アビドス自治区へようこそ、先生   作:くらーげん

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Tips:アビドスの情報はあまり出回らない。ミレニアムやゲヘナの諜報力であっても多くを知るには物理的な危険が伴う。

今回は2話更新です。こちらは1話目です。


13話 超天才清楚系病弱美少女

 見回りを終え、片手に串焼きの残骸を握りしめたシロコたちが帰ってきた。

 ただし、人数は三人に増えている。車椅子の美少女が、セリカとシロコの後ろに鎮座していた。

 

「ただいまー」

「ただいま、皆お客さん」

「おかえりー! お客さん? どなた……って車椅子!? 大丈夫だったの!?」

「自治区の入り口で立ち往生してる人がいるっていうから見に行ったのよ。担いで校舎まで来たから大丈夫」

 

 二人の後ろで車椅子に座っている美少女は、ぺこりと改めて二人に頭を下げると、部屋にいたユメとホシノの方へと向き直る。

 白い髪に白い服。一度見ればなかなか忘れられないビジュアルは、一応二人も知っていた。

 

「ありがとうございます、セリカさん、シロコさん。まさかこれほどとは思っておらず、ご迷惑を……」

「気にしないで、情けは人の為ならずって言うでしょ?」

「いいトレーニングになった」

「えっと、それであなたは確かミレニアムの?」

「はい、初めまして梔子ユメさん、小鳥遊ホシノさん。私、ミレニアム最高峰の超天才清楚系病弱美少女、明星ヒマリと申します」

 

 ヒマリが名乗ると、ユメはぱちんと両手を打ち合わせて朗らかに笑った。

 それだけで場の空気がぐっと和らぐ。

 

「あ、名前は知ってくれてるんだ! えへへ、嬉しいなあ! 初めまして、生徒会長の梔子ユメです!」

「同じく副会長の小鳥遊ホシノだよー、よろしくねー」

「……この名乗りに突っ込まれなかったのは初めてですね」

「え? 美少女なのはその通りでしょ?」

「(突っ込んでよかったんだ……)」

 

 ヒマリの名乗りにはいつも誰かが突っ込んでいたが、この場でそれをする者はいない。

 シロコとセリカはすでに一度自己紹介を受けているし、ユメはと言えば言われたことを真正面から受け取って頷いているからだ。

 ついでに同じ部屋にいたホシノはスルー技術を駆使して放っておくことにした。藪蛇はごめんである。

 にやけ半分、驚き半分といった奇妙な表情で、ヒマリがユメの隣の副会長へ視線を向けた。

 

「ほ、ほほー……! え、この人いつもこんな感じなんですか?」

「まあおおむね?」

「ヒマリちゃん、その服暑くない?」

「暑くはありませんが……湿気が凄いですね?」

「こんな気候だからねぇ。あ、セリカちゃん。給湯室に棚卸した缶詰積んであるから、甘めの奴持ってきちゃってー」

 

 ホシノの言葉に、セリカは、あー、と声を漏らす。

 賞味期限が迫っている缶詰は結構な量になる。六人では少々消費量が心許なく、かと言って期限が切れかけの缶詰を配って歩くのも風評的に少々考え物だ。

 ここで少しでも消費できるならと、セリカも頷いた。

 

「りょーかい、あとお茶も持ってくるわね」

「セリカちゃんは良いお嫁さんになるなあ」

「はいはい」

 

 セリカが缶詰を一抱え持ってきた頃、荷物を片付け終えてからヒマリを中心にシロコ、ユメ、ホシノがテーブルを囲んでいた。ヒマリの隣には起動された小さなドローンが浮かび、通信中を示す小さなLEDランプが点いている。

 それぞれが缶詰をぱかぱかと開け、好きなお茶請けを用意しつつ、さあお話を始めようかとユメが口火を切った。

 ちなみに、アヤネとノノミは先生と一緒に来学期時に仕入れる非常用物資などを発注しに、市街地へ赴いているので不在である。

 

「それで、んぐ。なにか用事があったんでしょ? ずずーっ」

「ええ、このアビドスで活動しているビナーの調査に」

「びなー? なにそれ」

「ヒナならこの前来たけどねぇ」

 

 口々にビナーなるものが何なのかと首をかしげるが、誰にも思い当たる節は内容だった。

 困惑した様子で、ヒマリが続ける。

 

「……ええ、っと。あの、大きな蛇のようなもので、アビドスが砂漠地帯であった頃に最初期の活動が観測されているのですが……」

「……あ、沼蛇のこと!?」

「あれビナーって言うんだ……」

「でも沼蛇は沼蛇でしょー、ビナーってなんか……カッコよすぎない?」

「いや、カッコよすぎるかどうかは別にどうでもいいけど。それで、調査っていうのは?」

 

 ホシノの言葉をバッサリ切り捨ててセリカが聞いた。

 

「これまでも、伝え聞く情報から推測だけはしていましたが、この度カイザーPMCがビナーの本拠地までの経路を作ると聞きまして。ぜひ私も同行し、調査を行いたいと」

「んー……。そもそもなんで調査が必要なの? そこを聞きたいんだけど」

『部長は話が回りくどい。あ、初めまして、私はエイミ。そこのヒマリ先輩と同じ『特異現象捜査部』所属。ビナーの詳細なデータを手に入れられれば、私たちが調べている『デカグラマトン』に対する調査も進められるの』

 

 ドローンがぺこりとお辞儀のように体を傾ける。

 

