火拳は眠らない   作:生まれ変わった人

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今回の一斉投稿ですが、知ってる人もいるでしょうが、この作品は私の実質上の処女作となっています。なので色々と稚拙な文もあります。今もですけど。

そして、月日が経っているのでワンピース事情も恋姫事情も色々と変わっています(公式の最新作の程普とこの作品の程普とか)

ですが、これらの設定は全て外史で起こっているのです!! なので、この作品との関連性は全くの皆無であります! この作品が公式と同一だという事実は認められておりません!!

今回はそのことを簡単にお伝えいたします。


洛陽に舞う炎の乱舞

「エースさん…」

「遅くなって悪い…これでも近道したんだけどよ」

 

エースはバツが悪そうに言うが、月は微笑んで応える。

 

「大丈夫です。信じてましたから」

 

その言葉にエースは少し虚をつかれた。その場の空気を感じさせない様子の月の意外性を目にしたからだ。

 

「肝が据わってるじゃねーか。本当に月か?」

「へぅ…」

「冗談だよ。そう落ち込むなって」

「我等を前に余裕だな」

 

頭を撫でていたエースに白装束が会話を遮る。一方で、当のエースは白装束を前にしても余裕の笑みを崩さない。

 

月を後ろに下がらせる。

 

「董卓を餌にすれば釣れると思っていたが、こうも簡単にいくとは思ってなかったぞ」

「それでこんなまどろっこしい真似を?」

「そうだ。ガハッ!」

 

その先の言葉は無かった。エースは白装束の顔面を殴ったから。

 

殴られた白装束は地面を何回かバウンドして壁に激突する。

 

壁が大破して白装束が崩れる。

 

他の白装束も臨戦態勢をとる。

 

そして、エースは拳を収めて右半身を炎に変える。

 

「なら、『悪』らしくお前等を燃やすだけだ」

「なにを…!」

 

エースの軽い挑発で白装束は更に怒る。

それを見てほくそ笑んだエースは突然白装束の大群に突っ込む。

それに対して白装束は迎え撃つ姿勢を見せるが、それもすぐに崩される。

 

エースは驚異的な跳躍で白装束の頭上を跳ぶ。

しかも、それだけではない。

 

「蛍火…」

『『『!!』』』

 

白装束はいつの間にか眼前に現れた火の玉に驚愕する。

 

「火達磨!!」

 

幻想的な炎は弾け、白装束を飲みこんだ。

 

エースは着地し、間髪入れずに第二撃を打ちこむ。

 

「火拳!!」

『『『ぐああああぁぁぁぁ!!』』』

 

いつもよりも極太の炎の拳は白装束を一掃し、城の壁を破壊した。

それによって白装束の数が四割にまで減った。

 

『『『うおぉぉぉぉぉ!! 御遣い様ぁぁぁぁぁ!!』』』

「応援よりもさっさと逃げろよ!!」

 

董卓軍の兵士と待女達が手を振って応援するのに、エースは突っ込む。

その直後、気を入れ直して白装束を見据える。

 

白装束はエースに警戒を強くして、動けずに武器を構えたまま。

 

「来ないならこっちから行くぞ」

 

エースはまた白装束に突っ込み、両手に薄い円盤状の炎を纏わせる。

 

火輪刀(かりんとう)!!」

 

エースはそれを投げると、当たった白装束は火傷と切り傷を負って倒れる。

 

「ひ……怯むなぁ! 押せぇ!」

 

白装束が叫んでエースに群がるが、それは紛れもない自殺行為だった。

 

「狐炎輪!!」

「なっ!…ぐわぁ!!」

 

エースが放った炎は姿を変え、一つ一つが一匹の狐の姿となる。

数は四匹だが、通常の狐とは似ても似つかぬスピードで駆け廻り、白装束を蹴散らす。

 

白い衣と肌を焼かれ、次々と倒れていく。

 

数が次々と減っていく同胞に白装束も狼狽していく。

正体を知らない内に襲撃したのが間違いだった。

 

何人かはそう思ったが、真実を知って後悔することもあるということを忘れているのだろう。

憐れ、鼠は百獣の王に喧嘩を仕掛けたことにも気付かない。

 

「どうする? まだやるのか? それとも全滅させられるか……」

 

狐はエースの肩に乗り、またユラユラと炎に戻った。

炎はゆっくりとエースの体に戻っていく。

 

