アビドス自治区へようこそ、先生   作:くらーげん

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(一年は経ってないので)初投稿です
ごめんね

期間が空いてしまったので前回の感想返しは一回休みといたします
多分また空きます


18話 パトロールをしよう

 本校舎潜入作戦から少し時が経って。

 先生が今日もアビドスの扉を開ける。

 

”おはよう皆”

「おはよー先生。今日もむしむしするね―」

「あ、おはようございます先生。……これですか? ワニのジャーキーです、食べます?」

 

 むしゃむしゃとジャーキーを齧っているホシノと、書類とにらめっこしているユメがいた。

 二人のラフな姿も、もうすっかり見慣れたものだ。

 

「ホシノちゃんお手製だから美味しいよ。ただ、物凄ーく顎が鍛えられるけど」

「ほうれすか?」

 

 ぶちっ、と鈍い音がして、ホシノの顎がジャーキーを噛み千切る。ちょっと食べ物からは聞こえづらい音だった。

 額にうっすらと汗をかきつつ、ユメが苦笑いを浮かべて。

 

「……私、絶対ホシノちゃんに噛みつかれないようにするね」

「……?」

「え、えーっと! それで今日の予定なんだけどね、先日の作戦の影響でちょっとオアシス沼周辺が荒れてるみたいだから、その沈静化のために機械獣の討伐をしばらく続けるつもりなの」

「先生はアヤネちゃんと市内の巡回をしてもらえると助かるんですが」

 

 気を取り直したように言ったユメに続いてホシノが言う。

 アビドスに来てからというもの、イベント続きでゆっくり市内を見て回ることがあまりできていなかった先生にとっては、願ってもない提案だった。

 

”もちろん手伝うよ。って言っても、手伝うようなことがあればいいんだけど”

「ありがとう先生! 市内にはめったに機械獣は出ないし、出てきてもちーっちゃい奴だけだから、アヤネちゃんに任せちゃって大丈夫だからね!」

”わかったよ。あ、そうだ。これを返しておくね、データも必要なら送信するから言ってね”

「はい? ああ、本校舎で入手した資料ですね、確かに受け取りました。後で皆で確認しますね」

「私も後で見るね! 資料と言えば、初代生徒会長ってどんな人だったんだろうね?」

「さあ……。ユメ先輩よりはしっかり者だったと思いますけど」

「ひぃん……!」

「あ、先生。ついでと言っては何ですが、商店街の方にこの発注書を渡してもらってもいいですか。以前棚卸して不足している備品です」

”わかった、渡しておくね”

 

 書類を受け取り、鞄にしまい込む。アビドスに来るようになってから新調した、防水性の高いものだ。

 それを見て、ふとユメが思い出したように口を開く。

 

「あ、そう言えばそれもあったね。……ねえねえ、弾薬ってこれいる?」

「一応、最低限は常備しておくのが決まりなので」

「ひぃん、どうせ使わないものを買うことほど無駄なこともないよぉ……」

 

 二人の言っているのは、全ての学校に義務付けられた備蓄弾薬のことだ。

 一定数を常に使用できるよう校舎に備え付けておくのが連邦法で義務付けられているため、棚卸の際に常に更新しなければならない。

 生徒数換算で申告するため、そう大した数でもないのだが、それでも使いもしない弾をわざわざ更新するのは徒労でしかないだろう。

 とはいえ、法律は法律。従わざるを得ないのが現状であった。

 

「まあまあ。とにかく先生、よろしくお願いします。私たちは二手に分かれて巡回なので」

「私とノノミちゃん、セリカちゃんで一チーム、ホシノちゃんとシロコちゃんで一チームね。何かあったら連絡してね!」

 

 よろしくねー! と部屋を出ていったユメに続いて、ホシノと先生も外へ。

 ホシノが生徒会室の鍵を閉め終えると、それぞれのメンバーと合流するべく校舎入り口に向かう。

 

”ということで、今日はよろしくねアヤネ”

「はい、よろしくお願いします先生。そう言えば、先生は落ち着いて自治区内を回ったことってありましたか?」

”いや、あんまりないかな。多少歩き回ったことはあるけど、それこそ全体の把握くらい?”

「まあ、そうですよね。先生がいらしてから、結構騒がしいことばかりでしたし。よければ巡回のついでに案内しますね」

”うん、よろしくね”

 

 トレードマークの眼鏡を光らせ、普段使いの合羽を羽織ったアヤネが、先生を先導して歩き出す。

 その後ろを、シャーレのマークが入った傘を差した先生が続く。騒々しかったここ最近の日々から考えると、非常に静かな時間だった。

 少なくとも、そこかしこから破砕音が響いたりはしてこない。

 

「巡回と言っても基本的には住民の皆さんのお手伝いが主なんですけど」

”どんなことをしてるの?”

