火拳は眠らない   作:生まれ変わった人

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復活の火拳

村の北西の洞窟では宴が行われていた。

 

黄色い布を頭に巻いた男たちが酒を飲み交わしている。

 

酒を飲みながらご飯、野菜、肉といった食料を食らっていく。

 

村を襲った賊……黄巾党の食べている物は買った訳でも自分たちで育てた訳でもない。

 

全て村から奪ったものだ。

 

我が物顔で飲み食いする黄巾党を連れ去られてきた女子供は男たちを射殺すように鋭く睨む。

 

しかし、その村の女性も賊の慰み物として引っ張りだされ、陰部などをまさぐられ、女性としての尊厳を踏みにじられる。

 

表情も一変し、襲われて泣き叫ぶ女性を見て体を恐怖で震わせる。

 

それを見ている黄巾党は下卑た笑いを浮かべて犯される女性を見る。

 

自分たちが味わう征服感と満たされる性欲を満たすためだけに女性を犯す。

 

女性の悲鳴に幼い少女たちも脅える。

 

いつも村で遊んでいる時の表情とは一変し、恐怖で顔を涙と鼻水で濡らして震えている。

 

奴隷として売られるために連れて来られた少女たちにとって目の前で起きていることは惨劇としか言えなかった。

 

大人の男の歪んだ欲望を目の当たりにして大人子供関係無く失禁する者もいる。

 

失禁することは恥じゃない。

 

自分たちにいつ下るか分からない惨劇を見せられているのだから仕方の無いことだからだ。

 

こうして、洞窟の中では狂気に満ちた悪魔の宴が行われていた。

 

 

「ったく……いいよな。中の奴等は…」

「全くだ…早く交代時間になんねえかな~…女の体を堪能して一服してえぜ」

「頼みの綱は村に戻った奴等がまた女をかっぱらってくることだな」

 

そんな話を洞窟の前の見張りを任されている男二人がぼやく。

 

外まで宴の笑い声が響いてくる。

 

男たちは宴をしている仲間に僻みながら見張りを続けていると…

 

「ん?」

「どうした?」

「おい……前から誰か来てねえか?」

「どれ…」

 

二人の男たちは目を凝らして闇を見つめていると、確かに何かの影があった。

 

森の木にさえぎられながらも月の光で人影だと分かったらしい。

 

「女を連れてきたか?」

「お、そりゃいいねえ」

 

森から来たということは村に行って残った女を攫いに行った部隊だろう。

 

男たちはそう思って声をかけに行った。

 

そして、段々と姿が見えてくると、その男は黄色い布を頭にかぶっていた。

 

しかし、その男は何も持っていない手ぶらだった。

 

様子がおかしいと思った二人は首を捻りながら男の方に向かっていると信じられないことが起きた。

 

急に男の両手から炎が出現した。

 

「なっ!」

 

何も無い所からの炎の驚愕も一瞬のことであった。

 

「神火 不知火!」

 

男は両手の槍状に変化した炎を二人の賊に投げる。

 

その槍は男たちに当たり、声も出させぬ間に男たちを吹き飛ばす。

 

男が倒れる所を男は無言で通り過ぎる。

 

そのまま男は野太い笑い声が響く洞窟に入っていく。

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

わたしは全力で村の中を走っている。

 

目的はエースさんだ。

 

しばらく泣いていたわたしは何とか気持ちを立て直し、孫権さまを手伝おうとしていました。

 

だけど、孫権さまに向かう途中であることに気付きました。

 

エースさんの姿が見えなかったのです。

 

わたしは隠れ家の中を必死に探し、外にいるんじゃないかと思って外に出た。

 

そこにはエースさんはいなかったけど代わりに村の子が一人で燃えている村をじっと見つめていました。

 

わたしは男の子の前で屈んで『どうしたの?』と声をかけた。

 

多分、村を見て悲しみにふけっているいると思いこんで元気づけようとしました。

 

だけど、それは間違っていた。

 

いや、間違ってただけなら良かった。

 

男の子からとんでもないことを聞いてしまった。

 

エースさんが皆を助けてくれる。

 

それを聞いた時、血の気が引くのを感じ、我を忘れて男の子に問い詰めた。

 

男の子は半ば狂乱のわたしに怖気づいていたけど、それでも全部話してくれた。

 

