異形の七草   作:メダカにジャム

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初のオリジナル章です。前々から凄く書きたかったです。


極東混迷編1

 国防陸軍第101旅団独立魔装大隊。沖縄防衛戦後に佐伯広海少将が主導して設立された、十師族から独立した魔法戦力を目標とし、実験兵器の運用試験を主務とする部隊。非主流の魔法師を多く採用し、魔法戦闘に特化した陸軍の秘密兵器枠。

 

 そんな部隊が有する戦略級魔法兵器は二つ。一つは怪物的な戦闘能力及び死亡を除く汎ゆる損傷の無効化を以てリクルートされた特記戦力、大黒竜也の本当の隠し玉こと『マテリアル・バースト』と照準補助器のサード・アイ。そしてもう一つは、傘連判状『七篠桜花』が一角、音無藤乃の戦略級魔法、『ファントム・アルペジオ』及びその補助ユニット、天網。

 

 軍事力のシビリアン・コントロールを旨とする佐伯にとっては業腹なことに、戦略級魔法を使える術者は二十八家系しか日本にはいない。ざっくり雑に言えばフィジカルが足りていないと言う悲しい結論が軍内部の研究で出ていた。

 

 だが、戦略級魔法は手放せないし、戦略級魔法を発揮する為の各種インフラを軍に預けるという約定も含むあの傘連判状の価値、向こうからの譲歩として『七篠桜花』を守るやり方に異存は無いという立場の下、『七篠桜花』の一角を支える機構を独立魔装大隊は手にしていた。

 

 だからこそ、佐伯広海にとって、目の前のクソガキは極めて苦手な相手だった。冴種真由美。地方軍閥同士の寄り合いとも言える十師族からも出奔したアウトロー。『七篠桜花』の最初の一人、草露真夜子。『七篠桜花』という伏魔の傘が本当に隠しているもの。

 

 この国に多くの戦略級魔法を術者ごと齎した大賢者としての功績は凄まじく、かの九島烈すらある意味では越えているとも言える。無下には出来ない。だが、それ以上に彼女の存在を認めたくない。

 

 異次元の索敵能力に基づくゲリラ性能。シビリアン・コントロールの敗北の権化。そんな怪物に居心地の良い巣穴を与えて放し飼いにし、日本を縄張りに押し込んで守らせる。それが自分よりも遥か上の者達による敗戦処理なのだと佐伯は知っている。

 

「そんな顔しなくても、今回の作戦、私達への報酬は前払いで横浜ベイヒルズタワー丸々一本だから、大事なテナントが丸焼けになるかどうかって時に悪ふざけはやらないわよ」

「……は?ベイヒルズタワー……?」

 

 凡そ一見して正気とは思えない、莫大な報酬。故に一瞬呆けるが、少しして上が本気で最終兵器の一つを解禁した状態なのだと理解する。確かに、ウランバートル条約はそれほどの戦略的非常事態だ。この条約を破壊する作戦が成るならば、戦闘艦一隻や二隻分の値段の報酬程度、安いものだ。

 

「で、こっちからの話は簡単よ。タイミングと座標は教えるから『ファントム・アルペジオ』で新ソ連を叩いて。雷門博士と日野烈も動員してね?」

「……その心は?」

「大亜連合北部の軍閥は最近お暇みたいだし、お尻に火をつけちゃえば、『霹靂塔』と『ファントム・アルペジオ』の区別が付くものかしら?」

 

 付くか付かないかで聞かれたら、咄嗟に付くわけがないと参謀畑の魔法師運用に半生を捧げた自分だからこそ断言できた。電磁波と絶縁破壊の波状攻撃である『霹靂塔』と、電磁パルスの掃射である『ファントム・アルペジオ』。

 

 動作原理も違えば、被害の出し方も全く違う。だが、起きる事象そのものを端的に言うならば、電子インフラの麻痺だ。大亜連合北部軍閥は通常兵器を主軸とした派閥の声が大きい、即ち魔法に対する知識が薄めだ。非常事態ならば、まず間違いなく麻痺した獲物に食いつくだろう。

 

