小説あらすじの部分でも記載した通り、オリ設定のオンパレード・オリキャラぽつぽつと言った作品となりますので、それでよろしければお楽しみください。
更新は修正でき次第投稿、掲示板での最新話の投稿までは今しばらくかかりますのでご了承のほどよろしくお願いいたします。
だいたいスレの3分の1~半分程度で一話となりそうです。
掲示板にも投稿した旨を乗せますので、そちらから来た方はこちらでもどうぞよろしくお願いいたします。
アビドス。広大な湿地帯と巨大な湖沼を抱える巨大な自治区。
彼は一人、降りしきる雨にスーツを濡らし、見かけた廃屋の軒先に佇んでいた。
傍らには資材の乗った荷車が置かれている。アビドスの外から彼が曳いて持ってきたものだ。
「私はアビドス高校三年生、副生徒会長の小鳥遊ホシノです」
”初めまして、シャーレの先生です。それにしても……こんなに凄いとは思わなかったよ”
彼の前にやってきた少女は、桃色の髪を雨合羽に収めて小さく頭を下げる。
いくつかの荷物を片手にまとめて持った彼女は、目の前に立つ大人の困ったような様子に首を傾げ、
「ああ、そうか。先生はアビドスに初めて訪れたんですね。だからそんなに無防備に……。ではどうぞ、合羽です」
”合羽?”
「ええ、合羽ですよ。それからこれはスリングショットです、どうぞ」
”これはご丁寧に……。あ、でもそっちはいいかな”
手渡された大きな雨合羽を言われた通り羽織ってみせると、ついで差し出された物体を見て、先生は頭を振った。Yの字に枝分かれした先にゴムが結ばれたそれは、弾を遠くへ飛ばすためのいわゆるパチンコである。
しかし彼の役割は武器を振るうことではないし、それを上手く利用できる気もしなかった。
「……そうですか。まあ、先生がいいならいいですが」
ホシノは頷き、
「あ、言っておきますがここで銃は使えません。すでに体験されている通り、ここアビドスは『百年以上雨がやまない土地』です。ここでは弾丸の火薬はたとえ銃越しであっても『湿気って』使えなくなります。なのでこうして……っ!」
語りながら、突然あらぬ方向へと手にしていたヒモ状の物体を振り抜く。
先生へ渡そうとした安定性重視のスリングショットとは違い、ホシノの巧みな体捌きによって一気に加速をつけたスリングは保持していた石を風切り音を立て水浸しの地面へと叩きつけた。
”今のは、石? それに、あれはワニかい?”
「……逃げましたか。はい、弓や投石器などを使って戦うんです。今のはアビドスの沼地に多く生息するアビドスイリエワニですね。気をつけないとガブっといかれて、数日は痕が残りますから気を付けてください」
”痕が残るくらいで済むんだ……”
そそくさと遠くへ泳ぎ去っていくワニの姿を眺めつつ、ホシノが手元のスリングを弄り回しながら言う。
軽すぎて普段は使わないのだというそれをポケットにしまい込んで。
「さて、とりあえずうちの学校まで案内します」
”うん、よろしくお願いします。学校はどんな感じ?”
「全校生徒六名の小さな学校ですが、何とかやっていっていますよ。支援の依頼が受理されるとは、思ってもみませんでしたけど」
”どれくらい助けになるかはわからないけど、出来る限りは手を尽くすよ。これでも先生だからね”
「助かります。それじゃあ行きましょうか、ユメ先輩たちを待たせてもあれですから」
”あ、持ってきた物資はどうしようか。一応、雨に濡れないよう覆いだけしてそこに置いてあるんだけど……”
「それは後で回収するので、そのままで大丈夫です」
”わかった、じゃあいこうか”
ホシノに連れられて歩くこと数時間。
足首まで浸かる湿地帯をへとへとになりながら歩き抜いた先にあったのは、くすんだ色ながらも浸水対策の施された大きな校舎だった。
ホシノに中を案内されるがまま、先生は皆が集まっているという生徒会室に訪れる。
「こんにちは先生! ようこそいらっしゃいましたー! さあさあどうぞ椅子に座って、お茶はいかがですか? お腹は空いてない? あ、合羽はその辺に掛けちゃっていいですよ!」
「ユメ先輩、落ち着いてください。すみません先生、お客さんが来るのは久しぶりなので。ノノミちゃん、お茶菓子お願いできる?」
「はーい。シロコちゃん、選ぶの手伝ってもらえますか?」
「ん、わかった」
わちゃわちゃと動き出す少女たちに、先生は微笑ましそうに笑みをこぼしながら合羽を脱ぐ。
言われた通りに脱いだ合羽をウォールハンガーに引っ掛けたところで、椅子に座り直したホシノが一つ咳払いを落とす。
「……さて、じゃあ改めて自己紹介。私はアビドス高校生徒会副会長、小鳥遊ホシノ。でこっちが、沼にハマって遭難して、危うく死にかけて先日まで休んでいたせいで留年かましたアホアホ生徒会長の梔子ユメ元先輩」
「アホ……アホ……」
「私は十六夜ノノミ、アビドス高校の二年生です♣」
「砂狼シロコ、二年。先生、よろしく」
”じゃあ私も。シャーレから来た先生です、よろしくね”
「あと二人、一年生がいるんだけど、今ちょうど校舎と道路の定期点検に出ちゃってるから、帰ってきたら紹介しますね。それで、先生に、というか連邦生徒会に常々お願いしていた支援の件なんですが」
”このポイントに置きっぱなしになっちゃってるから、回収してもらえると助かるかな。これが資材のリストだよ”
「おおー!! これで校舎の補修とか浮島の増築とか、色々できそうだね! ありがとー先生!」
「助かります、先生」
”気にしないで。それより、浮島って言うのは何か聞いてもいい?”
