火拳は眠らない   作:生まれ変わった人

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呉と炎

エースが呉の客将となってから一夜が明けた。

 

エースが最後に覚えているのは雪蓮と祭と一緒にはっちゃける場面だった。

エースが起きた時に他の武将と一緒に倒れていたのを見た。

 

雪蓮と祭はともかく、冥琳や明命などの面子は顔色も悪かった。

やはり、江東の奪還という念願でハメを外しすぎたようだ。

 

しばらくして皆も起きて二日酔いが残った者もいたけれどなんとか復活して今では少し立ち直った。

 

そして、エースに対しての質問タイムが始まった。

 

「さあさあやっとこの時が来たわね!」

「落ち着け。まだ酒が残っているのか?」

「何よ別にいいじゃない」

 

無駄にテンションが上がっている雪蓮に冥琳がなだめる。

 

それによって一旦は落ち着き、話を戻す。

 

「ていうか何が聞きたいんだ?」

「あぁ、お前のことは鈴仙と風からある程度は聞いているからな。お前が元々普通の人間だったとか…海賊だったとか……悪魔の実なる果実を食べてそんな体になったとかな……」

「そこまで知ってんのか? だったらもういいんじゃねーか?」

「いやな、それを聞いて色々と興味深くなってな。他の皆からも聞きたいことができたのだよ」

「そこで、本格的に明日から国の立て直しが始まるからその前に聞いておきたいと思ってね」

 

雪蓮と冥琳の言葉に全員が頷く。

 

それにはエースも肩をすくめて困った素振りを見せるが、それにも関わらずに話は進む。

 

「それじゃあ私からね? 天の国にはエースみたいに火とかを出せるの?」

「……いや、火を出せるのはロギア系の特徴だからな。体ごと火を出せるのは世界でおれ一人だった」

「ろぎあ? それはなんですか?」

 

最早自分の話は聞いてもらえないと悟ったエースは素直に答える。

聞き慣れない単語に皆の思いを代弁して亜莎が聞く。

 

「その聞いた悪魔の実ってのはおおまかに三つのタイプ……種類に分けられるんだ」

「三つか……どんなのがあるんだ?」

「そうだな……まず一番種類が多いのはパラミシア系で……体の形とかを変えて攻撃したりするやつかな……」

「え~っと……例えばどういうことができるんですか?」

 

明命がそう聞くと、エースは過去を振り返って能力者を思い出す。

 

「そうだな……首を伸ばしたり腕や足、体の至る所を伸ばして遠距離から攻撃するゴム人間……体を自在にバラバラにしたりできるバラバラ人間……全身の肌をスベスベにしてどんな攻撃も滑らせて受け流す美白人間とか……」

「体を伸ばすって……」

「体をバラバラ……ですか?」

「スベスベ……なんか羨ましいかも……」

 

蓮華、明命、鈴仙のように全員も感心とは少し違った感嘆を洩らす。

 

「ちなみに、おれの弟はそのゴム人間だ」

「え? エースさんに弟なんていたんですか?」

「あぁ、血は繋がってねえけど」

「初耳ですね~」

「まあ今は悪魔の実だ。弟の話はまた今度にしてやるよ」

 

鈴仙と風でさえも初めて聞いた事実にエースは笑って受け流し、次へと進む。

 

「次にあるのはゾオン系だ」

「ぞおん……さっきから聞き慣れない言葉だが、お前の世界の言葉なのか?」

「そうだな。分かりやすく言えば動物だな」

「動物って……まさか動物に変わる……とか…そうなの?」

「まさしくその通りだけど?」

 

思春と蓮華の問いにあっけらかんと答えると、周りの皆も少し顔が引き攣った。

人間が急に獣になるところを想像してしまったのだろう。

 

「ゾオン系ってのは単純に身体強化させるのが特徴だな。鍛えれば鍛えるほど強くなれるんだ」

「へ……へ~……どんなのがあるの?」

「ん~…イヌになるやつとかネコとかブタ…トリもいるな~…」

「ネコ……ですか?」

 

この時、明命が自分もネコになってみたいと思ったのは誰も知らない。

 

「だけど、ゾオン系が三つの中で一番奥が深くてな、ゾオン系“古代種”“幻獣種”ってのがあるんだ」

「古代種? 幻獣種? それはイヌやネコとはどう違うの?」

「ああ、古代種ってのは昔に絶滅した動物……幻獣種は伝説の中でしかいない、龍とかそういった奴になれるんだ」

「へ~……すっごい数があるのね~…」

 

雪蓮も舌を巻いて驚いていると、他の人も段々と話にのめりこんできているようだ。

鈴仙と風でさえも深くは聞かなかったが、聞いてて面白いものがあった。

冥琳と穏、亜莎も未知なる話に興味津々で聞いていた。

 

穏だけが既に卑猥に身体をくねらせていたが…

 

「そして、最後に悪魔の実最強のロギア……自然の力を使うんだ」

「し…自然ですか?」

「それって、エースも自分で言ってたよね? エースもその…ろぎあってやつなの?」

「いい勘してるじゃねーかシャオ。おれはメラメラの実…ロギア系の炎人間だ」

「自然……どんなやつがいた?」

 

冥琳がそう言うと、エースは思い出しながら答えていく。

 

「そうだな……氷を操る氷結人間……光人間や煙人間もいたなぁ……多分だけど雷を操るのもいると思う」

「雷……なんかピンとこないわね……最強といってもどれくらい威力があるの?」

 

蓮華の言葉に少し考えてから答える。

 

「……ロギアが三人いたら……この大陸は間違いなく沈むな」

『『『はぁ!?』』』

 

エースの推測に全員が驚愕する。

 

大陸が沈む!?