「冷静さを奪ったならまず見分けは付かない、確かにそのように予測はできます。ですが、一体どうやって北部の軍閥を暴走させるつもりです?」

「アッツアツのボルシチをこっそりご馳走してやるつもり、とだけ言っておくわ」

「……何処から正気を喪わせるほどアッツアツのボルシチを持ってくるのか、私が知る必要は無さそうですね」

 

 新ソ連側の裏切りを思わせる仕込みをするとは理解できた。それ以上は、少将である自分ですら知る権利はないということだろう。作戦において彼女の担当部分は恐らくは再現性のなさ故に、各軍よりも明確に上の権限にて執行される。このクソガキに無視以上の気遣いをされるのは癪だから、動揺は気合で呑みこむ。

 

「あと、一発は北海道の防衛用に取っておく予定よ。基本的には海軍が『海爆(オーシャン・ブラスト)』で艦隊を吹っ飛ばす予定だから、使わずじまいだと思うけど」

 

 その権限の下に彼女は海軍の『七篠桜花』をも動員しているようだ。彼女の叡智は『海爆(オーシャン・ブラスト)』と『市松裂海陣(フリート・チェックメイト)』、『深淵』に続く二つの対艦隊用戦略級魔法を海軍に齎し、海軍は五輪澪の治療も含めて、陸軍以上に彼女に頭が上がらない状態のようだ。

 

 陸軍も陸軍で『ファントム・アルペジオ』の他にも『七篠桜花』の傘の下にある戦略級魔法、『涅槃寂熱(パクス・イグニカ)』を一◯一旅団外にて保持しているため、自分のファイティングポーズ分だけマシだと言う有り様。

 

 空軍も海軍並みに頭が上がらないだろう。主要兵器であるミサイルの相対攻撃力低下により陸軍や海軍のおまけになりやすいならばと、『七篠桜花』最悪の戦略級魔法、『ラスト・スカイ』の仕込み先が空軍になったからだ。

 

 細々とした話を終えて、冴種真由美は部屋の窓から虚空へと消え去る。その数時間後、後を追うように数々の辞令が佐伯に降りかかる。あの魔女が自分に接触した理由は、恐らく作戦の要諦の一つ、大亜連合からの新ソ連への攻撃の誘発の可否についての最終確認。

 

 後はついでに、自分への釘刺しだろうか。置き土産が、口にして喋った覚えもない自分の一番好きな銘柄の酒だったことに苦いものを感じつつも佐伯は着々と来る決戦の日に向けての準備を始めるのであった。

 


 

 周公瑾、崑崙方院の古式魔法師閥出身者にして、顧傑の一門の門下最後の一人。2092年に横浜中華街の店舗のオーナーという表の顔を手に入れてから、亡命ブローカーなどの自らの手を直接汚さないタイプのテロリスト支援をしてきた人物。そんな存在が、冴種真由美の目に留まらない訳がない。

 

 たとえそこに居合わせずとも、因果の蔦を追い、遠きを見透し、術の気配を聞き取れる冴種真由美は、周公瑾にとって最悪の天敵である。2094年、ブランシュの掃討の際に冴種真由美は彼を発見し、2095年の秋に至るまで放置してきた。

 

 理由は単純。他の誰も彼を見つけて標的にしないからである。潰したところで、一銭の価値にもならない。もう少し公的な立場を持つ人物ならば、真由美が握る程の情報があれば、殴りに行く。だが、冴種真由美は便利屋である。正当な対価なき仕事はしない。彼女に頼らず誰かが周公瑾の尻尾を掴む必要があった。

 

 そして取り置きされている餌の側も、ブランシュが十師族含む何者かに叩き潰されていたのは理解していても、手を下したのが誰なのかは不明。見られているかも知れないとは思う。やり口を変えてみても、手ごたえは変わらない。変わらず見られていたのだとしても放置されている理由も分からず、全く心当たりがない。故に手詰まり。ただ手札をどんどん削られていく師父が怒り狂うのをやり過ごすしかなかった。

 

 だが、今回ばかりは話が違った。周公瑾の側は、削られる手札に焦燥の中で乾坤一擲の策として顧傑が全力攻勢に出ている。ウランバートル条約はその執念の集大成であり、無貌の戦略級魔法師『七篠桜花』と日本に潜む見えない影を炙り出すのが目的だ。

