ぎっくりをやって行動不能になったりしておりました。またぽつぽつ投下していきますのでよろしくお願いいたします。
いつも感想、誤字脱字報告ありがとうございます。
本校舎上階。
さあ行くがよいとユメの手から放たれたアヤネのドローンが、一目散に音を立てつつ飛翔していく。
その後を、数体のカメレオン型が音もなく追尾していった。
「うわー、凄い勢いで追いかけてく……」
「うあああああ……私のドローンちゃんがああああああ……」
「ま、まあまあ……。私たちの探索の助けになってくれたんだから……」
「うぐ……。そ、そうですね……。とにかく、ドローンが囮になっているうちに、生徒会室まで急ぎましょう!」
毎日コツコツと改造していたドローンを犠牲に、一行は先に進むことができるようになった。その犠牲をしばらくは忘れないだろう。
カメレオン型が完全に姿を消したのを確認してから、一行が再び歩き出す。
水の浸食を免れている上階は、頻繁に機械獣が徘徊しているせいか埃もほとんど積もっておらず、歩くたびに埃が舞うような状態ではなさそうだった。
「皆、移動は静かにね。セリカちゃん、周囲の音源探知お願い」
「出来る限りやるけど、分かった瞬間に襲われたらどうしようもないからそのつもりで!」
「大丈夫、今度は油断しない」
「何かあったらすぐ反撃ですよ~☆」
『あいつの音、私のドローンでも拾えなかったんだけど……』
「セリカちゃんは耳がいいんですよ。さっきも足音聞こえてたよね、セリカちゃん」
「聞こえただけだったけどね。ちなみに、今のところ連中はドローン追いかけていったから安全よ」
『ええー……。アビドスこわい……』
ミレニアムから絶賛中継中のエイミが思わずつぶやいた。ここまでもキヴォトスではそうそうお目にかかれないような接近戦ばかり目の当たりにしているが、ちょっと人体の神秘を超えてきていると感じ始めていた。
何はともあれ、音を立てないよう細心の注意を払って上階を進んでいくと、やがて両開きの扉があつらえられた生徒会室にたどり着く。
「さて、ここが生徒会室だね。鍵は……掛かってる」
「……あれから出てきた鍵が合うんです? なんでまたピンポイントで……」
「どこかのキーボックスに掛かってたのをあいつが食べちゃったんじゃない?」
「なんでもいいですよ~、早く開けましょう♣」
「ん、私が開ける。いざご開帳」
「さ、なにがあるっかな~……?」
扉が開く。
百年以上閉ざされてきた、アビドス高等学校生徒会室の扉が。
中は湿度のためか埃こそ積もっているものの、それが舞い上がるようなことはなく、少し手を入れればすぐにでも使えそうなほどに清潔だった。
”ここが、アビドスの生徒会室”
「そうみたい。……なんだか不思議な感じ、時間が止まってるみたい」
「とりあえず、必要なものを探しましょう。書類関係は片っ端から回収しますよ」
ホシノの言葉で、外を警戒するセリカとドローン操作中のアヤネ以外の全員が室内を探し始める。
ロッカー、引き出し、本棚、書類がありそうなところは全てさらっていく。
「っていうか先生、一体何の書類が見たいの?」
「……そう言えば聞いてなかった」
”アビドスの、今の状況になる前の記録かな。あるいは、この状況が始まった頃の記録。それがあれば、今の状況が何によって引き起こされたのか探る手掛かりになると思うんだ”
「そんな昔の書類、残ってますかねー?」
「とにかく全部持っていきましょう、のんびりしてるとカメレオンが戻ってきちゃいます」
「あれ、ドローンは?」
「今必死に逃走中、もうすぐ追いつかれそうです」
「そりゃまずい、皆急いで—」
片っ端からひっくり返し、紙やディスクを回収して鞄に放り込んでいく。
特に紙は雨で痛んでしまわないよう、丁寧に防水バッグにしまい込んで。
その際に、先生の目にある資料が映った。
”……アビドス初代生徒会長の言伝?”