それを見た白装束は一歩後ずさって態勢を立て直す。

 

そんな時、白装束の全員の頭から声が響いた。

 

 

 

―――もう結構ですよ。相手の観察を終えました。すぐに撤収してください

 

それを聞いた白装束の動きが止まった。

手足の力が抜けてグッタリとなる。

 

「?」

 

エースは急に生気の抜けた白装束に疑問符が浮かぶ。

 

しかし、そんな疑問もすぐに吹き飛ばされる。

 

「!」

 

また白装束が動き出したのを見て、エースも構える。

 

しかし、闘う気はあったけれども白装束は一目散に逃げてしまった。

 

「…なんだぁ?」

 

さっきからの意味不明な行動にエースは首を傾げ、思考する。

しかし、そんなことを考えても分かる訳が無い。

 

神経を研ぎ澄まして周りの気配が薄れていったのを確認した。

とりあえず、当面の危機は去った。

 

「エースさん!」

「おっと」

 

少し気が抜けた所に月が勢いよくエースの体に跳び込んできた。

大した衝撃では無かったから、エースは普通に受け止めた。

 

月を見ていると、先程とは違って月は泣いていた。

 

「ヒック…グス……」

「なんだ? さっきまでは肝っ玉だったのによ」

「だって……」

 

エースはそれを聞いて優しく笑う。

月はさっきまで目の前の死の恐怖と戦っていたのだ。

 

こんな小さい体のどこにそんな勇気があるのかさえ考えた。

 

「まあ、とにかく当面の危機は去ったな。またおれは虎牢関に…」

 

月をゆっくり離して城を出ようとした時だった。

 

「申し上げます!」

「あれ? お前……」

 

急に現れた伝令兵に目を向ける。

その顔に見覚えがあったエースはすぐに虎牢関からの伝令だと理解した。

 

「何かあったのか?」

「はっ! 先程、虎牢関が…!」

「……何があった?」

 

エースはただならぬ予感を感じ、兵に聞くと悔しそうに答える。

 

「…虎牢関が連合軍に……!」

 

 

 

「そう…それでは火拳のエースはもう虎牢関にはいなかったのね?」

「正確に言えば、最初の一当ての後に洛陽に戻ったんやけどね」

「そう…それは残念ね…」

 

エースが去った後、恋と華雄の突撃にやむを得ず霞も突撃を開始した。

 

その結果、霞は夏侯惇の目の責任として捕虜となり、曹操に下った。

 

「洛陽の湧き出た賊……お主は戻らなくてよかったのか?」

 

夏侯淵の問いに霞はカラカラと笑って答える。

 

「大丈夫や。エースが向かったから問題あらへん。ウチ等がおったら足手まといもエエところやな」

「そう…じゃあもう一度聞くけど、袁紹に大打撃を与えた火の雨は…」

「言うまでもあらへん。エースやな」

 

それを聞いた曹操は口を吊り上げて答える。

 

「火拳のエース…ますます興味が沸くわ…欲しいわね…」

「華琳さま! それは…!」

「ふふ…男が入るのが嫌なのね? 可愛いわ桂花」

「か…華琳さま……」

 

可愛いと言われ、恍惚な表情を見せる猫耳軍師・荀イクにSっ気を見せる曹操といった百合百合しい光景を見た霞は少し引いた。

 

「はいはい、ごちそうさま……」

「華琳さまは渡さんぞ?」

「いらんて、ウチはエース一筋やから」

 

夏侯惇の問いをやんわりと断ると、それに気付いた曹操は聞いてみる。

 

「へぇ…あなた、火拳を狙ってるの?」

「せやで! ウチよりも強いし、メッチャ優しゅうて面白い! それに、あれほど器がでかい男はそうそうおらんで!」

 

笑いながら言う霞に曹操は少し笑いながら言う。

 

「そう……今は別件でここにはいないけど、あなたと凄く気の合う部下がいるわ」

「? どんな奴や?」

「楽進って名前で……とにかくエースの話をしてごらんなさい。飛び付くから」

「はぁ……」

 

訳が分からないといった様子で霞は首を傾げるのを見て曹操は少し吹いてしまった。

 

 

 

 

 

「こんにちは、可愛い兎ちゃんと……いねむりさん♪」

「……「ぐ~…」」

「雪蓮……」

 

