魔都の東区。瘴気に濁る空の下、古びた商業街の廃墟に、奇妙な騒めきが響いていた。
背丈よりも高い瓦礫の間を、無言で這う影があった。
その肌を覆うのは粗末な布地と獣皮。顔には金属製の口覆いと複眼ゴーグル。
彼らは、かつてタトゥイーンの灼熱の砂の中を生きていた民族――タスケン・レイダー。
だが今や彼らは、この魔都という異界において、再び“狩人”としての誇りを取り戻そうとしていた。
⸻
タスケン部族 狩猟分隊(第五狩猟円陣)
• エイコバ(Eikoba):部族内で最も優れた弓形射手。サイクラー・ライフルの扱いに長け、哨戒と狙撃を担当。
• ヴォーグ(Vogh):巨躯の戦士。ガダッフィ・スティックを自在に振るい、前衛殲滅を担う。
• サリッダ(Saridda):俊敏な女戦士。身軽で素早く、囮や側面奇襲に強みを持つ。
• トゥリュク(Tulyuk):斥候兼薬草師。敵の臭いを追い、地形の罠を仕掛けるのが得意。
• カイシン(Kaishin):若き見習い。アリフに憧れ、修練中の者。観察と補助が任務。
• バンサ:マウルガ:荷役用バンサ。部族とともに移動し、武器や食料を運搬。
⸻
狩猟開始
先陣を切るのはサリッダだった。
細身の身体を瓦礫の陰に溶かし、獣のように静かに移動する。
彼女の目が、遠くで這い回る醜鬼の斥候型を捕らえた。
サリッダは地面に膝をつき、手信号を送る。
トゥリュクがそれを受け、地に耳をつけて鬼の進行方向を確認した。
「アゥゥー……(獲物は一、北東に進行)」
彼は舌打ちのような短い音を立て、仲間に伝える。
この「舌音」と短い咽音は、タスケン語における戦時信号の一部だった。
上空の廃ビルに陣取っていたエイコバが、サイクラー・ライフルの照準を定める。
静かに引き金を絞ると、轟音と共に赤熱のスラッグが闇を裂いた。
醜鬼の頭が、音を聞くより早く弾け飛んだ。
「ググァッ――!」
醜鬼の断末魔に反応し、背後に潜んでいたもう一体が飛び出す。
ヴォーグがガダッフィ・スティックを両手で構え、真正面から踏み込みながら吠える。
「アゥゥォォッ!!(今ぞ、裂けよ!)」
棍棒が鬼の顎に直撃し、骨が砕け、地面に激突する。
だが、三体目の醜鬼が背後から迫る。それを迎え撃ったのは若きカイシン。
彼はスティックを横に振るが、力が足りず鬼の一撃を受けて吹き飛ばされる。
その瞬間、サリッダが横から飛び込み、跳躍して鬼の目に杭を突き刺した。
息を荒げながら、倒れたカイシンに手を差し出す。
「アゥ……カイシン、死ぬな(まだ早い)」
カイシンは小さくうなずき、立ち上がる。
初めての“血の洗礼”。タスケンの若者はこうして“戦士”になっていく。
⸻
獲物を解体する
三体の醜鬼を屠った後、タスケンたちは静かに勝者の儀式を始めた。
トゥリュクが皮を剥ぎ、エイコバが肉を切り分け、ヴォーグが骨を砕く。
無駄は一切出さない。タスケンにとって狩りとは“生存”そのもの。
バンサのマウルガの背に、血で染まった肉が乗せられていく。
やがて、周囲に焚き火が焚かれ、サリッダが干し肉と臓物の焼き始めを担う。
香ばしい肉の匂いが、廃墟の静寂を満たしていく。
誰もしゃべらない。ただ火の音と、遠くの風が通る音だけが響いた。
彼らはここが“敵地”であることを理解している。
魔力の匂い、空気の重さ、意味不明な廃材――
この世界は「神なき死地」。だがそれでも、彼らは生き延びる。
彼らには“アリフ”という導き手がいたからだ。
⸻
その頃、魔防隊――
衛星偵察によって、「第二の狩猟痕跡」が東区廃墟にて発見される。
三体の醜鬼、そして痕跡となった焚き火跡、異質な剥ぎ取り方。
羽前 京香の報告を受け、出雲 天花はつぶやく。
「……やはり、これは偶然ではない。戦術を持ち、生活の痕跡を持つ集団。
――狩人(ハンター)だ。生き残りを賭ける、戦う民族」
彼女は決意を込めて言った。
「交渉に向かう。彼らが我々に牙を剥く前に。あるいは――
彼らの牙を、“借りる”価値があるならば」