エース達が旅立ってもう数日が経とうしていた。
今は山の中で野営の最中。
満天の夜空の下を焚火の火が赤く照らす。
「もう焼けたかな?」
「まだじゃねえの?」
川で採った魚と山の幸を焚火で調理してる中、エースは考えていた。
覇気
エースの周りでは覇気という力を使う者が多かった。
白ひげと出会った時、何故自分にダメージを与えさせたのかを聞いてみた。
聞いてみれば、それは覇気を使ったからだという。
覇気には三つの色が存在する。
武装色の覇気…身体に纏わせて攻撃すると攻撃力が倍増。さらには自然系(ロギア)、動物系(ゾオン)、超人系(パラミシア)の能力に関係なく、実体にダメージを与える事ができる。更には鎧を纏うように防御力を上げることもできる。白ひげはエースに使って倒したのが武装色の覇気である。
見聞色の覇気…相手の動きを先読みしたり、強さ、居る場所を探ることができる。空島ではこれを心網(マントラ)と呼んでいる。
以上の二つは鍛え上げれば習得可能である。
しかし、修業では手に入らず、才能でしか身に着けられない色がある。
覇王色の覇気…数百万人に1人の王の資質がある者しか身につけることができない正に才能。一睨みするか、素通るだけで一定の覚悟が無い者は気絶する。修業すれば特定の人物を選んで気絶させられる。エースは10歳の時に無意識に出した。
基本覇気は武装色か見聞色のどちらか片方しか極めれないが覇王色の覇気を持ってる人は3色全て極めれる。覇気はその人物の強さに比例する。
新世界で生き残るためには必須と言っても過言では無い強力な能力。
白ひげ海賊団では船長『白ひげエドワード・ニューゲート』、白ひげ海賊団1番隊隊長『不死鳥マルコ』、白ひげ海賊団3番隊隊長『ダイヤモンド・ジョズ』、白ひげ海賊団5番隊隊長『花剣のビスタ』が覇気を使っていた。
自分がまだ未熟だった事を思い知りながら同胞と肩を並ばせて白ひげを王にするためにエースは修業法を聞き出して修業していた。
しかし、修業中に起きた惨事、黒ひげマーシャル・D・ティーチの仲間殺し。
白ひげ海賊団4番隊隊長サッチを殺した黒ひげに怒りを燃やしたエースは仲間の制止を振り切ってティーチを追った。
それ以降、修業はやっていない。
その為、エースの覇気はとても不安定で戦闘で使えるレベルには達していなかった。
しかし、この地で目覚めたエースの覇気に異変が見られていた。
強くなっていた。
まだまだ戦闘で使える程ではないが、明らかに覇気が強くなっていた。
時々、相手の二秒先の動きが見えたり、遠い場所から『声』が聞こえるようになる時もあった。
最初は気のせいだと思っていたが、そのことをはっきり自覚したのもつい最近。
山の中を一人で散策中、熊に襲われそうになった時だけ睨みを利かせた。
すると、熊は怖気づいたと思ったら急に泡を吹いて倒れた。
これにはエースも驚き、その後から試してみた。
その結果、意識して睨めば十回に一回は成功するようになっていた。
その事に疑問に思いながらも少し嬉しかった。
まだ強くなれる。
今は見知らぬ地にいるが、また強敵に会うかもしれない。
なら、修業しておいて損はないだろう。
そう思って現在修業中である。
「もういいでしょう」
「そだな」
考えに耽っていた所で魚が焼け、しばしの食事夜空の下で堪能した。
夕食も終わり、今日も終わろう時間にエースは寝転がりながら言った。
「なあ。鈴仙」
「はい?」
呼ばれた鈴仙は調理した後の片付中なので背中越しに答える。
「なんでおれ等野宿してんだ?」
その一言に鈴仙は固まり、手を止めた。
「最近じゃあ賞金首捕まえて金集めてんだから宿くらいはなんとかなるだろ?」
「……」
鈴仙の体が震える。
「それなのに野宿ねえ…しかも魚の量も少なかったしな~」
「へぇ……そうですか…」
鈴仙の声にはとてつもない何かの感情が込められている。
「今から飯行かねえか? どうも腹減って眠れそうにねえんだよ。あ、どうせなら飲もうぜ? お前酒はいけるだろ? で、その後…」
「…………(プツン)!!」
ここで鈴仙から何かが切れる音が聞こえたからエースは鈴仙を見てみる。
「どうし「誰のせいだと思ってるんですか誰の!!!!」うお!?」
