お前らも知ってる通り、壊された俺の脚がちゃんと治って数年経つだろ? それで、俺はもっかい趣味として走り始めたわけだ。まあ、ストレスたまった時とか、無心で走るの、楽しいだろ? そういうわけで、しばらく担当の決まらなかった俺は憂さ晴らしに近くの河川敷を走ってたんだが、そこでポッケのフリーレースを見たんだ。
『オラオラオラァァァーーッ!』
あん時はめちゃくちゃ痺れたよ。踏み込みも深いこと深いこと。正直あんな子を担当できるならどれだけ幸せだろう、と思った。それで、トレーナーのデータベースで写真を調べて名前がジャングルポケットだって知った。
まあその次の日、思ったより早くチャンスは来た。
『なァ、あんたトレーナーだろ? ちょっと俺の走り、見てくんね?』
一応ポッケ以外に目ぼしい子がいないか見に、練習場に行ったら、ポッケに絡まれてな。
『おう、いいぜ。見させてもらおうじゃないの』
『よし来た! んじゃあ、行くぜーっ!』
それから何度かそういった機会があって、3回目の時、だったかな?
『なぁ、アンタは俺がどこまでいけると思う?』
『また急だな。……んまあ、このまま頑張り続ければ間違いなくGIは取れるだろうな。お前はすげえよ、ジャングルポケット』
『へへ、やっぱり? っと、そうだ。何でこんな話になったかって言うと、コイツなんだ』
そういって彼女が見せてきたのは、ある模擬レースの出走表だった。
『多分あんたも知ってるだろうが、俺はコイツに勝ちてえんだ!』
それは、アグネスタキオンだった。
「なるほど、あのレースに彼女もいたのか!」
そう、祐介の言う、義理のための、ただ一回の選抜模擬レース。実はそこにジャングルポケットもいてな。まあ、結果はもう知ってるから言うまでもないだろうけど。
『なるほどな、アグネスタキオンに。……そうか! んじゃあ、俺も見に行くよ、そのレース』
『おっ、そおうか! なら、無様な走りは見せられねえな! 絶ってえ、勝つ!』
その日は両拳を突き合わせて言った彼女と別れて、模擬レースの日。まあ結構な差をつけられてジャングルポケットはアグネスタキオンに負けた。
そして次の日の夕方、もっかい河川敷に行ったら、走り続けるあいつを見かけたんで、スポドリ持ってったんだよ。
『頑張るのはいいけど、怪我したら全部パーだぜ?』
『あんた、今日も来てたのな。……負けちまったよ、俺』
『ああ、その場で見てたよ。……強いな、アグネスタキオン』
アイツは500ミリのペットボトル飲み干して、しみじみとそう言ってた。あと、その前の走ってる時も、アイツは常に、自分の先を行くアグネスタキオンの残像に負け続けてた。今江こそそれは超えたが、やっぱりまともなトレーニングの前にアレって、スゲーなアグネスタキオン。……それでアイツはこう続けた。
『だよな~~。……あいつ、デビューはもう決まったってよ』
『ああ、知ってる。どうも俺の友人が担当になったらしいからな。アイツの指導を受けたら、アグネスタキオンは今よりも、格段に能力をあげてくるだろな』
俺が祐介の事を言ったら、あいつ驚いてたぜ?
