異形の七草   作:メダカにジャム

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意外と早く仕上がったので初投稿です。


九校戦編9

「まずは、地形ガチャに祈りを捧げなさい。一条選手のいる第三高校相手に砂丘*1を引いたらほぼ負け確定。開幕稜線上がってからの火力制圧ゴリ押しで幹比古君が炙り出されて、無理矢理落とされるのが目に見えているからね。捨て身の奇策は一応与えるけど」

 

 冴種真由美が一年のモノリス・コード代表選手達に与えた第三高校対策の第一声は、埋めようのない戦力差に基づく残酷な宣告だった。

 

「次に最悪なのが渓谷。水分が多いから、一条選手の火力が大幅に上がる。十三束君の負担が大幅に上がるから攻撃チャンスはかなり限られるけど、それでも吉田君が隠れながら戦える分だけマシ」

 

「……反対に、森林は大当たりよ。遮蔽が豊富で十三束君のタンク性能が活きてくるし、相手も脱法格闘技を仕掛けられるとは思っていないだろうから奇襲起点も豊富。貴方達の将来のキャリアの為にも地形有利取ったら絶対に勝ちなさい。その為の地獄の特訓のネタには事欠かないことを偉大な先輩様として保証してあげるわ」

 

 それでも、ジャイアント・キリングをワンチャン行けると言ってもらえたのならば。魔法師として、男の子として、全力で乗るしかなかった。地獄の特訓は本当に地獄の特訓だったとは、十三束、吉田、森崎三人が秒で口を揃えて言う話だ。

 

 何処にあるのかよく分からない謎の演習場に誘拐じみたガチ隠蔽で連れて行かれた先で対面したのは、仮面少女レディ・レイヴンズと覆面ノッポ先輩なる明らかに真由美の悪ふざけ全開の格好をさせられたワケありっぽい三人組。

 

 悪ふざけ全開の仮装とは裏腹に第一高校本戦チームすら霞む怪物トリオに八つ当たり気味にボッコボコにされた後涙も枯れるほど扱かれたなんて話は墓の下まで持って行きたい黒歴史である。*2

 

 それ以外にも、個別訓練にてそれぞれの得意を徹底的に磨き上げ、真由美の伝手で紹介された軍人や不審人物による特訓でそれらを組み合わせた過程は、他人には勧められない過酷さながら魔法科高校生であってもあり得ない贅沢だった。

 

 ある日担当エンジニアである達也を巻き込んでのぼやき雑談で出てきた数字は、どう考えても人件費中心に七桁後半は軽く吹っ飛んでいる計算になった。怖くなって先輩に相談した森崎であるが、相談を受けた服部は苦笑しながら問題ないという。

 

「俺らの時も、地獄の特訓と称してアホみたいに贅沢なのをやらせてくれてな?怖くなって大師範に相談したんだが。向こうは向こうで金銭報酬割引クーポンと大師範のお手伝い券系のものを交換して貰っているらしい。だからまあ、大師範に労力を割いて貰うことのありがたみを噛み締めてしっかり結果で返せよ」

 

 故に。標的がキルゾーンに誘い込まれた今。仕損じるぐらいならば、実戦魔法師など廃業してやるという意気込みで三人は一条将輝率いる第三高校代表選手達に相対していた。

 

 認識を誘引するステッカーを貼った十三束が前に出て攻撃を引き受け、接触型術式解体と皮膜型障壁で耐えながら前進する。その後ろから吉田幹比古が靄を出す精霊魔法で撹乱し、三人を分断する。分断された瞬間、将輝が叫ぶ。彼の目には相手の後ろで糸を引く真由美の影が見えていた。

 

「二人とも、パターンD(捨て試合)だ!!森崎の奇襲に気を付けろ!」

 

 そして、将輝からの捨て試合の宣告を飲み込む間もなく、浮いた吉祥寺真紅郎へと襲い掛かる伏兵森崎駿。幹比古による隠密の補助を受けつつ、気配が出てしまう魔法を此処まで温存して樹上からの不意打ちクイックドロウによる乾坤一擲の強襲。魔法力ではエンジニアとエース級選手を兼任する真紅郎の方が総合的に上でも、不意打ちが見事に決まれば先手は問答無用で奪われる。護衛業の一家の出身である駿の対人戦闘の素養は、第三高校生と言えど元来学者先生タイプである真紅郎が敵うものではない。結果は、無情なる瞬殺だった。