鈴仙が鬼のような形相でエースに凄んできたため、エースは起き上がって高速で後ずさった。
それでも鈴仙はエースに近付いて凄んでくる。
「そのお金を持ってるのに茶店で食い逃げしようとしてたのはどこの誰ですかっ!!」
「いや…あれは…癖っていうか…「食い逃げが癖!? その癖のおかげで村から追い出されたんですよ!!」うぐぅ…」
鈴仙の過去最高とも言える怒りにエースもタジタジになる。
「これじゃあお金あっても使えませんねぇ!! さあどうしましょう!?」
「れ…鈴仙…今回はおれが悪かったから…とりあえず「しゃらっぷ!!」分かった! ごめん!!」
「ゴメンで済めばどれだけよかったか!! 見てください!! 屋根が無いから夜空の☆が良く見えて綺麗ですねぇ!!」
「分かった! 今度からできるだけ「あぁ!?」二度としねえから!!」
そんな議論を続けていると…
グオオオオォォ
遠くで熊があらわれた
エースはそれに気付いた
たたかう どうぐ
ポ○モン にげる
飯だ!!(注:たたかう)
「よっしゃあ晩飯だああぁぁ!!」
「え…エースさん!?」
「……こっちか!!」
「あの、エー「ウオオオオオオオオオオォォォ!!!!」…」
エースは耳をすませながら鳴き声のあった方へと全力で走る。
その様子を鈴仙は一人固まって見ているしかなかった。
エースたちとは少し離れた所では三人の少女が野営をしていた。
「あ~あ…今日はこないな所で野宿かいな…」
「う~…少し冷えてきたの~…」
「仕方あるまい。路銀が切れたのだからな」
こちらも焚火で山菜を焼いて食べようとしている。
一人は関西弁で上半身はビキニだけであるため豊満すぎる胸が隠れるどころか強調されている少女。
もう一人はラフでありながらお洒落な服のポニーテールの眼鏡をかけた少女。
そして、最後は見える素肌には傷跡がついた銀髪の少女。
その三人は焚火を囲んで腰かけていた。
「それにしてもこんなド田舎にまで来る必要あったんかい?」
「ここらの役所ってとっても小さいの~。だからちょっと沙和たちには…」
「いや、今はとにかく名を上げなければならない。そのためにはどんなに小さくても国に士官できる所がいい」
「そらそうやけど~…」
「凪ちゃん、真桜ちゃん。もう焼けたの~」
三人の雑談中に山菜が焼けたのを確認すると、三人はそれぞれ山菜を食べる。
「にしても肉は無かったんかいな。正直これだけはキッツイで?」
「仕方無いさ。ここらへんで動物を見なかったからな」
「そうでもねえぜ? 探せば意外と見つかるもんだ」
「そうか? やっぱりもうちょっと探しとけば…って誰だ!!」
銀髪の少女が突然の知らない声に警戒し、その方向を辿るとそこには熊がいた。
「なっ!!」
「ぎゃああぁぁ!! 熊が喋ったで!!」
「二人とも!! そんなことより死んだフリなの!!」
「沙和!! そんなのは迷信だ! くそ…こうなったら…!」
三人は熊から離れるように一点に集まっている。
その中で銀髪の少女が足を振り上げると…
「落ち着けってお前等…ふぅ…」
「へ?」
「は?」
「ほえ?」
熊の下からエースが顔を出した。
それを見た三人はギョっとした。
「熊から人が生えたで!」
「何! どこだその熊!」
「それはお兄さんなの~」
そう言っている間にエースは熊を下ろす。
重量感溢れる音で熊がどれだけ大きいかが伺える。
「あの…あなたは…」
「あ、食事中に失礼。申し遅れました。何とも美味しそうな匂いに誘われてやって来たおれの名はエースです」
「いえ、私の名は楽進と申します。どうもお気づかいなく」
「凪。乗せられとるで」
背筋を伸ばしてお辞儀をするエースに銀髪の少女の楽進はお返しにお辞儀をする。
楽進に対して関西弁の少女はツッコミを入れる。
エースは熊を指さして聞く。
「なあ。ちょいと火ぃ貸してくんねえか? こいつ焼くから」
「は…はぁ。それだけなら構いませんが…」
エースのマイペースさに楽進はあまり強く言えなくなっている。
そんなエースに三人は向かい合ってヒソヒソと話し合う。
「あの…どうする?」
「いや、そんなん聞かれても…」
「でも…悪い人じゃなさそうなの~…」