一方、呉の天幕では呆然とする鈴仙と眠る風、おどける孫策と頭を抱える周瑜がいた。鈴仙は風の体を揺すって起こす。

 

「おおう!?」

「おはよう」

「おはようございます~。孫策さん」

「なんで和んでるんです…?」

 

風と孫策はなぜか和やかに話し、鈴仙と周瑜は溜息を吐く。

 

そもそも、なぜ鈴仙達が呉の天幕にいるのか。

答えは簡単、霞と同じ様に捕まったからだ。

 

詠の指示で後退する連合軍を追う恋、華雄の軍を下がらせるために鈴仙達も出陣した。

 

しかし、それは孫策と劉備の作戦の内であり、スペード隊は救出の際に袁術軍を攻撃。

袁術軍はとてつもない大打撃を受けた。

 

しかし、その後が問題だった。

 

孫策と劉備は前もって打ち合わせしていたかのように、息を合わせながら三軍を分断させた。

そして、呉はスペード隊、蜀は恋と華雄を相手にした。

 

しかし、兵数の少ない鈴仙達の部隊が耐えられる訳もなく、また、部下を危険にさらせる訳もなく降伏するしかなかった。

恋達も敗れ、華雄も捕らえられたが、恋とねねはどこかへ逃げ延びた。

 

「それじゃあ話戻すけど…本当に火拳くんはいないのね?」

「……」

 

鈴仙は静かに頷く。

表情は沈んだまま……

 

それを見て孫策は努めて明るく言う。

 

「まあ、あなた達のような有能な将が手に入ったから本当はこれで万々歳なんだけどね♪」

「…それで私達を捕虜に…?」

「あぁ…我等が大将が勝手…に決めたことだからな」

「なによー。そんなネチネチ言わなくていいじゃない」

 

『勝手に』を強調する周瑜に孫策はブー垂れて抗議する。

 

「それに、この中の誰かを殺しちゃったら火拳くんも怒ると思ってねー」

「結構、お兄さんを押すのですね…気に入ったのですかー?」

「もちろん! 火拳くんは絶対に呉に来るわ。だから安心なさい」

 

妙に自信満々に宣言する孫策に鈴仙と風が首を傾げる。

思案顔で考えていることを見透かされたのか、周瑜は溜息混じりに言う。

 

「気にするな。確証も無ければ根拠も無い。ただの勘だ」

「そう! だから呉にいれば絶対に会えるから大丈夫!」

「「……」」

「雪蓮…」

 

再度頭を抱える苦労人の周瑜に二人は同情した。

それと一緒に今この場にいない大事な人を思いながら物思う。

 

(エースさん……)

(お兄さん……早く会いに来てくれないと鈴仙ちゃんも風も退屈で……楽しくないのですよ…)

 

空は間も無く、夕闇に呑まれようとしていた。

 

 

 

「こ…これは…」

「…どうやら大丈夫」

 

もう一方では戦いから逃れてきたねねと恋が洛陽から帰って来ていた。

目的は洛陽の家族を迎えに行くこと。

 

しかし、歩けど歩けども街の残骸しか見えず、恋達は心の中で絶望していた。

 

しかし、いざ着いてみると何故か恋の家だけが無傷に近かった。

中にいた家族も含めて。

 

「セキト……大丈夫?」

「張々も大丈夫だったのですね!?」

 

二人は家族の無事を喜び合い、その時に全てを悟った。

 

「……今度お礼しないと…」

「ま…まぁ……礼くらいはしておかないと恋殿の軍師としての品格を疑われるので、礼くらいは…」

「……それよりも早く洛陽から出る。ねね」

「はいですぞ!!」

 

こうして二人は家族と共に洛陽を飛び出した。

 

 

 

「そうか……捕まっちまったのか…」

 

兵からの伝言を聞いたエースは肩を落とし、いつもの様に明るいとは言えなかった。

そんなエースを見て月は慌てるかの様にフォローする。

 

「だ、大丈夫ですよ! 皆殺されずに保護されたって…!」

「そうだけどよ……」

「へぅ…」

 

予想以上に堪えているエースに月も困惑する。

 

何か明るい話題くらい触れられないのか。

月は自分の人見知りさを恨みながら話題の種を見つけようとキョロキョロと穴の空いた壁から城下を見下ろす。

 

「あれ?」

 

月は何か動く一行を見つけた。

最初は白装束かと思ったが、白でなく緑の衣装であったため少しホっとした。

 

