あと、途中の流れで分かりにくい箇所があるかもしれませんが、それに関しては三馬鹿がFREEDOMしたんだと思ってくれればいいです。
「さて、今回の調整はこれくらいでいいかな」
トレセン学園の一室で、綺羅は呟いた。彼が行っていたのは学園のパソコンに用いるOSであった。
戦前から存在しているトレセン学園は、トレーナー・教員側の電子化・パソコンの利用に関してかなり遅れており、綺羅たちが新人として勤め始めたころ、パソコン関係の調整が得意な人たちが結集して、トレセン学園の勤務のデジタル化を推し進めたのだ。
「そろそろ13時、ならトレーニングの準備をしないと」
そうして綺羅は学園の中を歩いていく。道中生徒会室の前を通ると、中で口論が起きていることに気が付く。
「またこの話か。君には何回も伝えているが、違反は違反。事情があるのも分かるが、彼女たちだけ罰なし、というわけにも行かないのだよ」
「お前たちが考えを変えるまで私は何度だって言ってやるさ! この杓子定規共め!」
なるほど、と綺羅は考える。口論をしているのは担当であるシンボリルドルフと、その親戚にあたるシリウスシンボリである。だが、そろそろレースも近づいており、ここらへんのトレーニングを崩すわけにもいかない。なら、一縷の望みをかけて中に入るしかない。
「失礼するよ、ルドルフ。……シリウスシンボリさんも、ごめんね」
「アンタは、会長のトレーナーか! ならこいつにも聞いてみようか」
「……まあ、君の好きなようにしてくれ」
口論に割って入ると、シリウスはやはり矛先を綺羅に向けた。
「一応聞くけど、今回はどういった内容なんだい?」
「まあ、かなり厳しい家庭の事情やら体調やらで、練習とか授業に参加できない生徒たちの違反を罰すると、それの代償で再び練習に参加できなくなるって話だ」
「シリウスの話は合っているけど、それを助けるためにシリウスが不当にレース場を占拠したりすることに苦情が届いているんだ」
綺羅は二人の話を聞いて、考える。
「確かに、シリウスの言う通り、そういった子たちを補助する制度があまりにもなさすぎるのは間違いないね。そこはそういった余裕を作れないトレーナーたち側の問題だ。けど、不当占拠だけはどうしても庇えない。僕たちは、そういったことを排除してきて今を迎えているからね」
綺羅の頭を過るのは、前理事長時代のトレセン学園であった。慣習的に存在したチーム制により、個人のトレーナーたちによるトレーニングが後回しにされたり、そのチームの中でも序列制を組まれ、低い序列にいる子たちが酷い扱いを受けることなどざらにあった。
無論善良なチーム運営を行うトレーナーもいたが、そういったチームは親がURAの理事だとかいう他の悪質なトレーナーのチームに潰されていき、チーム制やそこに居座る者たちによる絶対的な体制が生まれていたのだ。
そして、その体制の最後の一年で、綺羅たちがトレセン学園に来て、改革を始めたのだ。
無論担当のまだいないたかが新人トレーナーが声をあげたところで現状は何も変わりはしない。そのために、そういった悪事の証拠や旧URA理事たちの賄賂やらを前理事長に突きつけ、大規模なリストラを行わせたのだ。前理事長は、起きていることの情報集めに乏しいだけで、現状に満足していなかったために、この申し出を快諾。かくしてトレセン学園に存在した闇は、新人トレーナーのはたらきで葬られることとなったのだ。
今も存在するチームは、不祥事とは関係のなかったチーム……リギル、スピカ、カノープスの3つくらいである。
「はてさてどうしたものか……ちょうどいい機会だ。そのあたりの制度も進言しておこう」
「おいおい、皇帝サマのトレーナー、逃げる気か?」
「あんまりそういう物言いはよしてくれ、シリウスシンボリ。今までルドルフがそこまで動けないのは、彼女たちが動いたところでトレーナーたちがついてこれないからだ。だったら、まずはトレーナーとして、動けるようにする必要がある。だから、まず一週間僕に時間をくれ」
「……なるほど、その場しのぎってわけじゃあなさそうだ。だが、大人の世界なら、そういったお願いをするのなら、対価が必要だな?」
「シリウス、トレーナー君に何を!?」
「まあ、こちらが頼む前に、そちらが出せる条件を教えろ」
見定められている、と綺羅は感じた。確かに対処法を即時に提示できず、猶予をもらって「はいできませんでした」では意味がない。
「……なら、一週間以内に明確な成果が出なかったら。……俺のトレーナーバッジは君の物にしていいよ」
「何?」
シリウスは呆気にとられたように綺羅を見つめた。
「僕のトレーナー人生をこの一週間に賭けると言ったんだ。……正直これ以上の条件は思いつかないや」
「……クク、ハハハ! まさかそこまでの条件を出してくるとは思わなかった! 皇帝サマよ、あんたのトレーナー面白いな! ……いいぜ、乗った! アンタが成果を出せた暁にはあたしの進退を決める権利をやる!」
