火拳は眠らない   作:生まれ変わった人

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こっちはまた後で細部の修正を行う予定です。


遂に始まる 相見える英雄と海賊

遂に、孫策たちの長年の苦労と努力が報われ、屈辱を晴らす時がきた。

 

時を遡り、孫権が号令を発したところから両軍は激突。

 

兵数では互角であったが、ここで将としての能力が物を言い、事態は改変。

 

張勲軍は押され、追い詰められるばかり。

さらにそこへ本隊である袁術軍が城内から加勢にきた。

 

しかし、烏合の衆が集まった所で虎に勝てるだろうか?

 

答えはもう予想通りとか生易しい物ではなく、運命とさえも呼べるくらいの状況になっていた。

 

その緊張は孫権を触発させていた。

 

「敵は総崩れだ! このまま押し出すぞ!」

 

積年の禍根と今の流れのせいで孫権の感情は高ぶっていた。

熱くなりすぎていた。

 

「蓮華さま! 雪蓮さまの本隊と離れすぎです! 一度退却を!!」

 

周泰が説得を試みるが、孫権は聞く耳を持たない。

 

「駄目だ! 弱った敵を落とさずに退却など、小覇王の誇りが許さん!!」

「それならば、せめて味方との合流を…!」

「その間にこの流れを止められたらまた一からやり直しだ! ならばこそ流れに乗っている今が好機!」

 

孫権がそこまで断言してしまったらもう止められない。

孫権を突き動かすのは流れの勢いと、流れから振り落とされるかもしれないという不安からだ。

 

そうなった主君を放っておくのは一番危険。

 

周泰はそれを察知し、自分のすべきことを整理する。

 

「分かりました……それならばこの周幼平!! 蓮華さまの活路を切り開いて参ります!!」

「その意気よし!! どこまでも付いて来い!!」

「御意!!」

 

孫権は高ぶる気持ちを押さえようともせずに孫権は周泰を率いて敵の陣中へと切りこむ。

 

その勢いは正に鬼神の名に恥じない威圧があった。

 

背負うは国と民の未来。

その自覚が彼女を死地へと向かわせた。

 

そんな二人を遠目で見ていた影が一人いた。

 

「何してんだ? あいつ等」

「隙あ…おぶっ!」

 

剣を振るってくる袁術の兵に目もくれずに鳩尾キック。

兵は苦しげにのたうち回る。

 

「死にたがりと勇敢はちげえぞ」

 

そう言いながらエースは適当な兵を一人捕まえる。

 

「なっ! 貴様なにを…ぐえ!!」

 

ぶん投げられた兵は敵の密集地帯に飛ばされ、激突する。

 

その時にできた僅かな隙間へとエースはダッシュして思いっきり跳躍する。

 

「ちょいと通るぜ!」

 

エースは倒れている敵でできた僅かな段差を足がかりに集団の頭上を越える。

 

スタッと着地したエースは跳び越えた集団に構うこと無く、前方にうごめく敵の渦中へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く……あの子ったら何をしてるんだか……」

「いつもの蓮華さまならあんな無茶な指揮はしないはずなのだがな……」

 

本陣では孫策と周瑜が頭を悩ませていた。

 

伝令兵から聞いた報告から孫権の独断突撃を知った。

 

周瑜は至急応援に駆け付けるようにと甘寧を向かわせた。

 

「とりあえず本隊で一気に叩きましょう」

「しかし、強引すぎるぞ? もしこの流れを奪われたら被害は甚大なものになるぞ」

「ですが、ここで蓮華さまを失っては元も子もないのですよ~」

 

傍に控えていた風は短期決着を提案する。

それに孫策も賛成する。

 

「そうね。まだあの子は死ぬべきじゃないわ」

「……それもそうだな」

「じゃあ…」

「ええ、すぐに祭殿を始めとした全員に伝令を流すから準備しておいて」

 

周瑜の言葉に孫策はにっこりと笑ってすり寄る。

 

「さっすが冥琳♪ 仕事も早くて助かるわ」

「そうね…いつも誰かさんの対応で慣れたから……」

「ちょっと~…なんで私を睨むのよ~…」

「別に…」

 

周瑜は溜息を吐いて誤魔化すが、それとは対照的に孫策は笑っている。

とても、身内が危険に会っているとは思っていないかのように。

 

