火拳は眠らない   作:生まれ変わった人

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星に願いを

こんにちは。程普と申します。

 

最近までわたしは家で一人で住んでいました。ですが、今や家にはもう一人の同居人が増えました。

 

「よし、かかって来い程普」

「はい!」

 

今、目の前で構えも見せずに挑発しているのはエースさん。

 

何でも海を渡ってきた異国人とのことです。

 

最初の内は怪我をしていたので家に置いていました。

 

村の人もエースさんには驚いていたけど、エースさんは気さくな方だったのですぐに村の人と馴染んでしまいました。

 

それに家の手伝いをしてくれて最近ではそんな生活にも慣れました。

 

そして今、わたしは自慢の手甲をはめてエースさんに構えております。

 

どうしてそうなっているかというとそれは数日前にまで遡ります。

 

わたしが早朝に鍛錬していた所をエースさんに見つかりました。その時、わたしがエースさんに勝負を挑んでみました。

 

初めて会った時、エースさんが見せた気迫を思い出したからです。間違いなくエースさんは強いと思い、そんな人にわたしがどれだけ通用するのか試したい…そう思い、怪我が完治していない所を悪いと思いながらも頼んだら承諾してくれました。

 

世話になっているお礼だそうです。

 

そんなエースさんに感謝しながらわたしは全力で挑んでみました。

 

結果は……惨敗でした……

 

わたしの攻撃は全て避けられ、受け流され続け、結局は体力が無くなってしまいました…

 

エースさんは一切攻撃してなかったとはいえ、汗どころか息の乱れも見られず、笑って介抱までされちゃいました…

 

攻撃されずに負けたことがとても悔しかったので、また翌日挑んでみましたが結果は同じでした。

 

しかし、そこでエースさんはわたしに助言をしてくれました。

 

その話を聞いてみるとどうも心当たりがあることばかり。客観的に見なきゃ分からないことを的確に教えてくれました。

 

この時から時々エースさんからご教授いただく為に鍛錬に付き合ってもらっています。

 

そして、戦い続けて今に至るわけです…

 

「行きます!!」

 

わたしの声にエースさんは笑みを崩さずに態勢も変えずに待つ。

 

返事を待たず、エースさんに突っ込んで拳を振り上げた。

 

 

「また負けちゃいました……」

 

わたしは疲れている体を引きずってエースさんと帰路を辿っています。

 

またまた結果は同じでした。

 

「お前は直線的で攻撃の威力は高い。だが、いくらなんでも直線的すぎて逆に避けやすいんだ」

「じゃあどうしたら…」

「お前は巧みなフェイントを身につけた方がいい」

「ふぇいんと……ってなんですか?」

「フェイントってのはな、例えばまっすぐ拳で殴る………とみせかけて蹴りをお見舞い、もしくは殴るとみせかけて殴らずに相手の無駄な防御を誘うとか……要は相手を騙す技法だ」

「騙す……ですか?」

「ああ。その騙しを攻撃に組み込めば戦闘力も大分違ってくるぞ」

「でも……それって難しいことなんじゃ…」

「まあな。だから最初は意識して慣れさせることからやってみろ」

「はい! 分かりました!!」

 

本当に勉強になります…ですがそうやって教えてもらったことをわたしなりに実践してみても中々エースさんには敵いません。

 

わたしって才能が無いのでしょうか……

 

「まあそう簡単に強くなりはしねえよ。焦らずいこうぜ!」

 

エースさんはわたしの心を読み取ったのか笑いながらわたしの頭を撫でてきた。

 

「むぅ……子供扱いしないでください」

 

わたしはむず痒くなってそんなことを言ってしまうけど、正直あまり嫌ではありません。

 

こうやって頭を撫でられるのはわたしが物心ついた時以来だからちょっと懐かしいんです……

 

「あら程普ちゃんにエースちゃん。また鍛錬?」

「おお、エースか! 今日も元気か!?」

「あ、お婆ちゃんにお爺ちゃん。おはようございます」

「おう! おれは元気だ! じいさんとばあさんはどうだ?」

「元気に決まってんだろ! くだらねえこと聞くんじゃねえよ!」

「はっはっは…! それもそうか」

 

