火拳は眠らない   作:生まれ変わった人

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決着!! エースの新たな輪

驚愕

 

今はそれしか思いつかないし、感じられない。

 

自分はさっきまで客人と闘っていた。

その武は讃えられ、名は天にまで知られてるとされている者。

 

故に興味が湧き、闘いを挑んだ。

 

類まれなき戦闘感覚を駆使して儂で遊びおった。

 

儂は本気を出し、奴の油断をついて勝負あり……のはずじゃったが……

 

「お…お主…今なにを…」

「……」

 

急に襲いかかってきた火の玉を避け、その落下地点からエースが出てきた。

これではまるで……

 

「たしかに…」

「!!」

 

思考の海に沈んでいた意識がエースの静かな声で引き上げられる。

 

再び黄蓋は弓を構えてエースに向ける。

 

しかし、エースは物怖じもせずに続ける。

 

「…まずはおれも無礼を詫びよう」

「…無礼じゃと?」

「ああ…さっきまで能力を使うこと無く勝とうと思っていた……あんたを見下していた……」

「……」

「だから…」

「?」

「おれもおれの力で以て応えよう」

 

その時、エースが差し出した手がユラユラと揺れ、やがては炎へと姿を変えた。

 

「な……なんじゃそれは!!」

「言っただろ?」

 

途端にエースは手の炎を強くして啖呵を切った。

 

「これがおれの“力”だ!! しっかり防げよ!!」

「!!」

「陽炎!!」

 

エースの両手の炎はやがて全身を覆い、黄蓋へと突進する。

黄蓋は咄嗟に向かってくる炎に矢を射るが、その全てがたやすく燃やされる。

 

「ぬぅ!!」

 

止まらずに向かってきた炎の玉を間一髪で横に避けるが、炎の玉は着地するとさっきのように爆発せずにエースだけを表す。

 

そして、エースは黄蓋に全速力で突進し、跳躍

炎の纏った飛び回し蹴りを黄蓋に振るう。

 

「つぅ!」

「まだまだぁ!!」

「!!」

 

エースは蹴った足に一瞬だけ燃える、爆発系の炎で振り抜いた蹴りを無理矢理戻して黄蓋の顔面へ放つ。

 

「なっ!」

 

黄蓋は反射的にエースから距離をとるように転がって避ける。

 

その時、自分の銀髪の一部が焼け落ちるのが見えた。

 

(な……こんなのアリか!?)

 

いきなりの出来事に黄蓋はすぐに立ち上がり、息絶え絶えの中エースを睨んだまま動けなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「め…冥琳……今…」

「あ、あぁ……今のは一体……」

 

勝負の成り行きを見守っていた孫策と周瑜は驚愕で呂律が回っていなかった。

 

元からエースの噂をそのまま信じていた訳ではなかったから、今の現状は理解しがたいものだった。

 

そう考えているのは他の面子も同じだった。

 

「ひ…ひ……ひ………火が…」

「……」

 

ワタワタと混乱する呂蒙と目の前の出来事に頭から湯気を出す陸遜

 

「あ……あ……」

「あ…あれは………」

「うそ……」

「こんなことが………」

 

周泰、甘寧、孫尚香、孫権もそれ以上の言葉が口からでない。

彼女達はただ、目の前の現実を受け入れるのに必死だった。

 

「「……」」

 

こうなることを事前に分かっていた風と鈴仙は静かにエースと黄蓋の戦いを見守っていた。

 

今、戦っているのはエースだけじゃない

 

これは周りとの戦いでもある

 

二人はどんな結果になろうともエースと共に行くことを決めていた。

 

 

 

 

 

たとえ、周りから迫害されようとも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(すごい……すごいぞ!!)

 

風達が覚悟を決めていた時、黄蓋は感動していた。

 

(武としての腕も悪くない! 術も使える!! なにより…!)

 

黄蓋は不敵に笑って両手を燃やすエースの目を見て思った。

 

(こんな真っすぐな目をした奴は久しぶりじゃ!!)