ホシノがちらりとユメの方へ視線を送り、ユメが小さく頷いた。
「……ええ、そうですね。詳しくお話しした方がよさそうです、このアビドス自治区の現状について。そういう話は後輩の子が上手なので、まずは二人が帰ってくるまでお茶にしましょうか。ほらアホアホ先輩、回収含めて二人に連絡入れておいてくださいね」
「ユメはアホアホじゃない」
「シロコちゃん、弁護は嬉しいけど私上級生……」
「……?」
砂狼シロコ、立場が下の相手に対して敬称をつけるということを知らない乙女である。
ホシノも以前から矯正しようとしてきたが、これについては頑として譲らないため、せめて身内限定でと言い含められていた。
ユメがその立場から脱却する日は来るのだろうか。
「あははー……」
それから少しして。
「ただいま戻りましたー」
「ただいまー、あいっ変わらずジメジメジトジト、耳がふにゃふにゃになっちゃ、誰ぇ!?」
合羽を脱ぎながら部屋に入ってきた二人の少女のうち、猫耳を生やしている方がその耳をぴんっ! と立たせながら先生の方を凝視していた。
見知らぬ大人が突然現れればさもありなんという状況だが、連絡を受けて帰ってきたにしては過剰な反応だった。
「あ、お帰り二人とも。こちら連邦捜査部シャーレの先生。先生、二人が例の一年生です。二人とも、自己紹介して」
「(ユメ先輩、一体なんて言って二人を呼び戻したんですか?♠)」
「(おやつなくなっちゃうから早くって……。急ぐかなーって)」
「(ん、ユメだから仕方ない)」
「(シロコちゃん!?)」
端っこでこそこそと話している上級生たちを尻目に、ホシノに促された二人は姿勢を正し、
「ええと、初めまして先生。アビドス高校生徒会書記の、奥空アヤネです」
「生徒会会計の黒見セリカよ。連邦捜査部って、支援に来てくれたってこと? あ、持ってきてって書いてあった荷車ってそれ!?」
「そうそう、資材がいーっぱいきたから、校舎の水没個所とか、浮島の補修ができるよ!」
「よかった、オアシス沼の方は前よりも水かさが増してたので、そろそろ浮島の修理が必要だと思ってたんです! あの量なら十分補修できますね!」
「ま、その修理は私たち六人……いや、ユメ先輩はお留守番だから五人でやるしかないんだけどね」
「あれ、私ハブ……?」
「ユメは大沼に行かせるとあぶない」
「そ、そんなことは……」「ダメ」「はい……」
喜ぶ皆を尻目にしょぼくれるユメ。なお彼女にはすでに沼で死にかけた実績があるため、ホシノ同伴以外では沼への侵入は禁止されていた。
ホシノ同伴で許可が下りるのは、物理的に引きずって逃げられるからである。
そのホシノがアヤネへ視線を向け、
「そうそうアヤネちゃん、先生にアビドスの現状とか歴史とか、かいつまんで教えてあげてくれないかな?」
「あ、はいわかりました! でも、先輩じゃなくていいんですか?」
「こういう話はアヤネちゃんが一番得意だからね。ほらユメ先輩、しょげてないで」
「うぅ、ホシノおじさんは優しいねぇ……」
何処から取り出したのか、アヤネはそそくさとプロジェクターなどを用意し始めた。
学校の備品ではあるが、もっぱら映画鑑賞会に大活躍している骨董品だ。
そこに新入生用のアビドスプレゼンテーション映像の入ったDVDデッキを繋げると、部屋の電気を消してホワイトボードをスクリーン替わりに、アヤネの説明会が始まった。
「では、説明させていただきます!」ミレニアムガクエン
「まずこのアビドス自治区は、かつて砂漠の街として知られていました。しかし、その砂漠が謎の砂嵐の頻発によって急速に拡大、市街地にも多大な悪影響を及ぼした結果、かつての栄華を誇ったアビドス自治区はあっという間に弱体化していったのです」
「ところが、百年以上前に突如として降り続く豪雨が始まり、当初はすぐ収まると思われていた雨が降り続いたことによって鉄砲水、洪水などの発生件数が次第に増えていきました」
「ここまでなら、まだ良かったのですが……」
「ある日、アビドスで最も大きなオアシスから大量の水が噴きあがりました。原因は不明ですが、大雨によって地下に何かしらの異変が起きたためと言われています。この水は今も湧き出し続けており、砂漠で染み込んだ水を吐き出し続けています」