途中で村のおじいちゃんとおばあちゃんと出会って挨拶を交わす。

 

この二人もエースさんを気に入っています。

 

それを証拠に笑い合っての挨拶はとても平和で微笑ましいです。

 

「ところで、今日も鍛錬してたのかい?」

「はい…でもわたしはまだまだです…」

「ほう…村の中で一番強いお前にそう言わせるなんてな…さすが程普ちゃんの旦那だな!」

「ぶっ!!」

 

わたしはおじいちゃんの一言を聞いて吹いてしまった。

 

「ち…違いますよ! エースさんは数日前に怪我をしてやってきて…その…困ってたから家に置いてるだけなんですよ~!」

「あらあら…それにしては顔が真っ赤よ?」

「お…おばあちゃ~ん!!」

 

これはエースさんが来てから新たに生まれた問題です。

 

わたしとエースさんの夫婦説が生まれてしまいました…

 

最初は村の皆はエースさんを怪しんでいたけど、警戒を解いてくれたのはさっき言った通りです。

 

しかし、今度は信頼しすぎ、わたしとエースさんが一緒に住んでいるが判明すると『程普とエースは婚約した』などという身に覚えの無い疑惑をかけられました。

 

もはや村人の老若男女問わず全員が知っている。

 

近所の子供にまで噂され、同い年の男の人は何故か奇声を上げていた。一体なんだったんだろう…

 

そんな噂されたわたしは赤面ものであったのに、もう一人の当事者のエースさんといえば…

 

「そりゃ面白い噂だな。だが、程普はどっちかつうと妹みてえなもんだな」

 

笑って夫婦説は否定。その代わりにわたしを妹だと言って頭を撫でてくるのだ。

 

それはそれで恥ずかしいし、複雑な気分になるのですが……

 

「あらそうかい? やっと程普ちゃんにも春が来たと思ったのにねぇ…」

「まだ若干寒いから春じゃないと思うんだが?」

「そういう意味じゃ……まあなんにせよだエース。しっかりと程普を守ってやんな!」

「おう! 絶対護ってやるよ!」

 

エースさん……そういうことを恥ずかしげもなく、しかも大きな声で言わないでください……

 

「ん? 程普。お前少し顔赤いぞ?」

「え!? いや…なんでもないですよ!」

「そうか…? さっきので疲れたんなら食材集めは今日休め」

「ええ大丈夫です。大丈夫ですとも…」

「そうか……無理すんなよ?」

 

誰のせいだと思ってるんですか……

 

こうしてわたしの慌ただしい朝は過ぎていくのでした。

 

 

今日も奇妙な体験をしてから数日がたった。

 

村での生活も慣れ、連中とも上手くやっている。

 

『な。エース。おめえさは程普と夫婦って言われてっけども、そこんところどうなんだべ?』

『どうもなにも、おれはただ程普の家で居候している身だ』

『そ…それだけか?』

『ああ』

『そ…そうか…よかった…』

 

時々、村の男全員と話し、一定の確率でおれと程普との関係が話題に上がる。

 

やっぱ新顔のおれは信用されてねえのか?

 

村の女には『家にもどうぞいらしてください!』とか言って程普に怒られてる奴もいた。。

 

「どうしました? エースさん」

「いや、何でもねえ。お、キノコ見っけ」

「それ毒キノコです」

 

今は食料収拾に精を出している。

 

こうして二人で山での食料集めも日課となっている。

 

程普が見てない所で能力で焼いて食ってるのは内緒だ。

 

「そろそろ帰りましょうか?」

「だな。今日は大量だしな」

 

こうしておれ達は帰って飯を食うのが日課となっていた。

 

 

今日までは……

 

 

 

おれ達は他愛のない会話に華を咲かせながら村へと帰る。

 

「それにしてもよく採りましたね」

「そうか? まあ、自分の食いぶちくらい自分で何とかしなくちゃな」

「そうですか」

「ああ、料理はお前に任せっきりだからな、これくら……い…」

「エースさん?」

 

おれはいつもと違う違和感を感じ、立ち止まる。

 

(何だ……これは……)

 

何となく感じる違和感を探っている内にその正体を掴んできた。

 