三人は熊の肉を焼いているエースを見る。
「なんだ? お前等も食うか?」
「「「……」」」
急に出てきて熊の肉を焼いているエースを微妙な視線で見る。
エースをどう扱うか決めあぐねている様子だ。
「あ……あの…」
楽進が思い切って話し掛けて突破口を探ろうとすると……
「エースさん」
エースの後方から地鳴りが起きたのかと思わせる程の低音が聞こえてきた。
その声に全員は動けなくなるが、エース本人だけが首をギギギとブリキ人形のように後ろに回す。
すると、そこには腰に手を当てて額に血管を浮かばせた鈴仙がいた。
しかし、背後に何かおぞましい何かを背負っている。
エースはそれに戦慄しながらも焼けた肉を食べることは忘れない。
その傍で三人の少女は動けずにいた。
そして、遂に鈴仙が再びキレた。
「話の最中にわたしを置いてどっか行くなんてひど過ぎます! エースさんを見つけるまでどれくらい苦労したか分かります!?」
「わ…分かった…おれが悪かったから少し…」
〜しばらくお待ちください〜
痴話喧嘩も終わって双方(ていうか鈴仙が)落ち着いた所で三人の少女と話せるようになった。
「エースさんがお世話になりました。わたしは付き添いの程普と申します」
「いえ、こちらこそ折角のお肉をご馳走になるのですからお互い様です。私のことは楽進とお呼びください」
「おーい! お前らも食おうぜー!」
鈴仙と楽進がお辞儀し合っている時、エースはもう二人の女性と自己紹介を済ませ、関西弁の少女を李典、ポニーテールの少女を于禁と呼んでいる。
さっき叱られたとは思えないほどスッキリした性格に鈴仙は額に手を当てて苦笑する。
もう何も言うまいと諦めたのだろうか。
楽進は鈴仙に同情しながらエース達の元に集める。
「聞いたか凪。兄さんって海から来た異国の人なんやて」
「確かにエースさんの服装は見たこと無いの〜」
「ちゅうか半裸やけどな」
そんな世間話をしている中、鈴仙は気になったことを聞いてみた。
「楽進さん達も野宿するつもりだったんですか?」
「はい。お恥ずかしいながら路銀が底をついてしまって……」
「それでもこの山の中で野宿は危険過ぎませんか? 人のこと言えませんが…」
「私たちもそう考えたので民家に頼み込んで置いてもらおうと思ってたのですが……」
楽進は不服そうに眉間に皺を寄せた。
それは楽進だけでなく李典と于禁も同様だった。
その様子にエースと鈴仙は顔を見合わせて不思議がっていると…
「村で食い逃げを働いた者のおかげで村人に外部の人間に対する信用が消えて……」
「ウチ等も門前払いくらったちゅう話や」
「「……」」
怒りを滲ませた楽進と李典の話を聞いたエースと鈴仙は何も言えなくなった。
きっと…いや絶対正体が知れると問答無用で襲い掛かってくるだろう。
そう核心させるほどだった。
「もし見つけたらギタギタにしてやるのー!」
「そんでもって縛り上げて川に流して死なせずにじっくりといたぶるんや」
「最後に二度と日の光を拝めないよう牢に入れてやりますよ」
「あはは…やっぱり食い逃げは許せませんよね〜?」
「……」
怒る三人に同調し、鈴仙はエースをジト目で睨む。
それに堪えられなくなったエースは明後日の方向を見て黙り込む。
「「「??」」」
そんなエースを事情の知らない三人は首を傾げて見る。
それを知っている鈴仙はニヤニヤして見ている。
しばらくして、鈴仙はエースを許してやろうと助け舟を出す。
「ここで会ったのも何かの縁ですし…今晩は一緒に寝ませんか?」
「一緒……ですか?」
その鈴仙の提案に楽進は顎に手を添えて考えた結果…
「なるほど、これだけの人数なら二人くらい見張りに置いて…」
「交代で寝れるの」
鈴仙からの提案に三人は納得し、賛成の様子である。
「そんじゃあおれが最初に見張ってやるよ」
「そうですか? それなら私も…」
楽進も一緒に見張ろうと提案しようとするが、それをエースは制す。
「おれなら一人で充分だ。だからお前等は寝てろ」
「いえ、他人に任せて自分だけっていうのは…」
「なら気にすんな。おめえ等には迷惑かけちまったからな。これくらいはやってやるよ」
「で…ですが……」