 

眼だけでなく、さっきの戦いから黄蓋は確信も根拠もないエースの“本質”を見抜いた。

 

曲がったことも無く、己に恥じる事も無いまさに“男”としての姿勢、威厳、器。

 

一瞬で感じ取った黄蓋は先程までの混乱を興奮に変えていた。

 

若いころに経験した感覚。

底が見えない相手との息もつかない真剣勝負。

 

今になって初めて味わった感覚。

女として本物の男と出会えた喜び。

 

黄蓋の頭の中にはその二つの感情しか無かった。

 

「どうした!! 来ないならこっちから行くぜ!!」

「!!」

「神火 不知火!!」

「うお!」

 

黄蓋も我に返ってエースの二本の火の槍を避ける。

 

「そぉい!!」

 

そして、避けながらエースに高速の矢を三本撃ち出す。

 

「火銃!!」

 

エースの火銃は三本の矢を破壊し、それどころか数十倍もの数の弾を黄蓋に撃つ。

 

「はぁ!!」

 

黄蓋はその場から走って弾を避ける。

 

「そらそらそらそらそらそらそらそら!!」

「くぅっ!」

 

それでも、マシンガンのように撃ち続けて黄蓋を走らせる。

 

この時、黄蓋は遠距離攻撃を棄てた。

 

木でできた矢では火には勝てない。

それどころか相手に弾切れなどは無いだろう。

 

一瞬でそう判断した黄蓋はエースの火銃を見つめた。

 

高速で襲いかかってくる火の弾から目を離さず、しかし意識しないように

 

 

避けた

 

「!!」

 

エースはいまさっきとは違う黄蓋の動きに目を見開いた。

 

さっきのように逃げるのではなく見切った。

 

いや、見切ったというよりあれは……

 

火が黄蓋を避けた。

 

そう見えるような動きで黄蓋は次々と攻撃を弓でいなし、すれすれで避けていく。

 

射撃に関して、呉の中で熟知している黄蓋は弾の軌道を予想しながら進む。

 

服や髪が燃えようが歩みを止めない。

 

そして、黄蓋は火の嵐の中の綻びを見つけた。

 

「そこっ!」

「な…!?」

 

エースとしても意外だったのか火銃の嵐の僅かな隙間をかいくぐってき始めた。

 

黄蓋のまぐれと卓越したセンスの為せる動きにエースもギャラリーも素直に驚いていた。

 

そして、黄蓋はエースの懐へと潜りこみ……

 

「これで……」

 

自分の懐に持っていた小太刀で…

 

「終いじゃ!!」

 

エースの腹部を貫いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かに思われた。

 

「なんじゃと!?」

 

黄蓋の驚愕の声にギャラリーも湧く。

 

それもそのはず、エースが立っていたその場所には…

 

「火……じゃと…?」

 

人を形を模った炎が燃える。

黄蓋の剣はその炎を突き刺す形になっていた。

 

そして、どこからか声が聞こえてきた。

 

火幻武者(かげむしゃ)

 

声が聞こえたのと同時に人型の炎が爆散した。

 

「!!」

 

黄蓋は自分に猛威を振るう火の嵐から急いで逃れるように後ろに下がるが、炎の熱で衣服の一部が焼け焦げ、皮膚までもが焼ける。

 

「つぅ!!」

 

流石の黄蓋も肌から感じる熱さに表情を歪ませる。

 

黄蓋は後ろに跳んで退いたというよりも爆風で吹き飛ばされたといったほうが正しかった。

 

吹き飛ばされた黄蓋は地面をしばらく爆風で転がる。

 

「つぁ!」

 

転がる体を無理矢理起こして爆風の中心地を見るとそこには黒煙しか上がっていない。

その地点を中心に地面が焼け焦げているのを見て黄蓋は戦慄した。

 

「…うら若き乙女を焼き焦がす気じゃったな…」

 

悪態と共に冷や汗が流れる。

もし、一瞬でも動いていなければ今頃消し炭になっていたところだと容易に想像できた。

 

「余所見は命取りだぜ?」

「!!」

 

黒煙の中からエースが拳を振りかぶって突っ込んできた。

 

「小癪な!!」

 

黄蓋は高熱の拳を間一髪で受け流し、そこから流れるように剣を突く。

 

「甘い!!」

「なんじゃ…うお!?」

 

しかし、エースは剣を避けながら黄蓋の手首に足をかけ…

 

「ふん!!」

「あっづ!!」

 

体を一回転させて剣を地面に叩きつける。

 

