魔都の戦士   作:赤部二郎

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出雲天花:静謐なる決意そして邂逅

会議室を出た出雲天花は、廊下を静かに歩いていた。彼女の足取りは軽やかでありながら、内に秘めた決意がその背中に表れている。六番組の組長として、彼女は常に冷静であり、感情を表に出すことは少ない。しかし、今回の会議で報告された未知の集団の存在は、彼女の興味を強く引きつけていた。

 

「異邦の者が、魔都内で醜鬼を討伐した……」その情報は、彼女の中で様々な可能性を想起させる。彼らは敵か、味方か。それとも、第三の勢力か。天花は、これまでの経験と知識を総動員して、最善の対応策を模索していた。

 

彼女は、自室に戻ると、机の上に置かれたフィナンシェを一つ手に取った。甘い香りが部屋に広がる。天花にとって、フィナンシェは思考を整理するためのスイッチのようなものだった。 

 

「彼らの目的は何か。我々にとって脅威となるのか、それとも……」天花は、フィナンシェを一口かじりながら、思考を巡らせる。彼女の頭の中では、様々なシナリオが描かれていた。

 

その時、通信端末が鳴った。天花は、端末を手に取り、画面を確認する。そこには、出雲天花宛ての緊急報告が表示されていた。

 

「東区にて、異邦の集団と接触。彼らは、我々の言葉を理解せず、独自の言語を使用している模様。しかし、敵意は示していない。現在、状況を監視中。」

 

天花は、報告を読み終えると、すぐに行動を開始した。彼女は、六番組の副組長である東八千穂に連絡を取り、状況の確認と対応策の検討を指示した。 

 

「八千穂、東区の状況を確認して。必要であれば、我々も現地に向かう準備を整えておいて。」

 

天花の指示に、八千穂は即座に応答した。「了解しました、組長。すぐに対応いたします。」

 

天花は、再びフィナンシェを手に取り、思考を続けた。彼女の中で、未知の集団との接触は、新たな可能性を秘めた出来事として位置づけられていた。それは、魔防隊にとっても、彼女自身にとっても、重要な転機となるかもしれない。 

 

「彼らとの接触は、慎重に進める必要がある。しかし、もし彼らが我々と共に戦う意志を持っているのなら……」天花は、静かに微笑んだ。

 

彼女の目には、未来への希望と決意が宿っていた。出雲天花は、六番組の組長として、そして一人の戦士として、未知の存在との接触に臨む準備を整えていた。

 

魔都・東区、朽ちた高層ビルが影を落とす灰色の瓦礫地帯。その一角に、六番組が展開していた。

 

出雲天花は先頭を歩き、周囲を警戒する部下たちに素早く指示を飛ばしていた。

 

「八千穂、サイドラインからの侵入経路を確認。後方支援班は三層交差地点で待機。」

 

「了解、組長。」

 

八千穂が応え、手勢を引き連れてビルの陰へと消える。天花の声はいつも通り静かだが、確実に緊張感が滲んでいる。昨日の夜、彼女が受け取った報告書――“人語を解さぬ謎の部族が魔都で醜鬼を討伐した”という内容は、真実であれば極めて重大だった。

 

(警戒は怠れない。けれど……)

 

天花はそっと、思考の奥で生じた“期待”を押し込めた。

 

その時だった。廃墟の奥、風の切れるような音が響き、次いで――銃声。

 

パンッ――ッ! パンッ――!!

 

火薬の炸裂音。魔都ではほとんど聞かれない「火器」の響きに、部隊が即座に反応する。

 

「出たな……! あの音!」

 

「組長、前方80メートルに人影多数!」

 

天花はすぐさま視線を走らせた。見えたのは、褐色の布を纏い、砂色のマスクとゴーグルで顔を隠した異形の集団。そして、手にした武器――あれは「棍棒」?いや、明らかに近接戦闘用の鋭利な鉄製のもの。そして、肩越しに担いでいたのは――

(銃火器……!)

 

天花は静かに右手を上げ、部隊に制止を命じた。

 

「下がれ、撃つな。」

 

兵たちは即座に従い、慎重に距離をとった。

 

相手も同様だった。

 

――いや、彼らはすでにこちらに気づいていた。褐色の長衣に身を包んだ“族長”らしき男が、ゆっくりと一歩前へ出る。そして、彼の口から、甲高く、喉を震わせるような声が放たれる。

 

「ハァッ、ル=アズィム・ナサブ! (これは我らが土地!近づくな!)」

 

天花の眉が一瞬、ぴくりと動いた。意味は不明――だが、その声音には確かに警告と誇りが含まれていた。

 

(彼らは……警戒しているだけ。こちらが攻撃しない限り、敵ではない……)

 

「通訳は無理ね。非標準言語どころか、人類の発声器官と違うのかも……」

 

天花は一歩、前へ出た。背筋を伸ばし、堂々たる姿で静かに、だがはっきりと名乗る。

 

「私は魔防隊六番組、組長・出雲天花。あなた達に敵意はない。」

 

当然、言葉は通じない。だが、ジェスチャーを交え、胸に手を当てることで「自分が誰で、敵意がない」ことを示す。

 

それを見て、タスケン・レイダーの族長――アリフは、仲間たちに合図を送った。背後の戦士たちが武器を下ろす。

 

次の瞬間、背後のバンサの背に乗った少年――部族の中で“若い”者――が、何かの皮袋を手に近づいてきた。そして、袋の中からは干し肉らしきものが取り出され、地面に置かれる。

 

(贈り物……これは、儀式か交渉の合図……?)

 

天花もそれに倣い、懐から自身の大切にしている――小さなフィナンシェの包みを取り出し、そっと相手の差し出した干し肉の隣に置いた。

 

異なる文化、言語、種別。それでも、**“敵意なき者同士の初対面”**には、ある種の共通する形があった。

 

「悪くない始まりね……」

 

出雲天花は微笑む――ごく、わずかに。

 

その瞬間、背後で誰かが呟いた。

 

「天花様、笑ってます……!」

 

「シッ! 見たこと忘れろ!」

 

部下の慌てる声が聞こえる中、天花は視線を逸らさず、真正面のアリフを見据えた。

 

(この出会いは、魔都の歴史を変えるかもしれない。)

 

(そして私は、変化を恐れない。)

 

アリフが短く、砂嵐のような言葉を唱えると、背後の者たちも一斉に胸に手を当て、沈黙する。

 

出雲天花も、それに倣った。

 

やがて、天花の背後で準備していた観測班が小さな端末に言った。

 

「記録完了。初接触は成功……と、判断してよさそうです。」

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