おかしい、こんなにトレーナー同士の会話なんて入れるはずがなかったのに……!
あと普通に書きなぐってるので誤字報告ありがとうございます。
あれから数日、選抜レースにて、マンハッタンカフェの姿を見かけた。様子を見守っていると、惜しくも2着に落ち着いたが、数人のトレーナーにスカウトされているのが見えた。
(あれは凄いな。まあ、先輩方には頑張ってもらおう)
和彦はそう心の中で思ったが、そう簡単にはうまくいかないことも理解していた。見える者と、見えない者の差はかなり大きい。それに、あの時の会話を思い返せば、特にあのお友だちとやらの情報を秘密にしているわけでもなさそうであった。それならば、そのギャップはすぐに現実として襲い掛かる。
そう思った通り、マンハッタンカフェはトレーナー契約をその誰とも結ぶことはなかった。それを和彦が知ったのは、その日の夜である。
「……あれは、マンハッタンカフェか?」
夜は、霊たちにとって相性の良い時間帯で、和彦にとってもそれは同じことであったので、彼は夜行性となっている。そのため夜の散歩に繰り出していたのだが、再びグラウンドにマンハッタンカフェの姿を見つけたのだ。この時間にトレーナーもつけずに走っていることに違和感を覚えた和彦が、トレーナー専用のホームページで契約下にあるかを調べると、そこには未契約の文字があったのだ。
(お友だちと併走している……?)
スマホから視線をあげた和彦はその光景を見て、驚いた。お友だちがマンハッタンカフェに5バ身差をつけた状態で併走していたからだ。
「よく似てはいるけど、やはり全く異なる存在か……」
併走相手に苦労しないというのは羨ましいな、と思いつつその日はその場を去った。
翌日の昼時。和彦が学園を歩いていると、知り合いの同期がなぜか発光していた。
「……?」
「おいおいおい和彦! そのまま通り過ぎていくな! せめてなんかこう、反応があるだろ!?」
「やかましいな。俺は蛍みたいに光りだす同期は知らんぞ」
「同期って言ってるならちゃんと判別がついてるじゃねーか! 俺だよ俺、坂田祐介!」
「そう分かってるなら少しくらい静かにしろ。俺も遠巻きに見られてるんだ」
目の前の同期の男……祐介は大学からの知り合いで、ムードメーカー的存在であった。だが、さすがに演出まで始めるとは思わなかった。
「なんでそんなことに? 心霊現象とか?」
「そっちの感知は和彦の方ができるはずだろ?……薬だよ、薬」
「オーケイ、ついにお前も国家権力の世話になるときが来たようだ。インタビューにはちゃんと、『いつかやると思ってました』と伝えてやるさ」
そして和彦はズボンのポケットからスマホを取り出し、緊急通報の画面を見せた。
「そういうブツじゃねーの! ここの学園の生徒の作った薬だよ。ほら、アグネスタキオンって名前くらいは聞いたことがあるんじゃねえか?」
「……ああ」
祐介の言葉に、和彦は先輩から聞いた生徒の中のレッドリスト該当者にそんな名前があったことを思い出した。ちなみに他には、神出鬼没のゴールドシップ、コース不正利用のシリウスシンボリなどがいる。
「タキオンが作った薬を飲んだらこうなっちゃったのよ」
「タキオン……って、また親密な呼び名だな。ということは、契約か?」
「その通り! 薬を飲むことを契約条件にトレーナーにしてもらったってわけ」
和彦が前世という経験から普通より少しズレているのなら、祐介はナチュラルにイカレている節があった。
「これから薬の効果の検証に入るから、タキオンと待ち合わせてるんだけど……」
「よし見つけたぞモルモット君! さあさあ早速実験と行こうじゃないか!」
祐介の話の途中、超高速でこちらに接近してる誰かがいると思えば、それは彼の担当であるアグネスタキオンその人であった。祐介は言葉を続けることなく拉致されていった。
「あああぁぁぁぁぁ……和彦、昼飯は頼んだぞ……!!!」