それによって剣は腹から真っ二つに折れた。

黄蓋は直前に手を離したが、若干叩きつけられて痺れた。

 

「足がお留守だぜ!!」

「なんじゃ…!」

 

よろけた黄蓋の後ろにいつのまにか回り込んでいたエースはすかさず足払い。

 

黄蓋の身体は地面に倒れ……

 

「チェックメイトだ」

 

エースに掌が黄蓋の無防備な体に触れた。

 

こうして、前代未聞の呉の宿将との一戦は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

「お主!! これからは儂を祭と呼べ!!」

「いや、ちょっと待てって……」

 

決闘から時が幾ばくか時間が過ぎたころ、エースは予想外な展開に巻き込まれていた。

 

それは黄蓋からの呉への勧誘だった。

 

エースは少し意外だったのと黄蓋からの熱い勧誘に戸惑っている。

 

まさか、あそこまでねじ伏せ、面子を潰した自分が当の被害者から歓迎されるとは思っていなかったからだ。

 

ほとんど絡まれる形で体を揺さぶられてエースも少し動揺する。

しかも勢いで真名を名乗っている感じも否めない。

 

「だから……真名をそんな簡単に名乗っていいのかよ……そんなに大したことも…」

「なに言っておる! 部下を見捨てぬ責任感に単身で乗り込んできた胆力、それに儂を討ち倒す程の武の心得……お主ほどの男に出会うのは初めてじゃ!!」

「そんなもんなのか?」

「おう! お主ほどの男ならば雪蓮さまと冥琳との計画も問題無しじゃよ!!」

「??」

 

その言葉にはエースだけでなく他の皆も気になって首を傾げる。

 

そんな些細な疑問も孫策と周瑜の出現に忘れてしまう。

 

「あら~、もう祭を陥落させちゃったの?」

「陥落?」

「と言っても私達も同じくエースに呉に来てほしいのよ」

「その方が我等にとって有益だと判断したからと、できるだけ敵に回したくないのが本音ね」

「も~、冥琳ってば冷たいわね~。ごめんね? 私のことは雪蓮だから、よろしく」

「冥琳だ」

「ああ、まあいいけど……」

 

段々と話も大きくなっていき、エースもいつ色々と質問しようかと頭の中で模索していた時、更なる訪問者がやってきた。

 

「あの…!」

「ん?」

「えええええええっと……エースさま……でよよよよよろしかったでしょうか…?」

「あ…あぁ…お前等は……」

「申し遅れました!! 私は周泰と申します!!」

「わ…私は…えっと…呂蒙と申します!」

 

周泰は明るく、呂蒙は上がっていて舌を連続で噛みまくっている。

そんな時でも周泰は構わずにエースに明るく聞いてくる。

 

「先程の祭さまとの模擬戦は凄かったです!! 急に火がブワーって……噂にたがわぬ強さで祭さまを倒すなんて……本当にお強いんですね!!」

「そこまで騒ぐなって、これでもおれもまだ修業中の身さ」

「それでもですよ!! やっぱり御遣いさまは凄いです!!」

「そ…そうか?」

「はい!!」

 

なつく犬のようにピョンピョン跳ねて尊敬の意を表す周泰にエースも思わず笑みが零れる。

 

「是非! 私の真名をもらってくださいませんか!?」

「いいのか? おれはいいけど」

「はい!! これからは明命とお呼びください!!」

「そうか。よろしくな明命」

「はい! これからは時々私も鍛えてください!!」

 

「では、これで!」と言い残してそそくさと去っていった周泰を見送っている最中、未だ上がっている呂蒙もエースに挨拶。

 

「あの……私も真名を預けても……」

「いいけどよ、そんな無理矢理教えなくてもよ……」

「いえ! そういうことではなくてですね!」

「じゃあなんでだ?」

 

どう見ても自分を怖がっているようにしか見えていない呂蒙が何故真名を教えるのかに疑問を持っていると、呂蒙は図らずもその訳を答える。

 

「あ、あああああなたさまのことは噂でよく耳にしておりました! 無償で賊を退治したりとか…」

「あれは……賞金稼ぎのはずなんだったんだけどよ……」

「それでもです! 民のために戦い、雪蓮さまに認められたのですから私も預けます!! 預けさせてください!!」

「お、おぅ…」

「これからは私を亜莎とお呼びください!! それでは失礼しますぅぅぅぅ!!」

 

