新人戦に入っても、第一高校の快進撃は止まらなかった。
スピード・シューティングとバトル・ボード予選で始まった初日だけでも、五十嵐鷹輔、森崎駿、北山雫、明智英美のスピード・シューティングのエース組が優勝、三位、優勝、準優勝を飾り。
光井ほのか、十三束鋼のバトル・ボードエース級が余裕を持って予選通過。残る面子も敗因は凡そ他校のエース相手に競り負けである。
此処までの成果が出た理由の一つには、エンジニアチーフの達也が監督の真由美の名の下に豪腕を振るい、直接担当していない女子スピード・シューティング以外でも二世代分以上のアドバンテージを確保した所にある。
その裏では超理電子、九十九魔学、トウホウ技産が一斉にトーラス・シルバー監修と言う金看板付きでミドルクラスの新型CADの発売を発表し、その試作品が真由美経由で第一高校選手陣にモニター価格で先行レンタルされると言う事態が起きている。
第一高校の選手達の中には、トーラス・シルバー監修と宣いながらも新型CADに採用されていたハード系の新技術の多くが真由美が安売りしていたものだと勘付くものはいた。だが、それら雑にバラ売りされていたものを九校戦でも投入可能なミドルクラスで製品化出来るところまで編纂してのけたのがトーラス・シルバーのクオリティなのか。真由美経由のレンタルということもあり、真相は雪の中である。
「実際の所どうなの?銀ちゃん。FLTにしては珍しい動き方だけど」
「誰が銀ちゃんですか。……社内政治、主にガス抜きですよ。FLTは元々部材メーカーでしたからね。オマケだったCAD生産ラインはハイエンドクラスで埋まっていますし。こんなところでご満足ですかね、株主殿」
この夏のいつか何処かでの遮音フィールド及び認識阻害、口唇モザイクを施しての二人の会話。語られる裏事情は端的に言えば、ライセンスと部材の抱き合わせという良い商いをくれてやるから大人しくしていろ。そのように旧主流部門の口封じに達也が大きな飴を突っ込む構図であった。
「うむ、満足じゃ。ところで、貴方の副業に繋がる話なのだけれどね?大亜連合と新ソ連が十月末に攻めてくるわ。向こうの工場の稼働状況から海軍戦力への注力度合いは読めるし、『
「『
「『イグナイター』、イーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフの安いオマケよ。中身は新ソ連の調整体の例に漏れず粗製で風邪一つで死ぬ程度の粗製ね。そんなんだから、幾ら頭を隠してもバカでかい尻が丸見えってわけ」
世間話のままに語られるのは、此方も目撃者を消す必要があるような機密情報。少なくとも、魔法科高校生をやっている片手間に集めきれるような代物ではない、この国の一大事に繋がる話だった。
聞いている達也からしても全くの冗談だとは思わない。自分だって妹の警護分も含めた実質存在しない全力をそういうことに割けば、大国の軍事行動の気配程度は自分一人でも遠隔にて問題なく探れる。
だが、二大国からの同時攻撃の可能性を此処まで素早く見抜くのは理不尽の域に両足を踏み入れている。彼女がそういうタイプの理不尽であることは百も承知であるが。さて、隣り合って領土問題で小競り合いを繰り返す両国が機を合わせて日本を襲う理由は。
「『七篠桜花』ですか」
「まあ、専売特許をパクられたベゾブラゾフ閥がムキになって殴りかかってくるリスクは織り込んでいるわ。寧ろ便乗できるタイミングまでよく我慢したとでも褒めてあげようかしら。両国とも、『七篠桜花』狙いのもの含めた色々な小細工の基盤を片っ端から私のお小遣いにされて黒幕共々焦っているでしょうし。宮仕えの悲しさだけは同情してあげるわ」
予想の範疇での面倒臭い話。真由美にとってはその程度でしかないのだろうと達也は推測する。人の事を言える義理ではないが、今までのやらかしのツケに周囲を巻き込む程度のことを悪びれる輩ではない。
達也の推測では、大亜連合も、新ソ連も、三年前の攻撃を跳ね返した大爆発を起こす戦略級魔法の術師、『七篠桜花』について危機感を持って作戦目標の上位にその排除を置いているのだろう。その為に、ブラックオプスの類が通じない事に業を煮やしてか、無理攻めに踏み切ったのだろう。
普通ならば正体不明の戦略級魔法師が待ち構えていると分かる所へ攻撃を仕掛けるのは、自前の戦略級魔法師を動員するにしてもリスクが高い。強行に至るは独裁国家のガス抜きが主だと考えられる。内政の不満、軍部強硬派の台頭、もとより三年前に宣戦布告抜きの奇襲を仕掛けてきた時から向こうの内情はそう大して変わってなどいない筈だ。
臨時の軍事同盟を秘密裏に結んだのは、両国における最大限のリスクヘッジだったのだろう。同時攻撃ならば、相手の戦略級魔法でダメージを受ける確率を分散できるのではないか、両国ともに短期決戦を目指した結果生じる混乱で先手を取ったまま押し込めるのではないか、なんて目論見は正体を知らぬなら、まあ間違っているとは言えまい。
だがしかし、両国ともブラックオプスが全く捗らない原因については、きちんとは把握していないと推測できる。どこまでが四葉の仕業で、どこまでがA級崩れに名義を借りる
