勝つな!目立つな!俺の仕事を増やすな! 作:シリアルナンバー
『あなたの仕事運は最悪です。これから生涯、仕事におけるありとあらゆる取り組みは裏目に出てしまうでしょう。給料泥棒の夢がかなうことは金輪際ありません』
「魔術的な占いは当たるから怖いんだよな。まあ気にしても仕方ない、今日も今日とてサボりますか、と」
昨日受けた占いの言葉を思い出しながらデスタ王立騎士学院中央棟を俺、スロウ=ダーラントは一人歩く。デスタ王立騎士学院は国家の威信をかけて設立された騎士を育成する学園である。
故に白い柱と壁は汚れを知らぬかのように美しく、天井には豪奢ではないが品のある装飾が張り巡らされている。一方、それらの美しさに反して廊下の少し先では少年少女が苦しそうに汗を流していた。
騎士になるために、努力しているのだ。
「1、2、1,2!」
「『氷弾』!」
「おーやってるなぁ。元気なこった」
騎士。それは国家を守護する精鋭たち。魔術と武術を巧みに使いこなし、一騎当千の実力を誇る。魔獣の討伐、国外との小競り合い、犯罪者の処罰などありとあらゆる武力を行使する部分を担う、正にエリートである。
だから騎士になるためには様々な能力を要求される。魔術、武術、学力。全てが高水準でなければその仕事は務まらない。故に国家は騎士を育成するこのデスタ王立騎士学院を設立したのである。
そしてひとたび騎士になれば生涯は安泰。末端の騎士ですらその給金は下手な貴族の収入を上回る。さらに騎士というだけで様々なところで厚遇を受けることができ、引退後も是非うちの領地に来てくれという声は後を絶たない。金も権力も手に入れ時には家を興すことすらできるが故に、生徒たちは必死に今という時間を訓練に費やしていた。
だけど。
「必死に訓練して狭き門をくぐり、その先は激務の騎士団での仕事。やってられねえよ」
そう、俺の好みでは無かった。廊下に設置された鏡を見る。中肉中背、やる気のない瞳に寝ぐせの付いた黒髪、少し気崩した専任講師としての制服、曲がったネクタイ。今訓練場で必死に努力している彼らとはまるで逆だ。
俺に気付いた生徒の一人が気安く声をかけてくる。俺が今お世話になっている専任講師の教え子であり、名はキャリー=アーバス。紫のセミロングに高い背が特徴のの騎士候補生だ。専任講師と騎士候補生という間ではあるが、一方で同じ侯爵家で領地も近く、俺のこの性格もあり気軽に会話をする仲である。
「あ、ダーラント専任講師。今日もやる気無さそうですね」
とはいってもこれは気軽過ぎる気がするが。俺はため息を吐いてその言葉を訂正する。
「失礼なこと言うんじゃねえ、未来永劫やる気はねえよ」
「そっちなんですね……」
そう、俺は仕事が心の奥底から嫌いだ。金や栄誉が嫌いなわけではない。仕事を真面目にする人々により社会が良く回っていることをよく知っている。農民のおっちゃんとか神だからな。あの人らが天候とかいうクソ要素を上手く捌いて食料を作ってくれるからこそ俺達は飢えずに済んでるのは重々承知である。
が、俺の親であるダーラント侯爵現当主がストレスをため込み派閥闘争やら何やらに頭を悩ませながら、増えていく宝物に喜ぶ姿は子供心からして馬鹿にしか見えなかったのだ。高々光り輝いている金属に、高々絵の具の塊にそこまでの労力をかける必要があるのだろうか。
そんな子供時代の経験もあってか、俺のやる気はゼロ。とはいっても仕事をしなければ生きていけない。もし引き籠りなんてしてしまえば家の恥晒し、どんな目に合うかわかったものではない。
そんなわけでデスタ王立騎士学院の専任講師という職に就いたというわけであった。
「で、ダーラント専任講師はそろそろ生徒を受け持つんですかー?」
キャリーはいたずらっぽく笑う。視線を逸らした先には訓練をする騎士候補生たちと、そして年齢が上で俺と同じ制服を着た人物が、それぞれ個別に動きを見て指導をしている。
魔術や武術は個人差が大きい。同じようにやれば同じように上手く行くというものではない以上、通常の集団授業の方式では伸びるはずだったのに伸びない生徒が出てきてしまう。そこでここではなんと生徒に対して個別指導をする先生、すなわち専任講師を大量に雇っているというわけだった。
つまり専任講師である以上、本来は生徒を受け持たなければならないのだが。
「受け持たねえよ。バンガルド先生の補佐をしばらくします」
「ずっとの間違いでしょ」
「『専任講師としての仕事の仕方を学びます!」と言っておけば受け持ち生徒無しの暇な仕事でもOK、気楽なもんだぜ」
専任講師は受け持つ生徒の質と数で仕事が決まる。まあ個別指導なんだからそりゃそうなのだが。だがサポートという名目で事務処理だけ手伝ってあとは見学、そんなやり方でここ数年は逃げ延びていた。ほら、鍛冶職人は見てるだけの見習い期間とかあるじゃん。あんな感じ。問題はその待遇から俺が脱する気が欠片もないということだが。
「サイテー、そのうち報いが来るよー」
それじゃ、と言いながら訓練に彼女は戻っていく。何が報いだ、と笑う。こう見えても俺はある程度の能力を持っている。勉強も武術も魔術もそれなり。
上手く捌いてのらりくらりと生きていける、そう思っていた。だからこそ、バンガルド専任講師の言葉に俺は絶句するのであった。
◇◇◇◇
「スロウ君!!! そろそろ君も生徒を受け持ってみるべきだろう!!!」
……本当に嫌だなぁ。
スロウ君のダラダラ人生終了のお知らせ。