誤字脱字報告、感想、ありがとうございます。
いつも励みになっております。今回はほぼ加筆なし、原文そのままでお送りしております。
オアシス沼。
正確には、アビドス自治区に存在『した』巨大オアシスを中心として、そこから湧き上がる地下水と、降り注ぐ雨が、その周囲に溜まる水によって流れ出ることなく溜まり続けた場所。
長く揺れる水草、濁った水色。そして、そこに住まう数多の機械獣たちと、その頭目とされる常軌を逸した尺度の機械蛇。
その全容は計り知れず、また測り知ろうとした者はみな沼の藻屑と消えていった。
沼蛇。その怪物の潜む沼に、再び挑もうとする者たちがいる。
「中型機械獣、十五! いえ、十七、八、ああクソまだ増えます!!」
「臆するな! 数ならばこちらが上だ、ケダモノ風情をわからせてやれ!」
「大型の駆動音を感知ィー!! 二体ですっ! こっちに来ますっ!」
「その前に小物を片付ける! 沼蛇に食いつかれる前につまみ食いなどされるなよ!」
「了解!」
カイザーPMC。このアビドス自治区へ、『宝探し』に来たという企業の手の者たち。
始まりはそうであった彼らは、今や一角の狩人へと成長していた。
機械人たる彼らに、成長という要素があるかどうかはともかくとして。
「素材の回収は後回しだ! とにかく数を、圧を減らせ!」
「次から次へと……!」
わざわざ道を作り、大きな音が立つモーターボートを持ち込んで、オアシス沼を爆音を立てて搔きまわしていく。
それを狙い、あるいは苛立ちを露わに水面から顔を出した機械獣めがけ、矢や槍が投げ込まれ、次々にその動きを縫い留めていった。
しかし、一体、二体、打倒したとて。さらに次がやってくる。
「大型、急速接近中! もうすぐそこです!」
「よし、道を開けろ! 我々が邪魔にならんように!」
その次を、打ち倒す者もいる。
ボートが大きく道を逸れ、そこへ水上に浮かぶパワードアーマーが辿り着いた。
八つの支柱のような大きな脚部を備え、桁違いの燃料を燃やして水上へと鎮座する湿地、水上用超大型パワードアーマー。
『大型接近、構えてください』
「了解した。任せたまえ」
通信から聞こえるヒマリの声に、頷いたのは理事だった。
すでに纏っていたパワードアーマーをコックピットとし、そのまま乗り込む形で接続されたそれは、四本の腕と、肩に二本の巨大バリスタを供えた完全な戦闘用機械。
「ゴリアテの力、見せてやろう!」
理事が唸り、水面がはぜる。
濁った水面を突き破って、大型の機械獣がその牙を突き立てんと襲い掛かった。
ゴリアテの拳が、その機械獣の横っ面に突き刺さる。直進していたベクトルが横へずらされ、大きく逸れた巨体はゴリアテの脇を抜けていく。
近くの浮島へと着地したその巨体をゴリアテのカメラと、同行していたドローンのカメラが捉えた。
「でかいな、こんなのもいるのか!」
『爬虫類に近い頭部、大きな背びれ、それにこれは……。二足歩行で腕は補助ですね。かつて生息していたという、恐竜に近しい姿でしょうか』
「恐竜……。ああ、データベースで一度見たことがある。スピノ何たらとか言うやつだ」
『ええ。ですがもちろんそれだけではないでしょうから……後ろからもう一体!!』
ヒマリの声に被せるように、ゴリアテの背後の水面が跳ねあがる。
浮島に着地したものと同系の、スピノ型というべき巨大機械獣が、ゴリアテの背へと猛然と食らいつき、
「その程度で、このゴリアテが怯むものかァ!」
完全に噛みつかれる前に、一対の腕がその上下の顎をはっしと掴み上げる。
ゴリアテのカメラは前後に設置され、一時的に情報管制室のコンピュータと接続された理事の電子頭脳によって、その死角を補う役割を果たしていた。
「バリスタ発射!」
撃つ。
両肩のバリスタが丸太のようなボルトをスピノ型の体へ突き立てる。それに怯んだのか、顔を振ってゴリアテから離れると、そのスピノ型は一度水の中へと戻っていった。
その隙を窺っていたのか、浮島のスピノ型は体を起こし終え、体をまっすぐに伸ばし、
『なっ、いけません! 高エネルギー反応!』
「なに──ッ!」
光が瞬く。
とがった口先を大きく開き、尾から顔までをまっすぐに伸ばしたスピノ型。
その背びれは左右に展開され、そこからは大量の電気があふれ出るように放出されていた。
理事がバリスタ自体を盾のようにして体を庇った次の瞬間、目も眩むような閃光と共に、強烈な一撃がゴリアテへとくわえられる。
「ぬ、ぐゥ──!! これはっ……!」
理事の心中に一瞬の焦りと恐怖が浮かび、とっさにバリスタを切り離してその位置から体をずらした。
次の瞬間、バリスタは一瞬で消し飛び、さらにその奥の水面が大きくえぐり飛ばされる。
『高出力の荷電粒子砲……! 絶対に防御してはいけません、防いだ先から溶解します!』
「なんだと……! せいぜいレーザー兵器だっただろうに、また新しい玩具を持ち出してきたわけか!!」
『幸い、射程はそう長くありませんし、姿勢を見る限り安定した足場がなければ使えませんが……』
「水の中は奴らのテリトリーだ、どちらを選んでも地獄ということか……」
外したことを悟ったのか、それとも一部武装を破壊してひとまず満足したのか。浮島のスピノ型は悠々と再び水に戻り、またゴリアテ目掛け突進していく。
しかし、それで怯む理事ではない。こんなところで作戦を台無しにするわけにはいかなかった。