「家屋の修理や行方不明のペット探し、近くに来てしまった機械獣の撃退や破壊などが多いですね。お礼にって色々お茶菓子とか頂いてしまうのが、申し訳ないんですけど……」

”でも断らない?”

「ええ、はい。だって、失礼じゃないですか」

 

 嬉しそうに笑うアヤネに、先生も笑みがこぼれた。

 このような環境であっても、心根の真っすぐ育った彼女たちのことが嬉しい。ただ素直にそう思える。

 そして同時に、この土地に住まう者たちから、とても慕われているのだろうということもわかって。心なしか、彼の歩みも軽くなった。

 

「自治区内、特に大通りと言われている一番活気のある地区は、今でも様々な店舗が軒を連ねる場所です。アビドスイリエワニがその辺をうろついているのが玉に瑕ですが、おかげで食事に困ることはないですね。食事、電気製品、武器、サブカルチャー、その他もろもろ。いろんなものがここで揃います」

”大きな商店街みたいなものなんだね”

「はい。ただ、ウチの自治区そのものがかなり特殊と言いますか……。こういう場所なので、他の自治区に比べるとやはり人は少なく、店舗に並ぶ品数も限りがあるんです。ジープの修理は出来ますが、新車が買えないのもそういう理由で……」

”なるほど……。他の自治区からの輸入とかも、やっぱり高くなっちゃうのかな”

 

 そう思いを巡らせているところで、突然アヤネが鋭く声を発した。

 

「あ、先生足元、はいっ」

”っ!? わ、ええっ……??”

 

 ズドン、とアヤネの杖が先生の足元へ振り下ろされる。

 何事かと足を引けば、そこには頭を殴打されてあえなく命を絶たれたワニが浮かび上がってきていた。

「結構おっきなワニでしたね。ちょうどいいですから、お肉屋さんに持っていっちゃいましょう。持ち込みで捌いてもらえるんですよ」

”……いま、私もしかして足を食いちぎられるところだった……?”

「大丈夫ですよ、裸足じゃない限りここのワニは食いつかないので。それはそれとしてこちらは食料にするんですけど」

”わぁ……”

 

 ちょっとおっかなびっくりしている先生を不思議そうに眺めつつ、アヤネはワニを担ぎ上げると一路商店街の一角に足を運ぶ。

 そこには、三毛猫の住人が営む精肉店が看板を掲げていた。

 三毛猫精肉店、アヤネが物心ついた時にはすでにあった老舗である。

 

「お、いらっしゃい! アヤネちゃん、見回りかい?」

「マタサブローさん、お久しぶりです。はい、先日のオアシス沼での作戦で少し環境が荒れたので、その対策に」

「相変わらず大変だねえ。それで、そっちの人は?」

 

 マタサブローと呼ばれた三毛猫が、つい、と先生へと視線を向ける。

 

「シャーレの先生です。先日からアビドスを手伝ってくれていて」

「へぇ、噂の先生さんかい。こんにちは、おれぁ三毛猫精肉店のマタサブローってんだ。アビドスで肉がいりようならウチに寄ってくれりゃあいいぜ」

”ありがとうございます、その時には是非”

「それで、マタサブローさん。持ち込みで解体をお願いしたいんですが」

「お、珍しいねえ。アビドスの生徒が持ち込みたぁ。ホシノの嬢ちゃんなんかは、とっとと自分で捌いっちまうもんだが」

 

 その言葉に、元気よくガチガチのジャーキーを齧り取っているであろうホシノの姿を思い浮かべた二人は、揃って苦笑いを浮かべてしまった。

 地元住民にも知られているのは、愛されているのかただ印象的なだけなのか。

 

「それだけに時間を使ってもいられないので……。この後も見回りがたくさんあるんです」

「そりゃあそうか。あいよ、そんじゃあ先に品を受け取るかんな。支払いは帰りに品物と引き換えだ」

「はい、よろしくお願いしますね」

 

 ぼてっとして命の灯を失ったワニが手渡され、代わりに番号札を受け取る。生命の循環である。

 

「そいやあアヤネちゃん、最近はよくこの辺りをヘルメット団の子たちが歩いてるのを見かけるようになったなあ」

「ヘルメット団? もしかしたら、前に助けたあの人たちかな……?」

「やんちゃするような感じじゃあなかったから大丈夫だとは思うけどよぅ。一応気に留めといた方がいいかもな」

「そうですね、見かけたらそれとなく目を配っておきます。それじゃあマタサブローさん、また後で」

「おう、見回り頑張ってな!」

 

 マタサブローの店を離れ、しばらく何事もないパトロール兼散歩を楽しんでいた先生とアヤネ。

 そんな二人のもとに、雨音に混じって苛立ちに近い怒声が飛び込んできた。

 