そんな様子に風と周瑜が首を捻る。

 

「どうかなさいました? 雪蓮さま」

「え? どうしたの? 風」

「それはこっちの台詞だ。蓮華さま達が心配じゃないのか?」

「全然」

「え?」

 

アッサリと否定した孫策に周瑜の眼鏡がズレる。

 

呆然とする二人に対して孫策はあっけらかんと答える。

 

「いやね、確かに蓮華のことは心配なんだけど、多分大丈夫だと思うの」

「いや…それってお得意の勘?」

「そ」

「だけど~、それだけで状況を「それとね、もう一つ感じるの」?」

 

風の言葉を遮って孫策は凛々しい笑みを浮かべながら周瑜達に自分の感じていることをありのままに伝える。

 

「これから……追い風が吹くわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「押せ押せ!! このまま袁術を江東から追い出すのだ!!」

 

孫権は剣を振るいながら兵達に激を飛ばす。

 

孫権の剣は群がってくる敵を斬りさく。

 

「はぁっ!」

「させない!!」

 

孫権を討たんとする輩も周泰によって阻まれる。

 

辺りには血の臭いと土埃が蔓延していた。

 

怒声が聴覚を刺激し、土埃が視界を遮る。

 

「蓮華さま! これ以上は限界です!! そろそろ退却を…!!」

「駄目だ! これではまだ決定打とは言えん!! せめてこの部隊だけでも落とさねば…!!」

「しかし、蓮華さまの御身にもしものことがあれば流れどころか今までの苦労も水の泡です!」

「だが…!」

 

孫権は次期呉王としての責任に振り回され、周泰の助言も聞き入れずに尚も剣を振るう。

 

そんな時だった。

孫権の馬の足に敵の矢が刺さった。

 

「!…なにが…あぁ!」

「蓮華さま!!」

 

孫権は暴れた馬に振り落とされ、孫権は体を地面に叩きつけられる。

周泰は孫権の身を案じて孫権の元に参じる。

 

その時だった……

 

「お命頂戴!!」

「「!!」」

 

一人の兵士が孫権の背後から剣を振りかぶってきた。

 

「くっ!」

 

すぐに孫権は痛む体を無理矢理動かして転がって避ける。

 

「死になさい」

「ぐあぁ!!」

 

その直後に周泰は冷たい一言と共に兵士を一刀両断

 

敵が事切れたのを確認すると、すぐに孫権の元へ駆け寄る。

 

「蓮華さま!! ご無事ですか!?」

「あ、あぁ…なんとか…ぐ!」

「蓮華さま!!」

 

孫権の全身は土で汚れ、口の中を少し切ったらしく口から血がしたたっている。

そんな孫権が肩を押さえて悲痛な声を洩らすのだから周泰は心配になった。

 

「戻りましょう! そのお身体では戦うことは無理です!! ここは本隊と合流…!」

「悪いが、それをされちゃあ困る」

「「!!」」

 

別の声が聞こえ、その方向へと視線を向けると大人数を率いた一人の兵士が現れた。

 

すぐに周泰は孫権を庇うように刀を構える。

 

「あんたが……孫策の妹の孫権だな?」

「貴様等は……」

「そんなことはどうでもいい。重要なのは、あんたを殺せばこの戦は我等の勝ち、という結果だ」

「ちっ! お下がりください!!」

「逃がさん!」

 

周泰が孫権を後ろに下がらせるが、隊長と思しき敵が指示すると一斉に襲いかかってきた。

 

「させない!!」

 

周泰は敵数人の刃を自身の武器で抑える。

 

「明命!!」

「私のことはいいですから、早く撤退を!!」

 

そう言うが、実際の状況は最悪だった。

 

さっきの落馬で全身を打ちつけた孫権に逃げる体力があるかどうかも疑わしい。

ならばこのまま相手を抑え、注意を引きつけて逃がす時間を稼ぐのが常套手段。

 

自分が強いと認識させられでもしたら標的を変更して孫権を狙ってくる。

 

殺さずに止める。

 

孫権を庇いたいところだが、そうも言ってられなかった。

 

数人からの鍔迫り合いで表情が歪むも、堪えられないものではなかった。

 

このまま引きつける。

 

そうできると思っていた。

 

「逃がさん」

 

敵将が孫権の元へと向かうまでは…

 

「!!」

「蓮華さま!!」

 

孫権は自分に向かってくる敵に目を見開く。

 

痛みで体が動かない。

 

意地を出しても走ってくる敵は振り払えない。

ならばどうなる。

 

言うまでもなく死に直結する。

 

(動け!! 私の足!!)

