異形の七草   作:メダカにジャム

1 / 25
そう言えば、このキャラの魔改造もの見覚え無かったなあという実に浅すぎる理由により初投稿


入学編
入学編1


 その少女の異常性について端的に語るのならば、第一に語られるべきは先天性の強力な知覚魔法への適性と抱き合わせになった異常なまでの知覚能力である。単純に、基礎的な認識系そのものが、魔法師としての事象観測に特化している。そう言わざるを得ない最適化が彼女には起きている。エレメンツ*1特有の得意とする事象に対する感受性の強さは、少女にとっては自分の感覚に他人が追い付ける実例の一つでしかない。そんな異常性の持ち主の先天性スキルが知覚魔法だったと言うのは鶏が先か卵が先かの話であるが、少女を決定的に異常な存在へと変えてしまった。

 

 では、少女がどう異常なのかというと、少女の精神性が凡そ少女の生家で育つ生き物ではないと言えるものであった。人としては探せばいる所にはいる、そんな平凡な変人であると後に九重八雲はそう評した。おかしいのは、少女の生家、貴族化した品種としての魔法師、それも七草と言う日本最高峰の名門の一角にそんなものが生まれ落ちてそのまま育つなんてことは、まずあり得ないと誰もが口を揃える所だ。

 

 そんな異常な彼女が何故そのようにあるがまま育ったのか。原因は大きく二つ。一つは父親であり当主の七草弘一が放任主義であり、少女の異常性を幼少期から少し知った程度で放置していたこと。そして、もう一つは。シンプルに、誰もその異常性に基づいて成長した少女を止められなかった事である。魔法師としての実力は無論の事、魔法抜きの暴力、マルチスコープ*2とは似て非なる視界の広さと深い洞察が可能とする魔法師を率いて戦う将器。どれもが当主の七草弘一含めて彼女の家族の誰も彼女に及ぶところでは無かった。当の少女本人からすれば、単なる自衛の為に仕方なく銃ならぬCADを手に取った程度の話だと言うのに。

 

 かくして異形の七草は誰にも止められること無く、誰に求められることも無く、世に出てしまった。2095年4月時点で彼女を表す呼び名は幾つもある。『第一高校の小さな大番長』、『リトル・オーガ』、『鷹の眼』、『大師範』、『始まりの虎杖』、『数字外し』。そんな彼女は高校入学時より、冴種(さえぐさ)真由美を名乗っている。

 

「何故此処にいる、冴種?」

 

 2095年4月、第一高校の生徒会長を務める男、十文字克人は新入生総代として司波深雪と入学式前の打ち合わせをしていたが、そこに唐突に乱入して来たこの学校きっての問題児筆頭に胡乱げな目を向ける。

 

「彼の妹だと言うからどんな人かなぁと思って野次馬に来たわ」

「司波兄がどうかしたのか?」

「同じ理論主席だし、そもそも出来過ぎた天才が上にいる妹って結構大変なものよ?」

「……お前が言えたものか」

「うちの妹二人をそうやって地獄に蹴落とした自覚はありますよーだ。その辺は私なんかより余程あの子達に懐かれている君の方が知っているでしょ」

 

 ああ、成る程。司波達也の事をこの問題児は前から知っていたようだと十文字克人は悟る。もっとも、その正体が何なのかは追求するつもりはない。自分達が一家揃ってそういう事に向いていないのは、これまでこの問題児に盾役として体よく連れまわされた苦い記憶が物語っている。

 

「お兄様は確かに出来過ぎた天才の域にいらっしゃいますが、私はお兄様の名に恥じぬよう精進していくつもりです!」

「司波……冴種は性能と才覚を明確に分けて語るタイプだ。俺のことも性能だけの秀才としか評価していないし、その評価は極めて厳しく、粗雑ではない」

 

 同情するような視線に対してむっとなって反論する司波深雪に対し、十文字克人は嗜める様に語り掛ける。言外に、初手、初見で出来過ぎた天才などと言う評価が出るのはおかしい話なのだと克人は語る。司波深雪はこの時点ではまだきょとんとしていた。

 

「ふむ。もう少し直截に言おうか。もしも司波が何か隠し事をしたいのならば、こいつの眼をすり抜けようと頑張るよりも、隠し事に協力してもらった方がずっと楽だと忠告させて貰おう。さて、俺はどこまで喋ったんだったか。打ち合わせとして必要な事は言ったと思うが、質問は……なさそうだな。じゃあな。冴種、あまり後輩をいびるんじゃないぞ」

