気が向いた時にでも押してあげて下さい、作者が泣いて喜びます。
ゲヘナ学園前の駅で電車から降り校門に一番近い8番出口を目指す。
学園通いの生徒であれば既に学校に到着している時間帯だが流石はゲヘナ、駅構内は制服に身を包んだ生徒で溢れかえっており、その間を縫うように進んでいく。
ヴァルキューレの制服であれば因縁でもつけられていたところだろうがしばらくは休暇ということになっているのでどこにでもいるような服装にいつものジャケットで活動している。
駅を出るとまだ昼前だと言うのに殺人的な日光が全身を襲う、思わずため息が漏れた。
火山が近くにある影響かゲヘナ自治区はD.Uから電車で1時間程度の場所にあるに関わらず気温が高い、その気温によってコーヒー豆など様々な特産物がある反面ボクには生きずらい環境となっている。
早く帰りたいなどと考えながらゲヘナ学園の校門を通る。
私服だからと止められることは無い、流石は自由と混沌。
向かう場所は正面に見える第1校舎内のこの学園における生徒会の万魔殿…ではなく通りを左に進みそよまま真っ直ぐ進んだ場所にある風紀委員会本部。
各学園の現状などタイムリーな話題であれば多少聞き出すのに苦労したとしても風紀委員会の方が間違いない、まぁイブキちゃんには後で会いに行くけど。
「お疲れ様〜」
「おつか…え?ちょっ、とまれぇ!」
何食わぬ顔で通れるか試して見たがさすがに風紀委員会本部前にいた褐色銀髪エルフ耳とかいう一部の癖の人にぶっ刺さりそうな生徒に止められる。
さすがに風紀委員会となればゲヘナとはいえ止められるか、校門では素通りだったから逆に安心した。
「流れるように侵入しようとするな!所属と名前を言え!」
「真面目だなぁ、もう少し気を抜いた方がいいよ、そんなんじゃゲヘナでやっていけないぞ?」
「警備が気を抜いてどうするんだ!」
「一瞬流されて通そうとしてたけどね」
「うっ、それは…」
「ほらほら、ずっと気を張ってて仕方無いしリラックスするのが大事だよ?立ちっぱなしで足も疲れたでしょ?ほら、タコをイメージしてぐにゃぐにゃと動かしてみよう」
「なんなんだそれ…えっと、こうか?」
「何その変な動きw」
「おい!」
頬を赤くし、持っていたライフルを薙ぎ払う。
ほぼ予備動作無しの敏捷な身のこなし、ただの警備員だと思っていたことを少し後悔した。
鼻先ギリギリ、摺り足で後方へと避ける。
凄まじい風切り音、容赦とかの優しさは一切見受けられない一撃、クリティカルヒットしていれば新しい顔に交換しなければならなくなるところだった。
追撃の姿勢を取る相手に対し両手を上げ降参の意を示す。
こんな所で注目を浴びて情報部の目に付いたら大変なことになる、なるべく早く離れたかった。
片手は上げたままゆっくりと警察手帳もとい生徒手帳を差し出す。
初めて見るのか少し物珍しそうに中身を見ると怪訝な顔をする、まぁそりゃそうか。
「なんで他校の…それもヴァルキューレの人間がここにいる?」
「空崎さんに話があるんだ、アポはとってるし確認してもらって構わないよ」
「委員長がお前みたいな変人と会うわけないだろ!」
「えぇ?要件も聞かずに他校の生徒を襲っておいてそれは無いだろ?ほら、そこにカメラもあるし…万魔殿が聞けば喜んで飛んでくるんじゃないかい?」
「くっ…ちょっと待ってろ!」
まぁアポを取ってるとは言っても今どこにいるか聞いただけだけどね、空崎ならそれくらい察してくれるだろ。
それにボク自身半年近く席を外していた上に連邦生徒会長失踪による混乱、向こうも情報収集に奔走しているはずだ。
「委員長ですか?銀鏡です。実はかくかくしかじかで…えぇ?会うんですか?止めといた方がいいですよ、こいつなんかおかしい…え?知ってる?はい…はい…」
なんだか失礼な会話後繰り広げられている気がするがいいか。
大人しく待っていると向こうも話が着いたのか銀鏡と名乗っていた少女が電話を切り、訝しげな目線をこちらに送っている。
「話は終わった?」
「何者なんだ、お前」
「さっき手帳渡したじゃん、ただのお巡りさんだよ」
「…こっちだ」
納得はしていないようだが中へと案内される、建物内は空調が効いておりとても快適だった。
ジト目で睨まれながらエレベーターを登り、通されたのは風紀委員会の委員会室。
