異形の七草   作:メダカにジャム

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今更ながら魔法理論、原作設定の独自解釈に基づく捏造設定注意報出しときます


入学編8

 一方で、司波達也は魔法競技ベースでルールを決めることを視野に入れた上で、まずは敵の性能を把握しようと風紀委員会を中心に軽く聞き込みをしていた。結果、手数が兎に角多い、空間把握能力など射撃に必要なパラメータは最高峰、高い三次元機動力を持つ等の既知の情報を除いて新しく分かったことは主に三つ。

 

 一つ、冴種真由美はハンデとしてCAD1個までに抑えていたとしても、必ずこちらの死角や弱点を暴いて狙ってくる。異様なほど干渉力をぶつけ合う力押しを嫌っており、それで勝てることが目に見えていてもまずやらない。

 

 二つ、相手への直接攻撃が禁止されているルールでも、魔法師によく効く目障りな瞬きや不快な音、酷いときには手持ちの香料を用いた悪臭による嫌がらせを自分諸共巻き込む形でやってミスを誘発させてくる。本人はそういう嫌がらせにかなり強い。

 

 三つ、試合形式だと相手の手の内を探る為に先手を譲ったり、切り札を切るのを静観する癖がある。相手への評価に応じて多少落ち着くが。

 

 他にも冴種真由美が魔法ありのにらめっこ大会に優勝したとかクソコラマニアだとかどうでもいい情報が紛れていたが置いておく。総じて言えることは、試合形式だと、相手の情報を抜くためにかなり手加減する癖があり、また攻め手の大半が一言で言えば()()()()、に終始する。彼女は戦術論において認識と理解の限界こそが魔法師の限界であると公言しているらしく、それを鑑みれば凄くらしいやり口だと言える。

 

 単に妹が勝ちに行くだけならば、王道は正面突破だ。魔法の発動速度と干渉力と規模。国際基準に基づく単純評価なら、誓約*1の一時解除で完全体となった妹は人類の限界とほぼ同義。亡き母の魔法演算領域を隠し持っていた所で、所詮は精神構造干渉魔法とそのおまけ。何でもありの戦争なら鬼に金棒以外の何物でもないのだが、試合形式の枠組みにおいては、毛が生える程度の効果しかない筈だ。

 


 

 合流し、互いの成果を共有し合った司波達也と司波深雪は冴種真由美と再び相対していた。

 

「ピラーズ・ブレイク、ね。良いわよ。会場はそっち持ちで構わないわ。ただ、どうにも不満そうね。深雪さん」

「…………あまり、短期決戦に傾き過ぎてしまうのはどうかとは思います。無論、先輩に時間を与えることの危険性は多少なりとも承知しているつもりですが」

 

 司波深雪の表情は確かに歯切れの悪さを感じさせるものだった。勝ち目があるルールを設定しなくてはならないが、同時にある程度ぶつかり合いをしやすいルールでなければ、自分が納得できない。それには、速攻が最適解となりやすい現行のルールだと、少々もやもやが彼女の中に残ってしまう。

 

「そうね……じゃあ、ピラーズ・ブレイクの原型*2は知っているかしら?」

「いえ」

「早い話、氷柱を設置するのは元々選手本人がやるものだったのよ。魔法技能師開発第六研究所の性能試験に、寒冷化でより積もるようになった仙台の雪の処分をかねてやったじゃれ合いが始まりだそうよ」

 

 真由美が語るのは、かつて彼女が七草だった頃に他の十師族、師補十八家との顔合わせをしたときに拾った社交の歴史ネタ。今では術者の移動が無いため、九校戦の種目の中でも選手たちが思い思いの装いをするファッションショーとしても有名なアイス・ピラーズ・ブレイク。その原型は十師族、師補十八家を含む二十八家、数字落ち(エクストラ・ナンバーズ)を輩出した十の魔法技能師開発研究所の六番目、仙台にて今も稼働するそこにあると言う。

 