 

 ブレインにして不可視の弾丸という副砲を担当する真紅郎が瞬殺されて戸惑うもう一人。駿によるトドメのヘルメット剥ぎ*3を阻止しようと咄嗟に止めに入り、手がふさがり視野が狭まった所で幹比古が並行して準備していたコンボが炸裂。対処する間もなく嵌め技染みたそれらが直撃し、トドメに『雷童子』の電撃がその四肢から力を奪い去る。今度こそ、ノックアウトされた二人のヘルメットは剥ぎ取られた。

 

「ものの見事に刺さりましたね」

「ほぼ理想的な不意打ちが決まっているからな。第三高校も最近は学年が上がってくるとチーム単位なら対隠密能力と正面戦闘能力を何とか両立できるようになっているが……。一年生の段階でそこまで戦力を揃えるのは酷だろう」

 

 観客席で独立魔装大隊の真田と風間が交わす会話の通り、第三高校は編成前から半分詰んでいたとは、この試合のデブリーフィングで一条将輝が堂々と言い放った通りである。

 

 そして、二人を倒そうとする瞬間、鋼は将輝が手出しできないようにステッカーを起点に強く発光。咄嗟に弾幕で牽制しながら視界が潰れるのを防いだ将輝だが、次の瞬間には鋼の皮膜型障壁を纏った被弾も厭わぬ自己加速で距離を詰められていた。マズいと咄嗟に強めの威力で迎撃を試みるも、役目は果たしたとばかりに鋼は一旦下がって規定違反スレスレの威力の圧縮空気弾を回避する。

 

「まずは王手、かけさせてもらうよ!」

 

 いよいよ3対1に持ち込んだ所で、鋼がそう宣誓し、駿が挟み撃ちを仕掛ける形で圧縮空気弾と想子粒子塊射出による起動式構築阻害で二重に牽制を仕掛ける。まずは姿を現した駿から落とそうと将輝が障壁魔法で死角からの攻撃を守りつつ駿に集中攻撃を仕掛けようとした瞬間。強烈な殴打と爆風が将輝を襲った。

 

「がっ!?」

 

 モノリス・コードでは禁止されている筈の直接攻撃を受けたのかと逡巡するも、審判の笛は鳴らない。衝撃を再び頭に貰い、フラつきながらもそれが肉体を吹き飛ばさない非実在の衝撃であったことに気づく。振り向いて確認すれば、そこにあったのは異形の手であった。爆風は異形の手から放たれたのだと将輝は遅れて理解する。

 

 『シャドー・ボクシング』、自己幽体変形術式の応用、相手に触れずに殴る近接格闘魔法。いかな将輝でも2発も無防備に食らえば吹き飛ばされたダメージと相まって立つのが精一杯、何とか気合で立っている有様だ。そして、そこへ容赦なく追撃が襲いかかる。幹比古の精霊魔法による酸素濃度の低下が将輝を襲い、最後の力を振り絞っての干渉障壁を3発目の拳に障子紙のように貫通されてしまった苦さを噛み締める間もなく、その身を崩れ落ちさせる。

 

 将輝が抵抗を失った所で駿がヘルメットを剥ぎ、終了。第三高校はまさかの全員KO負けによる全滅。これには校長の前田千鶴も頭を抱えた。第三高校はどうしても接敵前の搦め手に脆くなりやすく、今回は地の利と相まって最悪の目を引いた形だ。

 

 尚武を掲げる校風の都合上、第三高校には荒くれ度の高い生徒が揃い易い。必然的に直接的な戦闘能力に傾倒した魔法師が多くなるため、心得は兎も角能力的には隠密戦に脆い編成を強いられがちなのだ。

 

 一般的には、魔法師の認識距離に依存した干渉力減衰と、魔法師特有の事象改変の反動の気配察知、この2点により、近くで魔法を使えば大体の居場所がバレてしまう。

 