(これは…匂い…焦げた匂いか…)

 

違和感…焦げ臭い匂いに何か言い知れぬ物を感じ取り、村の方向を見据える。

 

「…走るぞ……程普」

「? どうした…って何を!?」

 

おれは返事を待たずに食料を程普に預けて走る。

 

「え!? ちょ…エースさーーーん!!」

 

何か言ってるようだが待ってる暇はない。

 

嫌な予感を振りほどくようにおれは先を急ぐ。

 

 

エースさんが走りだしたのを急いで追いかけていくと、何か変な匂いが漂っていることに気付いた。

 

それは何かを焼いている匂いだった。しかも匂いの中には鼻をつんざす様な匂いも混ざっている。

 

吐き気に耐えながら森を抜けると、景色が広くなった。

 

そのおかげで見てしまった。

 

 

村の方角が赤く光っているのを……

 

 

目撃した瞬間、わたしの頭がグラついて倒れそうになる。

 

でも遥か前方で走っているエースさんを見て正気に戻る。

 

わたしだけ気絶するわけにはいかない!

 

わたしは折れる膝を叩き、また走った。

 

しばらく走り、いつもより長い距離を走ってるのかと思うくらい走った気がする。

 

その間、わたしは想い続けた。

 

(嘘だ…嘘だ…嘘だっ!)

 

違ってほしいと思いつつも村に近付くにつれて嫌な鼓動が胸を打つ。

 

そして村の入り口に辿りつくと……

 

「……嘘…」

 

炎に包まれる村を見た瞬間、目の前が真っ黒になってしまった。

 

 

「思春! 状況は!?」

「現在、集落が賊に襲われた模様です。今しがた賊は退却したそうです」

「そうか……私たちも行くぞ! まだ生存者がいるかもしれない!」

「で…ですが蓮華さま。まだ賊の残党が潜んでる危険があります」

「それでも! ここで人を救えなければこれから先、何も救えないわ!」

「蓮華さま…」

「だから思春…頼む…」

 

蓮華さまの熱意がヒシヒシと伝わってくる…

 

「御意に…」

 

私の言葉に蓮華さまは頷き、兵に医者の手配、村人の救出を命じる。

 

そもそもここに来たのも元々は税の徴収のため。

 

愚かな袁術の怠慢で山に隠れた村のことは忘れられていたのだ。

 

そのため、袁術の呪縛がかかっている蓮華さまが袁術の下請けとして村を訪れて徴収しに来たというのに……

 

念のため護衛に付いてきて本当によかった…

 

「それでは思春。行くぞ」

「はっ」

 

蓮華さまのお傍で狼藉を働く輩の出現に備えて剣を構える。

 

「ひどい……」

「……」

 

蓮華さまの仰る通り、家屋は燃やされ、人の亡骸が転がっている。

 

強姦された後であろう腹に刺し傷のある女性、頭を鈍器でわられた老夫婦…他にも老若男女問わずか…

 

「下衆共が…」

 

私は耐え難い怒りを抑えて剣を握る。

 

村を蓮華さまと巡回していた。

 

人気もなく、生存者も村から出たと思っていた。

 

その時……

 

「動くな」

「「!!」」

 

前方の暗闇から静かな声が聞こえた。

 

静かで……怒りに満ちた声だった。

 

「誰だ!!」

 

私は蓮華さまの前で構える。

 

敵かもしれない見えぬ相手に敵意をむき出しにする。

 

そして膠着状態が長いようで短い数秒間続いた時にその声の主は現れた。

 

怪我した童を抱いて……

 

 

エースは倒れている村人を見つけて介抱していた。

 

だが、ほとんどの者は既に……

 

エースはそれでも諦めず、呆然としていた程普の正気を戻す。

 

そして、二人で捜索を続けていた最中にエースは見慣れない二人を遠目で発見し、今に至る。

 

「…お前等……村の奴じゃねえな…何者だ…」

「……お前こそ何者だ…」

「おれか? おれはポートガス・D・エース。村の居候だ」

「居候?」

「ああ。今度はおれが質問するぜ。正直に答えろ」

 

エースは相手に質問の機会を与えずに淡々と話を進めていく。

 