そして、『七篠桜花』として稼働したことがあるのが恐らくは最初の一人である彼女のみである現状、国軍の秘密兵器『七篠桜花』が個人の偽名ではなく集団で共有される看板であることなど分かる筈が無い。まして、その中で最も危険な存在が冴種真由美であるなんて真実に辿り着くのは無茶振りだろうと達也は考えている。
傍目から見た冴種真由美は潰すには割に合わない強さとしぶとさ、そして決定的な反逆に手を染めていないからギリギリ見逃されているだけの小悪党である。軍との蜜月が噂される『七篠桜花』の容疑者としては、たとえ力量故の浮上を果たそうとも、素行の酷さであっさり沈む。
四葉として伝え聞く話、己の魔工技師としての知見を鑑みるに、戦略級魔法に要求されるもの、射程と攻撃範囲と攻撃力の三拍子を揃える難しさとは、特に射程を中心に相応の大掛かりな機械的補助を以て軽減するのが前提となる代物だ。
自分や彼女のような、民間に許された水準の武装のみであっても極論隠れる暇さえあれば、何処へでも戦略級魔法を放てる存在など実例を認識せずして最初から想定に上がる訳がない。ましてそんな事を出来る輩が餌場を定位置に置く程度の放し飼いになっているなんて惨状は尚更想定不可能であろう。
己の暴威一つを元手に好き放題やらかした悪い見本が目の前にあるがために、司波達也は自分の力の面倒臭さについて、より強く自覚している。その自覚の委細を知れば、黒羽貢辺りはハンカチ片手に感涙に咽ぶだろう。
だが、妹に母の施術という二重のブレーキをかまされて尚抑圧の反動故か。一般的な魔法師の例に漏れず、司波達也は自己顕示欲の権化じみたところが地味にある。より強く自覚した己の力を鑑みた結果お出しされた結論に対して、その感涙に濡れたハンカチの行方がどうなるかは、四葉らしく闇の中である。
「先輩なら、侵攻してきた敵軍に壊滅的な打撃を与えることは、正体の隠匿も含めて尚そう難しいことではない、但し敵の攻撃が本土に届く前に潰しきれるかどうかは話が別だと」
「そういう事よ。同時攻撃はまだ破れかぶれの域にない。大亜連合の攻撃に新ソ連が便乗する程度で、大亜連合もまだ他の戦線を放置できる域にはないようだわ」
「……多少の被害を許容しての水際作戦の範疇に抑えるつもりですか」
「老人会の皆様はそのつもりのようね。下手に先制攻撃をやり過ぎて破れかぶれのABCなんてやられたら堪ったものじゃないし、本気で破れかぶれのABCを予防しようと思ったら、私や達也君が先手取って向こうの本土を片っ端から中華鍋にしてあげないと無理そうなのよね」
結局の所、後先を考えなければ敵勢力の撃退そのものはさして難しい話ではない。二人の間でそれは共有された前提である。その上で、先制攻撃抜きで拠点への攻撃に対する防衛能力を問うならば、二人は凡百の精鋭の域を出られない。
半端に殴り過ぎれば逆効果、じゃあ二人で中華鍋量産で先攻制圧というのも流石に無い。詰まる所、何処までこの国の防衛戦力に任せて、何処からを怪物的に駆逐し、敵を泣き寝入りさせるか。そういう打ち合わせであった。
「取り敢えず、新ソ連の方は北海道の国防軍に足止めさせているうちに私がどうにかするつもり。大亜連合からの攻撃についても、先遣隊を蹴散らせば取り敢えず大丈夫になるかしらね」
「……どうにかする自信の程は?」
「そうねえ、不安を挙げるなら、大亜連合の先遣隊の有能そうな人と作戦前にちょっとお話をしておきたいのだけれど、達也君に綺麗さっぱり消されちゃったりしたらちょっと困るわね。まあ、その時はその時よ。達也君たちが気にする話じゃないわ」
真由美に頼らず大亜連合の先遣隊を撃退しろ。それが彼女からの要求だった。特に否定するような大義も達也の手元に無い以上、話はそこで終わった。お話の言語が何か、お話しされた人がどうなるか。魔女の腹の中には母の魔法演算領域が入っている。明らかに機密度が高くてロクでもないだろう作戦の詳細を問う意味もない。
「結局の所、先輩をどうにかできない時点で大亜連合と新ソ連の臨時同盟だろうと大局的にはとっくに相手の詰みだ。終局までに他が無事かどうかはさておき、な」
「私達がやるべきことは、生き残ること、ですね」
深雪との情報共有で達也は単純な生存闘争こそが情報を得た上での自分達の帰結であると語った。
冴種真由美は本人が述べたように、
そして、誤解に基づき
真由美の千里眼を以て語られた迫りくる脅威も、大半の九校戦選手達にとっては遠い出来事であり、真由美自身もそう済ませるつもりである以上、九校戦は何事もなく続く。
新人戦初日で勢いを途切れさせなかったこともあり、第一高校の一年代表達は男女ともに大崩れせずにエース級を中心に点を広く拾っていく。
女子クラウド・ボール、男子アイス・ピラーズ・ブレイクでは第三高校の大エース、一条将輝と一色愛梨が優勝し、男子クラウド・ボールでは第二高校が意地を見せる展開となるが、それらでも二位や三位はきっちり確保しているが故に新人戦単体でも第一高校の優位は崩れなかった。
そして、新人戦4日目。男子モノリス・コード予選にて、波乱が起きた。森林ステージにて、第一高校と第三高校の試合が組まれ、下馬評では一条将輝を擁する第三高校の圧倒的有利が見込まれていた。だが、結果は第一高校の勝利であった。十三束鋼、吉田幹比古、森崎駿の華々しい高校デビューである。
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