 同研究所の研究テーマである、『魔法による熱量制御』については、想定された運用の一つに『魔法による除雪』が軍事インフラを支えるものとしてばっちりカウントされている。雪の処分を兼ねて氷を溶かし合っていたじゃれ合いが今では魔法科高校の夏の風物詩の一つになっている。当然、元々ウィンタースポーツだったものを夏にやる以上はルール調整も必要であり、氷柱の設置を運営側がやるようになったのは、その一端である。

 

 真由美が説明した原初のルールは以下のようなものであった。

 

1. 三ラウンド先取制で各ラウンド内の運営は今のルールとほぼ同じ

2. 各ラウンドは三分経過かどちらか一方の氷柱が全滅した時点で終了して、優位側がそのラウンドの勝者となる。

3. お互いの陣地の後ろ側に雪山がストックとして用意される。雪山への干渉は最初とインターバルのみ可。

4. 試合開始時に五分間の猶予が与えられ、お互いに雪山から氷柱を作成する準備期間がある。

5. ラウンド終了後は一分間の相手エリアに攻撃できないインターバルに入り、お互いに倒れた氷柱を起こす行為、雪山からの氷を補充、氷柱の修復、新造が許可される。

6. ラウンド開始前、所定の位置に所定の高さと底面積で存在する氷柱のみ、次のラウンドの攻撃目標となる。

 

 総じて負担がかなりキツいとしか言いようがない。特に昔はCAD技術の未発達により、想子の燃費が悪かったので、一人でやったら一試合でへとへとになるだろう。聞けば、昔はインターバルを専門として補助するビルダーと組むやり方もあったらしい。達也がやる分には、ラウンド中は防御を半分捨てて分解連打、インターバルで再成で全復旧という反則的な強さを発揮できるが。ふと、そこで達也の思考は引っかかるものを感じ取った。

 

「先輩、一つ伺っても?」

「何かしら」

「先輩が幾ら他人の視界すら特定条件下で盗み見ることが出来たとしても、認識したものへの干渉については、先輩本人の魔法演算領域の性能次第でしかない。俺達はそのように認識していたましたし、俺のように構造に干渉する魔法を使い熟す事は流石に無理だと考えていたのですが。……俺が沖縄で分解と同時に使っていたもう一つの魔法は簡単でしたか?」

「え?」

 

 兄のまさかの指摘に司波深雪が固まる。言われてみればそうだ。構造干渉は母や兄のようにそこに最適化された魔法演算領域を持っていないとかなり難しいものがある。だが、兄のもう一つの魔法、『再成』はどうか。司波深雪は全く何も考えていなかった。エイドスの変更履歴の過去遡及なんて神業を出来るのは兄だけだと思ってそこで思考停止していた。

 

 だがしかし。例外は目の前にいる。余人には見えない精神構造なんてものに順応し、四葉の積み重ねた数多くの知見を化け物じみた見切り一つで飛び越え、初見で魔法演算領域の切除からの移植なんて言う、兄に頭のおかしい難易度と言い切らせたオペをやってのけた化け物が。

 

「難しくはなかったけれど、そんなに簡単でも無かったわ。ああ、言われなくても流石に使わないわよ?競技性が壊れるわ」

「……どういうことなのか、説明していただけますか?先輩。今私は冷静さを欠いています」

 

 達也の問いかけの答えは肯定、彼女が『再成』を使えることの肯定であった。氷柱の修復、立て直しをOKとするルールならば、『再成』は競技性を完全に粉砕する反則技である。達也としては大前提となる観測が出来るならば普通にあり得るなと心の片隅で思ってはいた。深雪としては仰ぎ見るべきお兄様の大権能の片割れを行使出来るなんて羨まけしからんという思いでいっぱいであり、冷気を撒き散らさないだけでも本人にしてみればかなり我慢した方である。

 

「沖縄で大暴れする達也君をついガン見しちゃった時に構造情報とエイドスの履歴領域に目のピントが合うようになった、と言ったところかしらね。それで、達也くんのあの魔法って要は情報強化、でしょ?」

「ええ。その通りです」

 