そして鋭い目で二人を睨む。

 

「お前……お前等がこの村を襲ったのか…?」

 

エースは子供を抱える手を震わせて聞く。

 

「…それは私も聞きたい。お前は…」

 

釣り目の女性がエースに質問で返そうとした。

 

その時…

 

 

「お前等がこの村を襲ったのかって…こっちが聞いてんだよ」

「「!!」」

 

 

エースの鬼気迫る迫力に二人は身を震わせる。

 

武器を持っている女性でさえも一瞬怖気づいたほどだ。

 

守られている女性は震えを止められずにいるが、護衛の女性は震えを堪える。

 

彼女を支えるのは武人としての意地。

 

そして主を護る覚悟と忠誠心。

 

だから彼女の最優先事項の護衛のため、彼女は最善の行動をとる。

 

「…私たちは賊ではない。ここの領主の代わりに村人の救出に来た軍だ」

 

それは嘘偽り無く、全てを話すことだった。

 

「……信用できるのか?」

「……我が剣…魂に誓って…」

 

甘寧は逆手に持った自慢の剣を突き出す。

 

再び両者共膠着状態になる。

 

しばらくそんな状況が続く。

 

かと思われたが…

 

「…分かった。んなもん引き合いに出されたら信用するしかねえしなぁ……あんた等は信用しよう…」

 

エースは踵を返すのを見て女性たちも一先ずは安堵する。それと同時に鋭い空気が消えた気さえする。

 

それからエースの後を追いかける。

 

とりあえず程普と合流しようとするエースに女性たちが話しかける。

 

「あの…」

「何だ?」

「お前…ぽーと…がす…」

 

初めて聞く名前に口が回らない女性にエースは『エースでいい』と言う。

 

「それじゃあエースでいいんだな?」

「ああ。そういうあんたは?」

 

エースの一言に女性は思い出した様に言う。

 

「まだ名乗ってなかったな。私は孫権、字は仲謀だ。それで、こっちが私の護衛の…」

「甘寧だ」

 

甘寧は名乗るだけで終わる。

 

そして、歩いていると程普に会う。

 

「あ! エースさん!」

「よう。あ、こいつまだ生きてるぜ」

 

エースは気絶している子供を程普に見せる。それを見た程普はホッとするも、すぐにエースの背後の孫権たちに気付く。

 

「あの…エースさん…その人達は…」

 

そこでエースが紹介しようと口を開きかけた時、前に出た孫権が手で制す。

 

「我が名は孫権。領主袁術の使者として来たのだ。こっちが甘寧だ」

「領主さまの使者でしたか。わたしは程普と申します」

「程普か…我等は税の徴収のために来たんだが……」

 

孫権は瓦礫と化した村を見て悲しみの色を浮かべる。

 

「……それ所では無いようだな…」

「……はい…」

 

程普も泣きそうに目が潤んでいる。しかし、程普は泣くのを堪えて報告を続ける。

 

「ですが、残りの生存者の居場所には見当がついています」

 

それを聞いた時、エースを含め、孫権と甘寧も驚きを隠せなかった。

 

「そりゃどういう事だ?」

「この村は知っての通り、山に囲まれていて山との馴染みが深いんです」

 

程普は山の一点を見つめる。

 

「ですから、もし賊にこの村が見つかった時のための隠れ家を山の中に…」

 

それを初めて聞いた面々は感心と歓喜の色を浮かべる。

 

そして、孫権は表情を引き締めて程普に聞く。

 

「程普。その隠れ家に案内してくれるか? 中には医者が必要な民もいるかもしれん」

「分かりました。付いて来て下さい」

 

程普は孫権の申し出を引き受け、誘導のため先行して山に続く道に入る。

 

しかし、孫権の背後を付いて行こうとしていた甘寧はエースが立ちすくんでるのに気付く。

 

「おい。来ないのか」

「……」

 

甘寧の声に反応したのか、エースは何も言わずに立ち上がって孫権たちの方向に歩いて行く。

 

「……」

 

甘寧はそんなエースを見て、何かを漠然と感じていた。

 

それはあまり良い物とは言えない。

 

しかし、結局は気のせいだと判断して一行の後を追う。

 

