勝つな!目立つな!俺の仕事を増やすな!   作:シリアルナンバー

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株で負けたので初投稿です。


勝つな!目立つな!俺の仕事を増やすな!

 心の奥底から仕事というものが嫌いだった。金と栄誉に目をくらまして自身の肉体と精神をすり減らすのがあまりにも馬鹿馬鹿しく思えて仕方が無かった。

 

 でも一方で、金と栄誉が欲しくなかったわけではない。俺、スロウ=ダーラントが嫌悪していたのは精神と肉体をすり減らすこと。成人してから引退するまでの長い時間を、苦しみながら過ごすことであった。

 

 幸いにもこのルード大陸では国家間の戦争は無く、ドラゴンやクラーケンの被害も少ない。飢饉も少なく教会と騎士団の関係も比較的良好。そして幸いにも、俺はデスタ王国の伯爵家三男として生まれてきた。

 

 幾ら伯爵家といえども完全な無職を家に置くわけにはいかない。貴族としての面目がある以上、家の恥になるのは許されない。しかし伯爵家としての立場を上手く使って、仕事が少ない職業につき、貯金や立場の心配をせず寝ながら日々を過ごすことはできるはずだ。そう思って俺はデスタ王立騎士学院の専任講師という微妙な職業に就いた。

 

 デスタ王立騎士学院の専任講師は個別指導を担当する。生徒たちを個別に支援し、試験などで実績を出させ、騎士団や特殊部隊などへの士官への足掛かりを作る。

 

 故に、優秀な生徒を受け持つ専任講師はとても大変だ。各騎士団のスカウトを捌きつつ、じゃじゃ馬としか言いようのない実力と高慢さを兼ね備えた子供を管理し、結果を出す必要がある。一方。

 

 

()()()()()()()()()』『()()()()()()()』だけであれば、仕事は極めて少ない。

 

 

 努力するのはあくまで生徒、こちらは専任講師として最低限の仕事をしていればいい。生徒からしても、見込みがない自分が他に受け持ってくれる専任講師なんていないことを分かっている。結果として俺の望んだ楽ちんな生活が待っているはずだった。

 

 

 そう、『はずだった』のだ。

 

 

 

 

 

「なんだあの生徒、うちの騎士団のスカウトは何故ノーマークだったんだ……!?」

 

 真昼間、太陽の光が降り注ぐ下で二人の少女が向かい合う。一人は金髪の髪をロールに巻いた高慢そうな少女。背後から無数の氷の欠片を飛ばし、対戦相手を倒さんとしていた。

 

 だが対する桃色の髪の少女はまるでそれらが事前に分かっているかのように、姿勢を低くして躱していく。両者の魔力量の差は明白、金髪の少女の方が遥かに上回っている。しかし体さばきと先読みだけで攻撃の大半を躱していくことで桃色の髪の少女はその差を詰めていく。

 

 スタジアム上での実技試験を見学するべく、多くの生徒や講師たちは観覧席に集まっていた。初めの目的は学年一位の実力を見に来たり、あるいは騎士団のスカウトの顔ぶれを見に来たり、あるいは単に興味本位で来たりとそんなものであった。だが今現在、皆一様に桃色の髪の少女が以前とは余りにも異なっていることに驚愕していた。

 

「3か月前はどの実技試験も赤点の落第生徒だっただろう、一体彼女に何があった!?」

「えっと、資料によるとそのタイミングでスロウ=ダーラント専任講師に受け持ってもらっていますね」

「ほう、ダーラント家の三男か……」

 

 周囲の視線がちらちらとこちらに集まってくるのを感じる。そう、壇上で戦っている生徒はまぎれもなく俺の教え子。3カ月前までこういった校内の公開実技試験でも赤点が続き、それこそ退学すら危ぶまれた生徒である。それが今や学年でも上位に入る生徒と互角にやりあっている。

 

 俺はそれを見て、心の底から焦った。

 

 

(え、なんで勝てるの? 俺今朝の飲み水に下剤混ぜたよね!? どうしてそんなに動きいいの!?)

「遂に距離を詰めきったぞ!」

「どんな指導をすればここまでの変化が起きるんだ!?」

「やばいぞ勝っちまうぞドベ女が!」

(負けろ負けろ負けろ!)

「試合後すぐにスカウトしに行くぞ! あと専任講師にも必ず声をかけろ、これだけ優秀なら『次』もある!」

(勝つな! 目立つな! 俺の仕事を増やすな!)

 

 彼らが過剰に俺をほめそやすのはおかしい……わけではない。そもそも魔術や剣術において才能はとても大きなウエイトを占める。ましてやこの短期間の成長、原因を考えれば俺しかいないようにしか、周囲からは見えないだろう。だが。

 

(何もやってないんだって! 適当言ってたらいつの間にかすさまじく成長しちゃっただけなんだよ! 頼むから勘違いを引き起こさないでくれ!)

 

 だが俺の祈りも虚しく、壇上で桃色の髪の少女は勝利する。拍手の中で彼女はスタジアムから降りて真っすぐ俺の方に向かってくる。そして彼女は満面の笑みを浮かべて俺の胸元に飛び込んできた。

 

「うわっ!」

「全部スロウ先生の指導のおかげです! ありがとうございます!」

 

 どん、とかかってくる体重を受け止めつつ、俺は周囲を見て絶望した。まあ賞賛は嫌いではない。それが勘違いから来るものだとしても、他人から来るポジティブな感情は良いものだ。だが。

 

「やはり指導の力か……」

「ダーラント先生をうちのグループに勧誘できないか……」

「まずはあの娘にスカウトを……」

 

 仕事は別だ。心の奥底から嫌いだ。俺は抱きしめてくる少女を優しく宥めながら絶望する。どうしてだ。仕事をしないために彼女を受け持ち、適当に指導しただけなのに。どうして仕事が逆に増えてしまうんだ。

 

 

 これは俺の意思が空回りし続ける物語。仕事から逃げようと適当をすればするほど成果をだし、さらに仕事を抱えてしまう怠惰な男。数多の次世代の英雄を生み出した偉大な賢者、として後世に語り継がれることとなるデスタ騎士学院専任講師スロウ=ダーラントによる喜劇である。

 

 

(どうしてこうなった──!)

 

 




一発ネタ……ではなく続きます。勘違いものっていいよね。
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