男の子とエースさんの間に起きていた出来事を聞き終わった直後に脇目も見ずに村へ走った。

 

山を下っている最中も頭の中ではエースさんの身を案じてばかりでした。

 

そして、村に着くとすぐにエースさんの手掛かりを探す。

 

(エースさん……どうか…早まらないで…)

 

わたしは燃え盛る村を右往左往していると……

 

「誰だ!」

「!!」

 

うろついていた黄巾党の一人に見つかってしまった。

 

わたしはすぐに構えをとる。

 

男は剣を握ってはいるが、あまりにも隙だらけだ。

 

(これなら……)

 

わたしは勝利を確信し、男を見据える。

 

しかし、そこでおかしいことに気付いた。

 

男が襲って来ない。

 

襲って来ないというより足が動かないという風に見える。

 

それを疑問に思っていると、以外にも男の方から沈黙を破ってきた。

 

「お…お前がっ!! な…仲間を…!」

「?」

 

男の言葉に思案していると男が衝動にまかせて闇雲に襲いかかってきた。

 

わたしは驚きはするけど焦りはしなかった。

 

何故なら男の動きがはっきりと目で追えているからだ。

 

それに動きも遅い。

 

わたしは男に走り、先手として男の懐に潜って腹を殴る。

 

「たぁ!!」

「ぐふ!」

 

男が前のめりになって下がった顔に手甲を付けた拳を叩きつける。

 

「はぁ!」

 

すると、男は鼻から大量の血を出して吹っ飛ぶ。

 

倒れた男が動かないのを確認するとわたしはすぐに走った。

 

さっきの賊の言葉を気にしながらもエースさんを探すために走る。

 

そして一角の角を曲がって…そこの光景が目に焼きついてしまった。

 

「こ……これは…」

 

信じられない…

 

そう思うしかなかった。

 

何故なら、そこには数十人の賊がボロボロになって倒れていたからだ。

 

その光景を見た時は状況も分からずに混乱しそうでしたが、すぐに一つの心当たりが浮かんだ。

 

「まさか……エースさん……?」

 

確かにエースさんは強い。

 

この賊がさっきわたしと出会ったのと同じ実力ならエースさんしかこんなことできる人が思いつかない。

 

わたしもできると言えばできるだろうが、この状況はわたしが作ったものではない。

 

(ここまで強かったんだ……)

 

わたしは倒れている賊を見渡していると、一人だけ身ぐるみを剥がされているのがいた。

 

そいつもボロボロになっている。

 

でも、何故彼だけが……

 

わたしが考えていると、一つの可能性が浮かんだ。

 

 

こんなことできるのは誰?

 

身ぐるみを剥ぐことができるのはわたし以外に賊を倒せる人だけ…

 

何故一人だけの身ぐるみを剥いだ?

 

そもそも何故ここに戻って来たのか…

 

それは……

 

 

「まさか……!」

 

絶対にあって欲しくない可能性が頭に浮かんだわたしはすぐに村の北西へと全力で走る。

 

 

 

一方、村の北西の洞窟では……

 

「ふあ~…」

 

洞窟の地下の牢の前で一人の男が見張っている。

 

男の後ろの牢の中では暗い顔で俯いている女性やすすり泣く少女たちがいる。

 

村から攫われた人たちは悲鳴を上げていたが、見張りの男の剣幕に脅え、今では静かになっている。

 

やっと静かになった人質の見張りに飽きて欠伸をしていた。

 

その時…

 

「よぉ…様子はどうだい?」

 

一人の男が見張りに近付いてきた。

 

「ん? お前は?」

「いやなに、少しここの見張りを代わってやろうと思ってな」

 

いきなり現れた男の言葉にすぐに反応する。

 

「おお、そうか! それはありがてえ!」

 

疲労で考えようとも思いだそうとも思わない見張りはすぐに男の言葉を鵜呑みにする。

 

男は牢に近付いて人質を見ながら聞く。

 

「なあ。結構大人しいじゃねえか?」

 

すると、見張りは忌々しげに答える。

 

「ああ。あまりにうるさかったから少し脅かしただけだ」

 

その言葉に聞いた男からは笑みが消え、肩をほぐしている見張りの背中を見る。

 

「そんじゃあ後は頼んだ…」

 