「トレーナー君! それにシリウスも!?」
ルドルフがこちらに迫る。
「まあこちらが賭けに勝てばいいだけの話だよ、ルドルフ。それじゃ、この場はお開きってことでいいかい、シリウスシンボリ」
「アンタの覚悟に免じて、この場はお預けだ! せいぜい一週間、頑張るんだな」
ニヤリと笑ってシリウスシンボリは生徒会室を去った。
「さ、とりあえず今日のトレーニングに入ろうか」
「そうはいっても……こんな話を目の前で聞いて冷静でいられると思うかい?」
怒った様子でルドルフは言う。
「まあまあ。折角ちゃんと勝てるように調整してきたんだから。それに、何の勝算もなしにこの話をしてるわけじゃないんだ」
「そうか。では聞かせてもらおうか、君の勝算とやらを」
「実は、シリウスシンボリが面倒を見ていると思われるウマ娘の中に、模擬レースでちゃんと一着を取るとかいう逸材がいるみたいでね。このままにしておくのは惜しいって意見も結構多いんだ。だから、動こうとすれば助力は割と得られる状態なんだ。それで、肝心の取る方策については……まあ、後のお楽しみってことにしておこうかな?」
「そこが大事なところなんじゃないか!」
「まあ何とかするから、安心してよ。ほら、トレーニング行くよ!」
「ああ、待ってくれトレーナー君!」
「というわけなんだ」
「何が、というわけなんだ、だ! また勝手に話を進めて……!」
ルドルフのトレーニングが終わった後、綺羅が真や藍に話を通すと、案の定というべきか、藍が声を荒げた。
「今回ばかりはアスランのいう事に同意しますけど……。いずれ通る道ではあったんですよね?」
「そうだね、真の言う通りだ。今回の件が無くても、年度が変わる頃には議題にあげるつもりだったんだ」
「……まあ、そういうことなら追及はここまでにしておくが。さっき言っていた方策というのを聞かせてもらおうか?」
不承不承といった藍に、綺羅は告げる。
「……トレーナーが受け持つ担当を、義務的に2人以上にする」
「そんな、綺羅さん本気ですか!?」
真が驚いてしまうのも無理はない。なぜならそれは、綺羅たちの行った改革の逆を行く行動であったからだ。
「うん。確かに僕たちは、数の暴力で追いやられる子たちを助けたくてあの現状を変えた。けど、あのチーム制っていう人数に救われていた子だっているはずなんだ。だから、誰かだけの大人数チームじゃない、少人数のユニット制を提案させてもらおうかなって」
「少人数の……」
「ユニット制、か。確かに、それを始めれば単純に考えても受け持てる担当は2倍以上になるな」
「その顔を見るに、案外悪い考えじゃないみたいだね」
綺羅は安堵のため息をついた。
「まあ、確かにいい案だとは思いますけど……ここまで聞いた限りじゃそれがシリウスシンボリとの賭けに対して良い手だとはあんまり思えませんね」
「これが今回の件が無くても実行しようとしてたこと。だけど、このユニット制を試すのに人員が必要だよね?」
真の言葉に綺羅が返すと、真は合点がいった。
「その人員に、件の子たちを割り当てようっていうんですか!」
「ああ、その通り。まあ、これに関しては、これを成功させるためにシリウスシンボリのところにいる子たちの適性だったり能力を図るのも目的になる」
「だがシリウスシンボリが、彼女たちが俺たちの試金石のような扱いを受けることを容認するとは思えないな」
「まあそこなんだよね。というわけで、そこが二人に助力を頼みたいところなんだ」
……続けて綺羅が言う事に、初めの段階である程度の適性を見抜き、それを得意とするトレーナーの下に配属することでケアを行いたいのだという。
「着手は早い方が良いんだろうけど、僕はちょっとルドルフのレースが近くてあんまり夜に顔を出せなさそうなんだ」
「それで言うなら、俺についても、ブライアンのレースも四日後で、少しかかりきりになりたいところだな」
綺羅と藍は渋い顔をする。
「エアはしばらくレースが無いので、彼女たちの様子は俺が見に行きますよ!」
「そうだね、真がそう言ってくれるなら、僕も心強い。それじゃ、任せてもいいかい?」
「任せてください、綺羅さん! その代わり、他の職員たちへの進言は二人に任せました!」
「それくらいのことはさせてくれ」
そうして、三人は各々動き出した。
大和綺羅(ルドトレ)
『何で言わない、頼まない』だった人。一人で突っ走る癖はあんまり治らないけど、何だかんだ誰かに後で頼めるくらいにはなった。このあとアスランとトレーナー達相手に立ち回るハメになった。
シンボリルドルフ
トレーナー君が突然トレーナー人生をかけ始めて気が気でない子。やっぱり出番は薄い。
明日沢藍(アスラン/ブラトレ)
事後報告ではあるけど、抱え込まないだけましだと思っている、綺羅に甘い人。真の能力を認めているからこの事案を任せたが、表立っては言えない負けず嫌い。
飛鳥真(たわけ)
綺羅さんが頼んでくれた! と気力がたぶん120くらいになっている子犬。この後場面によっては無双する。