今回は2話更新です。こちらは2話目です。
PMC前線基地が設置されてから一週間後。アビドス一行と先生はその基地へ訪れていた。
入り口ではPMC理事が一行のことを出迎える。
「おはよう、アビドスの諸君。それとシャーレの先生よ」
「おはよーございます、理事さん! 今日からしばらく、お世話になりますね!」
「君たちの宿舎は向こうのコンテナハウスだ。チェックはしておいたが、不備があればすぐに申し出てほしい」
「わかった、ありがとう理事。……あ、先生は?」
「先生はゲストルームを宿に使えるようにしてある。どうせ誰も使わんのだろうしな」
”ありがとうございます、助かります”
理事が連絡事項を伝えていると、ジープからノノミが缶詰の詰まった袋を持ち出してくる。
軽く肩で担ぐ程度には大量に詰まっているそれは、完全に消費しきれず廃棄となった缶詰たちだ。
「バイオ燃料用に廃棄缶詰持ってきましたよ~♡ 少しは足しになると思います♦」
「おお、それは助かる。……いや、多くないか?」
「私がアビドスに入る前の缶詰だから、六年位前から買い足されてたやつかなぁ? 売れないし、食べきれないから使っちゃって?」
「まあ、頂けるというのならありがたく。おい、兵站部に回しておけ」
「了解です」
理事の傍に控えていた兵士が袋を受け取ると、冗談のような重さにすぐさま人を呼んで、数人で運んで行った。理事はその様子を見てちょっと引いていた。
それから一行は今夜泊まる宿となるコンテナハウスへと歩を進める。
内部は広々とした、ベッドと机、そして各種電化製品が完備されたビジネスホテルのような状態だった。
普段から自分の部屋か学校に泊まるだけの生徒たちにとっては、ちょっとした旅行気分である。
「おおー、結構部屋広いよ!」
「二段ベッドが三つ、ほんとに合宿所みたいだねぇー」
「ん、私上がいい」
「修学旅行みたいでワクワクしますね♠」
「アヤネちゃん、どっちがいい?」
「私は下がいいかな……」
「じゃあ私上ね! 二段ベッドって初めて!」
「ユメ先輩は下で」
「えっ!? なんで、私も上がいい!!」
「凄いですね、梯子昇れるようになったんですか」
「そこまでひどくないもん!! ホシノちゃんの意地悪!!」
「先週屋上から貯水タンクに上がるための梯子滑ってましたよね」
「何で知ってるの」
「見てたんで」
「ひぃん……」
一方その頃。
一度ミレニアムに戻った後、再びアビドス入りしたヒマリは、エイミドローンと共にPMC基地に訪れていた。
出迎えた理事に連れられ、理事の執務室まで移動する。
その間の移動は、実に人の目と興味を引くものであった。
「さて、君がミレニアムから来たという?」
「ミレニアムきっての超天才病弱美少女、明星ヒマリと申します。今回はよろしくお願いしますね」
「……あ、ああ。とりあえず、情報管制室に席を設けてある。そこを使ってほしい」
「わかりました。……しかし、見れば見るほど……」
「ん、なんだ? 私の顔に何かついているかね」
眉──正しくは眉の位置にあるそれらしきパーツがくい、と上がる。
「いいえ、カイザーらしくない方だと。ああ、申し訳ありません、不躾でしたね」
「構わんさ、最近は自分でもそう思っている。ああ、何か問題があれば部下に申し付けてくれればいい。特に君の体では不便だろう?」
「ご心配には及びませんよ、この通り」
理事の視線は腰よりも下に向けられている。
そこには車椅子の車輪──はなく、代わりに四本の足がにょきりとはやされていた。
見方によってはカッコよさもあるのだろうが、動くところを見ると大変気持ち悪いこと請け合いである。
しかし安定感はあるので、ヒマリとしては十分満足していた。
「……来た時から思っていたが、きも、いや、独創的な……」
「少しばかり手を加えまして。この湿地帯仕様に改造出来ましたから十分活動は可能ですよ」
「そ、そうか……」
「それで、よろしければこの後の予定を聞かせていただいてもよろしいですか?」
おほん、と理事が一つ咳払い。
「うむ。まず準備が出来次第、威力偵察のためにうちの部隊をオアシス沼に差し向ける。それによって沼蛇……君の言うビナーを誘引できれば、その隙にアビドスの面々が本校舎に侵入し、一切の情報をかき集めて離脱する、という算段だ」
「であれば……。情報処理は私の方でも受け持ちましょう。もちろん、機密などには触れませんよ」
「それは助かるが、そちらの業務はいいのか?」
「手伝い程度でしたら問題なく進められますから。……それでは、ひとまずはこの辺りで」
