火拳は眠らない   作:生まれ変わった人

31 / 46
なんで信用しない! 戦への決意表明

 

「おれと恋が?」

「そ、あんたが霞より強いのは分かるから恋とも闘ってほしいのよ」

 

いきなり、中庭に呼ばれたと思ったら状況がつかめない真昼間。

 

エースは庭の中央で恋と向かい合っていた。

 

「よろしく」

「あ、あぁ……」

「恋殿!! エースを倒してねねの無念を晴らしてください!!」

 

状況がつかめていないエースに対してそこにいるねねは恋に大きい声援を捧げる。

 

「はようしてな。ウチはこの日のために一級品を取り寄せたんやで?」

「そうだな。我が軍が誇る猛将が天の力相手にどこまで闘えるかも見物だからな」

 

別サイドでは酒を飲んでいる張遼と腰かけている華雄もいた。

 

ちなみに、禁酒期間の一週間は既に切れているので問題自体はない。

 

「期待してますよ。お兄さん」

「がんばって!」

 

更に別サイドではアメをなめながら応援する風と、声を張り上げて応援する鈴仙の妹分達がいた。

 

「あの……お二人共頑張ってください」

 

小さくガッツポーズして応援する董卓もいた。

 

しかも、その周りには一般兵士も多数集まってきている。

 

要は、董卓軍全員集合というわけだ。

 

「んだよ。見世物じゃねーんだぞ?」

「いいじゃない。あんただって修業の最中なんでしょ?」

「そりゃあそうだけどよ……」

 

賈駆の言葉で思い返す。

 

思えば、この世界にきてから大分覇気の修業をしてきた。

 

見聞色の覇気については、周りの気配を探り、相手の行動の一部の先読みができるとこまではいけた。

 

武装色の覇気については、一番力を入れて行っているため結果は上々だが、まだ粗削りである。

 

そして、覇王色の覇気については……放出くらいならできるようになったが、まだ特定の人物にまで飛ばすのが難しい。

 

それでも、当初よりは大分使えてきた。

 

このまま続けていけば後一、二年で完全に使えるようになるだろう。

 

「?」

 

そして、目の前にはその相手にふさわしいと言える豪傑。

 

この力だけでどこまでいけるかを試すことができる。

 

そう考えたエースは準備運動を始めながら答える。

 

「分かった」

「え?」

「おれも自分の成果を確かめてえ。ちゃんと闘うさ」

「そう……無理言ったことは分かってるから。怪我はしない様にね」

 

心配してくれる賈駆の言葉に笑みが零れる。

 

それに便乗して張遼が大きく声を上げる。

 

「そんじゃ、号令はウチがやるで!!」

 

それについてはだれも反対しないので、張遼の声が上がる前に両者共構えをとる。

 

その瞬間、周りのおしゃべりの声が消えた。

 

両者が戦いの姿勢を見せた時、模擬戦ではなく戦場の雰囲気になった。

 

武官はある程度予想できていたようで黙ってそおの様子を見守り、賈駆や董卓とねね、風はその光景に無意識に唾を飲む。

 

「それじゃあ、いくで?」

 

その言葉に二人は何も言わずにただ頷く。

 

両者はもうスイッチが入っている。

 

これは試合だと分かってはいるが、死力を尽くさねばならない。

 

互いの力量はまだまだ未知なるものだ。

 

だからこそ、半端な気持ちで臨めばただでは済まされない。

 

飛将軍と火拳は向かい合う。

 

それはまさに常人では及びもつかない超人の領域。

 

その戦いの火蓋が…今…

 

「……始め!!」

 

切って落とされた。

 

 

恋は今からエースと闘う。

 

詠が肉まんをくれるからエースと闘うことにした。

 

エースも初めて聞いたけど修業になると言ったら勝負することになった。

 

エースは普段は優しいから好き。

 

だけど、こっちを見ているときのエースは油断できない。

 

勝てるか分からないけど……やってみる。

 

「始め!!」

 

霞の声が聞こえた。エースに向かう。

 

 

 

ウチの号令と共に恋はエースに真っすぐに向かって行った。

 

遠距離攻撃もできるエースには上々の展開。

 

ここで簡単に引き離されるトコやのに恋はウチ等とは比べ物にならん速さで懐に入った。

 

「ふっ」

「おっと」

 

二人の軽い声とは裏腹に恋は画戟での一閃で轟音を響かせるが、エースはそれを宙返りしながら軽く避ける。

 

雑兵やったら確実に終わってたで……

 

だけどエースはそれを紙一重で苦もなく避けた。

 

「……これは?」

 