「あぁ!? なんだてめぇら、弱小ヘルメット団の分際で私たちの邪魔だてしようってか!?」

「バシャバシャヘルメット団は弱小じゃねえ! アビドスの皆さんに迷惑かけようってんだろうが、そうはアタシたちが許さねえぞ!」

「生意気言いやがって、銃さえなけりゃ私たちに勝てるとでも思いあがってんのか! おいおめーら、いいからやっちまえ!」

「む、なんでしょう。ヘルメット団同士の抗争……にしては少々雰囲気が違いますね……?」

 

 遠くから聞こえるその声を探ろうと、アヤネは先生の前に出る形で、声がする方に近づいていく。

 街の大通りからは見通しづらい開けた空き地。その中央で、補修跡が目立つ安物の合羽を被った数人の少女たちが、別のヘルメットを被った少女達に取り囲まれていた。

 銃を金属バットに持ち替えた雨合羽の少女達に対して、取り囲んでいる側は銃を背負ったまま大ぶりなナイフや釘バットなどの凶悪な得物を携えている。

 武装の面でも人数の面でも、雨合羽の少女たちの方が不利なようだった。

 

「り、リーダー……! こいつら倍以上いるよ……!」

「怯むな! あのバケモン共に比べりゃあ物の数じゃないだろう! ここで泥にまみれたアタシたちの底力、見せつけてやるんだよ!」

「お、おおー!!」

 

 そんな中でも、リーダーと呼ばれた雨合羽のうちの一人は震える足に喝を入れて、取り囲む少女たちのうちの一人を強く睨みつける。

 バシャバシャヘルメット団の団長として、情けない姿を仲間に見せるわけにはいかなかった。

 

「へへへ、あいつらやる気だぜ姉御。ろくに武器も集められないような愚図のくせして、アビドスに逃げ込んだと思ったら途端に金回りが良くなりやがった。ここらへんで締めあげちまおう!」

「そのつもりさ、弱っちいからって手加減なんかするんじゃないよ! どっちが上なのか、きっちり思い知らせてやんな!」

 

 その一方で、取り囲んでいる側はその相貌を怒りと苛立ち、そして嘲笑でゆがめている。

 ヘルメット団は学籍を持たない生徒たちであり、その社会構造は強いものが全てを得る単純明快なものだ。

 それ故に彼女たちは知っている。目の前の雨合羽の少女達が自分たちよりも弱いということを。そんな相手を叩きのめし、身の程を知らしめて『手打ち金』を差し出させる。いつものことだと何も考えずに実行できてしまう、彼女たちの日常がそこにはあった。

 

「数が少ない方、あれは前にうちが助けたヘルメット団の皆さんですね……」

”まずは話を聞きたいな。どうして襲われているのか、襲っているのか”

「話ですか? しかしあの様子では、落ち着いて話をしてくれるかどうか……。まずは一当てして、黙らせてからの方が簡単だと思いますよ」

”会話ができるなら、一度は試すべきだよ。と言っても、私はあくまで部外者だから、どうするかはアヤネに任せるしかないんだけど”

「……わかりました、まずは話を聞きましょう。ただし、何かあればすぐに私が制圧しますから。先生は自分の安全を第一に考えてください、良いですね?」

”わかった。ありがとうね、アヤネ”

「それでは突入します。──双方止まりなさい! アビドス生徒会です! 話を聞かせてもらいます!」

 

 今にも殴り合いが始まりそうな一触即発の雰囲気の中、アヤネの声が鋭く両者の間に飛び込んだ。

 治安維持を目的とするアヤネの動きに、それぞれのリーダーが違う反応を示す。

 バシャバシャヘルメット団のリーダーはアヤネと先生を気遣うように。

 そして取り囲んでいる側のヘルメット団はその暴力の雰囲気を突き立てるように。

 

「あ、アビドスの、アヤネさん! ダメだ、こいつらはアタシたちが追い返すから早く逃げてくれ!」

「なんだあ、アビドスの生徒会だあ!? 六人ぽっちの弱小校が、私らバキバキヘルメット団に勝てると思ってんのか!」

「止まりなさい! こちらは攻撃を加える意図はありません、争っている理由を開示し──」

「うるせえ! 構わねえからあいつらもあの大人も畳んじまえ!」

「だ、だめだ二人とも! 逃げてくれ! ここはアタシたちが──!」

 

 必死に二人を逃がそうと声を張り上げ、今にも周りのヘルメット団に殴りかかろうとするリーダー。

 その様子を見、こちらに矛先を向けている側の少女達をざっと見渡すと。

 アヤネが、一つ息を吸って。

 

「……そうですか。先生、すみません。少し」

”うん、しょうがないかな。気を付けて”

「はい。──乱暴をします」

 

 やむなし。そう言いたげな表情のまま、アヤネが地を蹴った。

 動きとは裏腹に音はほとんどしない。水場であるにも関わらず、なめらかな足運びが瞬く間に距離を詰める。

 アヤネの杖がひゅん、と風切り音を立てながら振るわれた。

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