 真由美の指摘にやはり其処まで仕様を見抜かれていたかと内心苦々しく思いながらも肯定を返す達也。どうやら、当たって欲しくない予想、最悪の対人攻撃手段をこの怪物は獲得してしまっていたようだと悟る。恐らくこの怪物は達也程『再成』を使い熟す事は出来ないが、達也よりも余程『エイドスの履歴領域』の参照権を使い熟せるだろう。元々この化け物は潰し合いならば司波深雪が一対一で相対しても良いという達也なりの許容ラインを余裕でぶっちぎる存在だが、こうなると単独で四葉より厄介と評価せざるを得ない。

 

「情報強化……?お兄様のあの魔法が?それなら、お兄様の魔法演算領域を大きく占有するような事態には」

「達也君の場合はあれと合一する形で変異を伴って異常発達したエイドス・スキン生成系だったもの、具体的には自動バックアップ取得処理とエイドス履歴のフルコピーに最適化された変数取得能力がバカ重いのよ。そんなものがない私だと、具体的には致命傷を負ったときの自動復活が出来ないし、普通に猿真似をやるだけでも変数入力とそのハンドリングが露骨に足を引っ張って単一目標単一工程なのに0.7秒の壁が遥か遠いってレベルよ」

 

 情報強化。対象のエイドス*3の全てあるいは一部を複写した魔法式により、エイドスの可変性を抑制する対抗魔法。多くの魔法師が無意識に自分の肉体を保護するようにエイドス・スキンと呼ばれる肉体のエイドスのコピーによる情報強化で全身を守っていることも鑑みれば、文字通り、魔法師ならば割と誰でも使えるような魔法が兄の大権能の片割れの正体だと真由美は言い、兄もその解釈を肯定するが、深雪は一発では飲み込みきれなかった。思わず兄の魔法演算領域の内情を口にしてしまうが、返答は自分よりも余程深い兄の仕様への理解であり、脳が何かに蝕まれるような感触が深雪を襲う。それはそれとして、流石に兄には一歩どころか三歩は及ばない性能の劣化具合に少し安堵する思いもあったが。

 

 完全に性能を見抜かれている。物心付いた時には既に亡くなっていた先代当主、大叔父の四葉英作は四葉の魔法演算領域分析技術の基礎を築いた精神分析の達人だったが、この化け物は目が慣れたの一言でそれを一蹴して踏破する。四葉の研究畑の住民ならば一発で発狂しかねないなと達也は内心苦笑するしかなかった。

 

 そして、エイドスのフルコピーへ最適化された変数取得能力、これは達也にとっては祝福であり呪いだ。再成の運用上重要な即応的全復旧には必須だが、同時にこれがエイドスの履歴参照権を有する達也の魔法演算領域から汎用性を奪う枷でもある。

 

 この枷が無い真由美ならば、『再成』などよりも余程悪辣で無法極まりない応用技、在りし日の達也が才能の向いて無さを理由に諦めたそれの可能性に辿り着いていると考えるのが自然だ。母の魔法演算領域を取り込みともすれば母以上に使いこなしかねないコレを相手にまさか出来ないだろうなどと楽観するのは単なる怠慢である。

 

「話を戻しましょうか。兎も角、私は試合形式で喧嘩をやる以上はちゃんと試合に収まるように手加減をするし、かと言って深雪さんの振り上げた拳の先を迷子にするような薄情もやらないつもりよ」

 

 ともあれ、冴種真由美の提案した氷柱を自分で生成して建て直す事を可とするルールそのものは『再成』と言うゲーム破壊技を除けば悪いものではないと二人は判断し。ここに、二人の喧嘩のルールは定まるのであった。尚、達也から冴種真由美の隠し玉の推測の詳細を後で聞いた深雪は、戦慄しながらも達也が真由美を四葉よりも敵に回すと厄介な相手とする理由を骨の髄から理解した。出来るという確証はないと前置きされたが、まさか幾ら何でもそんな無法は出来ないだろう、などとアレを相手に楽観する選択肢が無いという達也の弁は全く以て同感であった。

 


 

 司波深雪と冴種真由美の喧嘩騒動は、真の事情通にとってはビッグニュースであっても、第一高校においては、ただのちょっとした騒ぎ程度のものでしかない。そんなことよりも余程重要な一週間が差し迫りつつあった。去年色々あって一週間延期になっていた、新入生勧誘週間である。