「!!」

「どした?…月…」

 

しかし、そんな一瞬の気の休まりも消え去る。

エースも月の見ている先を隣で見てみる。

 

「!!」

「エ…エースさん……」

 

エースはその先の光景に目を見開き、月は泣いてエースのズボンの裾を掴む。

そんな月の頭に手を置いて安心させようとするエースの表情も硬く強張っていた。

 

「……少し待ってろ」

「え…? エースさん!?」

 

短くそう言って城から飛び降りるエースに月は叫ぶ。

落ちている間にエースはズボンのポケットから小さく折ってあった仮面を握る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洛陽の街はかつての喧騒さも賑やかさも威光も失くし、ただの廃墟と成り果てていた。

そんな洛陽を徘徊する緑の鎧の軍隊と将軍たちがいた。

 

「ひどい……」

「…男や女、子供や年寄りなんてあったものじゃない…」

「無差別なのだ……」

 

関羽、趙雲、張飛は悲痛に顔を歪ませて焼けた街を見渡す。

 

「なるほど…本当に洛陽で反乱があったのですね……」

「これだけ被害を起こして人影一人見つからないって変だよね?…朱里ちゃん」

 

ペレー帽似の帽子を被った諸葛亮と魔女ハットの鳳統…伏龍鳳雛と謳われる小さい軍師達は冷静に状況を分析する。

 

「こんな……許せない…」

 

その中で、怒りを表しているのが劉備軍大将の劉備である。

劉備は焼け焦げた子供のおもちゃを見て拳を握る。

 

そして、その中で一番歯痒く、悔しいと思っている人物が二人いた。

 

「くそ! 我々がいないことを良いことに……絶対に許さん!!」

「そんな……なんでこんな……」

 

劉備軍の捕虜にされた華雄と詠だった。

 

この二人は逃げる直前に劉備軍に捕まり、一度は死を覚悟した。

 

しかし、劉備はそれをよしとせずに生かし、罪のない月を助けるとまで約束した。

 

最初はそんな劉備に疑心を募らせていたが、劉備の説得と提案、自分達の益を語ったことによって反論する余地と共に疑心も失せてしまった。

下手に感情論を述べるよりも劉備達自身の得を言うことによって詠達に現実的な安心感を与えたことが吉となった。

 

詠と華雄は劉備に一時的に賛同し、洛陽を案内している。

 

しかし、いざ着いてみると全員がそこの光景に目を疑った。

 

街は無残に焼け、城の壁には巨大な風穴が開けられている。

 

今、洛陽で起こっていることはマトモじゃない……と

 

一方で、詠と華雄の二人は手のひらにビブルカードを置いてエースの元へと向かう。

 

瓦礫を無理矢理よじ登ったり、道なき道を延々と歩き回っていた。

 

「……月」

「心配するな…董卓さまにはエースが付いているんだ。負けるなど有り得んのは私達がよく知っているだろ?」

「……うん」

 

いつもよりもしおらしい我が軍師を見て複雑な気分になってしまう。

励ますつもりだったが、逆効果になってしまったのを悔やんでいると劉備が話しかけてきた。

 

「……随分と御遣いさんを信用してるんですね」

「あ…あぁ…」

「まぁ……少しは信用してるだけよ…」

 

二人は曖昧に返事し、顔を赤くさせて視線を逸らす。

その意図が分からない劉備は首を傾げるが、それを微笑ましく思う。

 

そんな時だった。

 

―――動くな

「「「「「「!!」」」」」」

 

突如としてどこからか第三者の声が響き、劉備達の足を止めた。

兵は武器を構えて辺りを見渡し、関羽達は劉備や軍師達を庇う様に立ち塞がる。

 

劉備達の360度全方位を見渡しながら関羽が唸る。

 

「誰だ!? どこにいる! 姿を見せろ!!」

「そう怒鳴らなくても見せてやるよ」

「「「!!」」」

 

関羽、張飛、趙雲の三人ははっきりと聞こえた声の方向に武器を向ける。

すると、そこには上半身半裸でオレンジのテンガロンハットを被り、蝶の仮面を付けたエースが立っていた。

 

「誰だ貴様!!」

「変で怪しい奴なのだ!!」

「貴様!! その格好いい仮面は何だ!! 私にくれ!!」

 