見張りは振り向きながら男をみようとする。

 

しかし、それはできなかった。

 

何故なら……

 

「ああ。後は任せな」

 

男が自分を見下ろして笑っているのが見えた。

 

その瞬間、腹の痛みで見張りの意識が闇に墜ちたからだ。

 

 

 

 

急にやって来た男が仲間の腹を殴って気絶させるのを見た人質たちは呆気にとられていた。

 

男が牢の方を見た時、村人は体を震わせた。

 

村人にとっていきなり現れて仲間を気絶させた男は得体の知れない者だった。

 

それによって恐怖感が少しずつこみ上げてきた。

 

しかし、それも一瞬のことで終わった。

 

何故か?

 

それは……

 

「お前等…家族が心配してるぞ?」

 

黄色い布を取って現れた顔は最近になってやっと見慣れた顔だったから。

 

 

おれはすぐに村の奴等を発見し、牢の門番を気絶させる。

 

牢の鍵を門番から奪って牢の鍵を開けた。

 

出口までの敵は既に倒してあるからすぐに出口に向かってもらおうと思っていた。

 

しかし、出てきた奴等の話からするとまだ全員じゃねえ。

 

上で男に連れてかれたのが5人くらいいるらしい。

 

とりあえずそこにも向かうことにする。

 

着替え直したおれはすぐに残りの村人たちを見つけた。

 

洞窟内は二本の松明で照らされている。

 

下っ端は全員酒を飲むことに夢中になっている。

 

しかも村人は全員リーダーと思しき男の近くで固まっている。

 

おれは早速行動した。

 

あらかじめ石を二つ拾っておいて、30秒くらいは目を瞑って暗闇に備える。

 

そして、それぞれの石を松明に当てて倒す。

 

すると、松明の火が消えて洞窟内が暗闇に染まる。

 

「なんだ!?」

 

首領の男が突然の事態に声を荒げる。

 

暗闇になり、視界が悪くなったことと食事最中の襲撃で頭が回っていないことから賊たちは動けずにいた。

 

そんな中、エースは暗闇の中をスムーズに動き、人影を避けて首領の近くに到達する。

 

首領の傍にいた一人の手を取って固まっている九人のところへ走る。

 

「このまま逃げるぞ」

 

到着して彼女たちにそう言うと女性たちは戸惑ってしまう。

 

しかし、声で正体が分かったのか少し安堵する。

 

「ここから壁を伝えばすぐに道に出られる。そこからは一本道だからすぐに出られる」

 

エースの提案に全員が頷くのを見ると、すぐに行動に移る。

 

女性たちは暗い空間の壁を伝って道に出ようとする。

 

エースは賊の誰かが壁側に行かないように見張っている。

 

誰か一人でも行こうものならエースの鉄拳を食らう。

 

そうとも知らずに壁に向かう賊はエースに殴られて気絶する。

 

そうしている間に村人たちの目が慣れてきたのかスムーズに出口に向かっていた。

 

しかし、それは賊にとっても同じ事だった。

 

賊の一人が女性を見つけると何人かで連れ戻そうとする。

 

だが、それをエースが許す訳がなかった。

 

エースが賊を倒している間に村人全員は道に辿りついてそこから逃げる。

 

それを確認したエースは口を吊り上げてほくそ笑む。

 

そんな時、首領は落ちた松明に火を点けて辺りを照らす。

 

洞窟内は微かに照らす光はパニックに陥っていた賊を次第に落ち着かせた。

 

そこで、エースを指さす男がいた。

 

「お…おれは見たぞ! こいつが女共を逃がしてたんだ!!」

 

その瞬間にほろ酔い気分だった賊たちの空気が一変し、怨嗟の眼差しをエースに向ける。

 

手には今しがた村人を切り捨てた剣を手に取る。

 

目は血走り、明らかな殺意をエースにぶつける。

 

しかし、当の本人は大量の殺気を当てられても余裕の笑みを崩さない。

 

「何言ってやがる? こっちは仕返しただけだ」

 

エースは飄々とした態度で挑発する。

 

その態度に黄巾党の殺気も更に膨れ上がる。

 

特に首領は額に血管を浮かべ、今にも飛び掛かりそうである。

 

「小僧…俺たちの宴を邪魔して…生きて帰れると思っているのか…?」

 