「先生、早く早く!」
「資料はしまっちゃってください、そろそろ出ないと」
”ああ、うん。急ぐね”
考え事もそこそこに、先生が机の上の資料──というよりは手紙を鞄にしまい込み終えると、ユメがすぐさま無線機のプレスボタンを押し込む。
「理事さん! こちらアビドス組! 作戦は完了、撤退します! 繰り返します、作戦は完了、撤退します! どうぞ!」
『了解! 我々はこいつをな・とかしてから撤退す・! ・うぞ!』
「わかった、気を付けて! 通信終了!」
音の割れた声と後ろの爆音がぶちまけられる中、伝わる様に声を張り上げたユメが無線機をしまい込む。
「先輩、理事たちは」
「だいぶ激しい戦闘になってるみたい。とにかく、今のうちに私たちは沼の外に出ないと」
「先輩、ドローンが破壊されました! すぐに脱出しましょう!」
「皆早く! 船に戻って! あいつらこっちに戻ってきてる、足音が近づいてる!」
「よーし、皆撤収―! 逃げろ逃げろー!」
「総員に伝達! アビドス組は作戦完了! 我々も撤退するぞ!」
「りょーかーい! ああああうっとおしいなこいつらァ!」
「撃て撃て! 槍も弓も片っ端から撃て! とにかく距離離すんだ!!」
「沼蛇を最優先でねらえ! こっちに近づけるな!」
『スピノ1! カニ1! ワニ1!』
「こんなところでくたばるかぁー!」
「負傷者を先に後ろに運べ! とにかく沼の外まで退避するんだ!」
「理事! 早く理事も脱出を!」
「お前たちを置いて逃げられるか! まだ動ける者で敵を抑え込む! 日和るんじゃないぞ!」
「おぉー!!」
「理事さん!」
「ユメ君、無事だったか。……そっちのは」
「ごめん理事さんシャワー借りるね!」
作戦が終わり、無事に帰還した一同が前線基地で顔を合わせると、そのままの勢いでセリカは理事の横を駆け抜けていった。
「あ、ああ。……何があったのだ?」
「あははー……。ねばねばっていうか、ぐちょぐちょっていうか……。その、練ったバケツ納豆を頭から被ったら同じ気分になれるかも……?」
「おお……。いや、何も言うまい。そちらの首尾はどうだったのだ?」
「とりあえず回収できるものは全部搔っ攫ってきたけど、そっちは大丈夫だった?」
「ああ、なんとかな。何人か、パーツの交換のために入院しないといかんが、その程度で済んだ。下がり際、破壊した機械獣の残骸も引きずってこられたからな、損害もある程度補填できる」
ユメと先生が共に防水バッグを掲げて回収物を見せると、理事の方も破壊して回収できた機械獣たちの山を指し示した。
普段の活動とは比べ物にならない量になっているが、かけたコストを考えれば黒字とは言い難いのが実情である。それでも、やっただけの価値はあったと誰もが納得していた。
「そっか、よかったぁ……。じゃあ、とりあえずこれで作戦終了かな?」
「そうだな。ああ、ヒマリ殿から、観測データを纏めて後ほど送ると言伝があったぞ。うちから出すアビドス病院行きの車に同乗して、そこから一度ミレニアムに戻るそうだ」
「あ、そうなの? なんだ、ご挨拶しておきたかったなあ」
「また来ると言っていたからな、そのうち会うこともあるだろう」
「ユメ先輩、私たちも一旦休まないと。理事、本校舎についてのデータは後で共有するから」
「ああ、了解した。ゆっくり休んでくれ。そうだ先生、ゲストルームを臨時の救護室にしてしまったので、申し訳ないが彼女たちのコンテナハウスで休んでもらえるか。簡易ベッドは後で運ばせよう」
”わかりました、わざわざ助かります”
そうして宿舎に戻った一行は、先生を残してこぞってシャワー室へ向かう。いつにもまして汗と泥で汚れた体を流したいのは、女子高生として当然である。
「ん、疲れた。シャワー浴びよう」
「洗いっこですね~♠」
「セリカちゃんのところに突撃するよ~」
「おー!」
”それじゃあ、私は少しここで作業しているね”
生徒たちを見送り、先生は一人持ち帰った資料をコンテナハウスの机に広げていった。
ある程度ジャンル分けし、学校に関係のあるものとそうでないものとを分けていくのだ。
生徒個人の手紙や様々な会計書類、そしてそれらに含まれないより重要な書類とを、ざっと目を通して仕訳けていく。普段やっている仕事よりかは随分楽なものだった。
”それにしても、あの一部屋に随分な量があったね”
≪シッテムの箱で写真を撮ってもらえれば、それを電子化して保存しておきますね!≫
”うん、助かるよアロナ。校舎に戻ったら進めようか”
「ふー、いいお湯だったー」
「ただのシャワーですけどね。ああほら、髪拭きますよ」
「ありがとーホシノちゃーん」
