魔都東区・第五街路。
月明かりも届かぬ瘴気の籠もる区域で、巡回中の魔防隊員たちは異常を察知した。
醜鬼の死体が転がっていたのだ。それも、一体や二体ではない。少なくとも六体。
しかも、どれもが見慣れぬ方法で仕留められていた。
胴をへし折られた鬼。頭蓋を潰された鬼。胸に巨大な破孔をあけられた鬼。
その全てに共通していたのは――魔力の痕跡が一切ない、という点だった。
何者かが、“魔力を用いず”、醜鬼を殲滅した。
この報は、即座に魔防隊本部へと届けられることとなる。
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魔防隊本部地下・指令室
魔防隊が誇る最深部、地下第六階層。
高機密区域に位置する作戦指令室には、魔都の治安を司る各部隊の組長たちが集結していた。
中央には、事件現場を上空から捉えた映像と、隊員による現地調査資料が投影されている。
醜鬼の死骸、砕けた石畳、地に染み込んだ血、焦げた肉の残滓。
そして、複数の異様な痕跡。
打撃痕、骨折に内臓損傷――それは何らかの“棍棒”によるものであった。
さらに、土壁には何発もの“炸裂痕”が残されていた。火器。しかも、魔力反応なし。
誰かが、原始的な武器だけでこの区画を制圧したのだ。
その場に立つのは、魔防隊を統べる9名の組長たち。
• 十番組組長であり、総組長の山城 恋。
• 一番組の多々良 木乃実。
• 二番組の上運天 美羅。
• 三番組の月夜野 ベル。
• 五番組の蝦夷 夜雲。
• 六番組の出雲 天花。
• 七番組の羽前 京香。
• 八番組のワルワラ・ピリペンコ。
• 九番組の東 風舞希。
報告に立ったのは、七番組組長・羽前 京香。冷徹なまなざしでホロスクリーンを指差す。
「現場に残されていた武器痕跡と痕跡の密度から判断し、最低でも四名から五名の集団行動。
使われた武器は、魔術兵装ではなく“物理的棍棒”および“炸薬を用いた射撃兵器”と推定されます。
踏み跡からは、巨大な四足動物の存在も確認されており、行動様式は遊牧的です」
その言葉に、上運天 美羅が眉をひそめる。
「魔都にそんな勢力は存在しないはず。異能者でもない、組織犯罪者でもない、軍人でもない…何者?」
「今のところ正体は不明。交戦記録、目撃証言も皆無。痕跡から唯一分かるのは、“整った連携と集団戦術の存在”です」
その分析に、蝦夷 夜雲が嘲笑するように口を開いた。
「まさか、我々以外に“部隊”を編成している奴らがいるとはな。
敵か味方かもわからん。…いや、鬼を倒してる時点で多少は評価してやってもいいか」
「それは早計だ」
静かに言葉を挟んだのは、九番組・東 風舞希。
「行動記録を見る限り、彼らは明確な狩猟戦術を持っている。
鬼を排除すること自体が目的ではなく――それはあくまで“生存の手段”だった可能性が高い。
つまり、彼らにとって鬼は“獲物”。魔都のルールなど関係ない」
「ふむ…理性ある獣か」
出雲 天花が口を開いた。
その瞳は冷たく、同時に何かを見極めようとしていた。
「ならば、理屈は通じる。“対話の余地”はあるということだな」
月夜野 ベルが、不安そうに口を挟む。
「でも、そんな…言葉が通じるの?魔都の言語も、魔力も、使えないのに…」
「使えないからこそ、別の手段を取るしかない」
羽前 京香が断言した。
「現場には“調理痕”が残っていました。焼いた肉の骨、内臓を取り除いた解体痕、煙の残留香。
彼らは醜鬼を“狩り”、そして“食した”のです。
この行為は、単なる敵対行動とは異なる。――彼らの生活と文化に根ざした行為」
場が静まる。
そのとき、総組長・山城 恋が口を開いた。
「対話を試みろ。だが、必要とあらば排除して構わない。
魔都は混沌であっても、“制御不能な力”を内包する場ではない」
誰も反論はしなかった。
最後に、出雲 天花が一歩前に出た。
「彼らの言葉も思想も未知。ならば、私が理解しに行こう。
敵か味方かは…その目で見て判断する」
そしてその日。
魔防隊の命を受けた出雲 天花は、たった数名の精鋭を連れ、“異様な狩人たち”との接触に向かうこととなった――。