「大雨と湧き水、この二つによって砂漠の砂は瞬く間に足を絡め取る汚泥に変わり、今ではどの場所も、どんなに浅くても足首までは埋まるほど水かさが増しています」
「また、この雨には火薬を湿気らせる独特の効能と言いますか……。先生もご存じかもしれませんが、たとえ屋内であっても、アビドス自治区にいる限り火薬は役に立たなくなります。これのおかげで自治区内の抗争はほとんどなくなりましたが、逆に沼地を生息域にする生物が多く繁殖するようになり、現在のアビドスは熱帯のジャングルに近い生態系が形成されている状態です」
「ごくっ……ふぅ。ええと、そういう理由でアビドスは大沼地帯、豪雨地帯として広く知られるようになりました。特にオアシス周辺は巨大な沼になっていて、水かさが増しすぎて沼の底にたどり着くには専用の装備が一式必要になるという試算が出ています」
「現状、沼に浮島──ウキを付けた土台を浮かべて、その上に建築物を建てることで休憩地点を作ることに成功していますが、それも補修が必要になってきていましたので……」
「ただ、それもその場しのぎにすぎません。根本的な解決方法、最低でも雨か湧き水、どちらかを止める方法を見つけない限り、このアビドス自治区はいずれ全て沼の底に沈むでしょう」
「以上、アビドス自治区とその遍歴の説明でした!ご清聴、ありがとうございました」
「わーぱちぱちぱち」
「上手に出来てたよぉ、偉い偉い」
”うん、大体事情は分かったよ。シャーレの資料では詳しいことが載っていなかったから、説明してもらえて助かった。ありがとう、アヤネ”
「いえいえ! こちらこそありがとうございます、先生!」
「ああ、そういえば先生がなんで対策しないで来ちゃったのか、当ててあげようか」
ふと、思い出したようにホシノが言う。
どこかからかうような調子を残した声音で。
「先生、アビドスのことを調べて、湿地帯だってことは知ってたよね? でも普通の服装で来た。別に雨具とかも持たずに。どうして?」
”外からは、普通の砂漠に見えたんだ。あれはなんだったんだろう”
「うん、そうだよね。そうなんだ、このアビドス自治区は、外から観測する分には『砂漠の広がる自治区』でしかない」
「だけど、一歩足を踏み入れれば、そこには湧き水と豪雨に晒される沼地が広がってる。……そう、外から見るアビドスと、中に入って実際に触れるアビドスとは、まるで別物なんだよ」
困っちゃうよねえ、なんてホシノがにへら、と笑い、
「私たちも不思議だったけど、きっと他の自治区の子たちも不思議だったろうね。間違いなく沼地にいたのに、境界線を跨いで振り返ればそこには砂漠が広がってる。……そういうおかしなことも手伝って、今のアビドスは全校生徒六人の寂れ切った学校になっちゃったんだ」
そう語る彼女の横顔には、隠しきれない憂いのようなものが宿っている。
三年生、このアビドス高校で二年の月日を過ごした彼女にしかわからない、いくつもの思い出があるのだろう。
そんな、湿気とは違うしんみりした空気が漂い始め、
「はいはい、ホシノちゃんそこまでー! 暗い話はいいから、これからの明るい話をしよう! ね!」
「……そうですね。すみません、アホ先輩」
「ひぃん……! まだ引っ張るの……?」
「先生も雨の中移動してお疲れでしょうし、今日のところは一休みしませんか?♦」
「……先生? なんで合羽を着ようとしてるの?」
”え? いや、一休みでしょ? 物資も届けたし、一度シャーレに”
「これから帰る? え?」
「先生、知らないかもしれないけど夜の沼地はほんっとーに危険だから! 悪いこと言わないから今日は校舎で一晩過ごした方がいいわよ」
一年生組の困惑した言葉と気遣いにほっこりしたが、しかしそうもいかない。
すでにシャーレには多数の仕事が押し寄せてきており、一日とて書類から離れることはできないのだ。
それを先生が口にすれば、
「……わかりました、書類が溜まっているのでは仕方ありませんね。では誰かが付き添いで自治区の境界までお送りします。ホシノ先輩、この後手の空いている人って……」
「私は用事があるし……。シロコちゃんかノノミちゃん、お願いできる?」
「ん、任せて。完璧な送り狼を見せてくる」
「それは駄目な奴ですよ、シロコちゃん」
「……送り届け狼」
「……ギリギリおっけーです♠」
おっけーだった。