先生がアロナと誰にも聞こえない会話を交わしていると、すっかり温まった彼女たちが身軽なパジャマ姿で部屋に入ってくる。
手にはエナジーバーが齧られた状態で握られていた。経口摂取で燃料補給できるアンドロイドが好んで食べる、高カロリー栄養食。
「ん、先生何見てるの?」
”持ち帰った資料の中で、これだけ少し毛色が違ってね。アビドス生徒会長の言伝、らしい”
「……これが、生徒会長の言伝なんですか?」
「なになに、どしたのー?」
「人のシャワータイムに押しかけて、この先輩たちは……。あれ、なに? どしたの先生? アヤネちゃんも難しい顔して」
わらわらと先生の傍らに押し寄せる生徒たち。
覗き込むその視線の先にあるのは、先生が仕訳けた中でもっとも不可解な一枚の紙だった。
「……皆さん、これ。見てください。初代生徒会長の言伝だと書かれた、短い文章なんですが」
「……うへー、なにこれ。どういうこと?」
『後輩たちへ。諦めず、雨を待て』
「……初代生徒会長は、この雨が降ることを知っていたんでしょうか」
「ただの雨を待てってことじゃないよねぇ……」
「そもそも初代って何年前の人なのよ」
「えっと……。あれ、そう言えば何年前なんでしょう? 少なくとも百五十年以上前の人なのは間違いないですけど……」
「アビドスが出来てから最盛期を迎えるまでにどれくらい掛かってるかだけど……。気にしたことなかったなあ」
「それって、百五十年以上前の人が今の雨を予言してた、ってことですかー? なんだか凄く壮大ですけど、出来過ぎてる気が……」
「でもノノミ先輩、これが本校舎にあったってことは、少なくとも本校舎が放棄される百年以上前にはあそこに置かれてたわけでしょ? 信ぴょう性はありそうじゃない」
うーん、と悩む一同。
しかし悩んでも悩んでも答えは出ず、ぱん、とユメが手を打ち鳴らした。
「……よし、一旦やめよこの話! まずはご飯食べて、一晩ぐっすり寝て! それから色々考えよう! ね!」
「そうですね、今考えても変な考えが浮かびそうです。はい皆、食堂いくよー」
”アロナ”
≪……先生。お願いされた、生徒名簿の検索なんですが≫
”うん。何かわかった?”
≪連邦生徒会の記録に、アビドス高校の初代生徒会長の記載がありませんでした≫
”……そうか。二代目の子からはある?”
≪はい。その人からは間違いなく記録されてます。でも初代の人は……≫
”改竄の痕跡は? 外部から書き換えたような跡はあるかな”
≪いえ、編集記録はたくさんありますけど、無理やりこじ開けたり、書き換えたりしたような様子はありません≫
”連邦生徒会に、当時のアビドスから役員が選出されていたことはない?”
≪……あっ! あ、あります! 初代の人と思われる時期、今から六百年前の記録です!≫
”六百年前……”
≪非常に簡素な記載で、名前も書いていませんが、最初にアビドスからの役員が選出されたのはこの時期で間違いありません≫
”……わかった、ありがとうアロナ。アクセス記録は消しておいてもらえる?”
≪わかりました、そうしておきますね! 先生、少しお疲れですか? 休んだ方が……≫
”うん、もう少ししたら横になるよ。ありがとう”
≪いえいえ! このスーパーAIアロナちゃんになんでも言ってくださいね!≫
”六百年前の予言、かあ”
──それは、遥か昔のこと。
──まだ、その地が砂に埋もれることも、雨に満たされることもなかった時代のこと。
『……ねえ、いつまでそのコーヒーとにらめっこしてるつもり?』
『先ほども言いましたが、私は苦いのが苦手でして』
『子供じゃあるまいし……』
──私たちが、その戦いを始める前のこと。
『苦味を嫌うのは、毒物を嫌う動物的本能という説がありますよ』
『それは毒じゃないってば』
『……ズズ、ぇほっ』
『……いや、うん。無理しなくていいから。ほら、ミルクと砂糖あるし』
──尊き者達が、その身を幼き器に収めて間もない頃のこと。
『……いえ、いただきます』
『黒スーツのいい大人がそんな必死にならなくてもさ……』
『せっかく入れていただいたのですから、飲まないのは失礼にあたるでしょう』
──いずれ訪れる者たちに、どうか幸あれと祈ることを覚えた頃のこと。
『無理に飲むのもどうかと思うけど……』
『……やはりミルクだけ頂いても?』
≪……せい、先生!≫
”ん……。あ、ああ。アロナ、ごめん。寝てた?”
≪うたた寝程度です、起こしてしまってごめんなさい。資料のアップロードが完了したので、いつでも電子データで閲覧できますよ!≫
”ありがとう。明日校舎に戻ったら、ユメ達に返しておかないと”
≪はい! ところで先生、さすがにきちんとベッドでお休みになった方がいいと思います!≫
”……そうだね。少し横になろうかな”