アベンジカースという存在
時は2045年。かつて人気だった競馬は、データの乱数により生み出されるウマたちによる、「サイバーケイバ」に人気を取られ、実際に生きている馬による競馬は衰退しきっていた。そして、その結果採算が取れなくなってしまった牧場などでは馬の処分が行われていた。
そんな中でも、その処分を免れた馬なども存在する。そのうちの一頭に、アベンジカーズという馬が存在した。オーナーの苗字は阿倍というある大企業の社長で、この時流に逆行するように馬を買った男であった。その男が、尊敬する祖父である和彦(カズヒコ)から名をとり「阿倍んちのカズ」、すなわちアベンチカズをよさげな名前にいじくりまわした結果がこの名である。
何代も血統を遡れどそこに歴史に名を遺した名馬は存在せず。真の零細血統であったはずの彼が、あらゆる重賞を取りつくした。怪我はなく、芝もダートも、短距離も長距離も、国内も世界も……あらゆる賞をコレクトした化け物の誕生である。そんな彼だが、種牡馬となってから6年。安らかに眠った。死ぬにはまだ早かったが、何かに魂を持っていかれたように静かにこの世を去ったという。
その男の原初の記憶は、無の空間にたたずんでいたところからであった。
『まだ走りたかったのに……』
『いやだ! まだ死にたくない!』
――オマエラも、馬なのか?
『頼む。私がいたという記憶を残していってほしい』
『足りない……もっと、勝利を……!』
――オマエラ、宝塚記念の……。
その空間にあったのは、幾千もの馬たちの最期の叫び。死に際に残した、呪いであった。
『子供も、残せてないんだぞ!』
その声を聴いた瞬間、男はその存在たちの視線がこちらに向いた感覚を覚えた。
『『『『『『コノ未練、オマエにタ苦ス!』』』』』』
「……本当に、イヤな呪いを遺してくれたもんだナ」
その男が目を覚ました。
「俺の名は阿倍和彦。ウマソウルの名はアベンジカース。競走馬アベンジカーズの魂が幾千の馬の魂により呪われた結果として呪い(カース)に変化したソウル。種族は人間、だがウマソウルの活性化により擬似的にウマ娘に近づくことができる。……よし、自認は持っていかれてないな」
男――和彦は毎日のルーティンを終わらせた。その男は出自故に、こういった自己の確認をたまに行わなければ不要なあのまつろわぬ魂の記憶に元の記憶が追い出されることもあるのだ。
「今日からトレセン学園で働く、と。……今更になって緊張してきたな」
『Spitfire!!!!!!』
和彦はそう言いながら朝食を胃に流し込み、出勤していく。道中でイヤホンに流すのは、ユーロビート。あの世界でオーナーが好む曲調であった。
(今思えばほんとに阿倍さんって曲の好みが古かったんだな……俺もまあ好きではあるが)
そうして初出勤、同期との顔合わせを済ませ、さまざまな仕事内容の説明を受ける。そうして初日は忙しく過ぎ、日は沈んだ。その時男は何かいやな予感がして、模擬レースなどが行われるターフへと向かった。
「この感覚……。またいやがるな」
そこには案の定、呪いの気配。
「なるほど……オマエラ、レースがしたりねえウマ娘どもの残留思念ってところか。分かった」
和彦は観客席の適当なところにスーツを放り、ジャージに身を包み、ターフへと乗り込んだ。その片手には、スマートフォンのメディアプレイヤー。
そして彼女らの横にたち、和彦が心を落ち着かせる。すると残留思念たちは男の頭にウマの耳を、腰のあたりにウマの尾を幻視した。
「コイツで合図を出す。準備はいいな?
プッ、プッ、パー!