ドップラー効果の聞いた叫びをあげながら祐介はその場から去った。
「……レスト、イン、ピース」
和彦もそう呟いてその場を去った。直後、勝手に殺すなという思念を受けたが気にしないことにした。
後で祐介から和彦にLANEが届き、和彦はいまそこに記された場所へと向かっていた。
「旧理科実験室ねえ。またベタな怪談にありそうな場所が残ってるもんだな。……っと、ここか」
目的の部屋に到達した和彦は、扉をノックした。
「祐介、いるか?」
「いるから速く入ってきてくれ。おなかが空いてるんだ」
祐介の言う事を半分聞き流し、和彦は部屋の中へと入った。入ってすぐに目にしたのは、ケミカルな見た目の空間だ。そこにあるソファに祐介と先ほど見かけたアグネスタキオンが座っていた。
「よしよく来た親友! さあ、早く俺の昼飯を出してくれ!」
「ああ、持ってきたぞ、プロテイン」
和彦は持っているレジ袋からSAV〇Sと書かれた商品を出し、ソファ前にある机に置いた。
「おま、それ今日はいらねえって言ったプロテインじゃねえか! しかもパックの奴じゃなくて溶かして飲むタイプの方だし! なんでわざわざそっちを買ってきたんだ!」
「冗談だ。こいつは俺用の物。お望みの物はお前の上着のポケットに入ってるぞ」
「……ツナマヨとカレーパンだな。くそ、またやられた……!」
こういったからかいは大学時代からたまに行っており、そのたびに祐介が翻弄されているので、いつか見破られることを和彦は期待していた。ちなみに、このときウマソウルは活性化していないため、純粋な手癖の問題であった。
「さて、それじゃ俺はそろそろ……そこかッ!」
和彦が部屋を出ようとすると、そこに飛び掛かる気配がしたのでローリングで避け、片膝をついた状態で襲撃者の方を見やる。
『なんだよ、バレたか』
「ずいぶんなご挨拶だな、お友だち」
そこにいたのはマンハッタンカフェのお友だちであった。
「どうした、和彦。急にフロムみてーなローリングしだして。あと、お友だちって言ったら……」
お友だちが見えていない祐介が和彦に言い、視線を和彦の方から逸らした。そして、和彦もその視線の方を見やる。すると、そこにはマンハッタンカフェの姿があった。
「すみません、怪我はありませんか?」
「マンハッタンカフェか。いや、何事もない。大丈夫だ」
和彦は立ち上がり、ズボンについた埃を払った。
「おや、まさか! 君がカフェの言っていた、お友だちとやらが見えるトレーナーか!」
するとそこまで静観を貫いていたアグネスタキオンが和彦に話しかけた。
「まあ、そうなるな」
「タキオンはさっき見かけたかもしれないけど、コイツは俺の同期。昔から霊感があったもんで、肝試しには引っ張りだこだったよな」
「……その話を蒸し返すな。祐介の同期、阿倍和彦だ、よろしく頼む」
「うむ、こちらこそよろしく頼むよ。君とは少しばかり長い付き合いになりそうだからねえ」
アグネスタキオンはそういうとマンハッタンカフェの方に視線を向けた。
「……どういうことだ?」
「まー俺らの知らない事情があるんだろ。というか、お前彼女と関わりあったんだな」
「まあ、少しな」
「彼女、コーヒーが趣味っぽいから、お前と気が合うんじゃないか?」
(コイツ情報収集が速いな……)
そう思いながら和彦がカフェの居た方を見ると、コーヒーミルなど、淹れるのに必要な一式が揃っていた。
(前言撤回、あれを見ればすぐわかる)
「ってか、お前昨日彼女の選抜レース見に行ってたじゃねーか。スカウトしねーの?」
「なんでそういうことを本人の前で言う……!!!」
和彦が考えている内に祐介が爆弾発言をした。
「ほうほう、カフェのレースをあなたも見ていたとは……彼女は魅力的に映らなかったのかな?」
「いや、それは決してないぞアグネスタキオン」
和彦はアグネスタキオンの言葉をすぐに否定した。