 

慣れた山を練り歩いていると、隠れ家を見つけました。

 

そして、中を覗くと予想通り村の皆がいてくれました。

 

そのことに心が軽くなったけど、まだ胸の痛みが大きい…

 

そんな中、一人の人影がわたしに近付いてきた。

 

「おお……無事だったか…程普…」

「お爺ちゃん…」

 

人影の正体はお爺ちゃんだった。

 

いつも大きい声で笑っていたお爺ちゃんが凄く……悲しそう…

 

そこでわたしはお婆ちゃんがいない事を辺りを見回して気付いた。

 

「お爺ちゃん。お婆ちゃんは…?」

「……」

 

お爺ちゃんは何も言わずにある一点を震える手で指をさす。

 

わたしはその方向を見ると…そこには……

 

「……そんな…」

 

お腹からおびただしい量の血を出してるお婆ちゃんを見つけました。

 

「嘘……なんで…」

 

わたしはその光景を夢だと思いこみながらお婆ちゃんに近付いて手を伸ばす。

 

(そうだ……これは夢だ…さっきまで笑ってたから大丈夫だよ…)

 

わたしは目の前で息を荒げるお婆ちゃんを見つめながら全く見当外れも甚だしいことを思っていました…

 

ですが…

 

「……」

 

お婆ちゃんのお腹を触った時の手触りで…目が覚めました…

 

生温かい…真っ赤に輝く命の証がお婆ちゃんから漏れている。

 

「あ…ぁ…」

 

わたしは何も言えなくなってしまった。

 

お婆ちゃんが……死んじゃうよ……

 

わたしは遂に立てなくなってへたりこんでしまった。

 

「あんた……袁術さまの使者だって…?」

「ああ。そうだ」

 

わたしがへたりこんでいる中、お爺ちゃんは孫権さまに詰め寄った。

 

孫権さまが軍の人間だと知ると、お爺ちゃんは土下座を始めた。

 

「お願いします!! おれの…おれの妻を助けてくださいっ!! 医者を呼んでくださいっ!!!」

「……すまん。医者の手配はしたが、いつ来るか…」

 

孫権さまも辛そうに唇を噛みながら答える。

 

だけど……

 

「お願いしますっ!! 金でも食料でもなんでも献上しますから妻を…! お願いしますっ!!」

「………すまん…」

 

お爺ちゃんは土下座を続ける。

 

頭を強くこすりつけて血が滴れるのも構わずに…

 

孫権さまも体を震わせて謝罪を続ける。

 

お爺ちゃんの行動で周りの人の精神も切れかかり、いつもは豪快な大人の男の人も…笑顔を浮かべて遊んで大人たちに微笑みをくれた子供たちも……皆…泣き続ける。

 

孫権さまは兵隊の人に指示を出し、甘寧さんは押し寄せてくる村の人達を残った兵と一緒に抑えようとしている。

 

こんな時、わたしも手伝わなければならない…

 

そうしなきゃ……いけないのに……

 

「なんで…なんで…」

 

そんな光景を見てわたしの視界もぼやけてしまう。

 

「こんな……時に……」

 

わたしが強くなろうと思ったのはこの世の中から戦を無くしたかったため…泣いてる人たちを救いたかったから……

 

なのに……

 

「もう……やだ……」

 

かみさまって……いるのかな…

 

いたから……こんなことしたのかな……

 

わたしたちが……悪いこと……したのかな……

 

「………助けて……」

 

神様でも…軍隊でも……悪魔でも……誰でもいいから……

 

「………助けてよぉ…」

 

皆の………仇を……連れ去られた人たちを……

 

 

 

自分では無理だと分かっているから願わずにはいられない…願うことしかできない……

 

自分は無力で……ちっぽけだから……

 

 

 

 

程普は……自分の無力を嘆く少女は助けを求めた。

 

いるかも分からない神様に…

 

力をもっている軍隊に……

 

幻想の中の現れぬ救世主に……

 

自分たちを見下ろす天に……

 

助けを求めるしかなかった…

 

 

エースは隠れ家の外から真っ赤に光っている村を静かに見据えている。

 