さっきと同じ速さの剣撃が嵐となってエースに牙を向く。

 

「おわ!」

 

流石のエースもそれを紙一重ではなくて体を捻ったりして避ける。

 

ウチ等より速い剣撃が更に速くなる。

 

しかし、それでもエースは全て避けよる。

 

これを見る度に、二人は本当にウチ等と同じ人間なんかと疑う。

 

エースは天の人間と言えば分かるんやけど……

 

少しの劣等感を感じていた時、闘いの流れが少し変わっていた。

 

それは……

 

「……なあ…張遼…あれは一体……」

「ん? どないしたん?」

 

華雄が驚いているのに疑問を持った。

 

「……あれは一体……」

「なんやあれって…なんかおかしいことでも…」

 

華雄の震える指が指し示す方向に視線を向ける。

 

すると、そこではとんでもないことが起きとった。

 

「っ!!」

「……」

 

相も変わらずどころか、さっきよりも一層速さと力強さを増した剣撃がエースに向けられたいた。

 

しかし、それを未だにエースは避け続ける。

 

驚くべきはそこにあった。

 

「……マジか?」

 

エースはさっきとは違って落ち付いていた。

 

いや、落ち付いていたというよりも悟りの境地に達していたかのようだ。

 

エースはその場から必要最小限の動きで剣撃の暴風雨を避ける。

 

その顔には焦りも何もない。

 

「なんと……」

 

隣の華雄も驚きで声も上がらへん。

 

そらそうや。もうウチでも恋の一閃が見えへんようになってきたのに。

 

もはや反射神経とかではなくて完全な“予測”。

 

相手の一手を先読みでもせえへん限り、あないな動きはでけへん。

 

だけどそんなこと神にしかできん所業。

 

この時、ウチはガラにもなく“奇跡”というものを本気で信じた。

 

ガキン!!

 

また考えに更けていた時、耳をつんざすような音と共に恋の戟が宙に舞っていた。

 

戟は綺麗な弧の軌跡を描きながら地面と落ちる。

 

刃が地面に刺さって立った時、多分、ウチ等の頭は真っ白になったのかもしれへん。

 

今、まさに伝説が塗り替えられたから当然や。

 

そして、ウチは感動した。

 

もしかしたら、ウチ等はウチ等が目指す武の頂きの一端を垣間見た気がした。

 

この大陸が誇る武神達の戦い。

 

それを直に見たウチ等は幸せ者かもしれん。

 

そして、ウチは思った。

 

 

エエとこ見逃したぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!

 

 

やべぇ……力いれすぎた。

 

最初、覇気の出来映えを確かめるため、見聞色の覇気を試した。

 

大事なのは余計な雑念を消すこと。頭をクリアにして頭の中に入ってくる光景を受け入れる。

 

これだけで相手の一秒先の動きが見えてくる。

 

少しボヤけてはいるけど、大分分かる。

 

右からの薙ぎ払い

 

ブオゥ!

 

「!?」

 

恋は今の攻撃を避けたのに驚愕するが、また追撃を仕掛けてくる。

 

次は……おれの腕を右手で掴もうとしてくる。

 

「っ!…」

 

手を引っ込めて恋の一手を避けると恋の眉に皺が寄る。

 

次は単純におれの腹に突き。

 

視える……相手の一手が……これが覇気……おやじ達の力……

 

相手が恋だったから能力も使うことも考えてたが、予想以上だった……

 

しかし、避けてばかりでは勝てない。

 

次は武装色の覇気。

 

いつもやっている通りに全身を覆う鎧をイメージする。

 

「ふっ!!」

 

恋が若干の怒りの籠った渾身の薙ぎ払いを仕掛けてくる。

 

この威力を真正面で受けるのは正直まずい。

 

だからこそ、修業になるというものだ。

 

今の恋には苛立ちがあるせいか攻撃が単調すぎる。

 

おれは迫りくる刃を予測できたこともあって、刃の腹を足で軌道を逸らそうと思った。

 

その後、ガラ空きになった恋の懐へ一発いれてやろうと思いながら刃を足で……

 

「うらぁ!」

 

ガキン!!