 

「全員揃ったな。ではそのまま聞いてくれ」

 

 風紀委員会本部にて、揃い踏みした8名を見回して、風紀委員長の渡辺摩利が立ち上がる。今期の風紀委員は一年生が教職員推薦枠から森崎駿、部活連推薦枠から千葉エリカ、生徒会推薦枠から司波達也が選ばれ、更に司波達也は近年俄かにお試しで運用されているオペレーター枠での参加であった。

 

「今年も、またあのバカ騒ぎの一週間がやって来た。さて、まずはあのバカの動向からだ」

 

 しみじみと呟いたかと思えば、一瞬で眼光が鋭くなった摩利の言葉に一同の背筋が伸びる。第一高校のあらゆるクラブが有望な新人を求めて理性の箍を緩め、気安くCADに手が伸びる一週間、悪ノリすると一番始末に負えない大怪獣の動向は最優先で把握すべき事項である。

 

「今の所何かをやり始めるような気配は無し。まあ、後味が悪いことにならない範疇で騒乱に火をつけて回るのがあいつのやり方だから、我々が身構えて臨む今日明日で何かをしてくる可能性は極めて低いだろうな」

「なんで退学になっていないんですかね」

「テストだとあいつがぶっちぎりの一位で、本当に後味が悪いことにならない範疇で騒ぎを回すから、やり過ぎるバカは即座にあいつにとっちめられる。抑止力でもあるんだよ。そもそも、あいつの魔法の不正使用は、検知そのものが極めて難しい」

 

 大惨事が起きない程度に統御された騒乱、それこそが冴種真由美の傍迷惑な趣味のせいだと渡辺摩利は風紀委員のぼやきに応えつつ、眉間をつまみながら語る。

 

「一年の時は風紀委員をオペレーターとして指揮する戦法を開拓して、やり過ぎて大暴れする先輩達を効率よく鎮圧するような可愛げがあったんだが……いざとなれば馬鹿みたいな捕捉範囲と射程で数か所を同時に一方的に狙撃出来る化け物が生徒会や風紀委員の側にいると騒乱がちっとも盛り上がらないと気づかれてしまってからはこのザマだ」

 

 余談になるが、オペレーターという、直接的に戦闘には寄与せず、しかし状況の整理を行う上では重要なポジションを魔法科高校の生徒の中から育成すると言うアイデアそのものは、第一高校の卒業生の主要な進学先である防衛大では喜ばれる話だった。魔法師の仕事は基本的には専門性の高さから中々潰しが効かない体力仕事であり、オペレーターは数少ない例外の一つだ。そうでなくても、普通に魔法師を合理的に指揮できるオペレーターというものが軍において希少な人材である以上、多少なりとも補充の助けになるような種まきはしておきたい。第一高校の風紀委員のオペレーター用の装備はそんな思惑から冴種真由美が個人的なコネで軍から払い下げて貰った中古品であった。

 

「司波には、あいつが残したマニュアルにもう目を通して貰っている。マニュアルが残してあるのはまあ、あいつなりの甘い責任感、みたいなものだろうな。ま、それはそれとしてこれを部活の成績が良くなればそれでよしで煽るこの学校もそれに乗るあいつもロクなものじゃないが」

「取り敢えず、お手並み拝見だな。ドローンの中には間接照準システム入りのものもあるから、必要なら援護宜しく」

 

 その後は一年生向けに改めて規則等の説明がされ、風紀委員達の最も忙しい一週間はここに始まりを告げるのであった。

 

*1
司波深夜が開発した被術者の同意を前提に精神的な行動制限をかける魔法。司波兄妹においては、司波深雪の魔法制御能力と引き換えに司波達也の分解の機能制限をさせる運用がなされていた。

*2
本作独自の考察込み捏造設定

*3
大半の魔法の書き換え標的となる情報体。現象はエイドスに記述されている通りの挙動をする。




6/22: いつの間にかお気に入りが609件、しおり252件、UA24920件...拙作が暇潰しになっているようでありがたい限りです。間違って短編にしていたのに気づいたので連載に切り替えました。
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