すると、エースの周りを多数の賊が囲む。

 

賊が陣取る場所の地面が見えないほどだ。

 

賊は自分たちの有利な状況にニヤけた笑みを浮かべている。

 

「どうだ? 今お前を囲んでいるのだけでも千人だ」

 

首領の勝ち誇ったような言葉に手下たちは遂に全員で笑い出した。

 

だが、それでもエースは恐怖どころか動揺の色さえ見せない。

 

そろに対して首領はエースが恐怖で動けないと思っている。

 

そう結論付けて襲い掛かろうと合図をおくろうとした。

 

 

その時だった……

 

気付けば首領の動きが止まった。

 

「……」

 

首領だけではなく、他の賊たちも止まっていた。

 

それもそのはずだった。

 

何故なら……

 

「…んだこりゃ…」

 

小さな光の玉が辺りをフワフワと浮いていたからだ。

 

黄巾党は急な出来事に呆気にとられている。

 

その中で何人かは見た。

 

一見幻想的に魅せる玉がエースの手から次々と出てくるのを……

 

「蛍火……」

 

そして、その事実が周囲に伝わる前に遂に起こった。

 

「火達磨!!」

 

光の玉は輝きを増し…華々しく爆ぜたのだった。

 

 

わたしの体が休息を必要としているのにも関わらず、わたしは洞窟に走る。

 

わたしの危惧していたことが的中してしまった。

 

エースさんは黄巾党の一人から身ぐるみを剥いで侵入したようだ。

 

その予想が当たったと分かったのは逃げてきた村のみんなからの証言からだった。

 

エースさんの鮮やかな計画と強さを以て為し得た救出。

 

心の中でエースさんの実力を再認識して驚いていたのですが、その情報には続きがあったのです。

 

エースさんが村の皆を逃がすために殿に残ったとのこと…

 

それを聞いたわたしはとても信じられませんでした。

 

しかし、逃げてきた人の中にエースさんの姿が無かった。

 

それを知ったわたしは村の皆の制止を振り切ってエースさんの元へ向かう。

 

そして、やっと…

 

「着いた…」

 

息を整えながら洞窟へ向かうとそこには黄巾党二人が倒れていた。

 

しかし、その二人にはおかしな傷があった。

 

「……何かで貫かれてる?……しかも傷も焦げてる?」

 

わたしは二人の体を調べてみると、何かで貫かれ、焦げた傷があった。

 

これは……槍の類?

 

だけどエースさんは無手…身に着けていた刃物で刺してもこうはならない…

 

だけど一番不可解な点はこの焦げ跡…

 

(高温の槍で突いた…?…それじゃあエースさんは…)

 

程普がそんなことを考えていたその時…

 

 

 

 

―――ドガアアアアアン―――

 

「!!」

 

突如、洞窟内からけたたましい轟音が響いた。

 

その際に辺りが揺れ、程普は腰を落としかけた。

 

だが、何とか堪えて洞窟内を見据える。

 

すると…

 

「なっ!」

 

中から尋常ではない量の黄巾党が走って来た。

 

わたしは無意識に戦闘準備に入る。

 

(ただでは死なない!)

 

本能的に死を覚悟しながら暴徒に立ち向かう……筈だったが…

 

「…え?」

 

だれが予想できただろうか。

 

黄巾党はわたしに目もくれずに逃げていく。

 

おびただしい数に対してわたしは一人だ。

 

到底普通の行動とは思えない。

 

しかし、それでも誰一人としてわたしのことを見ていない。

 

いや、よく見ると脅えている者がほとんど……全員かもしれない。

 

わたしは賊の一人を捕まえて強引に近くに引き寄せて問い詰める。

 

「何だ!? この中で何が起きている!!」

 

強い口調で問い詰める。

 

しかし、賊は震えながら叫んだ。

 

「化物だ!! 奴の妖術で他の奴等が…!」

「化物? 妖術? それは一体…」

「ひいぃ! ゆ…許してくれえええぇぇえぇ!!」

 

訳のわからない事を口走り、わたしの手から強引に抜け出して逃げて行った。

 

だめだ…多分他の奴に聞いても話にならない…

 

わたしは痺れを切らし、何よりエースさんのこともあったから洞窟の中に入った。

 

押し寄せる賊が大分減ってきたのを確認して機を見て洞窟に入り、進んで行く。

 

