「……何も無いね~……」
背の高く、青いスーツの男は荒野の真ん中を自転車で走っていた。
男は気付いたら荒野の真ん中で立って寝ていたが、環境が変わり、目を覚ましてみると、そこは海軍本部ではなく、見知らぬ大地に立っていた。
知らぬ間にバーソロミュー・くまに飛ばされたのだろうか…とりあえず適当に探索していたのだが……
「あららら…」
途中で見つけたのは村だった。
しかし、その村は燃えていた。
その上、遠くからでも黄色い布を頭に付けた何者かが剣を持って徘徊しているのが見える。
「…とりあえず恩でも売っとこうかな~」
「下がれ下郎!!」
「桃香お姉ちゃんに近付くななのだ!!」
「二人とも! 気を付けて!!」
炎に包まれている村の中では二人の少女が後方に逃げそびれた村人達と桃色の髪の女の子の劉備、真名を桃香を守るべく、剣を持った輩に抵抗の意を示す。
「おい聞いたか!? どうやら足手まといを抱えて俺等と! しかも二人でやるつもりらしいぜ!?」
男達の下卑た笑いが響く。
「貴様等…!」
歯を強く噛みしめながら、黒髪の少女の関羽、真名を愛紗は男達を睨めつける。
「安心しな…おめえ等と後ろの胸のでかい女は殺さずに……俺達が遊んでやるよ!!」
男は剣を振りかぶって愛紗達に飛びかかっていくと…
「ぐあああああああぁぁぁ!!!」
突如、男は肩を押さえて倒れた。
「お…おい! 何があった!?」
仲間が介抱すると、肩に何かが刺さっているのを確認した。
「……氷?」
男達と同様、愛紗達も驚きで目を見開いていると…
「残念ながら、二人じゃ無いけどね~」
上空から間延びした声が聞こえたと思ったら、後方の桃香と村人達の側へ降り立った。
「! 何者だ!」
愛紗が武器を男に構える。
「いやいやいや…折角助けてやったのにそれは無いんじゃないの?」
「ほえ?…じゃあさっきのっておじちゃんが?」
「そうだよ~…おれもこの黄色い奴をやっつけに来たってこと。分かったかい? お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんじゃなくて張飛なのだ!」
そんな会話をしていると、後ろから桃香が話しかけてきた。
「あの…それじゃあ私達を助けてくれるんですか?」
「お……あんた悩殺ビッグボインだね。今夜ヒマ?」
「話を聞いてください~!」
桃香が文句を言っているが、お構いなしに調子を崩さず賊へと歩いていく。
「まあ、市民を助けんのもおれの仕事だしね」
それを聞いた愛紗は一応信用して武器を下ろした。
「そうですか…先程はしt「詫びは後にしといた方が良いよ」…そうですね」
そう言って賊を見ると、全員の顔が怒りに満ちていた。
数も300はくだらない。
「流石にこの数…私達が相手をしますからあなたは援護をお願いします」
愛紗がそう言うも…
「いや……もっと効果的な戦法がある」
男はバッサリと愛紗の意見を切り捨てた。
「どんなの~?」
隣で、赤髪の幼女の張飛こと鈴々が聞いてくる。
「こうするのさ」
男は手ぶらで、賊へと歩いていく。
「ちょっ!…何を…!」
「あんた等はそこにいな」
愛紗の制止の声も聞かずに、立ち止まる。
「…てな訳で、時間も勿体ないからおれ一人でやるからよろしく」
その返答に、賊の中で体躯の大きい男が斧を持ってやって来た。
「てめぇ……俺達を嘗めてんのか?」
「まあそう言うなって。あんた等が降参してくれるなら命だけは見逃してやるよ」
更に巨漢の顔が真っ赤になる。
「誰が…!」
その怒りに任せ、怒鳴ろうとした時…男は巨漢の顔面を鷲掴みにしていた。
「それじゃあ………殺すぜ?」
男が静かに呟くのを賊は聞いた。
「炎に囲まれてる中、オブジェになるのも奇妙な話だねぇ…」
飄々と言いながら腕に力を入れる。
「アイス……タイム…」
男がそう呟くと、信じられないことが起きた。
なんと…巨漢の体が段々凍っていくからだ。
「あ……が…」
寒い…痛い…何だ?
一体何が……
そこで男の意識は切れた。否、正確には事切れた。
『……………』
その場の全員は、今起こった現象に言葉が出ない。
「ふん」
そんな沈黙の中、男は巨漢の凍った体を蹴り、粉々に破壊した。
「さて……次は…」
男がそう言って賊を見ると…
『うわあああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!』
一斉に賊が男に剣を突き刺した。
「いやああああああああああぁぁぁぁ!!!」
桃香はそれを見て悲鳴を上げる。
「はぁ…はぁ…」
賊は無我夢中で息を整える。
やった。
賊は心の中で安心しきっていた時、何者かが賊の一人の頭を掴んだ。
「っ!?」
「あらら…ひどいことするじゃな~い」
自分を掴んでいる腕の先からは剣に刺さっている筈の男がにやけていた。
「な…な…」
「おやすみ」
男がそう言った後、賊の男は一瞬で凍ってしまった。
『うわあああああああぁぁぁぁ!!』
すぐ近くで絶命したかも分からないが、剣を突き刺していた賊達は恐怖のあまり剣を慌てて抜いて離れる。
すると、刺されていた男は剣を抜かれた拍子の衝撃に粉々に砕かれ、ただの氷となってしまった。
しかし……
「んあああああぁぁぁ…」
気だるそうな声が聞こえたと思ったら、信じられない現象が起こった。
なんと、氷の破片が独りでに集まり、それが人の形を形成していくのだから。
その光景は、先程の砕けたシーンを逆再生しているかのようだった。
「…怖いのだ……」
「よ……妖術……なのか…?」
愛紗達は夢見心地でそんな浮世離れした光景をただ眺める。
そんな光景に賊は涙と鼻水で顔を濡らし、震えながら逃げる。
「うわああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
「化物おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
「助けてええええええええええぇぇぇぇ!!!」
剣を握るのも忘れて賊達は身を翻して逃げた。
仲間を押しのけ、転んでも這いつくばってにげようとする者もいた。
そんな光景を目の当たりにしながら男はメンドくさそうに手をゆっくり地面に置くと…
「アイスエイジ(氷河時代)」
何が起こったのか分からなかった。
桃香、愛紗、鈴々、村人は我が目を疑った。
そうなるのも無理はない。
今まで炎に包まれていた場所が白銀の世界に様変わりしていたのだから…
その光景はあまりに異質
あまりに幻想的
そんな中、桃香は不意に聞いた。
「あなたは……何者……ですか……?」
その問答に男は大して表情を変えず、答える。
「おれは海軍本部の大将青雉。助けてやったからなんか飯ちょうだい」
軽い感じで答えた男は新たに時代のピースの一部となった。
これが蜀の仁徳と大陸で噂の『氷点下の正義』との会合であった。