サーキット場でなるようなカウントダウンの後、そこにいるウマたちは駆け出した。
「なるほど、確かにそこそこ強いな……まあいい。せめて安らかに次を迎えられることを願うよ」
レースの内容は、特に打ち合わせたものはなかったので、距離はまちまちであった。はじめに1800m地点で消える思念もあれば、3000m走らなければ消えない思念もあった。だが、ウマソウルを活性化させた和彦はどの思念よりも速く、長く駆けたのだ。そして、ターフに残ったのは和彦のみ。流れ込んでくる未練たちに頭を痛めながら先ほど放り投げたスーツの下へと向かう。
「……あれは、双子?」
観客席に戻ると、スーツのそばにとても似ている二人のウマ娘が近くに座っていた。
『おいカフェ、戻ってきたぞ!』
「……あなた、一体何者なんですか?」
美しい長い黒髪と金の眼を持つ片割れは、警戒を隠さず和彦に話しかけた。
「何者って言われてもな……いやあ、新学期からこんな時間まで残ってる生徒がいたとは思わなかったな。怪しい者じゃない。そこのスーツにトレーナーバッジがついてるだろ?」
『そういうこと聞いてるわけじゃねえンだけどな……』
近くまで来て、男は片方の姿はよく見かける思念のようで、何か違う存在であることに気が付いた。
「お前も俺のところに来るか? 思念体」
『まだ早いぜ。っていうか、オマエあたしが見えるのか』
「ああ。というか、そこでレースしてるの見てたなら気づくだろ?」
「この人……私はお友だちと呼んでますが、あなたが近づくたび必死で気配を隠そうとしていました」
「そうか。残念でした。君が気配を消そうが、俺がここにいて、お友だち?がそこにいる以上、俺の認知から逃れられないんだ。そう出来てる」
和彦がそう伝えると、やはり二人は怪訝な顔をした。
「そっちの確実に生きている君の方に質問なんだが、君はウマソウルって信じるタイプ?」
「私はマンハッタンカフェです。ウマソウルについてはもちろん。幽霊などといったいわゆるオカルトについては存在を知ってますから」
そう言った生徒――マンハッタンカフェにうなずいて和彦はつづけた。
「それなら話は早いや。俺の名は阿倍和彦。受けたウマソウルの名はアベンジカース。基本はアベンジカーズという馬の魂で、そこに幾千の馬たちの未練が集まって生まれた存在だ」
「……今、なんと」
『ああ、道理で! お前の体から何か知らんが嫌なのに逃げたくないモノを感じる!』
「今伝えた性質から、俺はウマソウルが認識できるし、その未練をついでに持っていくことができる。さっきレースしてたのは魂じゃないけど残留思念を鎮めるため。……これで疑いは晴れたか?」
「……言っていることの理解はできます」
「よし、ならこの場はお開きってことで。もうちょっとで門限に近いんじゃないか?」
「あなたの言う通りです。よからぬことをする気配もなさそうなので、これで失礼します」
『じゃあな和彦!』
一礼するカフェと手を振るお友だちと別れ、家路につく。
「ちょっと今日は濃すぎたな……。ああ待て、オマエの出番はまだだから落ち着いてくれネオステラヴィータ。くそ、今日も峠通いか……!」
登場人物
阿倍和彦(アベンジカース(アベンジカーズ))
イメージ的にはFGOの幻霊サーヴァントみたいな存在。種を残せなかった牡馬の強い未練によりウマ娘化しなかったヤベー戦績のやつ。元馬の時代ではユーロビートを聞くとステップを踏みリズムに乗っていた。あらゆる戦績を奪っていったために、当時の二つ名は「復讐の怪盗」。
マンハッタンカフェ
おなじみ幽霊退治の専門家(ダーマにあらず)。妙に幽霊がざわめいていたので様子を見に来るとヤベー男がヤベー走りをしていたので大混乱。その後聞いた真実にほとんどキャパオーバーしている。
お友だち
SSなのかもしれないし、そうでないかもしれない存在。自我はしっかりしているので、ほぼ問答無用で取り込もうとする主人公に嫌気はさしているが、存在の性質が浄化(プラス)であることは気づいているのでその差に酔いかけている。
ネオステラヴィータ
ChatGPTに架空の馬を生成させたら生まれた、12戦8勝(GI4勝)のヤベー牡馬。一応生まれ的にはアベンジカーズの2つ先輩。
この小説は、何かの未練を背負った人がいずれ救われる展開が見たいとなった作者がちょうどはまっているウマ娘と悪魔合体しようとして出来上がっています。なのでこの先の展開は思いついてもいないので、続きは気長に待つかあきらめてください(ハイパー無慈悲)
別に誰か勝手に続きを書いてもいいのよ?