銀鏡と自称していた少女の後続き部屋へと入るとモップのような白髪に小柄な体躯、そしてゲヘナ性と特有の立派な角を生やしたゲヘナ最強がその紫色の瞳でこちらを射抜く。
「大人しく交番勤務に勤しんでいると聞いていたけど、何をしに来たの?」
「長期休暇の暇つぶしがてら久々に空崎ちゃんの顔を拝みにね、空崎ちゃんだってボクに話したいことあるでしょ?」
「無いわよ」
「照れちゃって…可愛いねぇ♪」
彼女から発する威圧感がより一層濃くなる、案内に来ていた銀鏡や部屋にいたもうひとりの眼鏡っ娘に反応が見られた。
「…イオリ、ここからは引き継ぐから業務に戻って。チナツも少し早いけど休憩に入って構わないわ」
「でも委員長、こいつは…」
「大丈夫よ、いざとなったら事後処理だけお願いするわ、あと温泉開発部がどこにいるか探しておいてちょうだい」
「え、この空気感で二人きりになるのはボクちょっと…」
ボクの救いを求める声を無視しすぐさま退出する2人、これだけ重苦しい雰囲気だ、気持ちは分かる。
今すぐにでも机に立てかけてあるクソデカマシンガンで蜂の巣にでもされるのかという緊張感。
扉が閉まった瞬間にそれは解ける。
息をゆっくりと吐き出す音が静かに響き手に持っていたペンはテーブルの端にそっと置かれた。
「はぁ…ただでさえ忙しいのにまた面倒事を持ってきたの?」
「そんな不機嫌そうにしないでよ〜、ボクとヒナちゃんの仲じゃん」
ゲヘナ学園風紀委員長の空崎ヒナ、2年前にゲヘナ学園で起きたいざこざに巻き込まれてからの腐れ縁。
元情報部ということもあり彼女を出し抜くのは難しい、持ちつ持たれつの関係が続いている。
「そんなに親しくなった覚えは無いのだけど、顔を拝みに来たって言うのも嘘なんでしょ?要件はなに?」
「別に嘘って訳では無いんだけどな…まぁいいや、七囚人脱獄についての話は聞いた?」
「聞いているわよ、リストも確認したけど随分と大物揃いだったわね」
「そうそう、ワカモにアケミとかのバーサーカーからアキラやカイみたいなくせ者までみんな脱獄しちゃってね、せっかく苦労して捕縛したのに参っちゃうよね」
「それでゲヘナに聞き込みに来たわけ?」
「ご名答♪ゲヘナ学園の方でなんか報告が上がってたら聞きたいなーって思ってさ、ヒナちゃんとしてもただでさえ厄介な連中揃いのゲヘナでこれ以上面倒事が増えるのも嫌でしょ?」
「私としてはあなたと関わり合いになるのが一番の面倒事なのだけれど」
「そうツレないこと言わないでさ、平和な日常を送りたいっていう目的は一緒なんだからなんか教えてよ〜」
「そうね…最近アビドスの近くで温泉のために大穴を開けている生徒とか気に入らない飲食店を爆破して回ってる生徒の報告があったわね、もしかしたら七囚人かもしれないわよ」
「それくらいゲヘナじゃ日常茶飯事じゃん、もっとなんかビックな案件とかないの?銀行強盗が起きたとか街中を盗んだ戦車を乗り回してる生徒がいるとかさぁ」
「ゲヘナ学園じゃなくてもたまに見聞きするわよ…第一、情報なんてなくてもあなたが直接動けば済む話じゃない、交番勤務から開放されたんでしょう?」
「何が悲しくてこんな世界に戻らなきゃ行けないのさ、これが終われば町のお巡りさんに戻るよ」
「あなたが町のお巡りさんね…」
「交番勤務も割と悪くなくてね、失われていた学生生活を楽しませてもらっているよ」
「そういうのとは無縁の人間だと思っていたけど」
「酷いなぁ、空崎ちゃんの目に私はどう映ってる訳?」
「他の学園を食い荒らす狐とかかしら」
「あら可愛い」
しばしの沈黙、ヒナは余計な会話を楽しむようなタイプではない、手札があればさっさと切るはず。
ゲヘナ学園に七囚人の影無し、無駄足になった。
もう少し揺さぶってみてもいいがただでさえ混乱している状況でこれ以上あちこち引っ掻き回すような真似をすれば本当に現場復帰させられかねない。
七囚人については諦めてもう一件の面倒事について片付けよう。
「うーん、ゲヘナは望み薄かなぁ…電車賃返してよ」
「なんで私が…そもそも、そんなことを確認するだけならわざわざこっちに来る必要なんてなかったじゃない」
「こんなことの為だけにボクの鉄より重いこの腰が上がるわけないじゃないか、えっと…お、これこれ」
ジャケットの内ポケットにしまい込んでいたスマートフォンを取りだしある大人の写真をモモトークへと送信する。
「これは?」