 

自分の体に鞭を打っても動く気配がない。

 

(動け! 動け!! 動けぇ!!)

 

自分の失態を呪いながら孫権は足を叩くが、動くことはない。

 

「敵将、我が討ち取った!!」

 

敵は誇示と共に剣を抜いて振り抜く。

 

それを見た孫権は涙を零して目を瞑る。

無意識に出した手はかりそめの抵抗なのだろう。

 

そして、敵の刃は孫権の体に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「抵抗できねえ嬢ちゃん何人だよおめーら」

 

はずだった。

 

孫権はいつまで経っても来ない痛みと聞き覚えのある声に孫権はゆっくりと目を開ける。

 

「テメー等……男が廃ってるぜ」

 

地面には気絶した敵が大の字になって倒れている。

 

逆光でよく見えないが、たしかにその男の背中が見えた。

 

一度だけ見たことのある背中の奇妙でありながらどこか威厳を感じさせる骸骨。

逞しい上半身に危機感を感じさせない余裕の声。

 

孫権はそんな彼に一瞬さけ見惚れ、思い出した。

 

「あなた……」

「村の代表の人ですか!?」

 

孫権の言葉を周泰は敵を振りほどいて、驚愕する。

 

しかし、その男…エースは不敵な笑みを浮かべながら周泰に言う。

 

「今はそんなことより、孫権を連れて行きな。こいつ等はおれが引き受ける」

「「はぁ!?」」

 

数十人もの敵を前にして大胆発言するエースに二人は驚愕。

すぐに説得を実行する。

 

「なにを言っている!! 丸腰で敵う訳ないだろ!!」

「そうです!! それならば私も一緒に…!」

 

共闘を望む周泰にエースは調子を変えずに答える。

 

「何言ってやがる。孫権は足挫いてんだろ? だったらお前が支えてやんなきゃいけねえ。それくらいおれでも分かる」

「だけど、お前は…!」

「あんたはここの大将だろ? それだけは自覚しな」

「そ…それは…」

 

孫権はエースの言いたいことを理解できている。

 

大将である自分が死んでしまったら流れがあろうが、自分達の負けが確定。

ここまで付いて来た兵達を危険に晒すことになる。

 

そんなことは最初から言われなくても分かっていた。

 

「……分かりました。ここをお願いできますか?」

「もち。早く送ってやんな」

「……ご武運を…」

 

 周泰は素早く孫権の元へと駆けつけ、孫権をおぶる。孫権はいつも言っている正論を返されたことで何も言えなくなっていた。

 

 周泰は孫権を背負って尋常ならざる速度で陣へと引き返して行く。あれくらいなら五分で充分だろう。

 

「待てっ!」

 

 その周泰を追おうとする敵は、一人残らずエースに足を払われて転ばせられる。先程エースにやられた隊長と思われる敵もダメージから立ち直って隊長格の男が睨みながらエースに凄む。

 

「あんた……呉の仲間かい?」

「まぁ…関係者だ」

「そうか……あんたのおかげで上玉を逃がした……責任はとってもらう…」

 

 兵達の表情が怒りで歪む。そんな相手に意を介さず、エースは周泰の逃げていった方へと視線をやった。周泰の姿は既に見えない。それを見たエースはフっと笑う。

 

「…何がおかしい……」

「悪いね……ただホっとしただけなんだ」

「?」

 

 エースの発言に敵が不審がっていると…その瞬間に信じられない光景を目にした。

 

「あそこまで離れれば巻き込まれることもねえだろ?」

 

 エースは両肩から両手にかけて燃えていた。それを目の当たりにした兵達は動揺し、隊長格の男は後ずさる。

 

「な……妖術……!」

「さあな」

 

その直後、エースは敵集団へと突っ込んで行った。

 

ユラユラと燃える炎の軌跡を残して

 

 

 

 

「姉さま!!」

「戻ったわね。何があったの?」

 

孫権達はすぐに甘寧隊と合流し、周泰と共に本隊と合流していた孫策の元へと泣きつく様に寄りかかった。

 