 

 先輩として後輩に助言をしつつも、これ以上面倒臭いことに自分を巻き込むなど十文字克人は口を閉ざし、すっとぼけて去っていった。遅れて珍しく兄を高評価されたことに舞い上がっていた司波深雪は兄が本人にとっての必要以上という意味で過大評価されていること、知られてはいけないことをあっさり抜かれてしまっている可能性が高いと悟り、背筋が寒くなる。

 

「っ!?」

「腹芸は赤点ね。ま、補習も罰ゲームもやらないわよ。貴女の親でもあるまいし」

「はぁ」

 

 思わず何処まで兄の真価を見抜いているのかと息を呑みつつも言外の敵対の否定に毒気を抜かれ、司波深雪の緊張感が思わず抜ける。腹芸が赤点だと言う指摘自体は、至極正論だ。勝手に自分が自滅しただけである。

 

「私も十文字君もよっぽどの事が無い限りは学生生活に大人の事情を持ち込まないつもり。彼はちょっとお間抜けな次期当主を演じている同志なのよ」

 

 普通は幾ら学生だからとそんな真似は出来ないのが正しい。十師族としての柵は、学生であっても容赦なくその責務を果たせと急き立ててくる。しかしながら、その無茶は冴種真由美が無理を押して道理を引っ込めて切り拓いた道だった。

 

「だからこっちも頑張って目を瞑るから、あんまり目の前でチカチカさせないでねって、先輩からのお願いよ。世の中色々と物騒だし、こういうところでぐらい、羽を伸ばしたいのよ」

「……何のことかはあまり心当たりが無いのですが、お二人のその理念には私も同意します」

 

 事を荒立てるつもりは無いと理解して漸く落ち着きを取り戻した司波深雪は学校で実家のネタなど大人の事情を持ち出したくない、羽を伸ばしておきたいと言うその言葉に対しては本音からの同意を示すのであった。

 


 

『以上よ。終わったから呪符は服部君に回収してもらって』

 

 この言葉が発されるまでの過程を語るに、時間は少し遡る。新入生総代の妹の付き添いで朝早くに登校し、中庭で読書しながら入学式までの時間を潰していた司波達也へ、話しかける者がいた。

 

「中庭で読書している二科生、ああ、成る程、君が司波達也君だな?」

「……そうですが」

「俺は二年の服部だ。事情は知りたいとも思わんが、うちの先輩からお前に通話用の呪符を使わせてくれと頼まれていてな。んじゃ、渡したぞ」

 

 手渡すなり、服部は少し離れた場所で待機の姿勢を取った。

 

「悪いが一応見張りはしておく。無論話を聞くつもりはない」

 

 そう言われて少し離れた所で遮音フィールドで身を包みながら待機する服部を尻目に呪符を達也は観察する。古式魔法のSB魔法による聴覚の感覚共有の術式のようだ。異常はない。達也でも精霊を喚起することは出来る。そうして発動した感覚共有で音を拾った達也は、冴種真由美と十文字克人、そして妹との会話を横で聞き、呪符の回収協力依頼を聞き届けるのであった。

 

「終わりました」

「ああ。確かに。手間をかけさせたな」

 

 呪符を回収した服部は振り返って堅い雰囲気が少し取れた後輩に助言をすることにした。

 

「大師範、冴種先輩は魔法師らしくない変人だが、魔法師としての俺達よりも、学生としての俺達を尊重してくれる分、多分一人くらいはいていい類の先輩だと俺は思う。じゃあな」

 

 こちらの事情に踏み込まず、やることだけをやって去った先輩、学生が学生であることを尊重してくれる先輩に、司波達也は悪くないと感じる。どうやら、自分の正体そのものはある程度以上バレているようだが、見ないふりをしてくれると言うのならば此方も一旦は気付かれていることに素知らぬふりをした方が良いだろう。そう結論づけた。

 

 一応は達也の側も冴種真由美、かつては七草真由美だった先輩については自分についてある程度以上は知られているだろうと想定に織り込んでいた。何せ、三年前に自分達が相対していた大亜連合の上陸部隊の残りと沖合の艦隊を纏めて吹っ飛ばしたのは彼女なのだから。その時に銃殺された妹の命を何とか拾い直した勢いで怒りのままに暴れていた自分を見られていないなどとは楽観できなかった。