『え、まじ!? あのレースの後、誰がアイツのトレーナーになるんだろうと思ってたけど、アイツスカウト全部断ってたんだよ! それなのにいったい誰がと思ったけど、アンタの友人だったのか』
『LANEで連絡が来てたんでな。まあ、だけど、お前が勝てない相手じゃあないぜ、ジャングルポケット。俺が思うに……』
そうして俺はポッケの走りの改善方法とか、思いついたのは全部教えて走らせてみた。
『……っだぁーッ! こんな疲れたの、初めてかもしんねえ』
『おう、お疲れ様。クールダウンしとけ』
そしてちょっとした指導が終わってクールダウンの時、アイツが俺に聞いてきた。
『なあアンタ、前話に聞いたけど、担当決まってないんだっけ?』
『ああ、光る物を持ってるやつはいたんだけど、俺の求めるタイプの子じゃなかったんだ』
『へー、じゃあアンタのタイプって、どういうものなんだ?』
そう聞かれた俺は、迷わずに答えた。
『俺が欲しいのは、最強を目指す子。賞金がどうとか、そういうのじゃない。走りって世界で、一番速くてスゲーヤツを目指してる子を、俺は育てたい』
『ふーん、そっか! そうなのか!』
そこまで言ったらアイツはテンションをあげて答えたよ。
『なら、ここにいるぜ! アンタもよく知ってる、最強を目指すウマ娘!』
『……そうか。なら、ジャングルポケット、俺と一緒に、最強にならないか?』
『ああ、なるさ、アンタと一緒に!』
そういうわけで、契約締結ってなった。
「って感じだな、俺の場合は」
「また随分と運命的だな」
龍治が話し終えると、和彦が言った。
「まあ、アイツに言われずとも、時機を見てスカウトするつもりではあったんだ。レース以外の場所でも結構仲良くしてて、アイツの昔の仲間に紹介までされてたからな」
「……」
「って、祐介完全に出来上がっちまったな。んじゃ、俺らもこれ飲み終わったら出ようぜ」
「ああ、そうするか」
眠りこけている祐介を見て、和彦と龍治は今さっき来たのを最後の一杯とすることにした。
「それで、ジャングルポケットとはどういうところに言ったんだ?」
「なんつーか、好みは結構高校生の時の俺らに近かったな。たまり場っていう概念もそうだし、アイツネカフェのダーツとかに誘ってくるし、ご飯は結構な頻度でファミレス行ったし」
「担当でもないのに随分と進んでたんだな」
「その言い方やめろ、ちょっと俺もあれ?とは思ったんだから」
そうして、和彦が潰れた祐介を抱え、店を出た。
「いやー、今日も和彦はつぶせなかったか」
「そう簡単には負けないからな。酒も……レースも」
にやりとして和彦が龍治に言った。そして、龍治もそれに答えた。
「言ったな? こっちも負けるつもりはないが……。じゃあそうだな。マンハッタンカフェと戦う機会があるかはまだわからないけど……。この世代を、アグネスタキオン、マンハッタンカフェ、ジャングルポケットの三人で染めてやろうぜ?並べ替えたら……JAM世代とかいいんじゃないか?」
「カフェが最後にいるのがなんか気に食わないが……なら、俺らのその目論見は、さしずめJAMの誓いってところかな?」
「いいな! なんかこれからが楽しみになってきたわ!」
深夜の街に、男たちの笑い声が響いた。
「という感じの飲み会だったな」
翌日、土曜日。二度目の禊出かけから帰ってきた和彦とカフェがコーヒーを飲みながら、トレーナー室でその飲み会の事を話していた。
「なるほど、タキオンさんやポッケさんにもそういう事があったんですね」
ルブランコーヒーを堪能したカフェが穏やかな顔で言った。
「それに、JAMの誓い、というのも語呂はよさそうですね」
「三国志なら桃園の誓い、とかいうアレだな。まあ、その誓いも破りたくはないが、カフェの目的が最優先なのは変わりがないぞ? それについてはおそらく龍治も同じことを考えているだろうし」
「ええ、分かってますよ。トレーナーさんが私を蔑ろにすることは考えてませんから」
(……少し信頼が重い気もするが、しっかりとその信頼に応えねば……!)
坂本龍治(ポケトレ)
脚はちゃんと治って走れるようになっている。ポッケと運命的な出会いを果たしている。好きな漫画はジャンプ系、ただし単行本派。
ジャングルポケット
アグネスタキオンに脳を焼かれかけた子。おもしれートレーナーと出会った。こちらも好きな漫画はジャンプ系、だが本誌を買って友人たちと回し読みしているタイプ。
この小説、どの話がいつ更新されたかわからないと思うので、最新話を追いたい人はお気に入り登録するといいと思います!(ダイマ)