「ああ。部下に部屋まで案内させよう、先生の部屋の隣になるが、問題ないか?」
「ご心配ありがとうございます、お気遣いなく」
がしゃがしゃと足を動かして、兵士の後についていくヒマリを見送る理事。
その背中が角を曲がって消えていくのを見届けてから、理事は一人ごちた。
「さて……。いよいよアビドス沼への挑戦か。例の兵器も準備は出来ている、今度はかつての二の舞にはなってやらんぞ」
物資の移動が終わり、作戦準備が整ったその日、アビドス高校の面々と、それに協力するPMCの一団が基地の広場に集まっていた。
それぞれが弓や投槍器で武装し、PMCの中にはコイルガンなどで武装した重武装兵も混ざっている。
傭兵として雇用されていた便利屋の面々はここにはいない。彼女たちの雇用はあくまで経路上の敵の掃討であり、今回の作戦とは別のことだからだ。
一方のアビドスの面々もまた、普段使いよりも数段強力な武装で身を固めていた。
特に顕著なのはホシノだ。彼女の手には弓ではなく、彼女の背丈の倍ほどもある巨大な戦斧が握られていた。
腰からはスリングが下がっているが、それはあくまで補助であるのは明白だった。
「諸君、おはよう」
おはようございます理事、とPMCから声が上がる。
理事の横には、四本足でわしわしと動く車椅子に乗ったヒマリと、その傍らに浮かぶドローンがいる。
「我々は敗北してきた。五年以上、このアビドスの環境に打ちのめされ、伸びきった鼻っ柱をへし折られ、泥にまみれて戦い続けてきた」
そして、その理事自身もまた、普段の防水仕様のビジネススーツではなく、自身の機体と直接接続したパワードスーツを着込んでいる。
一回り大きくなった理事は、気炎を上げて部下たちへ語りかけていた。
それは事実であり、また屈辱の歴史でもある。理事が理事としてその地位に就いて以来、味わったことのない苦味だった。
「貴様らもそうだろう。アビドスの者たちに助けられなければ、我々は今頃この沼の底に沈んでいた。……だからこそ、我々はこの恩を返し、またこの借りをあの沼に潜む化け物に返してやらねばならん!」
彼らは、かつてアビドスの地に敗北した者たちだった。
かつて、カイザーの名のもとに我が世の春を夢想した者たちだった。
それが今、己のプライドと、年若い戦友への返礼のために立ち上がっていた。
そうあらねばならぬと、ほかならぬアビドスの地で培った価値観は、彼らをカイザーとはまた別の集団として成り立たせつつある。彼らが、それを知ろうと知るまいと。
「その足掛かりとして、これよりオアシス沼威力偵察作戦及び、アビドス高校本校舎調査作戦を行う。この作戦はアビドス高校との共同作戦であり、彼女たちが本校舎の調査を行うための囮だ」
一つ、息を吸う。
「ここにおられるミレニアム校のヒマリ殿が我々の情報支援に参加される。いつものむさ苦しい後方支援に花が添えられるわけだ、諸君も嬉しかろう」
「ははは、そりゃあいいですな。機体の調子も上がるってもんです」
兵士たちの中からヤジが飛び、理事もその言葉に鼻を鳴らすように笑った。
「浮かれるのは良いが、浮かれすぎてあの蛇の餌にでもならんように気をつけることだ。それからアビドスの諸君、そちらの作戦の健闘を祈っている。くれぐれも注意してほしい」
「はーい! 気を付けるねー!」
「ユメ君、君はもう少しだな……」
「うちの先輩がすみません……」
軽やかなユメの声に、周囲からまた笑い声が湧きあがった。
長く戦いを共にした彼らにとって、彼女はいわばアイドルに近いものだった。
その彼女が一度命を落としかけた時には、理事を含めたPMCの全員が彼女を捜索したほどなのだから。
「おほん。今回は我らの戦友との共同作戦だ、彼女にもどちらにも、無様を晒さんよう気を入れて事に臨め! それから、アビドスに同行するシャーレの先生にも一言頂きたい」
”わかりました。皆さん、シャーレの顧問をしている先生です。この度は私の我が儘から始まった作戦に参加してくれて、ありがとうございます”
タブレットを携えた先生が、皆の前に立つ。
”ですがどうか、無理だけはしないでください。成果が出なくても、生きていれば次があります。必ず、またここに皆で戻ってきましょう”
「ありがとう、先生。だが一番危険なのはあなただ、くれぐれも無茶はしないよう」
”あはは、気を付けます”
「そうしていただきたい。──では諸君、作戦開始だ!」
まとめるには長い内容でしたので分割2話とさせていただきました。