「至急現場に向かってくれ!」
アビドス駅で下りて早々にカンナからの怒号が携帯電話から轟く。
ブラックマーケットにあるカイザーコーポレーションが運営する銀行が強盗にあったとのこと、闇銀行として有名ではあったがその分セキリティも頑丈でその辺の生徒がお遊びで強盗を遂行できるとは思えない。
普段から殺伐としているブラックマーケットでも大騒ぎ、マーケットガードもフル動員しているが未だ容疑者集団は確保出来ていないらしい。
七囚人の関与も疑われている、管轄外ではあるが動かざるを得なかった。
幸か不幸か現場のブラックマーケットまではすぐに到着出来る距離だったためアビドス学園に立ち寄るついでに確認に行くことにした。
「おい貴様!今ここは立ち入り禁止だぞ!」
銀行周辺を取り囲むように配置してある警備員の1人が詰め寄って来た、マーケットガードとはまた別の装備、カイザーのPMCだ。
面倒事になる前に学生証を提示すると動きを止めてすぐに道を開けた。
「も、申し訳ありません…ブラックマーケットでの事案だったので警備を厳重にしておりまして…」
「大丈夫だよ、それより理事はどこにいる?」
「はっ!理事でしたら強盗があった銀行の中にいると思われ…」
「今すぐに兵を集めろ!アビドスの連中め!舐めたことを!」
大型のボディを揺らしながら凄まじい剣幕で入口から飛び出してくるカイザーPMC理事、そばにいた兵が抑えようとしているが暴れる巨体を留めることは出来ていないようだ。
数歩進んだところでこちらへと視線が向いた、右手を挙げて近付いていく。
「お久しぶりですカイザーPMC理事」
「黒峰…か、なぜ貴様がここにいる?」
「なぜって言われても、これが仕事ですから」
「あぁ、そういえば貴様はヴァルキューレに転入したんだったな。交番勤務とは落ちたものだな…まぁいい、お前も部隊に加われ。アビドス学園を叩きに行く」
「随分と物騒なことを言いますね、例の銀行強盗となにか関連が?」
「これを見ろ」
タブレット端末が手渡される、ディスプレイに視線を落とすと監視カメラのものと思われる動画が映し出されていた。
バラクラバを被った5人組の強盗、手馴れている様子では無いが一瞬で店内を鎮圧しお金を盗み出している様子が伺える。
こういった動画は何度も見てきた、顔が分からないとは言えある程度の容姿は確認できるし裏技にはなるがヴェリタスに持っていけば特定することも不可能では無い。
問題は犯行グループが着用していた制服だ。
「アビドス生の制服ですね」
「それは見たらわかる!」
頭から蒸気を噴出し興奮した様子の理事、一応は上の立場の人間、激昂しているとは強く抑えることは出来ない。
面倒くさい、いっその事一度エンジニア部にでもメンテナンスしてもらった方がいいのではないだろうか。
「アビドスの奴ら、遂に金が用意できなくなって銀行強盗なんかに手を出したのか!私に楯突いたことを後悔させてやる!」
「まぁ落ち着いてください理事、何も今すぐに動く必要はありませんよ」
「動く必要は無いだと!?一億だぞ!ただでさえあの学園を潰すために多額の費用を掛けているというのにこれ以上は我慢ならんぞ!」
「いえ、もちろん襲撃犯には罪を償ってもらいます…ですが、まだその時では無いかと」
「何だと!?」
「そもそも、このカメラに映っている5人組ですが…確かにアビドスの制服を着た人間が4人いますね」
「あぁ、だから今すぐにでも…」
「ですが、この紙袋を被った少女の制服をよく見て見てください」
「…これは」
「えぇ、何故か彼女だけトリニティの制服を着ているのです。しかも他はバラクラバを被りしっかりと準備したのが伺えるのに彼女だけ間に合わせの紙袋、おかしいとは思いませんか?」
「それはそうだが、ならなぜこいつは現場に…」
「この強盗自体がアビドス学園の生徒に責任を押し付て自分たちは逃げる算段で計画されたものだとしたらいかがですか?廃校寸前の学校の制服ならブラックマーケットでも簡単に手に入りますし、相手はカイザーコーポレーション、こちらに矛先がむく前に簡単に落ちると考える輩が居ても不思議ではないかと」
「だがその場合このトリニティの制服を着た生徒はどうなる?それだけ計画的な犯行なら制服ぐらい揃えるだろう」