 

「沈むって……そんなことがあるんですか!?」

「あぁ……ただでさえパラミシアでも島の原型を変えるくらいの能力者がいることも珍しくない。おれの世界の世界一の大剣豪でさえも剣一本で島くらいは……」

「剣一本って………どんだけ強いのよ……」

 

雪蓮を含めた全員もその強さに驚きはするが、実感が湧いてこない。

今まで見たこともない強さに全然実感が湧いてこないのが彼女達だろう。

 

「悪魔の実を食ったやつのことを『能力者』って呼ぶんだ」

「成程……その実はどこで見つけたんだ?」

「どこって……海を渡ってたら浮いてるのを偶然見つけて食ったんだ」

「海って……浮かんでた木の実を食べるか? 普通……」

「いいじゃねえか。食料とか大変だったんだぞ?」

 

昔のことを思い返してると風が気になったことを聞いてみた。

 

「その実を切り分けて他の人にも食べさせてたら戦力も上がってたんじゃあ……」

「いや、どうやら最初に口付けたおれにしか能力は伝わらなかったな。後で他の奴にも食わせたけどだめだった」

「不思議ですね……」

 

亜莎が呟くと、祭が嬉々として聞いてきた。

 

「それで? その実というのは美味だったのか? 酒のつまみにくらいはなったか?」

 

それに対してエースは味を思い出すや否や胸やけを起こす。

 

「いや、あんな不味い物はコリゴリだ。あれより酷い物があるなら教えてほしいぜ」

「そんなに不味かったのか?」

「不味いだけじゃねえ。食った瞬間に自分の身体が変わっていくような……そんな感覚だった」

「……本当によく食う気になったな」

 

思春も思う所があったのかツッコムが、エースは気にしない。

そんな時、シャオも聞いてみる。

 

「じゃあもしもう一つ見つけてエースが食べたら無敵じゃない?」

「いや……多分むりだろ」

「え? なんで?」

「これは聞いた話なんだけどよ、悪魔の実を二つ食った奴は体の中から爆発して跡形も無く飛び散るんだと」

「……」

 

シャオもあまり想像したくなかったのか何も言わなくなってしまった。

 

「まあ知ってることはこれくらいだな」

「なるほど……亜莎」

「は、はひ!」

 

冥琳はそこまで二人に明日の作戦を伝える。

 

「明日、ここから北西の賊の討伐をエースと共にしてもらいたい」

「わ…私が…エースさまとですか!?」

「あぁ、袁術が余分に建てた城を占拠されてな。迷惑な話だがな」

 

冥琳は溜息を吐きながら悪態を吐く。

その横から雪蓮が言う。

 

「だったら蓮華も行ってきなさいな」

「え? 私もですか?」

「そ。蓮華も袁術の時は少し甘い部分があったからその訓練…って訳」

「は…はい…それなら……行きますが…」

「心配しないの。たかが賊なんだから蓮華と亜莎なら大丈夫よ」

「「はい!」」

 

雪蓮は二人の肩に手を置いて励ますと、二人は咄嗟に返す。

その後雪蓮はエースにも向き合う。

 

「エースもこの二人をお願いね?」

「ああ! 偶には思いっきり暴れたかったんだ!」

「ふふ。頼もしいじゃない。期待してるわよ?」

「まかせろ!!」

 

エースも思いっきりという言葉に惹かれてテンションが上がっている。

それを見て、困った主を思う冥琳は苦笑してエースに進言する。

 

「それならお前の…すぺーど隊というのも保護しているから挨拶にでも行ってこい」

「お! あいつらも無事だったんだなぁ…分かった! ちょっと行ってくる!!」

 

部下が無事だと知って喜ぶエースはそのまま玉座の間から駆け足で出て行ってしまった。

それを見た雪蓮は笑い、冥琳は溜息を吐く。

 

「まったく……場所も聞かずによくもまあ…」

「いいじゃない。面白いから」

「これで苦労が二倍だわ……亜莎と蓮華さまも」

「はい! なんでしょう!?」

「どうしたの?」

「ていうか今私見てなにか言わなかった?」

 

前半の呟きに敏感に反応した雪蓮を無視して冥琳は自分の提案を伝える。

 

「少し頼まれてくれませんか?」

「? なにかあるの?」

「はい。実はエースの実力を測っていただきたいのもあるんです」

「エースの?」

 

亜莎と蓮華は二人揃って首を捻る。

 

「はい。できればエース個人でどこまでの仕事が可能なのか。何が得意で何が不得意かを見極めてもらいたいのです」

「あぁ、そういうことか」

「そ。それなら蓮華と亜莎のいい経験にもなるし、これからのエースの仕事の割り振りもできるから色々と得なのよねー」

「行ってくれますか?」

 

冥琳の言葉に二人はやる気を見せて頷く。

 

「分かったわ」

「頑張ります!!」

 

こうして、呉の休みは閉じていくのだった。

 

 

 

 

その後、さまよい続けたエースは小一時間ぐらい城を駆けめくり、鈴仙と風に案内されることとなった。


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