 

 想子波パターン追跡技術の最先端を行くUSNAですら、当時は監視衛星が二度も原因不明の誤作動を起こしてデータなしと手詰まり状態であったらしい。プログラムは正常。宇宙飛行士を派遣してのメンテでもハードウェアに異常は発見できなかった。故に、USNAは同盟国面をしながらも新ソ連と楽しいプロレスの予定が詰まっているのだとか。

 

 そして、冴種真由美の側は、対ウランバートル条約の前払い報酬と称して横浜ベイヒルズタワーが丸々一本与えられた。戦火が及べば当然収益性はガタ落ち、おまけに主要テナントの日本魔法士協会関東支部は敵の主要ターゲットの一つと推定される状況であるところ。

 

 だからこそ、周公瑾が顧傑の切った手札全てを受け取り世話を始めた瞬間。冴種真由美は便利屋のバイトになって以来初めて、前払い報酬のお釣りとしての無償労働をすることを検討した。

 

 その手札の内訳は、陳祥山、呂剛虎ら大亜連合軍特殊工作部隊16名、正規の旅行者面をして入って来たジャクソン父娘、別ルートから密入国してきたUSNAのとっても見覚えがある面もとい非合法魔法師暗殺者小隊イリーガルMAPの一角、ホースヘッド分隊、更には無頭竜に納入予定だった傀儡化魔法師ことジェネレーター20号から29号の10体。特殊CADことソーサリー・ブースター20個。

 

 陸戦適性のある戦略級魔法師が正体不明であると言う話は、それでしっぺ返しを食らった大亜連合と新ソ連のみならず、USNAや他の国々にとっても放っておける話ではない。結果、投入された戦力の総量は、北極の暗闘(The Arctic hidden War)と比しても決して少ないものではなくなった。

 

 そして、周公瑾はついぞ冴種真由美の偵察が通ったことを察することは出来なかった。便利屋のオフィスで甘酒()を呷りながらも、所長とバイトは偵察の結果にげんなりしながら巨額の前払い報酬(横浜ベイヒルズタワーのテナント達)を守るべく雑談をする。

 

「げっろ……。USNAもブリカスもうちにゃ水かけ魔法だけで十分だと言い張るつもりか?」

「あら、ジャクソン父娘は西EUのフランスから来たことになっていたらしいけど」

「はっ、フランスに強い魔法師を対外派遣する余裕なんざある訳ねえだろ。あそこは相も変わらず思想は先進的だがイデオロギーバカの本場だからこそそれに足を引っ張られて技術は後発だ。そもそも強い魔法師はイギリス系依存さ」

「正解はオーストラリアだけどね。娘役の方が同一遺伝子ファミリー間での不完全な精神同期をしていて、辿ったらそっちだったの」

「どっちみちブリカスだろ……なあ、嬢ちゃん。麻婆の具材(ヤンシャオロウ)の仕入れ、こいつらにしねえか?」

「あら、白羊はどうするの?」

「はっ、お誂え向きの技術を向こうがやっているじゃねえか。嬢ちゃんなら、現品を鹵獲してリバースエンジニアリングして国産一号と二号、行けるんじゃね?」

「まあ、どうせ切羽詰まったら手を出す人は手を出すんだし、凡人に無闇に産廃を作らせないのも、天才の務め、かしらね」




 今回名前だけ出した戦略級魔法は全部別途機密レポートとしてお出しする予定です。

 ヤンシャオロウを漢字で書くと両脚羊、九校戦編エピローグで述べた誰かさんの顔にぶちまけるアッツアツの麻婆の餡としては凄惨な味になりそうです。

 本作主人公は汚いものも腐るほど見てきた身であり、敵を狩猟対象としてしか基本見ません。

 顧傑の外法の産物であるジェネレーターやソーサリー・ブースターについても、言われたらヘッタクソなモツ料理を美味しいモツ料理とレシピに仕立て直すぐらいのノリで鹵獲・解析・国産化・レシピ作成まで割と気軽に引き受けてくれます。

いつも通りツッコミどころあれば、感想欄まで。
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