「アビドスの学生は現在5名、防衛のために全員が学園から離れることはほとんどありません、それを加味しての編成なのでしょう…もしくはこのトリニティの制服を着た人間がリーダー格でそれを見分けるためか」
「なるほど…」
先程まで興奮気味だった理事もようやく冷却装置が追いついてきたのか落ち着き始めている。
古い人間はあちこちガタが出始めるから困る。
「それに、もし仮にアビドス学園の生徒を捕縛しそれが誤認逮捕だった場合、連邦生徒会も重い腰を上げざるを得ないでしょう、さすがにあれを相手するのはボクでも骨が折れますよ」
「ならどうしろと?」
「まずは真犯人を捕縛するのが最優先でしょう、犯行動機やアリバイによってはこちらに引き込むことが出来る可能性があります」
「何故わざわざそんな面倒なことを」
「証拠を作るんですよ」
「なっ!?」
「アビドスに責任を擦り付けて直接叩きに行きたいんでしょう?なら誤認逮捕ではないと誤認させればいいだけの話、そう難しい話ではありません」
「そんな真似をしてもし仮にバレたりしたら…」
「それこそ今更では?利子の不正増額に度重なる学園への侵略行為、こちらが把握していないとでも?」
「……」
「今更後戻りなんてできませんよ、奪われた1億円の件もありますしこれが上の耳に入る前に片付ける必要があるのでしょう?」
「…いいだろう、おい!兵を戻しておけ、ゴリアテも待機状態にしろ」
続々と集結していたPMCロゴの車両が現場を離れていく、ゴリアテと呼ばれていた兵器については少し気になるところだがどうやら本気で攻め落とすつもりだったらしい。
ある程度現場が片付き、一般のマーケットガードだけになった所で理事がこちらへと再度近付いてくる、古いオイルの匂いが鼻についた。
「それで、真犯人についての目処はたっているのか?」
「先程来たばかりですので全く、少し現場に入らせていただいてもよろしいですか?できる範囲で調べてみます」
「現場の兵にも伝えておくから好きにしろ、何か分かれば報告してくれ」
完全に納得した訳では無いのか憤然とした様子で現場前に付けていた黒塗りの高級車へと乗り込む。
あんな考え無しの子供だましの戯言で信用する辺り所詮は叩き上げのお飾り理事、工作をする上で有難いことこの上ない。
「とりあえず中の兵を全員外に、現場の保全のためだから協力を頼むよ」
「はっ!」
入口にいた現場リーダー的な兵士に一声かけて現場を空にする、どこかの理事とは違い聞き分けが良くて助かる。
重厚な自動扉を通り現場を見てみるが建物への損傷は少ない、脅しに数発天井に向けて発砲している程度で復旧に時間はかからなさそうだ。
人的被害も無し、とてもスマートとも言える犯行だが放置された空薬莢や監視カメラにバッチリ映っている辺り手馴れている訳では無いか。
さらに進み実際の現場となった受付カウンターの周辺を確認してみても依然として争った形跡や無駄に攻撃したような痕跡は無い。
カウンターの奥には現金が乗っていたであろう台車と書類が乱雑に放置されている、軽く書類に目を通してみると今日の日付での集金記録や証明書のようなものがほとんど、犯行グループは今日ここに現金が集まるのを知っていた可能性がある。
…とまぁ、それらしい事を色々考えてはいたがメンバーの1人に検討は着いていた。
現場に残されていたショットガンの空薬莢をひとつ拾い上げる、監視カメラにも映っていたあの特徴的な盾を持った姿から見ても犯行グループの中にアイツがいるのは間違いなかった。
彼女が1億円目当てで銀行強盗なんかに手を出すとは考えられない、なにか別の理由、もしくは誰かに指示をされている可能性がある、どの道この後アビドス学園に行くのでその際に確認するしかないか。
理事はともかくプレジデント相手にそう長く時間を稼げるとは思えない、早急に対応する必要があるな。
積み重なっていく面倒事にため息が漏れるが放り出したままにする訳にも行かない。
カメラ映像の回収と空薬莢の回収だけ済ませ入口の警備に検証が終わった旨を伝えバス停と向かう、次のアビドス学園前に向かうバスを逃せば3時間は待たされる、足は自然と駆け足になった。
「何よこれ!どういうことなの!?」
セリカが書類が並べられた机を叩きつける。