 

 入学式が終わり、兄と合流した司波深雪。そこへ、生徒会長の十文字克人も赴いたが。

 

「先約か。構わん、後でメッセージを送っておく」

 

 機が合わないならば仕方ないと実にあっさりと去っていった。そして、達也が入学式で知り合った柴田美月と千葉エリカも合わせて四人は、喫茶店アイネ・ブリーゼへと赴いた。

 

「げっ!?」

「げっ、とはご挨拶だな、まあいい。おい」

「しょうがないわねえ、摩利に加えて、エリカちゃん達の入学祝いに全部お姉さんの奢りよ」

 

 そこには、冴種真由美と渡辺摩利が二人して先にお茶をしていた。真由美の側が奢っていたようであるが、あっさりと全員分奢ると言われてエリカはさっそく遠慮なしに注文をしていく。

 

「初めまして、三年E組の冴種真由美です。フリーの便利屋をやっています」

「三年A組の渡辺摩利だ。こいつとはまあ、入学前から千葉の実家の剣術道場で知り合っていた腐れ縁だな。心配しなくてもこいつは既に生活水準を落とせば一生働かなくていい程の金を稼いでいるし、去年もよく目をかけた後輩に気前よく奢っていた」

「実際にはまだムダに高い自衛コストで足が出るけどね」

 

 問題だらけな自己紹介の中身は元から顔馴染みの千葉エリカ、魔法業界に疎かった柴田美月にはスルーされたが、本来なら二重の意味であり得ない話である。

 

 一つはそもそも彼女が元々の実家である七草家を出奔していながらに、七草家のお膝元である関東の第一高校で堂々とフリーランスの便利屋をしているという事実そのものが。

 

 もう一つは、18歳未満である彼女が便利屋稼業でそこまで稼ぐことは制度的には不可能に近い筈なのだ。17歳である彼女は魔法技能師*3としての業務担当可能範囲を定めたライセンスを満18歳の年齢制限等により一切取得できない立場である。*4そして、ライセンスを取得できない以上、彼女は公的には魔法師としての労働の対価を受け取ることが殆ど出来ない。

 

「ライセンスなしに便利屋稼業って、そんなに稼げるものなのですか?」

「A級ライセンスはあるけど寄る年波が辛い知り合いとのコネよ。結果オーライって前世紀のゴルフ界隈発祥らしい*5けど素敵な言葉よね」

「あっ(察し)」

 

 司波深雪は素朴な疑問を口にしたが、帰って来た答えに一発で納得する。答えは名義貸しだった。そう。魔法師、特に優秀な者への需給は、軍を吸い上げ先の筆頭として、国立の教育機関にまともに教師を配備できない程に逼迫しているのが現状だ。

 

 さて、このような優秀な魔法師が慢性的に極端な売り手市場である現在、特に民間界隈ではこのような極論がごくたまに飛び出す。ライセンス保持者は魔法の運用が期待された結果に対して最終的な責任を持つことが出来さえすればいい、と。このように極論で割り切れられて、結果オーライで仕事の肝心な部分を非ライセンス保持者にやらせて済ませるグレーゾーンな行為は、そもそも結果オーライだからヨシで押し通せる者の絶対数が少ないものの、必要悪として暗黙に認められていた。無論、そんな阿漕な真似を黙認してくれる取引相手あっての話であるが、こと彼女が名義貸しの相手となれば、目を瞑って足下を見ない者は幾らでもいた。

 

「その……もしかして先輩が二科生なのって」

「その想像で合っていると思うぞ。そもそもこいつ自身、自分に個別指導の教師なんて回すぐらいなら他の二科生に回した方が良いからと最初から二科生志望で一校を受けて、入試成績はぶっちぎりのトップで一応は一科生にされたが、そんなの知ったことかと好き放題やって留年ギリギリのところで進級するなんて真似をやって平然と二科生に落ちていったうちの代の問題児筆頭だ」

 

 恐る恐るの柴田美月の問いかけに渡辺摩利は首肯する。冴種真由美は便利屋稼業等を好き勝手やって一般科目の平常点が足を引っ張り進級すら危うくなるほどの素行不良な劣等生でもあった。

 