「すみません……私の勝手でご迷惑を……」

「すみません……私が未熟なばかりに蓮華さまを止めるどころか敵の奇襲で危うく蓮華さまを……」

 

 周泰は孫権を擁護するように話す。その話に周瑜は疑問に思うのは当然だった。

 

「どうやって逃げてこれたのだ?」

「! そうだ、エース!」

 

 周瑜の質問に孫権はエースのことを思い出す。皆はその名前に反応を見せ、孫策一同は驚愕する。

 

 その中でとりわけ反応が大きかったのが風だった。

 

「蓮華さま……それは本当ですか?」

「え、えぇ……」

「本当に…そう名乗ったのですか?」

「いや、名乗ってはないけど……」

「ふ…風さん?」

 

 今まで見たこともないくらいに感情をさらけ出す風に孫権と周泰はもちろん、他の武将達でさえも驚いている。

 

「ただ…背中に奇妙な骸骨の刺青があったのだけは覚えて……」

「!…それよりも加勢に行きましょう!! 今、その人が蓮華さまと私を護るために殿を……!」

 

 周泰が思い出したのか、エースの救助を必死に申し出ていた時だった。

 

「雪蓮さま。甘興覇、ただいま戻りました」

 

 孫権達とすれ違ったはずの甘寧が静かに戻ってきていた。

 

「思春か。そっちはどうだ?」

「甘寧隊と周泰隊担当の軍を撃破」

「そう…それならゴリ押しでも問題なさそうね」

 

 甘寧の報告で勝利を確信した孫策達の表情は和らいでいた。周瑜でさえも思わず頬を吊り上げたほどだ。そんな中、甘寧の報告は意外にも続いた。

 

「それで、実は雪蓮さま達に会いたいという者がいまして、勝手ながら連れて参りました」

 

 甘寧の発言に周瑜は首を捻る。

 

「? 珍しいな。用心深いお前が見知らぬ者を連れて来るなど」

「ホント、思春なら警戒して斬り殺すと思ったけど…」

 

 周瑜に続いて孫策も普段の甘寧からは考えられない行動に驚きの色を隠せない。

 

「その者は一応知ってはいるのですが…」

「知り合いなのか?」

「いえ、その者の素性はよくは知らないのですが…」

「何それ?」

 

ますます珍しく言葉を濁す甘寧に疑問が深まっていく。

 

そんな時だった。

 

「おー。結構見た顔の奴がいるじゃねーか」

 

 突然、知らない声が甘寧の後ろから聞こえてきたと思ったら、そこからこれまた予想外な人物がいた。

 

『なっ!』

「よぉ、何人かとは久しぶり。後は初めましてか?」

 

 深く被ったハットを外し、エースは驚愕の孫策達に陽気に挨拶する。

 

「お…お兄さん…ですか?」

「あ、さっきの代表さん!」

 

 風はいつもは半開きの目を全開にし、周泰は生存が絶望的だったエースの登場に驚愕する。孫策達はというと…

 

「まあ、積もる話もあるからお前等の所で何か食わせてくんねーか?」

 

無茶苦茶な頼み方にも反応できずに呆然としていた。

 

火拳と江東の麒麟児

 

 

 

この二人の出会いは全ての始まり

 

 

 

この大陸の伝説の始まりであり

 

 

 

未だかつてない戦いの始まりの狼煙でもあった

 

 

 

故に

 

 

 

 

火拳は眠らない




告知みたいになってしまいますが、現在執筆中の『ゴッドイーターシリーズ』も是非よかったら見てください。

ぶっちゃけ人気作品にあやかった宣伝です。強い作品に媚びへつらったゲス告知です。でも悪びれるつもりはありません。
私の書くゴッドイーターバーストは厨二展開を盛り込んだ熱血主人公(ドリル好きのアニキ風)という仕様ですが、ゴッドイーター2では自重しない、悪びれない、悔い改めないのメンドくせえ主人公(某銀髪侍)となっています。
厨二を受け付けない人はゴッドイーター2から見ても構いません。まだ投稿数も少なく、次回からやっと本番に入るスロー展開ですが、そこは気長に待っててください。



また、今後のこの『火拳』をアレンジしようと思います。少しだけですけど。
今は試験中で忙しいですが、ちょくちょくこの作品の細かい所を修正中です。“なろう”時代とはまた違う展開にしようと思っているのでよろしくお願いします。

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