 だからこそ、隠れ潜んだ相手からの奇襲は、実戦においては致命的な事態として万難を排するべく頑張る訳だが、格闘戦を含めた直接攻撃禁止ルールがあるモノリス・コードにおいては、弱者の奇策に成り下がってしまう。余程本格的なものを除いては。

 

 勘の鋭い四十九院沓子のように、あの状況で不意打ちを防げそうな例外が全くいないわけではない。だが、四十九院沓子は女子であり、モノリス・コードは男子競技かつ第三高校にとっては花形オブ花形である。

 

 いかな校長として指導する機会はあっても、九校戦の編成を決めるのは生徒の自主性であり、一条将輝という大駒任せにチームの戦闘能力を犠牲にしてまで索敵要員などの奇策潰しを頑張るという選択は、人員的にも心情的にも出来るものではなかった。

 

 それはそれとして、時代の違いを真面目に勉強せずに蓋を開けての一目で騒ぎ出す者達の姿は千鶴校長の脳裏において枚挙に暇が無かったが。北陸の英雄たる一条家の御曹司、真紅の貴公子(クリムゾン・プリンス)を擁して尚、一方的に負けたのは、チームの人選に問題があったのではないか、等々。

 

 ともあれ、結果は結果である。地形ガチャで最悪の目を引いたことなど言い訳にはならない。このボロ負けをどう引きずらせず育てようかと考える姿は、立派な校長のそれであった。

 

 続く対四高、六高、八高との予選試合でも、三人は危なげなく勝利を重ねていく。第八高校は、聴覚に優れる選手の活躍により、幹比古の搦め手をある程度防いで真っ向勝負に持ち込めたものの。

 

「クソッ、硬すぎる!」

「素面で魔法式弾いているんじゃねえよ!?」

 

 十三束鋼という異才が無法過ぎた。殺傷性ランクCまでという、攻撃について大幅な刃引きを強いられる規制の下に競技を行うモノリス・コードにおいて、鋼の防御性能は十の家系をすら一部凌駕する。

 

 接触型術式解体は、鋼本体のエイドスに対する魔法式投射を体内の想子流で弾き飛ばす対抗魔法である。これを本当に正面突破できるのは、力づくで全部丸ごと凍らせる芸当ができる司波深雪ぐらいだ。よって原則的には、鋼への魔法攻撃は鋼本体以外への干渉で攻撃することを強いられる。

 

 だが、本体以外への干渉で殺傷性ランクC以下となると、想定を絞って鍛えられた防御を突破することは極めて困難と言う他ない。

 

 遮蔽が無いならば、飽和攻撃で動きを鈍らせたところを、本来ならば対SBを想定した対抗魔法『幻刺撃(アストラル・スティンガー)』で堅牢な幽体をぶち抜いて、そのまま怯んだ隙にKOを狙える一条将輝が例外なのだ。*4

 

 そんな防御の怪物が走れるタンク役として機能してしまうならば、真っ向勝負は無茶という他ない。そうなれば迂回して幹比古を叩きに行ったりモノリスを割りに行くのが常道と言えるが、それを防ぐべく真由美は編成単位で手を打ってある。

 

「ふむ、貸し借りの清算故とは言え、暇潰しの甲斐はあったと言うべきか」

「観客の方々は森崎君にあまり注目していないようですけれどね」

「寧ろそうなったらチームとしては落第点でしょ、姉さん」

 

 観客席の一角に座る一高代表の秘密の練習相手の一人、コードネーム覆面ノッポ先輩を名乗らされていた男性はタンク役として派手に立ち回る鋼、精霊魔法で敵チームを絡め取る幹比古の陰に隠れて一見地味な駿の活躍に及第点を出していた。

 

 一言で言うならば、チームの連携の潤滑油役を担う遊撃手。お家芸たるクイックドロウ、それが齎す速攻適性に拘ることなく、確実に相手を落とせる奇襲等以外では無闇に深追いせず、時には護衛業の経験を活かした釣り役も引き受け、自前の戦果よりもチームの戦果の最大化に徹することが出来るいぶし銀。

 