 

……逸らすどころか間違えて弾き飛ばしちまった…

 

 

 

 

 

 

 

エースの覇気の籠った蹴りは恋の戟を逸らすどころか弾き返し、恋の手から弾かれた。

 

そこまでするつもりが無かったエースは突き刺さった戟を見てアチャーといった感じで頭を掻く。

 

「ぐ…」

 

それと同時にエースの体が急に重く感じた。

 

覇気の練習は確かにしてきたのだが、リアルさながらの戦いで使うのは初めてであった。

 

殺るか殺られるかの緊張の中での覇気は莫大な体力を消費させた。

 

だけど、エースの中では大きな達成感が生まれた。

 

歴戦の覇者達はこれを乗り越え、強さをもぎ取った。

 

自分は未だスタート地点……いや、やっとこれからスタートできる。

 

「やったぁ!」

 

そう思ったエースは歓喜の声を上げながら地面に仰向けに倒れる。

 

「エースさん!?」

「お兄さん!?」

 

鈴仙と風は急に倒れたエースに駆け寄る。

 

「エースさんどうしたの!?……って、すごい汗…」

「結構お疲れみたいですね~」

 

二人は心配そうに倒れていいるエースを見つめる。

 

しかし、エースは疲れよりも嬉しさが大きかった。

 

鈴仙と風の二人の姿が見えると、エースは立ち上がる。

 

「ははは…やったぁ!」

「きゃっ!」

「!!」

 

エースは歓喜のあまり鈴仙と風を抱いてクルクル回り出す。

 

「やっとだ!! やっとおれは始められるんだ!!」

「いや、あの、皆が見てるから……」

「う~…少し苦しいのですよ~」

 

二人の声が聞こえたのかは知らないが、エースは二人を下ろしてしばしの余韻に浸る。

 

二人の顔が真っ赤になっていることなど二の次だった。

 

「す…すごかったです! エースさん!」

「まさか恋にまで勝つなんて……嬉しい誤算だわ」

 

遠くから眺めていた董卓と賈駆は小さくそう呟くと、賈駆はエースの元へと向かう。

 

「ねえ、エース……」

「ははは…うん?」

 

張遼や華雄、ねねも含めた面子でじゃれ合うエースの前まで行くと、賈駆はエースに提案する。

 

「あなた……自分の部隊を持ってみない?」

「は?」

 

そう言うと、エースは素っ頓狂な声を上げる。

 

「自分の……部隊?」

「ええ、あなたがボク達の様に規律の固い形式が嫌いだって知ってるわ……だけど、お願い……」

「……何があった?」

 

エースは賈駆の悲痛な声に何かを感じ取り、さっきとは雰囲気を変えてマジメに賈駆を促す。

 

それに答える様に賈駆は続ける。

 

「……この前、月を張譲から助けて張譲が没落したのは覚えてる?」

「ああ、あん時のことはよく覚えてるさ」

 

エースもその時のことを思い出して腹が立つ。弱い者を大人数で囲んだ卑劣な連中を嫌でも思い出してしまう。

 

「そう……確かにあの後に月は助け出されて、この洛陽の支配者になった」

「それは聞いたぜ? 董卓が王になってからは結構生活も良くなったって街の奴や饅頭屋の婆ちゃんも言ってたっけな」

「でも…」

「?」

 

その光景を思い出して誇らしく思うエースだが、賈駆の続きに耳を傾ける。

 

「でもね……その時、月はただの王じゃなくて皇帝……この大陸の支配者になったの」

「は? 大陸って……董卓はこの街だけを任されたんじゃねえのか?」

「表向きはそう。だけど、張譲は元々から今の皇帝を裏で操ってたの」

「なに!?」

 

賈駆の言ったことが信じられなかったのか、エースは大きく目を見開く。

 

あんな小物がそんな簡単に支配者なんかになれるのかと…

 

「今の皇帝は張譲が推薦したから、その恩として皇帝と話したりすることができるの」

「なるほど……そうすれば自分の思うことを皇帝に刷り込ませられるってわけか……」

 

ここまでくると、エースでも分かった。

 

人は一度だけでも良くしてもらった人物にはトコトン弱いし、警戒心も薄い。

 

あんな小物が親切で推薦する訳が無いと思ったエースも合点がいくと納得できた。

 

「その時、月が張譲の代わって、実質、皇帝を動かせる立場になれた」

「そっかー。すげえ出世だな」

「だけど、それを良く思わないのがいるの」

「?」

 

そう言って賈駆は少しの怒りを混ぜてそおの憎き原因の名を挙げる。

 

「河北の袁紹って奴」

「? そいつってこの国となんか関係あんのか?」

「いいえ、ただ単に自分よりも偉くなったことが気に入らないのよ……」

「そうか…くだらねえな……」

 

エースは権力のそういうところが理解できなかった。

 

確かに偉くなれば金も名声も手に入るが、それだけだ。

 

一人だけで欲しい物を手に入れても寂しいだけだ。

 

そんなものよりも仲間と一緒にいるほうがどんな宝にも勝る宝だと思う。

 