「上等ではないか、ハナから不利など承知の上だ! 我々の技術力とて、そう負けてはおらんところを見せてやる!!」
気炎万丈で無事な四つ手を打ち合わせ、向かい来るスピノ型へ向けてこちらから猛進する。
水上での使用を目的として改造、改良されたゴリアテは、足場の悪い場所であっても十全に理事の理想とする動きを叶えるに足る性能を持っていた。
「理事! 支援を!」
「いらん! デカブツはこちらで片付ける、お前たちは他のを近寄らせるな!」
「了解! 御武運を!」
部下に声を張り上げつつ、再び牙を剥くスピノ型をひっつかみ、その真横から迫るもう一体の負傷したスピノ型へと叩きつける。
自動での再装填が終わった生き残りのバリスタが狙いを定める。
掴まれている方のスピノ型が、そこから逃れようと背びれから放電を始め、
「させるかァ!」
バリスタの一撃が、閉じたままの背びれを貫通し縫い留めた。
『放電停止、背中のアレが発電機構と放電板を兼ね備えています! アレが壊れれば荷電粒子砲は撃てませんね』
「それと尻尾だ、放熱機構か何か知らんが、奴はあれも使用していた。背びれか尻尾を破壊すればあのイカれた装備は使えなくなる!」
背びれを損壊しもだえ苦しむスピノ型を投げ飛ばし、先に損壊していたスピノ型へ近づく。
それを利用したのか、相手は水中から飛び上がる勢いでタックルを仕掛け、ゴリアテを吹き飛ばそうとした。
しかし、それも四つ手で抑え込まれ、さらにそこから尻尾を両片腕でがっちりと固定されてしまう。
「こちらも、破壊させてもらうぞ! ぬおぉぉぉ!!」
胴体の側と尻尾の側を、それぞれ左右二本の腕で抑え込まれる。
さしものスピノ型も、これには悲鳴のような咆哮を上げ抵抗した。
しかし、機械獣の部品をふんだんに使用した特製チューンのゴリアテの馬力はそれすらも食い破り、その尾を一息に引きちぎった。
「これで、自慢のとんでも装備は使えまい!」
その時、投げ飛ばされたスピノ型は尾を失ったもう一機を前足と口でがっしりと掴むと、水中から浮島へと勢いよく投げ飛ばす。
水中での挙動に必要な部品である尾を失ったと判断したためだった。
そして、生き物のように動きながらも、冷徹な機械である彼らは一対二でありながら劣勢となりつつある事実を覆すべく、さらなる手に打ってでる。
「なんだ、奴は何を……ぬぐっ!? なんだ、こいつはっ!」
背びれを破壊されたスピノが、自身の体を破壊されるのもいとわずにゴリアテにがっしりと組み付いて離れなくなる。
振り回される腕によって装甲は剥がれ、次々と機体が損壊していくにも拘らず、離れようとする気配がない。
その目的に気づいたのは、管制を行っていたヒマリの方だった。
『浮島のスピノがバリスタのボルトを引き抜いて捕食しています! 体内に高エネルギー反応! 背びれの急速発電です!』
「おいおいおい、荷電粒子砲は使えなくなっただろう!」
『いえ、これは……。理事、ボルトの素材は!?』
「金属だが!?」
『まずいです、すぐにそこを動いてくださっ』
音よりも早く、それが来た。
発射体勢にもならず、口を小さく開いただけの状態から、何かが射出され、ゴリアテの腕部を組みついたスピノ型の胴体ごと吹き飛ばす。
「な、ぐ、ぉぉ……!? なんだ、なにがっ……!」
『すぐに動いてください! 今のはレールガンです!』
「荷電粒子砲とレールガンの抱き合わせだと!? ええい、本格的にどうかしているぞこいつらは!」
『とにかく背びれです! 背びれを潰してください!』
「了解、だ!」
射出されたのは、ゴリアテが使用したバリスタ用のボルトだった。
その一撃によって組みついていた方のスピノ型は行動不能になったが、まだ背びれの残っている方のスピノ型は健在だ。
理事は即座に浮島へ上がることを決断すると、再び攻撃を加えようとするスピノ型へと近づいていく。
「そう何度も、撃たせるものか!」
浮島でスピノ型に組みつこうとするが、相手もそれを理解しているのか、後ずさりしながら充電を続けている。
その足へと、ゴリアテのバリスタが放たれた。装甲板を突き破り、その足を浮島の骨組みへ縫い留める。
その隙にスピノ型へと近づくと、バチバチと音を立てて充電する尾びれをむんずと掴み、そのまま一気に引きちぎった。
「これで、しまいだ!」
大口を開けて絶叫するスピノ型に、拳の嵐が降り注ぐ。それを止めようと小さな前足で掴みかかるものの、それでどうにかなる馬力ではなかった。
繰り返し、声が上がらなくなるまで徹底的に殴り続ける。そうして頭部が損壊したところで、ゴリアテの動きがようやく止まる。
理事は沈黙したスピノ型を打ち捨てると、小さく息を吐いた。
「はぁ……。くそ、本番はまだだというのに、腕一本にバリスタ一機を失ったか」
『すさまじいものですね、機械獣とは……。カメラ越しとは言え、こうしてみるだけでも寒気がするようですよ』
「だろうな。私も正直背筋が凍りそうだったよ。……さて、それで他の様子はどうだ?」
『……いいタイミングです、来ましたよ』
『──全隊に通達! 沼蛇の反応を検知! 猛スピードで戦闘区域に接近中! 注意せよ!』
ヒマリではなく、PMCの管制官の通信が響く。
全隊に緊張が走った。
「……本番だな。君のお目当てもやってきた、気を引き締めていかねばな」
『ええ、お互いに』