一人だけおかしいことを口走る者がいたが、仮面を付け、帽子も被って顔を隠しながら声も変えているので、趙雲もかつての同行人とは気付かない。

 

驚愕する面子の中で詠が素っ頓狂な声を出す。

 

「エース!? あなた何やって……あ」

「「……」」

 

しかし、途中でエースの名前を出すといううっかりをやらかした詠は慌てて口を閉じるが、遅かった。

 

「エース……お主エースか!?」

「こ……こいつが袁紹軍を崩壊させた火拳……?」

「おかしなお兄ちゃんなのだな」

 

趙雲は意外な人物との再会にテンションが上がり、関羽と張飛は世に謳われる御遣いのイメージとのギャップに呆然とする。

 

エースは自分の仲間のやらかしたミスに頭を抱える。

 

「……詠」

「あぅ……ごめん…」

「エースにも何か考えがあったのだろうが……まあ気にするな」

「ごめん……」

 

エースからのジト目と華雄からの訳のわからないフォローに詠は弱々しく謝罪する。

 

そんな中、話を聞いていた劉備がポワポワと話しかけてきた。

 

「あの……あなたが華雄さん達が言う御遣いさまですか?」

「……まあそんなとこだ」

 

エースは未だに沈む詠を置いといて、仮面を外さずに劉備達を見据える。

まだ素性の知れない相手に心を許していないと一目で分かる。

 

「あの、これは…」

「無駄な問答は止めようぜ」

 

劉備は何が何だかといった感じで返すと、エースは仮面の奥から鋭い視線で突き刺す。

 

「お前等……詠と華雄をどうする気だ?」

「くっ!」

「にゃにゃ!?」

 

エースからの味わったことのない迫力に関羽も張飛も少し怖気づいてしまった。

無意識な後退に気付いた関羽はハっと我に帰る。

 

(退いた!? そんな……そんなことが…!)

 

内心で自分の愚行にうなだれながら虎牢関でのことを思い出す。

 

それは関羽、張飛、趙雲の三人で飛将軍・呂布に対峙した時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……お前等……怖くない』

『くっ!…言わせておけば…!』

『止めろ愛紗。悔しいが呂布の言う通り。我等は脅威とみなされていない』

『三人で攻めているのに、全然討ち取れもできないのだ…』

『そう。こっちにはお前等よりも……恋よりも強い人がいる。恋も鍛えられてる』

『なんだと!?』

『呂布よりも強い奴がいるのか!?』

『……しかも呂布も強くなっている……か……厄介どころではないぞ…』

 

 

 

 

 

 

 

(あの時……火計で逃げた呂布が言っていた奴と賈駆と華雄が言う灼熱の御遣い……本当にこ奴が本物の…!?)

 

関羽は虎牢関の時の会話を思い出しながら焦燥感に駆られる。

 

(まずい! 桃香さまが傍におられる今、呂布以上の者とやりあえる余裕など…!)

「あ……愛紗…」

「鈴々……」

 

自分の義妹も自分と同じことを考えていると気付き、二人で顔を見合わせてエースを更に警戒する。

 

それが武しかない自分達にしかできないことだと奮い立たせる。

 

そんな膠着状態が続く中、その沈黙を破る者がいた。

 

「落ち着けエース!!」

「そうよ!! 今はこんなことしてる場合じゃないのよ!! 月はどうなったの!?」

 

華雄と詠がエースの前に立って落ち着く様に説得する。

エースが本気で暴れる前に落ち着かせようと思った故の行動だった。

 

本気で暴れられたら収拾がつかなくなる上に話もこんがらがってくるのは目に見えていた。

 

それに、詠達には月の行方が気になっていた。

 

二人の説得にエースは劉備達から目を離し、二人に話しかける。

 

「……それなら大丈夫だ。白い奴等も追い返したし、月も兵達も大丈夫だ。少しやられちまったけどな」

「そう……よかったぁ…」

「それなら、私達を董卓さまの元へ案内してくれないか?……劉備達も一緒に」

 

華雄の言葉にエースは少し反応し、聞き返す。

 

「なんでだ? こいつ等は敵のはず……」

「確かに敵だったけど……もうこいつ等の助け無しでは月を……守ってあげられないの……」

「どういうことだ?」

 

そこから、詠は語っていった。

 