エースとはそういう男だ。

 

そんな彼に追い討ちとも言える事実が突きつけられる。

 

「それで……近い内に月を殺しにくる…」

「なんだと!?」

 

エースは最後の言葉に納得がいかずに賈駆に詰め寄る。

 

「なんで、なんで董卓が殺されなきゃなんねーんだよ!! あいつ…なんも悪いことしてねえじゃねえか!!」

「……各地の諸侯は成り上がりたくてしょうがない。だから月が邪魔だって思うのよ……」

「……くそ…」

 

結局、同じ志を持っていても、そいつが味方とは限らない。

 

同じ考えだからこそ邪魔になる。

 

それは海賊にも言えることだった。

 

「だから、アンタがこの軍に正式に入ってくれたらまた強くなれるの。さっきの模擬戦で確信できた」

「……それで闘わせたのか…」

「ええ、兵にアンタの強さを見せつければ納得してくれるし、エースは兵の間では人気が高いの……だから……お願い……」

「……」

「アンタの気持ちを無視してるのは重々承知してる。だけど、月だけは守りたい……だからお願い……」

「……」

 

賈駆が頭を下げた時、エースは見た。

 

頭を下げたことにではない、賈駆の顔から零れた一滴の滴を……

 

大事な人が訳も分からない理由で殺されるかもしれない。

 

そんな事態が起ころうとしているから手段を選んでいる場合ではない。

 

そんな感情がヒシヒシと伝わってくる。

 

賈駆だけじゃない。

 

周りの張遼や華雄、恋とねねからもそんな感情が伝わってくる。

 

そして、エースもその気持ちが痛いほど分かる。

 

大事な人のためならどんなことでもやれる。

 

かつて、身勝手な者のために自分達から離れ、逝ってしまったもう一人の兄弟のサボ……

 

絆の力ではサボの方が上かもしれない。

 

だけど、それとこれとは別。

 

今、目の前の少女達が窮地に立たされている。

 

かつて、サボが連れ去られた時のように……

 

(今度は……こいつ等がおれ達みたいなことになるってのか!!)

 

あの時ほど怒ったことはなかった。

 

あの時ほど悔しかったことはなかった。

 

あの時ほど自分の弱さを呪ったことはなかった。

 

あの時ほど………泣いたことは滅多になかった。

 

エースの頭の中で昔の風景が呼び起こされる。

 

そして……決めた。

 

「……一つだけ………言わせてくれ」

「……」

 

賈駆は何も言わない。

 

それを了承だと思ったエースは……

 

 

 

「おれの顔色なんざ窺うんじゃねぇ!!」

「「「「「「「「!!!」」」」」」

 

自分の想いを言葉にしてぶちまけた。

 

驚く全員を押しのけて賈駆に詰め寄る。

 

エースの表情には“覚悟”と“怒り”が混ざり合っており、賈駆は一歩退いてしまう。

 

「わざわざこんな遠回りなことしやがって……直接言えよ。『助けて』って」

 

それでもエースは真剣な表情で賈駆に言い切る。

 

エースの切なる願い。

 

相手が国の人間だろうと、共に過ごし、受け入れ、笑い合った仲間だ。

 

そんな仲間に遠慮されたことがエースの感情をより一層燃え上がらせた。

 

「でも…エースは軍は好かないって……」

「たしかにそうだ。おれは軍なんてどうでもいい、それとこれとは話は別だ。仲間が危ない目に会うってんだ、黙ってられるわけねえだろ!!」

「……」

「それとも、お前等を仲間だと思ってたのはおれだけだったのか!?」

「エース! 言い過ぎや!」

 

詰め寄るエースに賈駆を守る様に立ち塞がる。

 

「賈駆っちはエースの気持ちを尊重してくれたから中々言いだせなかったんやで!! それを分かってやり!!」

 

それを聞いたエースは感情を思いっきりぶつけたこともあって、少し落ち着きを取り戻す。

 

「…それは分かってる。だけど……」

「言わんでエエ。エースがそこまでウチ等のことを想ってくれたんは知らんかった」

「……嫌だったか?」

「な訳あらへん! メッチャ嬉しいわ! やから、エースの望み通り、もう小細工は無しや!」

 

ここで張遼はエースの肩を叩いて頼み込む。

 

「頼む!! ウチ等に力を貸してほしい!! 何も言わずに頷いてほしい!!」

「……恋からも……エースになら背中を任せられる…」

「私からも頼む…」

「……お願いです……ここは月殿を助けると思って……」

 

張遼の他にも恋と華雄、珍しくもねねまでもが頭を下げてきた。

 

そして、奥からも董卓が歩み寄って不安そうにエースの前に立つ。

 

(……董卓……やっぱり小さいんだな…)

 

今にも涙が溢れるかのように目を潤ませる董卓を見て、またサボの顔がちらつく。

 

(サボ……お前が捕まっている間は、董卓みたいな気持ちだったのか?)