「彼女の脚も走りも素晴らしいものを感じさせるものだった。ある意味俺の理想といっても過言ではない。ただ、明確に見えなかったのが彼女の目標、あるいは夢だ。彼女のお友だちに関することではあるんだろうということだけは確信しているんだがね」
そこで和彦は一呼吸置いた。
「ある意味、そのお友だちという存在を確信できる俺は、他に何の情報も持たない他のトレーナーから見ればズルい立ち位置にあると言えるな? 故に、俺は時機を待っているんだ。例え見えずとも、存在を信じられるようなトレーナーがいれば、きっとその人の下で活躍できるだろうと思ったからね。俺の惚れた脚だ、輝けるのならよりよい環境の方が良いだろう? その上でしばらく待っても契約が結ばれなかったらその時は俺が契約を試みるつもりだった」
「……お前そのルルー〇ュみてーな口調似合わないな」
「やかましいチョウチンアンコウ!」
「蛍といい、光る動物列挙するのやめろ!」
空間にしばしの静寂が生まれたが、そこに祐介が空気を読まない発言をし、和彦はキレ、二人は取っ組み合いを始めた。
「あーあー、随分騒がしくなったねぇ」
アグネスタキオンはそう言いながら、しばらく口を開いていないマンハッタンカフェの方を見た。
「……」
(あ~、随分と顔が真っ赤になってしまっているねえ。いやまあ、あちらのトレーナーの発言は傍から聞いていても競技者としてはほぼプロポーズに近いから仕方はないんだが)
そうしている内に二人の取っ組み合いは祐介の敗北に終わり、自爆を受けたZ戦士の様相で床に倒れこんでいた。
「も、モルモット君――!?!?」
「ヤムチャしやがって……。まあ、随分と長く持つようにはなってるな」
何もなかったようにふるまう和彦に、まだ顔から赤が抜けないマンハッタンカフェが歩み寄った。
「あの……和彦さん」
そして数秒が経ち、マンハッタンカフェが再び口を開こうとしたとき、和彦が手で制止した。
「さすがに、この状況で言わせるほど落ちぶれちゃいないんだ。……マンハッタンカフェ、俺と、契約を結んでほしい」
「ッ! ……はい、よろしくお願いします、トレーナーさん……!」
――これからマンハッタンカフェ……カフェとの3年間が始まる!
育成ゲームならこういったウィンドウが出そうな雰囲気で、カフェと和彦は見つめあっていた。
「……気が付いたらあいつらイチャついてるんだけど、タキオンなんかした?」
「いや、何も……ただ、あの様子なら今日会わなくてもいずれ同じことになっていただろうねえ」
登場人物
阿倍和彦(カフェトレ)
大学でもいろいろやってたヤベーやつ。スポーツ系のサークルで祐介と出会う。ちなみに合宿などで肝試しなどが始まるとホンモノが寄ってくるので祐介の手でイベント出禁となった。カフェトレにはペルソナ5の主人公とか似合うよなとか昔考えていた作者のせいで、コーヒー好き、それにあうカレー作りが得意な男という特徴が生まれた。
マンハッタンカフェ
ついにトレーナーを見つけた。自分の脚にほれ込んでくれてたことも、その上で自分を思って少し待ってくれていたことを知り、我慢できなかった娘。
お友だち
カフェの理解者として最適とも言える存在がトレーナーになってうれしいご様子。たぶんこれからも襲撃は続ける。
坂田祐介(タキトレ)
初対面の相手が作った薬を普通に飲み始めるヤベーやつ。性格は善だが、関係が深まると遠慮がなくなってくる。和彦の作るコーヒーは好きで、缶コーヒーも飲むタイプだったが、タキオンに見られるとすね始めるので最近は午後の紅茶を買っている。
多分CV杉田。
アグネスタキオン
もはや説明不要のヤベーやつ。さすがに祐介が二つ返事で薬を飲んだ時は引いた。カフェからお友だちが見える人に出会ったと聞いた時にはついに精神を病んだかと心配していた。ぶっ飛んでるだけでいい子なんです、とは祐介談。