他の対策委員会のメンバーも硬い表情のまま書類に視線を落としていた。
「集金記録にはアビドス学園で788万円集金したと記入されてる…でも、そのすぐ後にカタカタヘルメット団に対して500万円の補助金を提供した旨の記入がある」
「それってつまり…」
「私たちのお金がそのままヘルメット団の補助金として使われていたってことよね!?」
「ヘルメット団の背後にいたのはカイザーローンだったってことですか…?」
衝撃の事実に私を含め皆押し黙るしか無かった、しんと静まりかえる建物に風に乗った砂がぶつかる音だけが不規則に続いていた。
「で…ですが、学校が破産すれば貸し付けていたお金も回収できなくなるはず…どうしてそのようなことを…」
「ふーむ…」
「銀行単独の判断ではなさそう、カイザーコーポレーション本社の息がかかってるとしか思えない」
「そう見るのが妥当ですかね…何だか嫌な予感がします…」
「まぁこれ以上の証拠もないし今のところは打つ手なしかなぁ」
「そうですね、それにこれ以上ヒフミさんを巻き込む訳にも行きませんから」
「いえ、私の方でも今回の件をティーパティーに報告してみようと思います、もしかしたらなにか協力できることがあるかもしれませんし」
「うーん、ティーパティーなら今のアビドスの惨状については把握していると思うな」
「えっ!?…知っているのならどうして… 」
「うん、ヒフミちゃんはいい子だね、おじさんなでなでしてあげるよ」
「ん、なら私のことも」
「よ〜しよしよよし」
「あ、あはは…私は遠慮しておきますね…」
「もー、恥ずかしがらなくてもいいのに…んで話を戻すけど、今のアビドス学園って廃校寸前で助けても自分たちにメリットが無いしこっちもトリニティとかゲヘナみたいなマンモス校を相手にする力が残っていないんだよねぇ」
「それはつまり…」
"何とか援助を受けて現状を打開できてもその援助の対価を払うことが出来ない…という事?"
「おっ、さすがは先生だね。簡単に言えばそういうこと、何も相手だって何も考えずに力を貸し出す訳じゃない、そこには必ず対価が必要になるんだよ」
「ですがホシノ先輩、悲観的に考えすぎでは?もしかしたら本当に助けてくれるかもしれませんし…」
「おじさんみたいに長く生きてると色んなことを考えちゃってね、人の好意を素直に受け取れ無くなっちゃうんだよ。色んな可能性を考えてさいぜんの手を選ぶ、それが出来なかったからアビドスはこの有様になっちゃったわけだからね」
「ティーパーティーのナギサ様がその様な事をするとは信じたくありませんが…うぅ、政治って難しいですね」
「ヒフミちゃんは帰っても純粋なままでいてね」
「はい…改めて皆さん、今日は色々とお世話になりました」
「今度遊びに行くからよろしくねぇ」
「ん、今日はすごく楽しかった」
「楽しかったのはシロコ先輩だけじゃない?」
「あはは、私も楽しかったですよ」
「流石はファウストちゃん、あれくらいじゃまだまだお遊びって訳だね」
「そ、その呼び方はやめてください!」
「よっ!覆面水着団のリーダーさん!」
「あはは…皆さんヒフミさんが困っているじゃありませんか…っ!皆さん気をつけてください!校門に誰かいます!」
「こんな時に!?またヘルメット団でも来たの!?」
「いえ、反応は1人分しかありませんね…すいません、反応が小さくて気づくのが遅れました」
"大丈夫だよ、それより誰が来たかわかる?"
「はい、少々お待ちください…」
差し出されたタブレットの画面にはカーキ色のジャケットを羽織った私服の生徒が校舎に向かって歩いてくる様子が映し出されていた。
襲撃しに来た様子では無い、私と同じように砂漠で遭難して道でも聞きに来たのだろうか。
ほっと安堵し画面から顔を上げるが私とは対照的に他の生徒たちは画面にを凝視し一様に張り詰めた表情を浮かべていた。
「ねぇ、あの腕の校章って…」
「…はい、ヴァルキューレ警察学校のものです」
「うへぇ、おじさん達もついにお尋ね者かぁ〜」
"警…察?"
先程までの逃走劇で流れた全身の汗が冷えるのを感じた、もしかしたら教員生活の危機というやつなのしれない。
次回軽い戦闘描写が入る予定です!
やっと⋯やっと戦闘シーンが書ける!
とはいえ別に上手な訳では無いのであまり期待しすぎないでくださいね!