多少の黄巾党とぶつかることはあるが、あまり支障はない。

 

わたしは洞窟内を直進していると、一つの違和感に気付いた。

 

(熱い…)

 

洞窟内が外よりも断然熱いのです。

 

まるで外と中とでは季節が違うように…

 

そんなことを思いながら更に直進していくと、大広間に出ました。

 

すると…そこでは信じられないことが起きていました……

 

これが、初めてエースさんの秘密の一つを知った瞬間でした……

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程まで宴会で賑わっていた。

 

しかし、それも今では見る影もない。

 

辺り一帯は火の海に包まれている。

 

人は燃え盛る業火を避けるように固まっている。

 

一人を除いて…

 

「これは挨拶代わりだ」

 

火の海から一人、賊たちに歩を進める人物がいた。

 

エースだった。

 

「て…てめぇ…な…なに…しやがった…」

 

未知なる恐怖で舌がまわらない首領はエースに問う。

 

それに対してエースは指先から火を出して律儀に答える。

 

「おれはメラメラの実を食った炎人間だ」

 

意外な答えに下っ端を含めた賊たちは何一つとして聞いたこともないワードで混乱していた。

 

しかし、一つだけ分かっていることがあった。

 

それは…

 

「教えてやるよ…お前等の前にいるのは……海賊だ…」

 

相手は普通じゃない…

 

「そろそろ…無駄な問答は止めようぜ?」

 

殺らなければ…殺られる…

 

「全員でかかれえぇぇぇ!!!」

『『『うおおおおぉぉぉ!!!』』』

 

首領の号令で賊たちは一斉にエースに突っ込んでいった。

 

しかし、先手を打ったのはエースだった。

 

「陽炎!!」

 

エースは炎を纏って賊たちに突っ込んで行く。

 

『『『ぐああぁぁ!!』』』

 

巨大な火の玉に当たった暴徒の一部はいとも簡単に吹き飛ばされる。

 

「オラオラオラ!!」

 

賊のど真ん中で止まり、今度は拳に火を纏わせて素早い連撃を喰らわせる。

 

それによって数十人を撃退した。

 

「もっとだ! もっと大勢で奴にかかれぇ!!」

 

怒号に従うように一斉に50人くらいで襲い掛かる。

 

それにも関わらず、エースは拳と足に炎を纏わせて体術で応戦する。

 

賊の攻撃は当たるどころか掠りもしない。

 

時にはバク転で避け、跳躍して回避していく。

 

トリッキーな動きで避け、灼熱の一撃を放つ。

 

それを繰り返し、50人どころか100人ぐらいを倒す。

 

しかし、まだ数は半端でない。

 

エースはいい加減に勝負をつけようと考えていた。

 

しかし、エースの背後から一人、剣を振り上げてきた。

 

エースはそれに気付いており、避けようとした。

 

その時…

 

「やぁ!」

 

突然現れた影が掛け声と共に背後の賊を跳び回し蹴りで吹き飛ばす。

 

エースはそれを見てギョッとした。

 

「て…程普!?」

 

意外な人物の登場にエースは目を見開いた。

 

「大丈夫ですか!? エースさん!」

 

一方、程普はエースに駆け寄って身を案じる。

 

「そんなことはいい! なんで来た!?」

 

エースは程普に言い寄るが、程普も負けてはいなかった。

 

「それはこっちの台詞です! なんで一人で行ったんですか!? わたしがどれだけ心配したか…!」

 

エースと程普がギャーギャー言い争っていると…

 

「何してやがる野郎共! さっさと行かねえか!」

「で…でも頭…あの男一人でもやばいのに今度は二人に…」

「うるせえ! その内疲れてくんだろ! 数はこっちが有利だ! 分かったならさっさと行け!!」

「ひぃ!!」

 

首領の怒号に部下が再びエースたちを見る。

 

それに気付いたエースは出口とは別の通路を見て、まだ騒いでいる程普の口を塞いで言う。

 

「程普! 一旦あそこに逃げるぞ!」

「むぐ!? ん~ん!」

 

口を塞がれて喋れない程普は首を横に振って抗議するが、エースは走った。

 

程普も一瞬遅れてエースの後を追う。

 

「逃がすな! 殺せ!!」

 