それだけ言って顔を赤くさせてその場から走って去った呂蒙に呆然としていると、そこに数人の影が一気にやってきた。

 

「気にするな。亜莎は人見知りでな。恥ずかしいだけなんだろう」

「孫権と甘寧と…陸遜と孫尚香……だっけ?」

「はい~、初めまして~」

「よろしく! エース!!」

 

孫権と甘寧の他の初対面の二人には挨拶をすると二人は快く返す。

孫権達にも挨拶を交わす。

 

「久しぶりだな。孫権も甘寧も」

「そうだな……鈴仙の村の時以来だ」

「あぁ…」

 

孫権は懐かしそうに頬を緩ませ、甘寧は短く返す。

 

「お前等もおれに用か?」

「あぁ……色々と聞きたいところだが、それはまたいつかにして、先に真名を渡そうと思ってな」

「だからそんな簡単に……て言っても聞きはしねえんだろ?」

「そう言うな」

 

自分の大事な名前を簡単に預けてくる孫権達に少し呆れるエースに孫権も少し微笑んで返す。

 

「私のことはこれからは蓮華と呼んでくれ」

「思春で構わん」

「私は穏です~」

「シャオは小蓮って言うんだけど~、これからはシャオって呼んでね?」

「そっか……だったらおれもエースで構わねえ」

「それならエースさん!! 早速ですけど聞きたいことが!!」

「おわ!!」

 

これで呉の全員と真名を交換したエースはどこか嬉しそうに笑ってそう言うと、急に穏が鼻息を荒くさせて近付いてきた。

驚いてのけ反るもすぐに立て直す。

 

「な…なんだよ?」

「早速ですけどエースさんの体………少し調べさせてくださいませんか~?」

「は?」

「何もない所から火を出し、それを操る術。さらにあれだけの火を浴びているのに火傷もしない体……興味深いです~~!!」

「うおおぉぉ!! 急に飛びついてくんな!!」

 

急に跳んできた穏を反射的に避けるが、それでも穏はあきらめずにエースに照準を合わせて跳びついてこようとしていると…

 

「いい加減にしろ」

「あた……蓮華さま~…」

「お前までもエースに迷惑かけるな。お前と思春は姉さまを抑える役だ」

「えぇ~…」

 

心底嫌そうに穏は蓮華に垂れるが、蓮華に聞く耳は無く首筋をつかんで連行する。

 

蓮華は振り向きざまにエースにこう残す。

 

「今日は疲れているようだが、明日からは色々聞かせてもらうぞ?」

「あぁ……分かったよ」

「よし……行くぞ思春。小蓮もな」

「御意」

「ちっ…先手打たれた……」

「あぁ~ん…蓮華さま~~」

 

良からぬことを考えていた穏とシャオに釘を打って蓮華達一行はその場を去った。

 

そんな賑やかな一行を目にしてエースは少しキョトンとなったが、すぐにその顔は無意識な笑顔へと変わる。

 

(なんだかなぁ……落ち着きがねえっていうか……賑やかっていうか……)

 

ここしばらく味わえなかった人とのコミュニケーション

月の所にいたときと同じ感覚

胸が躍った。

 

自分はまだ自由な海賊だという自覚を棄ててはいない

他人からあごで使われるのは我慢ならないはずなのに……

 

最近の自分はどうもこういった軍に身を寄せている。

しかし、それを素直に望んだからではない。

 

自分のすべきことを見つけるための通過点だと考えていた。

 

(おれは……またいつか“じゆう”を求めて海に出てやる……)

 

エースは心の中で自分の帰るべき場所を願った。

 

「エースゥゥ!! あなたもこっちに来て飲もうよ~!!」

 

そんな時に自分の雇い主からの声で現実に引き戻された。

 

そんな自由人を彷彿させる雪蓮にエースは思った。

 

(今は……あいつらと楽しむか…)

 

考えるのを後回しにしてエースは大円団の元へと歩みを進めた。




最後のエースが祭の剣を叩き落とすシーンはルフィがクロコダイルのフックをへし折ったシーンと重ねてください。

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