魔都・東区 廃墟帯 午後遅く
「異常は――」
「待て」
出雲 天花が指を立て、周囲の空気を読む。
その鋭い勘が、何か“地鳴り”のような不協を捉えた。
廃墟の間に吹き込む風。腐食した鉄骨の軋み。
その音に混じって――
ドンッ!
乾いた、だが重い銃声が空を裂いた。
魔防隊の通信兵が瞬時に反応し、音源の方向を指し示す。
「発砲音、方角は北北東約二百メートル。魔力反応なし――火器系と推定」
「火器?この魔都内で?」
天花の眉がぴくりと動く。
魔都内での銃声など、通常はあり得ない。醜鬼は火器を持たず、魔防隊員も通常は封印術式を使う。
「…行くわよ。慎重に」
⸻
銃声の現場へ
瓦礫と廃ビルの狭間を進む魔防隊の一行。
その目の前に広がったのは、崩れたビル群の間に設けられた野営地跡だった。
焦げた焚き火跡、粗く解体された醜鬼の死体、そして――
着弾跡。小口径ではなく、強力な火力で貫いた痕
「これは……スラッグか?」
隊員の一人が呟く。
魔都でそんな兵器を使う者など、知られていない。
「何者かがここで醜鬼を狩っていた。少なくとも三体。
戦い方からして、統率された集団のようね」
天花が目を細めた次の瞬間――
カシャン……
乾いた音が背後から響いた。
瞬時に全員が武装を構える。
廃ビルの屋上。そこには――
五体のタスケン・レイダーたちが姿を現していた。
先頭に立つのは、重厚な黒布と金属製の装甲に身を包んだ男――アリフ。
彼は、鋭く乾いた声を発した。
「ハァッ、ル=アズィム・ナサブ!(これは我らが土地!近づくな!)」
言葉の意味は通じずとも、その音の“力”は十分すぎるほど伝わった。
タスケンたちは武器を構えたまま、戦闘体勢には入らない。
明らかに警告の段階――だが、次はない。
天花は腕を広げて静かに降ろし、隊員たちに命じる。
「武器を収めて。ここで刺激すれば、交渉の芽すら失われる」
バランスを取りながら、彼女は一歩前へ出た。
「こちらは敵意はない。魔防隊、出雲 天花。情報収集と、必要であれば協力の意志がある」
アリフは沈黙したまま彼女を見据える。
その背後で、狙撃手エイコバがライフルをやや下げた。
サリッダが小声で囁く。
「アリフ、彼ら……我らを“獣”とは見ていない。警戒してはいるが、侮っていない」
アリフは、彼女の言葉に一度だけ頷く。
彼にとってこの土地は“征服すべき敵地”ではない。
**部族とバンサを生かすための、“新たな砂漠”**だった。
そして、敵とすべきか、共存すべきかは――
この瞬間の判断にかかっている。
彼は再び杖を地に打ちつける。
「カル=ヌク=トゥーン(汝ら、血を求めず)……」
その語尾に、天花は直感する。
敵意を示さなければ、こちらも討たない
数秒後――アリフはゆっくりと布袋から一枚の干し肉を取り出し、地面に置く。
それは、タスケンの世界における“交渉開始のしるし”だった。
天花はそれを見て、静かにうなずいた。
「……この土地に、新たな“理”が生まれるかもしれない」