首領の合図で暴徒が一斉に狭い通路になだれ込む。

 

その矛先のエースたちはただ狭いだけの通路を走っていた。

 

後から追いかけ、やっと追い付いてきた程普が必死の形相でエースに訴える。

 

「この先はだめですよエースさん!」

「なんで!?」

「だってこの先は何もない、分かれ道も無ければ行き場のない…行き止まりなんです!!」

 

この時、程普は絶望していた。

 

この先は元々村で使っていた食料の貯蔵地。

 

当然、出口などない一方通行だ。

 

この狭い通路では賊に囲まれることは無く、一定の数だけ相手にしていけばいい。

 

しかし、少なく見積もっても700はくだらなかった。

 

全滅させるとしたらどれだけかかるか…

 

最早頼みの綱は外の孫権さまが兵を送ってきてくれるだけ…

 

そう思いながら走っていた時、遂に行き止まりに立ち止まってしまった。

 

「そ……そんな…」

 

この時、わたしは泣きそうな声を出していたに違いない。

 

(ここまで…なの…?)

 

まだやりたい事やってないのに……素敵な人と出会って……色々したかったのに…

 

 

わたしは絶望に突き落とされた気分でした…

 

 

彼の声を聞くまでは…

 

エースさんはわたしの頭をいつもの感じで撫でてきた。

 

その事にわたしが呆気に取られてエースさんの顔を見ると…

 

「心配すんな。おれは仲間を死なせる気はねえよ」

 

不敵な笑みを浮かべて答えるエースさんを見たら、不思議とさっきまでの絶望感がどこかに消えていました。

 

それどころか胸の鼓動がいつもより強く感じ、高揚していました。

 

そんなやり取りをしていると、後方から暴徒が辿りついた。

 

その更に後ろから首領が得意気に笑って出てきた。

 

「どうだぁ? こんな狭いとこならチョロチョロ動き回れねえぞ?」

「……」

「最後のあがきで妖術でも火でも出してみろやあぁぁ!」

 

首領は剣より大きい斧を手に取ってエースに向ける。

 

しかし…沈黙を守ってきたエースは全員の斜め上をいく発言をする。

 

「お前等…なんでおれがここまで連れてきたか知ってるか?」

 

全員が思った。

 

連れてきた? どう見ても逃げてきただろ。

 

エース以外の人は全員そう思い、エースの苦し紛れだと思う。

 

だが、エースはここで笑みを浮かべて右手に炎を溜める。

 

「なっ!?」

 

程普はそれを見て驚愕の声を上げる。

 

「それはな……この通路じゃあ逃げ場も隠れる場所もねえ」

「?」

「つまり、おれももうちっとだけ本気を出せる訳だ」

『『『!!!』』』

「もう村の食料や品物を燃やさねえ程度に加減しなくてもいいって訳だ」

 

その言葉は誰もの予想を越えたものだった。

 

本気?

 

じゃあ……今までは……

 

ここで大広間の惨劇を黄巾党は振り返っていた。

 

あれだけの惨事を起こした力が本気じゃない?

 

「は…ハッタリだ! そんな馬鹿なこと…「だったら試してみるか?」!?」

 

エースは無表情で…怒りを込めた眼差しを黄巾党に向ける。

 

「見ず知らずのおれを受け容れてくれた奴等の痛み……倍にして返すぞ」

 

静かに言ったその言葉は黄巾党の戦意を喪失させるどころか刈り取った。

 

手下たちは武器を捨て、身を翻して逃げる。

 

「助けてええぇぇ!!」

「こんなの聞いてねえよ!!」

「あ……あぁ…」

 

首領もエースからゆっくりと後ずさっていくが……

 

 

 

もう……遅い…

 

 

エースの手の炎はより一層燃え上がり…放った。

 

「火拳!!」

 

エースは拳を突き、巨大な炎の拳を放った。

 

通路一杯に炎が隙間なく押し寄せる。

 

黄巾党を次々と業火の中へ引きずり込み……

 

 

「これで…終わりだぁ!!」

 

エースの激昂と共に炎の勢いが強まり…

 

 

炎の拳は通路を抜け、大広間の机や椅子を焼き……全てを無に帰した。

 

 

 

 

これは始まりだった。

 

歴史に残るであろう大戦の直前の産声となった。


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