根が真面目な楽進は食い下がろうとするが、エースも負けずに譲る気が無い。
「凪、折角の兄さんの好意は素直に受け止めるもんやで?」
「真桜! しかし…!」
「その嬢ちゃんの言う通りだ。勿論、おれが眠くなったらお前等の誰かを起こしておれは寝る。それで文句ねえだろ?」
「………分かりました。そう仰るなら」
李典とエースの説得で楽進は折れた。
それを見て鈴仙は思った。
(なんだかんだ言って、やっぱり責任感強いんだなぁ…)
ほぼ一週間共に生活してきて、エースの性格は分かってきたつもりだった。
普段はマイペースで少し問題がある時があるけど、自分のことは自分でやる責任感の強い人。それでいて打算的ではなく純粋に人と関わるから人当たりもいい。それでいて友人が襲われるのには我慢できない熱血な所もある。
まとめて言えば誠実な青年なのだ。
(本当に海賊だったのかな……)
そんなエースが海賊だったと聞かされた時は信じられず、それは今でも変わっていない。
(でも…)
鈴仙にとってはどうでもいいことだった。
エースの過去がどうであれ今この時を一緒に過ごしているのは今のエースだから。
そう思って考えるのを止めた。
「よし、じゃあ行ってくる」
「はい。では私達はこれで」
「気いつけてな~」
「おやすみなの~」
肉を食べきって背伸びするエースは楽進たちの声を受け取りながら背を向けた。
その時……
「……あれ?」
于禁が小さく声を上げてエースの背中を凝視する。
「沙和~、ちょっと焚火跡片づけるの手伝って~な」
「……」
「おい沙和」
「……」
「于禁さん?」
于禁が全く反応しないことに気付いたエース以外の三人は不審に思って于禁に近付こうとする。
すると……
「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
突然、森を揺らすくらいの絶叫を放った。
その大音量にエースは勿論全員の耳に直に入り、苦悶の表情を浮かべる。
「なんやねん沙和…静かにしいや…」
「急に何事だ沙和!」
「あぅ~…」
「なんだよ…ったく…」
全員が耳へのダメージで朦朧としている中、于禁はエースの所に詰め寄り…
「ねえお兄さん!! 背中の絵をもっと見せてほしいの!!」
「? 刺青のことか?」
そう言ってエースは白ひげのドクロマークを見せると于禁は肩に提げていたポシェットを漁って一冊の本を出した。
素早く本を開いてエースのドクロと書簡を交互に見る。
一連の行動に全員は唖然とする。
すると……
「間違い無いの!! 凪ちゃん真桜ちゃんこれ見て!!」
「「??」」
訳も分からず、于禁の本を覗き見る。
しばらく何気なしに読んでいた二人だったが…
「「!!」」
ある一ページを見た瞬間、表情を変えてエースを凝視する。
「?」
「ど…どうしたんですか…?」
訳も分からないエースと鈴仙は三人を見つめるしかできない。
「まさか……本当に……」
「ホンマかいな……」
しかし、後から見た二人は驚きを隠せないまま本を見る。
痺れを切らした二人は三人に話しかけようと近付く。
すると、ここで予想外なことが起きた。
突如、楽進が本を落としてエースに跪く。
「「!!」」
突然の行動に二人は驚くしかない。
そんな中、楽進は跪いたまま話す。
「急で不躾なお願いで申し訳ありません!! ですが…お願いします!!」
楽進は顔をエース達に向ける。
しかし、その表情は先程までとは違って畏怖の念が込められていた。
楽進の豹変ぶりに付いてけていないエース達に楽進は再度叫んだ。
「私達に力をお貸しください!!…………『天の御遣い』様っ!!!」
そう言うと、辺りから強風が吹き寄せ、本のページがめくられていく。
そして、風が止むと、ある一ページで止まった。
『大陸の混沌、それは止まること叶わず戦乱の時代へ歩を進める
略奪、飢饉、汚職、悪政、戦が絶えぬ暗黒時代へと世界は進む
その世に彼は……天の御遣い……最強が放たれる
全てを焼き尽くし、全てを零に戻すであろう
真の歴史はここから始まる……未だ見ぬ世界はそこから…』
そのページには上記に上げた言葉と共に……
白いひげを結わえた
笑みを浮かべた髑髏が
不敵な笑みを浮かべていた