「こちら、ドローンでミレニアムから超遠距離中継中の暑がり、エイミです」

『多分そっちに行ったら私は五歩以内に動けなくなる』

「まあともかく、そういうわけなのです。よろしければご同行させていただけませんか?」

「うーん……。調査そのものはPMCとの合同作戦の方が確実だと思うけど?」

「合同作戦ですか?」

「うん、先生のお願いもあって、オアシス沼の本校舎に潜入するの。その時の沼蛇とか機械獣の誘因をPMCの人たちにお願いしてるんだ。だから調査するならそっちの方がいいと思うけど、どうしよっか」

「なるほど、それでしたら私も誘引作戦の方に加えていただけると助かりますね。確実な調査も出来ますし、必要でしたら作戦のお手伝いも──」

 

 ヒマリのその言葉に、まず反論したのはホシノだった。

 

「論外ですよ、車椅子で同行できる場所じゃありません。危険すぎます」

「でも調査だけなら、ドローン飛ばして事務所で待っててもらえばいいんじゃない?」

「ん、それなら大丈夫なはず」

 

 危険すぎる、というのがホシノの意見であり、それはもちろん当然の指摘である。

 特に足元が不安定極まりないアビドスで、車椅子というのは言葉を選ばずに言えば足手まといに他ならない。

 ただの観光ならばともかく、戦闘が発生する可能性が高い作戦に同行させるのはホシノとしては許可しがたい。

 それを理解しているセリカとシロコは、屋内からドローンで調査するだけに留まってもらえばいいと反対意見を出す。実際、ミレニアムからここまで通信を確立できているドローン技術がある以上はそれも十分可能であるはずだった。

 通信そのものは、各地にあるミレニアム名義の通信アンテナの帯域を間借りして中継している形になるが、それだけの技術力があれば問題なくヒマリの調査も可能だろう。

 

「うーん……。まあ、それなら大丈夫だろうけど……。ユメ先輩、一応理事に打診しておいてもらえますか?」

「うん、今連絡してみるね。ちょっと席外すから、ゆっくりしててヒマリちゃん」

「ありがとうございます」

「……それにしても、ビナーってなんか似合わないわね」

「沼蛇は、沼蛇だもんねぇ」

 

 ユメが教室を出てから数分後。

 ガラガラぴしゃーんと教室の扉を開けたユメは、ヒマリへサムズアップを突きつけた。

 

「前線基地からオッケー出たよー!みんなー、もうすぐ前線基地への人員配置まで漕ぎつけられそうだってー!」

「さすがに人手が多いと早いわねー」

「例のカイザーPMCの基地ですね? しかし、あのカイザーがこうも精力的に自治区に協力するなんて……。にわかには信じがたいですね」

「こんな場所だからねえ、いがみ合ってたらケリがつく前にお互いの息の根が止まっちゃうんだ~」

「息の根……」

 

 へらへらとホシノが笑う姿に、ヒマリも思わず頬を引きつらせた。

 

「ま、まあホシノちゃんのはちょっと大げさだけど、持ちつ持たれつでやっていかないと危ないところではあるから」

「大変なのですねぇ……。ところで、このようなところで非常に原始的な武器を使用されているようですが……。銃火器はともかく、他の技術を取り入れたりはなさらないのですか?」

「って言うと?」

「つまり、ミレニアムや他の技術系学校に依頼して、装備や機材の拡充を図ったりなどは?」

 

 誰が答える? という視線の交わし合いに、代表してホシノが答えることに決まる。

 ふう、と一息入れてから、ホシノは缶詰のフルーツを一口食べて、

 

「それはねえ、学校同士で大々的にやるには、生徒数や自治区の人数的に規模が小さいんだよ。かと言って個人間でのやりとりとなると、手続きや物資の持ち運びが手間になっちゃうし……。なにより、今のアビドスは百年間の湿地帯っていう特異な環境で蓄積された技術があるからねー。それをおいそれと他自治区に見せびらかせたりは厳しいかなあ」

 

 つけ足すように口を開いたのはユメだ。

 そろりと自分の開けた缶詰から桃を盗み取ろうと忍び寄る砂狼の魔の手をはたき落としつつ口を開く。

 

「私は個人的にはいいと思うんだけどねー。でもやっぱり、特別なものを作ってもらって、それがいざって時に壊れちゃったらって考えると、あんまり頼りたくないのも本音かなー」

「ん、自給自足がうちのモットー」

「なるほど……。まあ、確かにホームでの優位性を捨てかねない技術交流ですから、慎重にもなりますか」

「真似したところで、他所で使えるものでもないからねぇ」

 

 結局のところは環境が違い過ぎるのが原因なのだ。

 それをひしひしと感じていたヒマリも、話題を出したはいいものの、そうだろうなと心中で頷いていた。ミレニアムにいれば、技術的優位性を保持することの意義など嫌でも理解できるというものだ。

 話題がひと段落したところで、セリカが声を上げる。

 

「ところでお昼過ぎたけど、皆お腹空かないの? 私は空いたわ!」

「うへー、じゃあご飯にしよっかー。缶詰も色々あるし、お昼は期限が迫った缶詰の消化大会だねぇ」

「ん、サバの味噌煮食べたい」

「私も食べたい! ホシノ先輩ある!?」

「あるよぉ、ご飯も炊けているよぉ」

「ヒマリちゃんは何食べたい? おかずの缶詰ならいっぱいあるよー」

「えぇ……? で、では量が少ないものを……」

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