、飲食店では食べられなくなった。

 

そして、三人は城まで退き返して待女につまみを持ってきてもらって酒盛りをしようとしている。

 

酒を注ぎ終わった張遼は自分のも高々と上げてエース達を促す。

 

エースと鈴仙もそれに応えて盃を上げる。

 

「「「乾杯」」」

 

それと同時に一気に飲み干す。

 

「「ぷは~!」」

「ん……強い…」

 

エースと張遼は酒の味に満足したのだが、鈴仙には早かったのか目を閉じて唸る。

 

「なんやエース。結構イケるやないの」

「そりゃこっちの台詞だ。これでも結構強いんだぜ?」

「ほぉ……それなら勝負するか?」

「勝負か……望む所だ」

 

二人で不敵に笑い合っていたと思っていたら二人で一気に酒を大量に飲み始めた。

 

「エースさん!? 張遼さん!?」

 

二人の沈黙の合図に驚いた鈴仙はいきなりの行動に驚き、二人を抑えようとする。

 

「いきなりどうしたんですか!! そんなに飲んだら体持ちませんよ!!」

「これで死ねたら本望や!!」

「本望ですか!?」

「おれは挑まれた勝負は必ず受ける!!」

「こんな形の勝負もですか!?」

 

本人はマジメに言っていることだが、鈴仙にとっては理解できないほどアホらしかった。

 

どうして酒の飲むだけだったのに一番の酒豪を決める勝負になったのか。

 

酒が苦手な自分が言うのもおかしいのだが、酒をゆっくりと堪能できないのかと呆れた。

 

乾杯から始まっていきなりクライマックスに入る奇妙奇天烈な状況を眺めながら考えていた。

 

(賈駆さんを呼んで来ようかな…)

「アンタ! ちょお酒持ってきてや!!」

「こっちも頼む!! できればつまみも!!」

 

鈴仙の視線の先の二人は常人では考えられないスピードで食料を消費していく。

 

最早、山になって積み上げられた酒瓶とつまみの皿の量は相当な数に達していた。

 

見る限り、個人で賄える許容量を越えている。

 

逆らえない待女に注文するたびに自分達の首を絞めていることには今の時点では気付いていないだろう。

 

そう考える鈴仙はもう一つ別のことを考えていた。

 

自分のことを放って張遼と楽しく酒を飲みまくるエースに少しの嫉妬が燃え上がる。

 

「もう知らない」

 

鈴仙は兎耳をピンと立て、賈駆の元へと報告(またの名を“チクり”)しに向かった。

 

「秘儀!! 滝流し!!」

「秘儀!! 濁流!!」

 

大量の酒を滝のようにして口の中に流し込む二人は本当に良い笑顔だった。

 

そんな様子を城壁から眺めていた者がいた。

 

「これは少し懲らしめる必要がありますね~…」

 

偶然、外に出て散歩していた風が内心、穏やかではなかった。

 

こんな感情は初めてだったが、今の風の頭にはそんな疑問よりもエース達を懲らしめる策を張り巡らしていた。

 

「今晩が楽しみなのです」

 

そう言って、風も賈駆の元へと自分の考えていることを提案(またの名を“チクり”)しに向かった。

 

「「美味い!! もう一杯!!」」

 

二人の笑顔はその日の晩にコナゴナに崩されることになった。

 

 

 

 

 

 

『エース及び張遼将軍に一週間の禁酒を命ずる』

「「え”!?」」

「何? 文句があるならいつでも、いつまでも聞くわよ?」

「「……」」

「で? 言いたいことは?」

「「……滅相もございません」」

 

これを賈駆の説教と共に聞いた二人は自分の部屋で血の涙を流したとか流してないとか。


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