 

抗いたくても何もできない。

 

周りには敵ばかり。

 

この状況は昔の忌まわしき事件に酷似している。

 

(あの時…おれは弱かった……お前を完全に信じてやることができなかった……)

 

―――今、目の前に昔のお前がいる

 

この時、エースにはもがき、苦悩するサボと董卓がダブって見えた。

 

「…っ!」

 

一瞬、目を閉じてしまったが、同時に覚悟も決まった。

 

しばらく、そのまま目を閉じて佇んだと思ったら再び目を開ける。

 

「……おれは戦術なんて細かいことはできねえ……お前等の様に陣なんて組めねえけど…」

 

エースは董卓の前に歩み寄り……

 

―――おれが……守ってやる…

 

「……え?」

 

気付くと、董卓は頭をガシガシと撫でられていた。

 

それを夢心地で反芻させながら、エースを見上げる。

 

すると、いつもの太陽みたいなエースの笑顔があった。

 

「少し迷惑かけちまうけどよろしくな」

 

それはつまり、エースが了承したことを意味する。

 

一緒に闘ってくれるということを意味する。

 

「……マジで?」

「ああ」

「……嘘では無いな?」

「全く」

「……一緒に闘ってくれる?」

「もちろん」

「……本当なのですね?」

「しつけえよ」

 

張遼、華雄、恋、ねねの問いにエースは苦笑する。

 

そして……

 

 

 

「いやったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

張遼が急にジャンプして喜びを表す。

 

「ふ……これでお前も仲間入りか…」

「……」

 

華雄も恋も笑顔を浮かべながらエースの仲間入りを喜ぶ。

 

「ふ…ふん……始めから焦らさずに言えばいいのです!」

 

ねねも悪態は吐くが、満更でも無さそうだ。

 

そして、当然、この二人も……

 

「エース……いいの?」

「まあな、おれが決めたことだ。こうなったらできるところまでやっていくさ」

「そう……ありがとう……」

 

賈駆は素直な気持ちで感謝を述べ、董卓もエースに感謝する。

 

「ありがとうございます……知り合って間もない私なんかにこんな…」

 

だけど、エースは笑って董卓の言葉を遮る。

 

「今更何を言ってんだよ。もうこれはお前だけの問題じゃねえんだからよ」

 

そう言ってくれるエースに董卓は嬉しさがこみ上げる。

 

そして、董卓はある提案をしてきた。

 

突然、厳かな雰囲気を纏った董卓にエースは眉を少し動かして反応する。

 

そして、董卓は決意した。

 

「これから共に戦う証として……私の真名…月の名をあなたに預けます」

 

エース達と共に闘うことを……

 

董卓の申し出に少し反応するが、何も言わない。彼女の気持ちを汲んだエースはそれを否定する権利も理由もないと思ったからだ。

 

それに同意したかのように張遼と賈駆も頷く。

 

「ほんなら、ウチのも預ける。これからは霞って呼んでや」

「ボクも、これだけで信頼の証になるかは分からないけど預けるわ。詠でいいわ」

 

二人からも信用の証を託されたエースはそれに笑って応える。

 

その光景を風と鈴仙は微笑ましく眺めていた。

 

「よし! 新しい仲間も増えたことやし、今日はパァーっとやるで!!」

「ちょっと!! あんたまだ飲む気!?」

「エエやん今日くらい~」

「あんたは毎日飲んでるでしょうが!!」

 

事態も一段落し、またいつもの様に賑やかになってきたギャラリーを見つめてエースは一人、物思いにふける。

 

(サボ……結局おれは未だにお前の死が納得できてなかったようだ……だけど、これで終わらせる……)

 

―――今度こそ……守ってみせる

 

「……」

「今はそっとさせておきましょう……」

「…うん」

 

天を仰ぐエースに風と鈴仙は見惚れていた。

 

初めて見るエースの…覚悟を決めた戦士の顔を見た二人は、その光景を胸の中にしまうだけにした。

 

心に決めた一つの決意はこれから起こる戦いに何をもたらすか……

 

ただ、これだけは断言できる。

 

その時が、本当の伝説の幕開けだ。

 

 

 

 

 

一人の大海賊が迷い込んだ世界に、もう常識などは存在しない。

 

ようこそ

 

本物の混沌の時代へ


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。