静かに……しかし、胸の内に燃えたぎる衝動を抱いて…

 

そんな時、隠れ家から勢いよく飛び出してきた子供を見つけた。

 

エースは即座に子供を羽交い締めにして動きを止める。

 

「離してくださいっ!! 僕の…僕の妹が…お母さんがっ!!」

 

エースはその子供に見覚えがあった。

 

よく、母親と父親と一緒に家事や農作業を手伝っている子供だった。

 

他の子供たちと遊ぶ時にはちっちゃな妹の手を引いて遊ぶ、親孝行で妹想いの長男だった。

 

だが、その子の目には最早真っ赤に燃えた村しか映っていない。

 

歯をむき出しにして暴れるのを止めない。

 

憎しみはここまでに人を変えてしまうのだ。

 

「止めとけ。お前が行った所で、殺されるだけだ」

 

エースは上から黙らせるように威圧感を乗せて言うも、少年は止まらない。

 

「それでもっ! 奴等に僕の妹とお母さんが連れてかれて…!! 僕が守らないと!!」

 

このままだと少年は凶行に走るだろう。

 

エースは今はいない父親…白ひげを思い出す。

 

(こういう奴が現れた時……オヤジは……)

 

新世界の航海中に恐怖で発狂する新人船員が出ることは珍しくなかった。

 

そんな時、白ひげがとった行動は、ただ怒鳴るでもなく、慰めをかけることでもなかった。ではどうしていたか?

 

それは……

 

「だから僕が奴等……を…」

 

少年は急に口が動かなくなった。

 

何故なら急に心地よい暖かさが体を覆ったからだ。

 

何故?

 

それは少年がエースに抱きしめられていたからだ。

 

不安を怒号でかき消すでもない。

 

慰めで誤魔化すでもない。

 

不安や悲しみ、怒りを己の体で一緒に包みこんでやる。

 

こうして不安が再び襲ってきても、今度は守ってやる。

 

偉大な父親がやっていたように……

 

 

しばらく、エースは少年の体を抱きしめ、少年の雰囲気が落ち着くまで抱きしめ続けた。

 

そして、少年が落ち着いたのを感じると、優しく言った。

 

「……お前の父親は? 中にいるのか?」

「…………」

 

頷く少年にエースは『そっか』といって少年を離す。

 

そして少年の目を見て言う。

 

「お前の母ちゃんと妹……生きてるのか?」

「……」

 

少年は首を縦に振る。

 

それを見たエースは屈んでいた体を起こしながら聞く。

 

「……その賊がいる場所って分かるか?」

「……はい…よくお父さんとお母さんが……村の西北の洞窟には近付くなって……」

 

少年は指をさして言うと、エースは何も言わずに山を降りようとする。

 

しかし……

 

「待ってください! どこに行こうとしてるんですか!?」

 

少年の必死な質問にエースは先程とは違った明るい口調で答える。

 

「なーに。少し野暮用を思い出してな…朝には戻ってくるから心配すんなよ」

 

多分、その答えに少年は全てを察したようだ。

 

すぐにエースの元へ向かおうとすると……

 

「来るな」

 

冷たい声で少年を止める。

 

少年は何も言えずにその場で立ち止まってしまう。

 

そんな時、エースは言った。

 

「すぐに皆で戻ってくるからな。少し待ってろ」

 

ニカッ…と満面の笑みでそう少年に言い聞かせる。

 

その表情を見て少年はもうエースを止めることができなくなってしまった。

 

男同士で伝わる何かをエースから受け取ったからかもしれない。

 

エースは再び山を降りようとすると……

 

「絶対……絶対皆で戻って来てください!!」

 

少年の切なる想いを背中に受けてエースははっきりと言った。

 

「当たり前だ!!」

 

その言葉は少年に届き、風に乗って天に舞い上がっていった。

 

 

 

やがて隠れ家が見えなくなった所まで山を降りると、エースの体から炎が現れた。

 

炎は両手から始まり、やがては両腕を包んだ。

 

最早、その炎以外に言葉はいらない。

 

灼熱の炎はしっかりと燃え続ける。

 

決して弱まることもなく静かに燃え続ける。

 

まるで時が来るまで力を蓄えているかのように……


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