「あとまあ、これは一応のお願いだが。こいつがトラブルに巻き込まれるのをみたら、早めに風紀委員に通報してくれ。巻き込んだ側の為に」

 

 一応のお願いと称された話は、一見すると加害者側を心配するような、なんとも奇怪に聞こえる話だった。

 

「こいつは変な所でものぐさで、二科生に落ちても交換が面倒臭いからと制服の校章のエンブレムを外さず放置している」

「だって、元々ただの発注ミスだったのを放置していただけなのに、それへの身勝手な解釈にまで付き合わされるなんて馬鹿馬鹿しいと思わない?」

「は?」

 

 思わぬところで真由美から二科生の制服事情の真相が明かされ、兄にたかが学校風情が落ち零れなどと烙印を押した理由がこんなしょうもないことだったとは、と司波深雪が思わずいつもより半オクターブ低い声を零す。

 

「発注ミスってえぇ……」

 

 柴田美月がエンブレムの真実に呆れたような声を出していなければ、喫茶店は季節外れの暖房を稼働させることになっていただろう。

 

「で、だ。こいつが二科生に転属したのはこいつが好き勝手やった素行不良による自業自得の結果であって、別に誰もこいつより凄くなったわけじゃないんだが、その辺を勘違いして格下が何ブルームを気取っていやがるなんて息巻いていた馬鹿が一時は結構いてな……」

 

 眉間をつまみながら語る摩利。その勘違いした馬鹿の末路に関しては、業界初心者の美月でも摩利の口ぶりから言わずとも想像がついてしまった。

 

「私がお願いしたいのは、一年生でそういう馬鹿がこいつに喧嘩を売った時の話が主だ。出来る限りちゃんとしたルールの決闘で解決したい」

「私そこまで狂犬やっていたつもりは無いんだけれどなあ?」

「全国の魔法科高校の決闘のルールに暗示による魔法資質の破壊は禁止ってルールを付け加えさせたのが誰のせいだと思っている」

 

 加害者の無事を慮るようなお願いの理由は、真由美による虐殺の防止であった。暗示で魔法資質を破壊する行為は、法律上はそもそもそこまで本気で法律が魔法師を守っていない以上、何ら問題無い。無いのだが、それで何人も魔法資質破壊をやられたら魔法科高校の運営にすら致命的な影響を与えてしまう。そもそも魔法師として魔法を喪うことは、魔法師コミュニティに生きる者達にとってはその奥に踏み入るほどに激痛が加速度的に増していくものだ。百家以上の名家ともなれば、いっそ死なせてくれという輩も少なくないような残虐な行為を示されて、司波兄妹とエリカはドン引きした目を真由美に向けた。

 

「失礼しちゃうわね、互いの学生生活の継続を前提とした決闘でそんな手を使うわけ無いし、ルール無用で貞操狙われてその程度で済ませたあたり、だいぶ慈悲深い対応だと思うけど。深雪さん、達也くんがルール無用でお尻狙いで襲われたとして、魔法師として再起不能になるだけで五体満足に済ませるのは温情だと思わない?」

「大変慈悲深いと思います」

 

 司波深雪は据わった目をして普段の魔法行使と同レベルの反応速度*6でそう言い切った。美人ほどマジギレした時の顔は怖いとはよく言ったものだが、対面する柴田美月は冷や汗をかいている。

 

「まあ、そんな感じでこいつは色々やらかしている反面教師にすべき問題児の先輩なんだが……、結構付き合いが良い奴でもある。上手く付き合うことをお勧めしておくよ」

 

 そう雑談を締め括って、会はお開きとなり、冴種真由美が宣言通り新入生全員分を奢って幕を閉じることとなった。

*1
日本における魔法師の品種開発の黎明期、伝統的な属性、「地」「水」「火」「風」「光」「雷」といった分類に基づくアプローチが有効だと考えられていた時代に確立。現代魔法理論の確立と共に非効率とされ、開発中止に

*2
実体物を様々な方向で知覚する視覚的な多元レーダーの様なもの、FPS視点複数に近いか

*3
縮めて魔法師

*4
C級までは年齢制限、それ以降は下位ライセンス及び一年の実務経験必須

*5
1959-70ではゴルフ用語だったとか

*6
本当に思考が挟まっていたのか疑わしくなる反応速度とも言う




設定ツッコミも含めて感想・評価は大歓迎です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。