劉備達に捕まった時に洛陽での異変を告げたこと、劉備達は月の悪政説に疑問を持っていたこと、劉備達は月を助けるために洛陽にやってきたこと。

全てをありのままに話した。

 

「……」

 

しかし、それでもエースは警戒していた。

口ではなんと言おうと、ついさっきまでは敵だった奴を信じていいのだろうか……

 

どっちにしろ、何か対策を立てなくてはいけないと思っていた時だった。

 

「…久しいな……と言っても虎牢関の時に会ったな…エース」

「……趙雲か?」

 

エースに話しかけてきたのはかつての旅の仲間の趙雲だった。

 

顔を知っている人物の登場でエースの警戒が薄れたのを趙雲は感じ取った。

 

「そこの二人の言う通りだ。我等は董卓の保護を目的にここまで来た……嘘は言わん」

「……さっきまで月を悪役に仕立てて攻めてきた奴を信用しろと?」

 

その言葉に趙雲以外の劉備の将達は何も言えなくなってしまう。

どんな理由にしろ、無実の月を追い詰めたという事実が皆の胸にしこりとして残っていた。

 

そんな中で、趙雲は堂々と言う。

 

「確かに、我等は董卓を利用してのし上がり、いくつかの名声を手に入れた」

「星さん!?」

 

諸葛亮は全てをありのままに話す趙雲に驚愕する。

他の全員も目の前の強大な敵を刺激しかねない趙雲の発言に肝が冷えていた。

 

皆の緊張が高まっていく中、趙雲は続けた。

 

「だが、この世で今も貧困に苦しみ、嘆く者のため……これは必要悪なのだ……だから頼む……我等に董卓へ償わせる機会をくれないか…」

 

趙雲は自分の気持ちを精一杯にそう言って頭を下げた。

 

劉備達はそんな趙雲の姿を目の当たりにして驚愕している。

 

エースは頭を下げる趙雲を見て、頭を掻いて溜息を吐く。

 

そして、仕方無いといった口調で言う。

 

「……詠と華雄以外には少し警戒させてもらう……それでいいな?」

「あぁ……お前と私の仲だ。もし、言葉に違うことがあれば私の命で皆を許してやってくれ」

「星ちゃん!?」

「おい星!!」

 

趙雲の自己犠牲の発言に劉備と関羽が叫ぶも、趙雲は飄々と受け流す。

 

それを見て、エースのさっきまでの敵意は自然と消える。

 

そして、エースは両手を劉備達に向ける。

 

それには関羽と張飛は警戒を強めて武器を握る手を強める。

そして、その後に驚愕させられることになる。

 

火蝶(かちょう)

 

エースの手からおびただしい量の赤い蝶が出てきた。

 

「え!?」

「なっ!?」

「なんなのだ!?」

「!!」

「はわっ!!」

「あわわわわわわわわ……」

 

劉備、関羽、張飛、趙雲、諸葛亮、鳳統がその不可解な光景に驚きを隠せない。

周りの兵もザワザワし始めた。

 

それでも、エースは劉備軍を覆うほどの蝶を出して淡々と告げる。

 

「いいか……もしお前等が詠達に危害を加えるようなことをしようとしたら……」

 

蝶の一匹を操作し、誰もいない場所へとヒラヒラ飛ばしていると……

 

羽火(うか)!!」

 

そう叫ぶと、一匹の蝶は小規模爆発を起こし、地面を抉りながら木でできていた店の壁を吹っ飛ばす。

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

詠達は慣れているようだったが、劉備達はその威力に驚愕し、自分達を覆う赤い蝶に戦慄した。

 

もし、自分の周りの蝶が爆発したらどれくらいの被害を及ぼすのか…と。

 

「そんじゃあ少し待ってろ」

 

そう残してエースはその場を離れ、月を向かいにその場を去っていった。

 




『火輪刀』……クリリンの気円斬のように手で円盤状の炎を作って攻撃。火斬車よりも切れ味はいいが、作るのに少し時間がかかる。
『狐炎輪』……狐の形の炎をまるで生きているかのように動かして敵に当てて燃やす。威力は弱いが、速さはピカイチ
『火蝶風月』……火蝶仮面の時だけの技。技は蛍火を蝶の形にしただけ。
『火柱・摩天楼』……通常の火柱を縦横無尽にコードの様に曲げたりすることで自由に道を作る。場合によっては攻撃にも使え、その炎の上を走って近道を作ったり空中戦もできてくる

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