「この前起きたD.U地区で起きた脱獄祭りと同時に設立された連邦生徒会内の組織の顧問で連邦生徒会長がご招待した外から来た大人だってさ、好青年って感じで結構イケメンだよね」
「…何を企んでいるのかは知らないけど、私たちは関わる気は無いわよ」
「判断が早い!」
「どうせいつもの周囲を巻き込んでいい所だけ持っていくつもりなんでしょ?前みたいに割に合わない仕事をさせられるのは御免よ」
「そうケチくさいこと言わないでよ、どうせそのまま放置って言う訳にも行かないでしょ?情報は共有してあげるからさ」
「知らないところであなたに動かれるのは困るの。相手は大人、今までみたいに上手くいくとは限らないのよ?」
「だからこそ直接会って話がしたいんだ、その方が間違いないし仮に悪い大人だったら手の内が分からない以上さすがに手が余るんじゃない?」
「心配して貰って恐縮だけど、こっちはこっちでやらせてもらうわ」
「そう言わずにさぁ〜、一緒にあの暴君を相手にした仲じゃんかよぉ」
「あれだってどうせあなたの三文芝居の台本通りだったんでしょ?それにあの時はお互いに利害関係が一致していたから助けただけ、校外の案件にまで手を貸すつもりは無いわ」
「そう言って、本当はのここ最近のドタバタに飽き飽きしてたんでしょ?それに加えて七囚人の脱獄に正体不明の謎組織、下手な介入は逆に面倒事を増やすだけだと思うけど?」
再度沈黙が降りる、互いの視線が絡み合った。
他の学園にもちらほら諜報活動の動きは見られているがヒナちゃんの情報の方が信頼性が高い、トリニティに頼る手もあるがあそこは何かと面倒くさいのでここで決めてしまいたい。
「それに連邦生徒会はキヴォトスを統べる超重大な役職。連邦生徒会長が不在の今、我こそはその地位についてキヴォトスで一儲けしてやろうなんて輩がいてもおかしくは無いでしょ?…大人なら尚更ね」
「連邦生徒会長失踪は裏で先生が糸を引いていると?」
「可能性の話だよ、実際私もそんな状況になってるなんて知らされたのはつい先日だしただの妄想…でも、放置するには少し危険だと思うけどね」
「証拠はあるの?」
「わざわざボクがこうして足を運んでる時点でって感じかな、ここ暑くてあんまり来たくないんだよ」
証拠なんてない、ただのはったりと嘘だが興味を引かせた時点で目的は達成している。
これで乗ってこないようなら本格的に手札を切っていく必要があるが…
「…先日、アビドス砂漠の方で大規模な戦闘が立て続けに発生しているとの報告があった、七囚人か先生のどちらかがいる可能性はあるかもしれないわよ」
「ヒナたそ!」
先に折れたのはヒナの方だった。
机の端に置いていたペンを持ち直し書類仕事に戻る、話は終わりの合図、これ以上の情報は見込めない。
「私が手伝うのはここまで、これ以上は巻き込まないでちょうだい」
「十分だよ、またなにかあったら話に来るね」
「話聞いてた?」
不満そうなヒナちゃんを無視し、部屋を後にする。
私がコソコソ動いていると知られるのは面倒だ、なるべく早くゲヘナを離れる必要がある。
特にヒナちゃんの忠犬に鉢合わせでもしたらこの後の予定が狂いかねない。
「…この後は他校も回るの?」
「色々と野暮用も済ませに行かないといけなくてね、できる女はつらいよ」
「どうせその前にイブキにも会いに行くんでしょ?ついでに万魔殿に書類を持って行って欲しいんだけど」
「中身を見ても良いなら」
「ただの嫌がらせのどうでもいい書類よ、好きにして」
「お労しや…大丈夫?ヴァルキューレ来る?」
「雷帝が戻ってきてもイヤよ」
「あら残念…あぁそうだ、情報のお礼にひとついいことを教えてあげるよ」
「いいこと?」
「最近アビドス砂漠でカイザーがなにか探してるっぽくてさ、なんでもそれひとつあればキヴォトスを制圧できるほどの超兵器とか何とか」
「そう⋯いつもの面倒事の話にしか聞こえないけどそれのどこが⋯」
「いやぁ〜、それが雷帝さんの遺産のひとつが確かアビドス砂漠のどこかにあったな〜って言うのをつい最近思い出してさ」
「ちょっと!その話詳しく…」
「んじゃ時間だからばいばーい♪」
受け取った書類の束と共に部屋を後にする。
帰り道は案内がないようなのでエレベーター内で書類をざっと確認するが本当にくだらない内容のものばかり、収穫は無さそうだ。
今日のブルアカあるある
前半と後半に別れて公開されるストーリー大体前半で曇らせがちなので後半が公開されるまで心に持続ダメージが入る。