 使っている魔法は咄嗟の取り回しに重きを置いたオーソドックスなものが中心。捕捉を避けるために魔法を無闇に使わず泥臭く走り、相手の反撃には逃げに徹する。そんな立ち回りは、観客から見れば地味だ。だが。三高校長の前田千鶴はじめ、実戦的な教練の関係者達からすれば、森崎駿の完成度は凄まじいの一言に尽きた。技量に粗は残る。だが、それ以上に実戦魔法師としての精神的な完成度が高い。

 

 九校戦代表選手、魔法科高校の実技トップエースの称号に等しい座にいながら、主戦力を張るには決定力不足と言う嫌な現実を受け容れて。その上で泥臭い補佐役に徹する事が出来る仕事人がどれだけいるだろうか。

 

 自分の魔法を信じられなくなったら廃業を強いられるのが魔法師稼業である以上、栄光と勝利を積み上げるほどに戦闘者として精神的に脆くなるのは最早業界レベルの職業病だ。

 

 分かる者からすれば、戦慄を禁じ得ない暴れぶりだが、レディ・レイヴンズ、覆面ノッポ先輩やその太鼓持ち達はそれらより遥かに目が肥えている側である。彼らからすれば、人付き合い上の必要経費とはいえ、仮にもこちらの手間暇を割いた以上はこれくらいやってくれなければ困るというものであった。

 

 かくして鮮烈極まる高校デビューを果たした三人であるが。惜しむらくは決勝戦の地形ガチャで運に見放されていたことである。一条将輝以外ならば、鋼を盾に時間を稼いで精霊魔法で必殺コンボを狙うことも出来た。砂丘以外ならば、遮蔽で鋼の防御力を水増し出来た。

 

 だが、現実は無情である。地形有利を取ってようやくジャイアント・キリングを狙える編成で地形不利を背負い、手札もそれなりに割れた状態で巨人と相対してしまった。

 

 当然の帰結として齎された第三高校のリベンジ優勝に、前田千鶴はそっと胸を撫で下ろした。

*1
平原の代わりに用意された新ステージ

*2
担当エンジニアとして同行した達也から一部始終を聞いた深雪は人選と伝手と悪ふざけにドン引きしていた

*3
モノリス・コード、基本ルール! ヘルメットを取られたものは、失格となる!by雫

*4
七篠桜花としての特典により、実体を持たないSBへの対抗手段として一条家が真由美から購入した魔法




『シャドー・ボクシング』:自己幽体変形術式を基盤とする古式の流れを汲んだ無系統魔法。自分の幽体を肉体を越えて変形させて固め、殴打の概念を持つ高密度想子体として標的を防御ごと殴り抜く、対精神体格闘魔法。副次効果として、接触魔法における接触判定を変形させた幽体の側に乗せることが出来る。その威力は互いの幽体のフィジカルとでも呼ぶべきものに依存するという癖の強すぎる代物だが、幽体そのものが堅い鋼が使えば、真っ向から弾き返せるのは達也ぐらいのものである。

幻刺撃(アストラル・スティンガー)』:対SBを想定した対抗魔法。堅い貫通用ニードルの想子構造体で標的の想子の外殻に穴を空け、そこに高出力の想子パルス波を叩き込む。多工程故の出の遅さから対現代魔法を想定した対抗魔法としての実用性はないものの、SB魔法、特に見え見えの的を化成体として出現させる大陸古式系に対してはパルス波が術者への反撃も担うため、牽制射撃以上の効果を狙える。人体に直当てした場合、強めのスタンガン程度の威力が出る。市原鈴音はパルス波の代わりに自律神経系干渉魔法を割り込ませてエイドス・スキンのような不随意の常駐魔法を剥がしながら副交感神経のオーバーフローによる戦闘体勢の強制解除を行う派生技、『ピースメーカー』を真由美と共同開発した。

レディ・レイヴンズと覆面ノッポ先輩:真由美がそのトンでも人脈と個人的な貸し借りの清算で連れてくることに成功した裏ボス3人。鋼達は彼らが一体何者なのか、演習会場が果たしてどこだったのか、特に気にすることはないだろう。

遅筆ながらいつの間にか高評価にもうすぐ10万が見えてきたUA、お気に入り1000件突破、ご愛顧いただきありがとうございます。
いつも通りツッコミ等あれば感想欄までお願いします。
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